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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬
3570/3865

3570話

「さて」


 レイは目の前のモンスター……アンデッドの木のモンスターを前に、デスサイズと黄昏の槍と入れ替わるように収納したドワイトナイフを取り出す。

 解体をしている時間はない。

 それに自分の解体の手際は決して優れている訳ではないと知っている以上、レイがドワイトナイフを取り出すのは当然のことだった。

 寧ろこのドワイトナイフがある以上、自分で解体するようなことはもうないだろうと思えてしまうくらいに、ドワイトナイフはレイにとってありがたかった。

 諸々の報酬としてダスカーから貰ったドワイトナイフだったが、その価値を考えればこれ以上ないくらいにありがたいと思ってしまう。


「解体するぞ」


 そう宣言すると、レイはドワイトナイフに魔力を込めて木のアンデッドにその刃を突き刺す。

 次の瞬間、周囲が眩い光によって照らされる。


「きゃあっ!」


 ニールセンの口から出る悲鳴。

 レイがドワイトナイフを使うのを見るのは、これが初めてという訳ではない。

 しかし、その件を忘れたかのように興味津々といった様子でドワイトナイフを使うのを見ていたのだろう。

 やがて光が消えると、そこには新芽が数個と魔石、それとデスマスクが数個と木の枝が残っていた。


「うわ……これは一体どうしろと? ミスティリングに収納しても呪われないだろうな?」


 魔石や木の枝は分かる。

 新芽も使い方は分からないが、錬金術師に渡せば使い道は分かるだろう。

 もしくは、あまり気が進まないがタラの芽に近い形の新芽なので、料理にも使えるかもしれない。

 だが……デスマスクをどうしろというのか。

 それこそ見るからに不気味な素材である以上、このままミスティリングに収納すれば呪われそうな気もする。


(あ、でもニールセンが言うには魂が解放された……解放された? 空に向かって昇っていったんだから、多分解放されたんだよな? そうなると、呪われてはいないよな?)


 それは寧ろ、そうであって欲しいという思いの方が強い。

 ニールセンの言葉を信じるのなら、恐らく大丈夫だろうとレイには思えたが。


「ニールセン、これは大丈夫だよな?」


 デスマスクをどのように判断したらいいのか分からなかったレイは、ニールセンに尋ねる。

 ニールセンに聞いてそれが分かるのか? と思わないでもなかったが、魂を見たというニールセンの言葉を考えると、それなら分かるのではないかと思ったのだが……


「え? うーん、どうかしら。多分大丈夫だとは思うけど」

「なら、信じるぞ」

「……いや、私もそこまで確信はないわよ? 多分大丈夫だと思うだけで」


 ニールセンにしてみれば、自分にそのような力があるというのは分からなかった。

 なのに、それを原因としてこうして木のアンデッドの素材について問題ないかと言われれば、大丈夫だと断言出来る筈もない。

 それでも今の状況ではそこに希望を託すしかないのがレイだ。


「ニールセンが大丈夫だと言ったんだし、多分大丈夫だろう」

「あ、ちょっと」


 レイの言葉に慌てた様子のニールセンだったが、レイはデスマスクに触れ、ミスティリングに収納する。

 そんなレイの様子に、ニールセンは何かを言いたそうにする。

 レイは自分の言葉を信じてデスマスクを収納したが、本当に大丈夫なのか。

 今まで霊を見るといったことは出来なかった。

 あるいは出来ていたが、まだ普通の霊は見ることが出来ず、先程のように苦しんでいる霊なら見られるのか。

 その辺りは分からないが、とにかく今回の件が素直に喜べることでないのは間違いない。


「レイ、一応言っておくけど、さっきの不気味なのは妖精郷に戻ったら長に見て貰いなさいよ。もしかしたら、持っていると呪われるようなものかもしれないんだから」

「長に? そうだな、長になら見て貰った方がいいか。長ならデスマスクを見ればどういうのかを察してくれるだろうし」

「そうしなさい。……それより、この部屋での用事はもう終わったし次に行きましょう。レイの目的はリビングアーマーなんでしょう?」

「そう言えばそうだったな。もっとも……」


 レイは木のアンデッドがいた場所を見て、言葉には出さず、未知のモンスターの魔石を入手出来ただけで、ここに来た甲斐はあったと思う。

 勿論、当初の狙い通りリビングアーマーの持つマジックアイテムを入手したり、木のアンデッドのように今まで遭遇したことがない未知のモンスターと遭遇して、新しい魔石を入手したり出来ればそれに越した事はないのだが。


「グルルゥ」


 レイの考えを理解したかのように、セトは喉を鳴らす。

 相変わらずゴーレムに座っているニールセンは、何故急にセトが喉を鳴らしたのか理解出来ないといったように疑問の表情を浮かべるものの、それでも結局すぐにレイに視線を向ける。


「ほら、行くわよ。他の部屋なり、通路をもっと進むなりしましょう」

「妙に元気だな。……まぁ、俺にとってもそれは問題ないから構わないけど」


 ニールセンが何故急にやる気を出したのか、レイには分からない。

 分からないが、それでもそれがレイにとって不都合ではないのも事実。

 レイはニールセンの言葉に特に異論を抱くでもなく、素直に部屋を出る。

 最後に部屋の中を一瞥するが、そこには既に木は存在しない。

 一体どのような目的があって木をこの部屋の中に植えたのか。

 それが気になったレイだったが、既に廃墟となっている以上はここで一体何があったのかは分からない。

 レイが予想したように、本当にここが何らかの研究所であったとしても、廃墟の具合から見る限り、使われなくなってからかなりの時間が経っている。

 そうなると、この廃墟が何らかの研究所だとしても、何を研究していたのかという資料の類が残っているとは思えない。

 普通に考えて、このような人里離れた場所に研究所を建てたのだから、秘密裏に研究をしていたのは間違いないだろう。

 そうである以上、この建物を破棄した時にその辺の資料も持っていったか、あるいは焼いて処分をするといったことをしてもおかしくはない。


(つまり、この場所について色々と考えても情報を入手するのは難しい訳だ。もしここが研究所で、手に負えない何らかの存在を生み出して、それから逃げたとかなら、まだ資料とかはあるかもしれないけど。いやないか? もし一時的に逃げたとしても、その何かによる騒動が一段落したら戻ってきて書類とかそういうのを排除すればいいだけなんだし)


 そんな風に思いつつ、レイは今度こそ部屋から出る。

 既にニールセンは廊下を少し進んでおり、セトは部屋の前でレイを待っていた。


「レイ、まだその部屋に何か面白いものでもあったの?」

「いや、特に何もない。ただ、この部屋にあった木がちょっと気になってな。以前ニールセン達が見た時は、本当にただの木だったんだろう? なのに、俺達が来たらアンデッドになっていた。……どうも作為的なものを感じたんだ」

「そう言われるとそうかもしれないけど。でも、誰がそんなことをするの? そもそも、私達が今日ここに来たのは、レイが偶然ここの話を聞いたからでしょう? つまり、計画性とかそういうのはなかったのよ?」

「だろうな。俺もそう思う。けど、こうして木がアンデッドになっていたのを思えば……偶然と言われると、そのまま偶然と認識してもいいのかもしれないけど」


 ニールセンと会話をしながら、レイは通路を進む。

 するとやがて先程の部屋とは反対方向の壁に扉が一つ見えてきた。


「ニールセン、あの扉は?」

「あの扉は……何だったかしら。ちょっと覚えてないわ。覚えてないってことは、多分そこまで印象深いのがなかったんだと思うけど」

「なら、入ってみるか。あの木のアンデッドみたいにモンスターがいる可能性はあるし。……リビングアーマーのいた部屋って訳じゃないんだよな?」

「うん。多分」

「いや、どっちだよ」


 うんと頷いた後で多分と口にするその様子に、レイは思わず突っ込む。

 しかしそんなレイの突っ込みを聞いてもニールセンは微妙な表情のままだ。

 覚えてない以上、本当に特に何か気になる物はなかった部屋なのだろう。

 しかし、ただの木がモンスターになっていたのを考えると、何かがあってもおかしくはないのも間違いなかった。


「分からない。けど、行ってみれば分かるんじゃない? あそこがどういう部屋なのかというのを私が覚えていても、覚えていなくても、結局中に入るんでしょう?」

「そうだな。なら、中に入ってみるか。個人的にはそろそろ目的のリビングアーマーがいて欲しいんだが」


 そう言ったレイの言葉がフラグとなったのか……


「マジか」


 部屋の中、扉の向かい側にある部屋に鎧が幾つも立っているのを見て、レイの口から思わずそんな言葉が漏れる。


「え? あれ? ……私が見た時は、この部屋にリビングアーマーはいなかった筈だけど。というか、あれはリビングアーマーで間違いないの? 私達が入ってきたにも関わらず、全く動く様子がないけど」

「見た感じ、リビングアーマーで間違いないと思う。……ただ、俺達を見ても何も反応しないのは微妙なところだな。あの木みたいに……ちょっと待っててくれ」


 木のアンデッドの攻撃が部屋の外には一切届いていなかったことを思い出したレイは、自分のいる場所を確認する。

 レイが現在いるのは扉の開いた外側で、あくまでも部屋の外だ。

 だとすれば……そう思い、部屋の中に一歩踏み出す

 ガシャリ。

 レイが部屋の中に入った瞬間、正面の壁の前に立っていた十五匹のリビングアーマーが動き出す。


「っと」


 それを確認すると、レイは素早く部屋の外に出る。

 するとリビングアーマーは元の位置に戻って動かなくなった。


「どうやら、部屋の中に入るとリビングアーマーは動き出すみたいだな」

「……何で分かったの?」

「あの木のアンデッドも、部屋の外には攻撃してこなかっただろう?」


 木のアンデッドが武器として使っていた蔦が具体的にどのくらいの長さがあるのかはレイにも分からない。

 だが実際に戦ってみた感じでは、間違いなく部屋の外にも届くだけの長さがあった。

 それはつまり、部屋の外にいる者に対しては危害を加えられないということなのだろう。

 木のアンデッドがそうであった以上、リビングアーマーも同じなのではないか。

 そうレイは思ったのだが、どうやらその予想は当たったらしい。


「じゃあ、部屋の外にいれば安全なの?」

「部屋の中にいるモンスターを相手にした場合はな。けど、通路でスケルトンと遭遇したのを考えると、必ずしも廊下にいれば安全という訳でもないだろうが」

「う、そう言われるとそうだけど……それでも、スケルトンと部屋の中にいるモンスターだと、部屋の中にいるモンスターの方が強いでしょう?」

「そうだな。スケルトンだけだったらの話だが」


 今のところ、通路ではスケルトンにしか遭遇していない。

 だがそれでも、通路にいるのがスケルトンだけとは限らないのだ。

 もしかしたら、それこそリビングアーマーも通路で動いている可能性は十分にある。


「嫌なことを言わないでよね。レイが何か言ったら、それが現実になりそうじゃない」


 それをフラグと言う。

 そうレイは言いたくなったが、実際にそれを口にして現実にフラグになったりしたら面白くないので、黙っておく。


「とにかく、部屋の中に入ればリビングアーマーが行動するのは間違いない。そして俺達の目的はリビングアーマーである以上、ここで部屋に入らないという選択肢はない」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトもやる気満々といった具合に喉を鳴らす。

 セトにとっても、リビングアーマーとの戦いは楽しみなのだろう。


「うーん、レイの考えは分かるし、セトがやる気なのも分かるけど……ちょっとリビングアーマーの数が多すぎない?」

「十五匹だしな」


 リビングアーマーの数はレイも把握している。

 それだけに、数がちょっと多いというニールセンの言葉はレイにもそれなりに納得出来た。

 納得出来たが、それでも自分達なら負けないという思いがそこにはあった。


「それに、リビングアーマーの持ってる武器の中には色々と興味深いのもあるし」

「え? ああ、なるほど」


 レイの言葉に、ニールセンは改めて部屋の中にいるリビングアーマーを確認する。

 多くのリビングアーマーは長剣を持っていたが、中には槍やハルバード、少し変わったところでは鉄の棒の先端にトゲ付きの鉄球が鎖で繋がれている、いわゆるフレイルと呼ばれる武器を持っている個体もいる。

 その武器の全てが魔剣のようなマジックアイテムであるとも限らないが、それでも元々の目的を考えればここで退く理由がレイにはなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  某ゲームの洋館みたいだな、そのうち腐った犬とかサメ映画張りのシャークとか出てきそう。
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