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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬
3555/3865

3555話

カクヨムにて10話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 セト籠の中でゆっくりとしながら待っていると……


「あら、来たわね」


 不意にマリーナがそう呟く。

 その言葉に、セト籠の中にいたレイとヴィヘラは何が来たのかと疑問に思う……ようなことはしない。

 元々レイ達は、マリーナがダークエルフの里に出した風の精霊による伝言の返答を待っていたのだから。


「それで、どうだ?」

「ちょっと待ってちょうだい。セト籠の中にいたままでは、しっかりとその辺りを把握出来ないわ。向こうからの返事をしっかりと理解するには、セト籠から出ないと」


 そんなマリーナの言葉に、レイ達はセト籠から出る。

 するとそこでは……


「グルルルゥ、グルルゥ、グルルルルゥ」


 嬉しそうに喉を鳴らしつつ、セトが雪原を駆け回っていた。


「あれは……一体何を追ってるんだ?」


 走り回るセトの様子に、レイは疑問を抱く。

 実際、レイの視線の先で走っているセトは、特に何かを追い掛けているようには思えない。

 あるいはこれがもっとセトが真剣であれば、それこそ森の近くということもあってウサギか何かを追っていてもおかしくはないだろう。

 だが、こうして見ている限りでは特に何かがいる訳ではない。

 本当に何を追っているのか、レイには分からなかった。

 ただし、そんなレイの疑問を解決したのはマリーナだ。


「あら、随分と風の精霊も喜んでいるわね」


 マリーナの呟きが聞こえたレイは、その視線を追う。

 するとマリーナの視線が向けられているのは、セト……ではなく、そのセトが追っている何かだ。

 精霊魔法使いのマリーナが見ていて、そしてレイ達がセト籠から外に出たのは、ダークエルフの里からやって来た……あるいはマリーナが向かわせた風の精霊が戻ってきたからだ。

 そうなると、つまりマリーナが何を見ているのかを予想するのは難しくはない。


「セトには精霊が見えるのか? 魔力を感じる能力があるんだから、精霊の存在を察知出来てもおかしくはないと思うが」

「魔力と精霊は同じとは言えないんじゃない?」


 ヴィヘラの言葉に、レイはなるほどと頷く。

 実際、本当にセトが風の精霊を見ているのかどうかは、レイにも分からない。

 それでもセトであればそのくらいは出来てもおかしくはないと思うのも事実。


「とにかく、まずは風の精霊から伝言を聞かないといけないわ。レイ、セトを落ち着かせてくれる?」

「分かった。……セト!」


 レイがセトの名を呼ぶと、風の精霊と追いかけっこをしていたセトはすぐに足を止めて、レイに向かって走り出す。

 レイはそんなセトの様子に笑みを浮かべつつ、待つ。

 するとセトは雪を掻き分けつつ、レイの前までやってくると、どうしたの? と円らな瞳を向ける。

 そんなセトを撫でながら、レイは気になったことを尋ねる。


「セトは精霊の姿を見ることが出来るのか?」

「グルゥ? ……グルゥ……」


 レイの言葉に返したのは、肯定とも否定とも取れない、微妙な表情。

 レイにしてみれば、自分の言葉でセトがこうしてはっきりとしない態度を示すのは珍しいことだった。

 精霊と何やら話をしているのだろうマリーナの様子を見つつ、レイはセトを撫でながら思いついたことを口にする。


「もしかして、精霊の存在をはっきりと認識出来る訳じゃないが、何となく分かるとか、そんなことか?」


 そう言ったレイが思い浮かんだのは、ギルムにあるマリーナの家だった。

 マリーナの精霊魔法によって、庭は一年を通して快適な気温に保たれており、掃除も精霊が行うし、悪意を抱いている者は敷地内に入ることが出来ない。

 他にも色々と精霊魔法によってマリーナの家は快適な暮らしが出来るようになっている。

 しかし、精霊魔法でそのようなことをするということは、当然ながら多くの精霊が必要だ。

 つまりマリーナの家にいるということは、常に大量の精霊に囲まれているということを意味している。

 そんな中で生活していれば、最初は精霊について把握出来なくても、時間が経つに連れて精霊を認識出来るようになってもおかしくはなかった。

 セトはまだはっきりと精霊について見ることは出来ないが、何となくそこにいるのは分かる。

 そのように認識しているのではないかと、レイには思えた。


「セトは才能豊かなのね。羨ましいわ」


 レイと同じ結論になったのか、ヴィヘラがセトを見てそう告げる。

 レイ、エレーナ、マリーナ……ヴィヘラ以外は種類は違えども、魔法を使える。

 それがヴィヘラにとっては少し羨ましいのだろう。

 アーラやビューネも魔法が使えないという意味では同じなのだが、その辺はやはりヴィヘラの認識の違いだろう。

 ヴィヘラもアーラは仲間だと思っているし、ビューネは自分が守ってやるべき相手だと思ってはいる。

 しかし、そのような思いとはまた別の意味で、レイは自分の愛する男だし、エレーナとマリーナはレイを愛する仲間という存在だ。

 そんな仲間……本当に親しい仲間の中で、自分だけが魔法を使えないというのはコンプレックスを抱く程ではないにしろ、やはり色々と思うところがあるのだろう。


「里からは上空から来ても問題ないそうよ。ただ、セト籠に乗って移動すると、どこに降りればいいのかセトに指示が出来ないから……足に掴まって移動することになるわね。それでいい?」

「俺は構わないけど、ヴィヘラは?」


 レイはどのみちセトの背に乗って移動するのだから、マリーナがセトの足に掴まって飛んでもそう違いはない。

 だが、セト籠を使えないとなるとマリーナ以外にヴィヘラも同様にセトの足に掴まって移動する必要がある。

 それについてヴィヘラに聞いてみたレイだったが……ヴィヘラが答える前から、その答えは想像出来てしまう。

 実際に今まで何度もヴィヘラはセトの足に掴まって空を飛んでいたのだから。


「問題ないわ」


 レイの予想通り、ヴィヘラはあっさりとレイの言葉に頷く。

 それを聞いたマリーナは、笑みを浮かべる。


「ヴィヘラがいいのなら、さっさと行きましょう? いつまでもここにいても、寒いだけだし。……まぁ、私達の場合はそういうのは意味がないけど」

「だろうな」


 レイはドラゴンローブ、ヴィヘラは薄衣、マリーナは精霊魔法によって寒さを遮断出来ている。

 そしてセトは素の状態でも真冬の夜中、それも吹雪いている中であっても普通に寝ていられる。

 そんな訳で、ここにもう暫くいてもレイ達には全く問題ないのだが……だからといって、いつモンスターや動物に襲われるかもしれない場所でこうしているよりは、さっさとダークエルフの里に行った方が色々な意味で安全なのは間違いない。

 全員の意見が一致したところで、レイはセト籠をミスティリングに収納し、続いてセトの背中に乗って、セトは一度上空に向かい、降下してヴィヘラとマリーナをそれぞれ足に掴まらせてから、再び上空に戻っていく。


「セト、向こう……もう少し進行方向を右にして、それから少し高度を落としてちょうだい」


 マリーナの指示に従い、セトは進む方向や高度を調整する。

 そうしながら森の中を進むと……不意に世界樹が見えるようになる。


(ダークエルフの里に入ったな)


 そう確認出来るのは、世界樹の存在以外にも地上にダークエルフ達がいるのが見えるからだ。

 他にもダークエルフの里の外には雪が積もっているのに、ここでは雪が積もっていない。

 それはギルムのように通行人によって踏まれてシャーベット状になったという訳ではなく、純粋に雪が積もっていないのだ。

 それが何故なのかは、それこそマリーナの家に住んでいるレイには容易に理解出来た。


(そして、見られてるな)


 セト籠を使っていれば、底の部分に施された迷彩効果によって地上からは見つかりにくい。

 だが今回はマリーナの案内によってここにこうしているのだから、どうしても地上からは丸見えになってしまう。

 もっとも、別にこっそりと侵入している訳でもないので、ここで見つかっても無理はない。

 唯一の難点としては、薄衣のヴィヘラとは違ってマリーナはパーティドレス……つまり、下からはスカートの中が丸見えになってしまうということだろう。

 とはいえ、その辺は当然マリーナも理解しているので、精霊魔法で対処しているのだが。

 ……どの属性の精霊をどのように使えば、スカートの中身を外から見えないように出来るのか、レイには分からなかったが。

 ただし、その件について詳しく聞くようなことをすれば、自分にとって悪いことが……それもちょっとやそっとではなく、絶対に避けたいような悪いことが起こるだろうというのが予想出来たので、その件について追及するようなつもりはレイにはなかったが。


「セト、あそこ! あの広場に着地してちょうだい!」

「グルゥ!」


 セトの前足に掴まっているマリーナからの指示に、セトは翼を羽ばたかせながら地上に向かって降下していく。

 マリーナが示した広場には、不自然な程に人の姿がない。

 これは恐らくマリーナが風の精霊に伝言を頼んだ時、レイ達はここに着地すると前もって言っておいたのだろうと、地上に向かって降下していくセトの背の上でレイはそんな風に思う。

 そう思っている間にセトは地上すれすれまで降下し、そこでマリーナとヴィヘラはタイミングを計ってセトの足から手を離す。

 二人が無事に地面に着地したのを確認し、セトは一度上空まで戻り、再び地上に向かって降下する。

 特に何も問題なくセトは地面に着地し、数歩歩いて速度を殺して足を止めた。

 そしてセトの背に乗っていたレイは、その背から降りる。


「うーん……久しぶりにやってきたけど、世界樹は元気そうだな」


 レイ達が以前ここに来た時は、世界樹はモンスターによって弱っていた。

 その時と比べると、世界樹は明らかに元気そうに見える。

 冬だというのに生命力に溢れた、それこそ新緑と表現してもおかしくはないような葉が、世界樹の枝に大量に生えている。

 それを見れば、世界樹が元気なのは誰であってもすぐに理解出来るだろう。


「レイ、世界樹に目を奪われるのはいいけど、それよりもまずは……精霊魔法使いの件でしょう」

「ああ、そうだったな。……けど、俺やヴィヘラが行ってもいいのか? 以前は世界樹の件でどうしてもマリーナの、そしてこっちの協力が必要だったから友好的だったかもしれないけど、世界樹があれだけ元気になっている以上、わざわざ俺達がいなくてもいいと思うんだが」

「あのねぇ……私の里がそこまで酷い訳がないでしょ? もしそういう相手がいたら、私が相応の対処をするわよ。あ、でもそうね。セトをそのままにするのはちょっと不味いかしら」


 レイ達にとって、セトはいて当然の存在だ。

 また、ギルムにおいてもセトは一種のマスコットキャラ的な存在となっており、多くの者達から歓迎される。

 だが……セトのことを知らない場所に行けば、グリフォンという高ランクモンスターを相手に怯える者もいる。

 実際、レイとセトで行動している途中で立ち寄った村とかでは、セトが怖いので村の中に入れないで欲しいと言われることも珍しくはない。

 本来であれば、ランクAモンスターというのはそれだけ怖がられる存在なのだから。

 ……その上で、セトは実際には多数のスキルを使うので、希少種という扱いになる。

 希少種はランクが一つ上と見なされるので、実際にはセトはランクS相当という扱いになるのだ。

 そのような高ランクモンスターを怖いと思う者がいるのは、おかしな話ではない。


「なら、俺はセトと一緒にいるよ。セトだけにしておくと面倒なことになるかもしれないし」

「レイは長と話すのが面倒なだけでしょう?」

「それも否定は出来ない」


 世界樹を有するダークエルフの里にとって、その世界樹に危害を加えていたモンスターを倒したレイは恩人だ。

 そうである以上、長がレイを見れば色々と話をしたい、あるいはもてなしたいといったことを口にしてもおかしくはない。

 世界樹に関係するのなら、それこそ世界樹の巫女のマリーナこそが大きな役割を果たしているのだが……その辺については、マリーナもダークエルフである以上、身内という認識があるのだろう。

 そのような認識だけに、マリーナの存在も勿論歓迎するが、身内とそれ以外では歓迎の度合いが違ってくるのだろう。

 ……それ以外にもレイがどれだけの力を持っているのか分かっているだけに、レイを不愉快にさせないように考えているという一面もあるのかもしれない。


「じゃあ、レイの代わりに私が行くわね」

「……いいのか? 多分、面白いことは何もないぞ?」


 レイの言葉に、ヴィヘラは笑みを浮かべて問題ないと頷くのだった。

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