表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬
3551/3865

3551話

【セトは『アイスアロー Lv.六』のスキルを習得した】


 セトがスノウオークキングの魔石を飲み込んだ瞬間、レイの脳裏にアナウンスメッセージが響く。

 レイにとっては既に慣れたアナウンスメッセージ。

 このアナウンスメッセージがあるから、魔石によってどのようなスキルを新たに習得したか、あるいは強化されたかが分かる。

 魔獣術を作ったゼパイル一門に所属していた、タクム・スズノセ。

 現代日本から転移したと思しき者が、恐らくゲームか何かからヒントを得て、魔獣術に組み込んだと思われるこのシステムは、レイにとって非常にありがたいものだった。


「アイスアローか。……まぁ、ある意味予想通りではある。ちょっと残念だったけど」


 スノウオークキングというモンスターの性質を考えれば、氷系の何らかのスキルが強化されるか、あるいは習得するのかは容易に予想出来る。

 ただ、出来ればクリスタルブレスやバブルブレスといった、なかなか覚えにくいスキルのレベルが強化して欲しいというのがレイの希望だった。

 もっとも、アイスアローはスキルが一段上の存在になるレベル五を超えている。

 それと比べると、クリスタルブレスはレベル二で、バブルブレスはレベル三だ。

 そういう意味では、レベル六になったアイスアローは直接的にセトの戦闘力が強化されたということになる。


(アイスブレスの類を習得しても、それはそれで助かったんだけど)


 スノウオークキングのアイスブレスは、冷気と同時に氷の粒も放つという特性を持っていた。

 寒さと同時に、氷で明確に相手にダメージを与えることも出来るという点で優れていた。

 セトはファイアブレスを始めとして、幾つかのブレスを使える。

 しかし、その中にアイスブレスはない。

 そちら系統のスキルを新しく覚えても……そのような希望も外れた形だ。


「セト、アイスアローを使ってみてくれないか? どのくらい強化されたのか見てみたい」


 スノウオークキングというランクAモンスターの魔石の価値から考えると、アイスアローはレイにとってこれじゃない感が強い。

 しかし、スキルの習得や強化を自分で選ぶことが出来ない以上、その辺についてはこれ以上考えても仕方がないと割り切り、具体的にアイスアローがどのくらい強化されたのかを聞く。


「グルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトはアイスアローを発動する。

 するとセトの周囲に大量の氷の矢が生み出された。


「これは……ちょっと待ってくれ。数えてみるから」


 そう言い、レイはセトの周囲に浮かんでいるアイスアローの数を数えていく。

 やがてアイスアローの数を数え終わり……


「八十本か。……これは予想以上に強化されたな」


 そう呟く。

 レベル五の時は、五十本のアイスアローがあった。

 そうすると、レベル六になったことで三十本アイスアローの数が増えたことを意味していた。


「威力はどうなんだろうな。……しまったな。こうなるなら、的になる何かがある場所で解体すればよかった。……取りあえず撃ってみてくれ」

「グルルゥ!」


 レイの言葉に、セトはアイスアローを撃つ。

 その威力は、レイが見たところでは以前……レベル五の時と比べても違いはないように思える。

 もっともレベル五の時のアイスアローは岩に一本が命中しただけで、その岩を割れるだけの威力を持っていた。

 そのようなアイスアローが八十本近く放たれるのだから、その迫力や威力は圧倒的と言ってもいいだろう。


「これはまた……凄いわね」


 アイスアローのガトリング砲とでも呼ぶべき攻撃を見て、ヴィヘラが唖然とした声を漏らす。

 ヴィヘラも身のこなしには自信がある。

 例えばセトのアイスアローであっても、一本や二本……いや、十本程度なら普通に回避出来るし、二十本、三十本くらいであっても攻撃を諦め、回避に専念すればどうにか出来るだろう。

 だが、放たれるアイスアローが八十本ともなれば、それに対処するのは難しかった。

 死にはしないが、それでも無傷で対処するのは難しいと思える。


「ああ、凄い」


 レイもアイスアローの連射を見て、もっと他のスキルが強化されればよかったという思いが間違っていたことを理解する。

 いや、実際には間違っていた訳ではないが、目の前で見たアイスアローの威力に十分納得してしまったのだ。


「グルルゥ!」


 レイとヴィヘラの様子に、自分のスキルを褒められたことを嬉しく思い、セトは喉を鳴らす。

 近付いてきたセトを撫でると、レイは次に通常のスノウオークの死体を二つ取り出して地面に並べる。


「さて、スノウオークキングでちょっと時間が掛かったし、ここからは素早く行くぞ」


 そう言ったレイは、ドワイトナイフに魔力を込めてスノウオークの死体に突き刺す。

 眩く輝き、それが消えるとそこにはスノウオークの魔石と肉と素材、毛皮が置かれていた。


「眼球とか牙とか内臓とかそういうのはなしか。……まぁ、さっきのはスノウオークキングだったし、特別だったんだろうな。毛皮が入手出来ただけでもよしとするか」


 スノウオークキングの毛皮程の耐刃能力は期待出来ないが、それでも相応の耐刃能力は期待出来るだろう。

 そう思いつつ、もう一匹のスノウオークも同様に処理をする。

 こちらも特に何かおかしなことはなく、普通に解体は完了した。


「さて、そうなると今度はデスサイズから試してみるか。セト、それで構わないよな?」

「グルゥ」


 スノウオークキングの魔石はセトが使い、アイスアローのレベルが強化された。

 そうである以上、次にデスサイズに魔石を試してみても構わない。

 そもそもの話、スノウオークの魔石は二つあるのだ。

 ……まだ解体していないスノウオークのこともあるのだから、魔石についての心配はいらない。

 なら、デスサイズから魔石を試してみても問題はなかった。


「よし、じゃあ行くぞ」


 セトが納得したのを見て、レイは魔石を空中に放り投げるとデスサイズで切断する。


【デスサイズは『氷雪斬 Lv.六』のスキルを習得した】


 脳裏に流れるアナウンスメッセージ。

 それを聞いても、レイは特に驚かない。

 予想出来ていたものだったからだ。

 スノウオークキングという、冬特有のモンスターの魔石を使った結果セトのアイスアローのレベルが上がったのだ。

 デスサイズも当然のように、氷系のスキルが強化されるか、あるいは新たに氷系のスキルを習得するだろうと思っていた。

 そういう意味では、氷雪斬のレベルが上がったのはレイにとって予想していた内容だった。


「さて、じゃあ実際に試してみるか。レベル六になったから、レベル五に強化された時よりも強化の幅は狭いだろうけど、それでも念の為にな」


 そう言い、レイはヴィヘラとセトから十分に離れたところでスキルを発動する。


「氷雪斬!」


 スキル発動と同時に、デスサイズの刃が一m半ば程の大きさの氷によって覆われる。

 レベル五の時は氷の大きさが一m程だったことを思えば、レベル六になった今は以前の五割増しといったところか。

 氷に覆われた刃を振るう。

 特に氷が飛んでいったりはせず、普通にデスサイズが振るわれただけだ。

 もっとも、刃が氷によって覆われたことで、その一撃は氷属性を持つという特徴を持つ。

 そういう意味では、氷雪斬というスキルには意味があるのだろう。


「うん。氷が大きくなっても使い勝手そのものは変わってないな。多分、氷の大きさ以外に強度とかそういうのがレベル五の時よりも上がってるんだろうけど」


 そう言い、レイはヴィヘラとセトのいる場所に向かう。


「あまり嬉しそうじゃなさそうね」

「スキルが強化したのは嬉しいんだけどな。ただ、予想通りだったし」

「ふーん。それでも強化されたのならいいんじゃない?」

「それは悪くないんだけどな。……セト、次はお前の番だ。もしかしたら、またアイスアローのレベルが上がるのかもしれないけど、どうだろうな」

「グルゥ?」


 セトはレイの言葉にどうなるか分からないといったように喉を鳴らす。

 そんなセトの様子に笑みを浮かべたレイは、スノウオークの魔石をセトに向かって放り投げる。

 セトはクチバシで魔石を咥え、そのまま飲み込み……


【セトは『水球 Lv.六』のスキルを習得した】


 お馴染みのアナウンスメッセージが流れる。


「水球か。スノウオークの魔石だし、氷系の何かだと思ったんだが……まぁ、強化されたんだし、悪い話じゃないよな」


 納得出来るスキルの強化ではあるが、微妙に予想から外れた形にレイは素直に納得出来ない。

 とはいえ、別にそれで困る訳でもないのも事実。


「セト、試しに使ってみてくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは水球を発動する。


「うおっ!」


 セトが生み出した水球に、レイは驚きの声を上げる。

 レベル五の時は一m程の大きさの水球が四つだった。

 だがレベル六になって生み出された水球の数は四つでレベル五の時と同じだったが、その水球の大きさが二mになっていたのだ。

 単純に倍になったその水球の大きさを見て、レイの口から驚きの声が漏れたのだ。


「これはまた……凄いわね」


 しみじみといった様子でヴィヘラが呟く。

 ヴィヘラから見ても、直径二m程の水球が四つも空中に浮かんでいるのは、驚くべきことなのだろう。


「そうだな。以前の水球と数は同じだけど、水球の大きさは倍近くになっている。セト、試してみてくれ」

「グルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは水球を投擲する。

 とはいえ、ここには標的となる物はないので地面に向かってだが。

 水球の飛ぶ速度そのものは、先程のアイスアローに比べると遅い。

 その水球を見ながら、レイはふと気が付く。


(あ、そうか。アイスアローも氷雪斬も水球も……地形操作を使えば簡単な的を作ることが出来たのか。まぁ、地形操作で作ってもそれは地面で、岩とかじゃないから狙いやすくなるだけかもしれないけど)


 今更ながらに、簡易的な的なら作れたことを思いつくレイだったが、既に遅い。

 飛んでいった水球は四つともが地面にぶつかると派手に破裂する。

 レベル五の時の水球でも、岩を破壊するだけの威力があった。

 レベル六になって水球の大きさが倍になった今は、その威力も倍……とまではいかないが、間違いなく増している。


「悪くない結果だったな」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、褒められたと嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 ヴィヘラも今の一撃の威力は少し予想外だったのか、水球が破裂して積もっていた雪が弾け、地面が剥き出しになっている光景に驚きの表情で口を開く。


「ちょっと……いや、予想していたよりも大分凄いわね」

「見に来た甲斐はあったか? もっとも、モンスターと戦うという本命の目的は今のところどうにもならないようだけど」

「そうね、そちらに関しては本当に残念に思うわ。とはいえ、そちらは運が良ければと考えていたから、そこまでは気にしないけど」


 普通なら、辺境のギルムにおいてモンスターと遭遇する……それもセトがいるにも関わらず、それでも姿を現すようなモンスターと遭遇するのは、決して幸運なことではない。

 そのモンスターの討伐依頼でも受けていれば話は別だが。


「幸運なのか不運なのか分からないな。……ともあれ、スノウオークとスノウオークキングの魔石についてはこれでいいとして、後は普通の解体だな」

「そうね。……ちなみにふと思ったんだけど、レイが解体してるのにモンスターが寄ってこないのは、もしかしたらドワイトナイフだったかしら。それを使って解体しているからというのは考えられない?」

「それは……可能性としては十分にあるな」


 ドワイトナイフを使わず、普通に解体をするだけなら切り裂いた部位から流れ出る内臓の臭いであったり、血や体液の臭いといったものが漂う。

 解体に時間を掛ければ、それだけ流れる血の臭いは広がるだろう。

 だが、ドワイトナイフの場合は眩い光を放つという意味では目立つものの、解体そのものは一瞬だ。

 ましてや、素材とならない部位……本来なら地面に埋めるなり、燃やすなりして捨てる部位も消滅するので、余計な臭い……モンスターを呼び寄せるような臭いは周囲に漂わない。

 それでも素材として残った部位からの臭いを考えると、全く無臭という訳でもないのだが。

 そしてモンスターの中には人間よりも……いや、犬よりも嗅覚が鋭いモンスターも珍しくはない。

 そういう意味では完全に安心という訳ではないのだが、それでも普通に解体するより周囲に漂う臭いが少ないのは事実。


「可能性としてはあるかもしれないけど、だからといってスノウオークの死体の全てを解体するのにドワイトナイフを使わないという選択肢はないしな。……そんな訳で、残りのスノウオークを全部……いや、一応何かあった時の為に二十匹はそのままにして、それ以外は全部解体するぞ」


 そう言い、レイはスノウオークの死体を次々にミスティリングから取り出すのだった。

【セト】

『水球 Lv.六』new『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.七』『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.六』new『光学迷彩 Lv.八』『衝撃の魔眼 Lv.四』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.六』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.二』『アースアロー Lv.二』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.四』『翼刃 Lv.三』『地中潜行 Lv.一』『サンダーブレス Lv.二』『霧 Lv.二』『霧の爪牙 Lv.二』



【デスサイズ】

『腐食 Lv.七』『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.五』『風の手 Lv.五』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.四』『ペネトレイト Lv.六』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.六』new『飛針 Lv.二』『地中転移斬 Lv.一』『ドラゴンスレイヤー Lv.一』



水球:直径二m程の水球を四つ放つ。ある程度自由に空中で動かすことが出来、威力は岩に命中すればその岩を破壊するくらい。


アイスアロー:レベル一で五本、レベル二で十本、レベル三で十五本、レベル四で二十本、レベル五で五十本、レベル六で八十本の氷の矢を作り出して放つ事が出来る。威力としては、命中すれば一本で岩を割れる威力。


氷雪斬:デスサイズの刃が氷で覆われ、斬撃に氷属性のダメージが付加される。また、刃が氷に覆われたことにより、本当に若干ではあるが攻撃の間合いが伸びる。レベル五で刃を覆う氷の大きさは一m程、レベル六で刃を覆う氷の大きさは一m半になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] セトのスキルが大幅に強化されましたね。 強化前の状態でも十分過ぎる強さだったのに、今回のスキル強化で人外レベルのレイとヴィヘラが驚くほどの威力になったのだから、現在のセトは大抵の相手に圧勝…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ