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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬
3518/3865

3518話

 騎士団の訓練場で遭遇した透明のモンスターは、無事マリーナによって捕らえられた。

 ただし、捕らえたのは間違いないが、その捕らえたモンスターをどうするのかという問題もあった。

 具体的には、どうやってそのモンスターを生かしたままで確保しておくか。

 この点でも厄介なのは、やはりモンスターが透明であることだろう。

 また、恐らくランクBモンスター……あるいはランクCの中でも上位に位置するモンスターだろうというのが、レイの予想であり、そのような高ランクモンスターをどうやって捕らえておくのかという問題もある。

 例えば檻の中に入れておいても、透明という時点でそこに本当にいるのかどうか分からない。

 ……それ以前に、高ランクモンスターとしての力を使って檻から逃走する可能性もある。

 かといって、マリーナでも精霊魔法をいつまでも使い続ける訳にもいかない。

 そもそも、ある程度の広範囲を一度に探索して透明のモンスターがいるかどうかを確認出来るのは今のところマリーナだけだ。


(これで空を飛ぶんじゃなくて、地面を歩いているのなら俺の魔法でも、もしかしたら見つけることが出来るかもしれないんだけど)


 レイはダスカーと共に捕らえた透明のモンスターをどうするべきか話し合っているマリーナを見ながら、そんな風に思う。

 レイの魔法の一つに、ダンジョンに罠がないかどうかを広範囲に炎を……触れてもダメージを受けたりしないような炎を放って調べるという魔法がある。

 とはいえ、もし透明のモンスターが空を飛ばなくても、ギルムでそのような魔法を使えば間違いなく大きな騒動になるだろう。

 実際に触れても火傷を負ったりはしないものの、それでも炎は炎だ。

 そんな炎が襲ってくる――ように見える――のだから、それで混乱する者はかなりの数になる。

 あるいは相応の実力を持つ冒険者であれば、そこまで混乱しないかもしれない。

 だが、ギルムは多くの冒険者がいる場所であるとはいえ、それでも全体で見れば冒険者でも何でもない一般人が多いのだ。

 そのような者達が混乱し、場合によってはそれによって何らかの事故を起こしてしまう可能性がある以上、もしレイの魔法が有効であっても、ダスカーは現状で使う判断が出来ないだろう。


「だから、そのモンスターは殺してしまった方がいいだろう。今はまず、ギルムの安全を確保するべきだ。マリーナの精霊魔法は、そちらの方面に向けるべきだろう」


 ダスカーの説得は、領主として当然のものだった。

 今のところ、ギルムの中に何匹の透明のモンスターが入り込んだのか、まだ分かっていないのだ。

 そうである以上、今は少しでも早くギルムの安全を確保する方が先だと言うダスカー。


「それは分かるわ。けど、私の精霊魔法も一度にギルム全てを確認出来る訳じゃないのよ。それに今回はともかく、これから同じようなモンスターが入ってくる可能性もあるでしょう? その時の為に、このモンスターの生態は少しでも詳細に調べておく必要があるわ」


 マリーナは、これからのことを考えると生け捕りにした透明のモンスターは殺さないで、少しでもその生態を調べて、次にまた同じことがあったらすぐに対応出来るようにしておくべきと主張する。

 実際には増築工事が終わってしまえば結界が張られるので、その時まで持ち堪えれば問題はなかったりするのだが……それでも現在の状況を思えば、万が一のことを考えての反応。

 もっともマリーナは元ギルドマスターだけに、ギルドにこの新種のモンスターの情報を少しでも多く渡したいという思いもそこにはあるのだろうが。

 ……実際、空を飛ぶモンスターは辺境からあっさりと出ていくことがある。

 この透明のモンスターの存在について何も知らない場所に、いきなりこのモンスターが現れたらどうなるか。

 今のところ、強者にしか攻撃をしないということもあり、もしかしたら透明のモンスターが現れても、特に被害らしい被害はないかもしれない。

 だが、そんな幸運に期待するのはかなり危険なのも事実。

 何しろ相手はモンスターなのだ。

 今は強者にしか攻撃をしていなくても、次も同じとは限らない。

 手当たり次第に攻撃をした場合、その村は大きな……それこそ壊滅的という表現が相応しいような、そんな被害を受けてもおかしくはない。

 そうマリーナは説明し、その言葉にはダスカーも即座に反対は出来ない。

 もしこれで、ダスカーが自分の領地であるギルムのことだけを考えているのなら、それでも構わないというだろう。

 貴族というのは自分の領地を守り、発展させることが役目である以上、それは貴族として当然のことだ。

 だが……ダスカーはギルムを治めている辺境伯であると同時に、中立派を率いている存在だ。

 そうである以上、派閥のことも考えないといけないのも事実。

 最終的に、ダスカーはマリーナの言葉を受け入れることになる。


「マリーナの話は分かった。だが、それでもマリーナの精霊魔法を使うのがこのモンスターの存在を見つけるのに手っ取り早いのも事実。そうなると、このモンスターは何か別の手段で確保して、マリーナには精霊魔法でまだギルムにいるこのモンスターの存在を把握して欲しい」

「……そうね。それなら構わないわ。けど、私が捕らえているモンスターはどこに捕らえておくの? それに……これからも捕らえる可能性はあるわよ」


 マリーナのその言葉に、ダスカーは難しい表情を浮かべる。

 長期的に見た場合、マリーナの選択が正しいというのはダスカーにも理解出来る。

 だが、透明な上に気配も察知するのが難しいモンスターを捕らえておく場所があるかと言われると、すぐに答えを出すことは出来ない。


「レイ……ちなみにだが、セトをテイムしたみたいに、あの透明のモンスターもテイム出来たりしないか?」


 ダスカーのその問いは、レイにとって予想外のものだった。

 だが同時に、なるほどと頷く。

 可能か不可能かは置いておくとして、透明なモンスターをテイムするというのは決して悪い選択肢ではない。

 ダスカーにしてみれば、透明のモンスターを捕らえておく場所の心配をしなくてもいい。

 テイマーにしてみれば、透明で気配も察しにくいという便利なモンスターをテイム出来る。

 特にテイマーにしてみれば、透明のモンスターを連れていると依頼でもかなり便利に使えるだろう。

 ……ただ、問題なのはやはりテイム出来るかどうかということだ。

 ダスカーはレイにテイムをしてみないかと聞いた。

 レイは表向きはテイマーであるということにして、グリフォンのセトも小さい頃から育ててテイムしたと聞いているのだから、レイにそう尋ねるのもおかしな話ではない。

 だが、実際にはレイはテイマーではない。

 セトもテイムしたのではなく、魔獣術によってレイの魔力から生み出された存在だ。

 以前レイはダリクソンという、レイに憧れてテイマーになりたいという者に対してテイムを教える……というよりも補助するような形でモンスターをテイムさせた経験はある。

 だが、それはあくまでも成り行きでそうなった感じであり、レイがテイムをした訳ではない。

 透明のモンスターをテイムしろと言われても、そう簡単にテイム出来る筈もなかった。


(あ、でもリザードマンのゾゾは俺に従うという態度をしていたし、テイムした経験はあるということになるのか? ……もっとも、それはあくまでも異世界からやってきたリザードマン……それも文明を築くだけの知能を持ったリザードマンだから、普通のモンスターと一緒に考えるのは間違いだと思うけど)


 異世界のモンスターを従えたからといって、この世界のモンスター……それもギルドにも情報のない新種を自分がテイム出来るとは、レイには思えなかった。


「ちょっと難しいですね」

「レイでもか? セトをテイム出来るのだから、他のモンスターもテイムしようと思えば出来るのではないか?」

「相性とかがあるので。それにセトは小さい時から一緒だったというのもありますし。……もし、透明のモンスターの子供でもいれば、テイム出来る可能性はありますけど」

「……難しいな」

「でしょうね」


 首を横に振りながらそう言うダスカーに、レイも同意する。

 そもそも透明のモンスターの生態もまだ全く分かっていないのだ。

 その子供をどうやって見つけるというのか。


「テイム出来れば一番いいんだが……あるいは召喚の契約を結ぶとか。レイにそういう知り合いはいないのか?」

「そうですね。テイマーの知り合いならいますけど、透明のモンスターとの相性は決してよくないでしょう。……それ以前に、まだ冒険者として低ランクなので、テイムする以前に殺される可能性が高いかと」

「そうか。……ギルムでもテイマーを増やす何らかの施策をした方がいいのかもしれんな」

「それは賛成します」


 話が逸れてるのはレイも分かっていたが、ダスカーの口から出たのはレイにとっても聞き逃せることではない。


「ここは辺境だからこそ、多種多様なモンスターがいます。テイマーを育てるという意味では、ここ以上に向いている場所はそうないかと」

「……だろうな。俺もそう考えたことはある。だが、テイマーというのは確立された技術ではない。それが一番厄介なところでな」

「そうですね。それは否定出来ません」


 モンスターを……あるいは動物や鳥であってもテイムすると一言で言うが、そのテイムする方法は人によって様々だ。

 ある者は、純粋に仲良くなって自分の言うことを聞いて貰う。

 ある者は、力を示し、認めて貰う。

 ある者は、力で強引に相手を支配する。

 ある者は、相手が好む食べ物を渡して言うことを聞いて貰う。

 それ以外にもテイムというのは様々な方法がある。

 そんな様々にある……それこそ人によってテイムする方法が違うテイマーを育てるというのは、そう簡単なことではない。


「将来的には何とか一定の技術を蓄積して、それによって多くのテイマーを養成する……そういうことは難しいか?」

「難しいと思います。少なくても俺の場合は、教師として教えることは出来ないかと。俺がセトをテイム出来たのも、小さい頃から一緒だったからというのもありますし。……そちら方面でテイマーを用意してみては? 竜騎士とかも同じようにしてますし」

「それなら出来る可能性があるのは分かるが、時間が掛かりすぎる」

「……まぁ、そうでしょうね」


 モンスターが子供から大人になるまで、一体どのくらい掛かるのかは分からない。

 それこそモンスターによっても違うだろう。

 それでも数日、数週間、数ヶ月では無理だろうし、モンスターによっては数年でもまだ大人になれなくてもおかしくはない。

 場合によっては、大人になるまで数十年……いや、百年単位で時間が掛かってもおかしくはないのだ。

 勿論、そのように時間が掛かるのは基本的に高ランクモンスターだろう。

 それこそゴブリンの類であれば、数日とまではいかないが、十数日、もしくは数十日くらいで大人になる。

 もっとも、ゴブリンをテイムしたいかと言われれば、多くの者は首を横に振るだろうが。


「もし本当にテイマーの育成を進めるのなら、さっきも言いましたけどダリクソンという俺が以前テイムについて教えた奴がいるので、そいつを紹介しますけど。今もまだギルムにいる筈ですし」

「……そのダリクソンという相手にテイムの仕方を教えたのなら、他にも教えられると思うんだがな」


 ダスカーにしてみれば、ダリクソンという相手に教えたのなら、他の者に対しても教えられるのではないかという思いがあったのだろう。

 ダスカーの様子からレイもその考えは理解出来たものの、首を横に振る。


「俺がやったのは、遭遇したモンスターを押さえつけてダリクソンを攻撃出来ないようにしてから、テイム出来るかどうか試しただけです。それでテイム出来たのは、そのモンスターとダリクソンの相性が良かったからというのもあるでしょうが、これはかなり稀なことですから」

「なら、例えばレイがモンスターを捕らえて、テイマーを希望する者達が順番にテイムを試していく……というのはどうだ?」

「出来るかどうかと言われれば出来るでしょうけど……かなり危険もありますよ?」


 ゲームやアニメ、漫画の類と違い、テイムが成功したからといって何らかの音が鳴ったり、視覚的な表現で教えてくれる訳ではない。

 もしモンスターが高い知能を持っていた場合、レイがいる時は大人しく従っていても、レイがいなくなったら逃げ出すといったことをしてもおかしくはない。

 いや、逃げ出すだけならまだしも、自分をテイムしようとした相手を殺すといった行為をしてもおかしくはない。

 そうレイが説明すると、ダスカーは残念そうな表情を浮かべる。


「そうか。なら……」

「ちょっと二人とも。まずは透明のモンスターの件でしょう?」


 マリーナの言葉で、レイとダスカーは我に返るのだった。

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