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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬
3510/3865

3510話

 レイがロジャーに頼んだゴーレムは、清掃用も防御用も双方共に気に入った。

 そうである以上、料金を追加で支払おうとしたのだが……


「それはいらない。レイはこのエグジニスの恩人だ。それに既にオークナーガという、強力なモンスターの死体を貰っている。その上で余計に追加で報酬を貰うというのは、私の誇りが許さない」

「……そういうものか?」

「うむ。ただ……そうだな。もしゴーレムの出来にそこまで満足をしているのなら、また何か新しいゴーレムを作りたくなったら私のことを思い出して欲しい」

「分かった」


 それでいいのか?

 そう思わないでもなかったが、ロジャーの性格を考えれば、これ以上自分が何を言っても恐らく大人しく話を聞いたりはしないだろうと思えた。

 それこそ、場合によっては自分の誇りを汚すのかと、そのように言われてもおかしくはない。

 そうしてゴーレムの受け取りが終われば、後は仕事の話ではなく世間話となる。

 一瞬……本当に一瞬だけだが、レイはロジャーなら穢れを倒せるゴーレムを作れるのでは? と思わないでもなかったが、それを口にすることはない。

 レイにとって、穢れの件は既に終わったことなのだから。

 実際にはまだ他にも拠点が幾つかあり、そちらを潰さない限りはまだ終わらない。

 それでもそちらは既にダスカーに……より正確には、その更に上の国に任せており、ミレアーナ王国とベスティア帝国が協力して対処をする以上、レイにとって終わったことなのは間違いない。

 それでもこの件は国家機密級の事態である以上、迂闊に口に出せる筈もなかった。

 そんな中で会話をし、特に話題になったのはレイが以前エグジニスに来た時に関わった面々についてだ。

 レイにとっては幸いなことに、多くの者が特に大きな問題もなく、ある程度幸せにくらしているらしい。

 何気に面倒見のいいロジャーは、それとなくレイと関わりのある面々についても気にしていたのだろう。


「ネクロゴーレムの一件でどうなるかと思ったけど、エグジニスも無事に復興出来たのはめでたいな。出来ればその復興する様子を見てみたかったけど」

「なら、エグジニスに残ればよかっただろう?」

「そうはいかない理由が、こっちにも色々とあったんだよ」


 実際、もしレイがずっとエグジニスにいた場合、穢れの件……それ以外にも幾つかのトラブルが解決しなかっただろう。

 とはいえ、ギルムにいる戦力はレイだけではない。

 レイ以外にも高ランク冒険者はいるし、異名持ちの冒険者もいる。

 また、辺境の素材を目当てに錬金術師も多く集まっており、そちらのレベルも高い。

 もっとも、ベスティア帝国のように国家主導で後押しをしてる訳ではないので、どうしてもベスティア帝国の錬金術よりは劣ってしまうのだが。

 ともあれ、レイが……そしてセトがいなくても、ギルムには有能な人材が多数いる。

 レイのように素早く諸々の騒動を解決することは出来なかったかもしれないが、それでも最終的に解決はしただろう。

 そう考えれば、レイが絶対に必要だったという訳でもない。


「……もうこんな時間か。じゃあ、俺はこの辺で失礼するよ」

「む、そうか? どうせなら夕食を食べていかないか?」

「急に来て、そこまで迷惑は掛けられない。それに、俺もそれなりに忙しいしな」


 ギガントタートルの解体の件もあって、あまりゆっくりはしていられない。

 それなりに余裕があるのは間違いないが、それでも今はあまりギルムを空けておきたくないという思いがそこにはあった

 冬ということで、何かが起きる可能性も否定は出来ない。

 具体的には、レイとセトがギガントタートルの切断した部位をより解体しやすくする為に切断している時に遭遇した透明なモンスターだ。

 空を飛びながら、音もなく近付くという隠密性。

 黄昏の槍の投擲でも、身体を貫けない程の高い防御力。

 何らかの手段で離れたところから攻撃出来る手段。

 そのような諸々を考えると、間違いなく高ランクモンスターだろう。


(腐食についてもあったか)


 魔獣術によってデスサイズの持つスキルの腐食がレベルアップした。

 基本的に魔獣術によって習得したり強化されるスキルは、そのモンスターの特徴を反映している。

 そうである以上、デスサイズの腐食がレベルアップしたということは、あの透明のモンスターは腐食に近い何らかの攻撃手段を持っている可能性があった。

 レイの場合は黄昏の槍の投擲という遠距離攻撃で倒したので、透明のモンスターは腐食のような攻撃を出来なかったという可能性は十分にある。

 レイとセトがそれぞれ一匹ずつ倒したということは、ある程度の数がいてもおかしくはない。

 だからこそ、もし透明なモンスターがギルムに侵入した場合、その対処で非常に忙しくなる可能性があった。


(この冬くらいはゆっくりしたかったんだけどな)


 レイ的には、穢れの件も含めてここ最近はもの凄く忙しい日々だった。

 それを思えば、この冬はゆっくりと休んで、春になったら気力体力全快の状態で迷宮都市に行きたかった。


「まぁ、レイがそう言うのなら、そこまで無理にどうとは言えないな。……その様子だと、明日にはもう出るのか?」

「その予定だ。自分で言うのも何だが、俺やセトはエグジニスではかなり有名になってしまったみたいだし」


 レイは堂々と正門からセトを引き連れてエグジニスに入った。

 また、銀の竪琴亭に向かう途中もセトと一緒に行動している。

 そしてセト……グリフォンを従魔にしている者など、それこそレイくらいしか存在しない。

 ……あるいは、将来的にはレイ以外にもグリフォンを従魔にする者が出てくるかもしれないが、今の時点でグリフォンを従魔にしているのはレイだけだ。

 そんなレイが……エグジニスを救ったレイがいる以上、一目会いたい、感謝したい、繋がりを作りたい、何とかして仲間にしたい……それ以外も様々なことを考える者がいて、レイに接触してきてもおかしくはない。

 また、ロジャーの隠れ家の前でレイを怪しんだ警備兵達も、ロジャーがレイと名前で呼ぶのを見ているので、その辺からレイの情報が広がる可能性もあった。


「寧ろこの隠れ家の前でのことを考えると、ロジャーの方も明日から色々と騒動に巻き込まれることになるんじゃないか?」


 レイと一緒にいたという情報が広がれば、それを聞いた者達がロジャーと接触しようと考えてもおかしくはない。

 そう思って尋ねると、ロジャーは笑みを浮かべて口を開く。


「私には護衛がいる。何かあって接触しようとする相手がいても、護衛が防いでくれるさ」

「それは……まぁ、間違ってはいないけど」


 ロジャーの護衛であれば、ロジャーに接触しようとする相手を止めるのは仕事の一環だ。

 それは間違いないのだが、もし大勢がやって来た場合、ロジャーの護衛にとって厄介なことになるのは間違いない。


「仕事だしな」


 何かを言おうとしたレイだったが、それでも結局日和ってしまう。

 とはいえ、ロジャーやレイが言うようにそれが護衛の仕事であるのは間違いない。

 そして護衛として相応の報酬を貰っているのも間違いはないのだ。

 であれば、その報酬分の仕事はする必要があるだろう。

 そう判断し、護衛には頑張って貰おうと思っておく。


「もっとも、そのような普通の相手だけではなく、エグジニスの上層部からもレイと会いたいと連絡が来るかもしれないがな」

「あー……そっちもあるか」


 ネクロゴーレムの件でエグジニスの上層部も大きな被害を受けたのは間違いない。

 そんな中でも生き残った者もいたし、あるいは死んでもすぐに代わりの者がその地位に就いただろう。

 そのような上層部にしてみれば、エグジニスを救ったレイと接触しようと考えるのはおかしな話ではない。

 もっとも、それで協力を持ちかけたとしてもレイがそれを受け入れるかどうかはまた別の話だが。


「そちらについては、こちらである程度手を打っておこう。明日の早朝にでも出発すれば、上層部の誘いはまだ来ないと思う。上層部は基本的に動きが遅いからな」

「その辺はどこも変わらないな」


 そう言うレイだったが、ギルムは違うという思いがそこにはある。

 ダスカーは即決即断……とまではいかずとも、情報を得てから行動するまでは早い。

 ギルムのギルドもまた同様に、何らかの情報を得てから行動に移すのは早かった。

 これはギルムが辺境にあるというのが大きく関係している。

 辺境だけに、それこそいつ何がおきても不思議ではない。

 それだけに、情報を得てから動くまで遅くなれば、それだけ被害が大きくなってもおかしくはない。

 そのようなことにならないようにする為には、情報を得てから素早く行動すればそれだけ余裕が出来る。

 兵は拙速を尊ぶというのと似たような言葉は、この世界にもある。

 本当に最善という意味では、拙速と巧遅の利点を組み合わせた、巧速とでも呼ぶべき行動をするのが最善なのだろうが、それを理解した上でもやはり辺境においてはとにかく行動をする……拙速こそが大きな意味を持つ。


「上の者達は上の者達で、色々と考えることもあるんだろう。だが、それを考えても、やはり行動が早いに越したことはないけどな」

「俺もそれは否定しない」


 そうして話していたレイとロジャーだったが、話しているうちに既に外は暗くなっている。

 窓からそれを見たレイは、銀の竪琴亭に戻るべく口を開く。


「いつまでもここにいるのもなんだし、俺はそろそろ帰るよ」

「そうか? 分かった。では、またな」


 お互いに交わすのは軽い挨拶だけ。

 レイにしろロジャーにしろ、もしかしたらもう会うことはないかもしれないという思いはある。

 通信手段が日本程に発達していないこのエルジィンにおいては、同じ村や街に住んでいるのならともかく、他の村や街に住む相手であれば、その別れが生涯の別れとなってもおかしくはない。

 それでもこうして軽い挨拶だけで別れるのは、またいつか会えることを期待してのことなのだろう。

 実際、ロジャーは基本的にエグジニスから出るようなことはないし、レイは異名持ちの冒険者で、そう簡単に死ぬといったことはない。

 そういう意味では、また再会出来る機会は多いのだろう。

 レイとロジャーが隠れ家から出ると、ロジャーの護衛も一緒に外に出る。


「明日は大変だろうけど、頑張ってくれ」

「……え?」


 いきなりレイにそのように言われ、護衛の一人が理解出来ないといった様子を見せる。

 護衛達にしてみれば、レイとの関わりは全くないのだ。

 そんな相手に、何故急にそのようなことを言われるのか、理解出来ない。

 レイもそんな相手の思いは理解したものの、それ以上は何かを言うつもりはなく、最後に軽くロジャーに手を振って銀の竪琴亭に向かうのだった。






「も、申し訳ありませんでした」


 レイが銀の竪琴亭に戻ってきて自分の部屋に向かうと、そこには三人の男の姿があった。

 そしてレイを見掛けるなり、三人揃って頭を下げる。

 そんな三人を見て、レイは何が何だか分からない……ということはない。

 頭を下げている三人のうち、二人には見覚えがあったからだ。

 レイが銀の竪琴亭に最初に来た時、レイに絡んで来た男……どこかの商会の若旦那と思しき人物と、その護衛でレイの実力を見抜いた男。

 そして最後の一人……レイにとって見覚えのない人物は、執事服を着ているのを見れば、何となくその立場は理解出来た。


(多分、俺と揉めた一件についてなんだろうな。とはいえ、この宿に泊まっていたということは、俺に絡んで来た男の父親なり家族なりは恐らくこのエグジニスにいない可能性が高い。そんな中で俺に謝るということになったのは、一体どういうことなのやら)


 レイについて詳しく知った若旦那が、失態を隠す為に謝罪するつもりになったのかもと思う。

 実際、レイの視線の先で頭を下げている若旦那の身体は恐怖から震えている。

 自分が一体どのような相手に絡んだのか、それをきちんと理解したということなのだろう。


「その……」


 レイが黙っていたからだろう。

 若旦那は下げていた頭を恐る恐るといった様子で上げる。

 だが、次の瞬間には頭を上げた若旦那を、執事が無理矢理下げさせる。

 執事という立場上、それはいいのか? そうも思ったレイだったが、だからといって自分が言うことではないだろうとも思う。

 とはいえ、いつまでもこのまま頭を下げさせておく訳にもいかず……


「分かった。取りあえず部屋の中に入ってくれ。詳しい話は中で聞く」


 廊下で三人に頭を下げさせたままというのを他の者に見られると面倒になりそうだったので、取りあえずそう言うのだった。

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