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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬
3504/3865

3504話

カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 レイがレノラと会って肉を受け取り、解体するギガントタートルの部位を渡した翌日……


「じゃあ、レイに言うまでもないと思うけど、気を付けてね」


 マリーナの言葉に、レイは頷く。

 普通なら、ここは子供じゃないといったように反論したりするところなのかもしれないが、言われたのはレイだ。

 自分からトラブルに関わることもあるし、トラブルの方からレイに近付いてくることも珍しくはない。

 レイも自分のトラブル誘引体質については理解していたので、マリーナの忠告には素直に頷いたのだ。


「エグジニスであれば、そこまで大きな問題はない……と言いたいところなのだが、以前レイはネクロゴーレムの一件に関わったのだったな。気を付けるに越したことはないだろう」

「分かってる。ただ、今回はエグジニスに長居する訳じゃなくて、注文していたゴーレムを受け取ったらすぐに戻ってくるつもりだ。……一泊くらいはするかもしれないが」

「レイの場合は、その一泊で揉めごとに巻き込まれそうな気がするのだが」


 レイの言葉を聞いていたエレーナが呟くと、その隣にいたアーラが同意するように頷く。


「レイ殿のことなので、エレーナ様の言葉には真実味がありますね」

「あら、それなら少し羨ましいと思うけど?」


 アーラの言葉にヴィヘラがそう言葉を続ける。

 ヴィヘラにしてみれば、トラブルがある……つまり、強敵と戦えるかもしれないという思いがあったのだろう。


「ネクロゴーレムとかは、ヴィヘラが戦って楽しい相手ではないと思うけどな」


 ヴィヘラの言葉に、レイはネクロゴーレムとの戦いを思い出しながら告げる。

 ネクロゴーレムの特性上、近接攻撃を得意とするヴィヘラ向けの相手ではない。

 もしネクロゴーレムと戦った場合、ヴィヘラは決して愉快な思いをしなかっただろう。

 ……いや、あるいは戦闘狂のヴィヘラのことなので、そのような相手との戦いでも十分に楽しめる可能性はあるのではないかと思えたのだが。


「ともあれ、出来るだけ早く帰って来るよ」


 出来ればエグジニスに行ったついでに、以前ちょっと関わった孤児院に寄ってみたいとは思っていたのだが、これまでの自分の特性を思えば、孤児院に寄れば寧ろ孤児院の迷惑になるのではないかと思う。


(うん、別に寄っても特に何かある訳でもないし、わざわざ寄る必要はないか)


 そう思いつつ、レイはセトの背に乗る。


「じゃあ、ちょっと急ぐか。次のギガントタートルの解体についてもあるし、出来るだけ早く戻ってこないといけないし」

「グルルゥ!」


 レイの言葉にセトが喉を鳴らし、数歩の助走の後で翼を羽ばたかせて飛び立つのだった。






「嘘だろ……」


 レイは目の前の光景に、思わずといった様子で呟く。

 そんなレイの隣では、セトもまたレイを励ますように喉を鳴らす。

 レイとセトの視線の先にあるのは、ゴーレム産業が盛んな街……エグジニスの正門だった。

 ギルムを出発し、途中でマジックテントを使って一泊し、そうして到着したのがエグジニスだ。

 ギルムとは違い、冬でもそれなりに人が並んでいるのが見える。

 春から秋に比べると、どうしても人の数は少ない。

 それでも辺境のギルムと違い、高ランクモンスターであったり、冬だけに出るモンスターによる襲撃があったりしないのは、気楽にエグジニスに来られる理由となっているのだろう。

 ともあれ、そんなエグジニスに到着したレイが唖然といった様子で言葉を口にしたのは何故か。

 ネクロゴーレムの一件で壊れた正門が直っているから?

 それもある。

 ネクロゴーレムによって破壊された正門は、ただの正門ではない。

 ゴーレム産業が盛んなエグジニスだけに、正門にもゴーレムの技術が使われていた。

 その結果として普通の正門より頑丈だったのだが、それでもネクロゴーレムを相手にしては破壊されるしかなかったのだが、その破壊の痕跡も既に消えている。

 それに驚いたのは事実だったが、レイが本当に驚いたのは……


「上手くいきすぎじゃないか?」


 改めてそう呟いたのが理由だった。

 具体的には、何のトラブルもなくここまで到着したことだ。

 それこそ途中で盗賊に襲撃されたり、もしくは盗賊に襲撃されている商人や貴族と遭遇しなかったり、モンスターに襲撃されなかったり、何らかの裏の組織と遭遇しなかったり、ダンジョンを見つけなかったり……その他諸々。

 今までのレイであれば、そういう何らかのトラブルに関わるのは日常に近かった。

 しかし今回はそのようなトラブルはなく、しかも一度来た場所でセトも道を覚えており、道に迷ったりせず……また、セトの成長もあって飛ぶ速度も以前より増しており、それが今この場にレイとセトがいる理由となる。


(今が冬というのも関係してるんだろうけど。……それでもここまで何もないのは、かなり不自然だ)


 レイ以外のものであれば、それは普通のことだ。

 だが、それが自分のこととなると、明らかにおかしいとレイには思えた。

 もっとも、レイが考えているように今が冬だというのも、この場合は大きい。

 冬だけに、村や街の外に出る者も減り、それを狙う盗賊も行動を縮小する。

 モンスターも、冬になれば寒さや雪の影響で動きを見せなくなる。

 だが……そのような諸々について考えても、今回こうして一切何も騒動に巻き込まれずエグジニスに到着したのは、レイに強い違和感を抱かせる。


(今回は何もなかったけど、もしかしたらこれが次に起きる何らかの騒動の前の……いわゆる、嵐の前の静けさって奴だったりしないよな? 穢れの件が終わったばかりなんだから、そういうことはないと思うけど。寧ろそのご褒美的な意味での平穏であって欲しい)


 穢れの件はレイにとってもかなり大変なことだった。

 何しろ数日意識不明になっていたくらいなのだから。

 であれば、その反動として今は平穏な日々を送れているのではないかとすら思う。……いや、そうであって欲しいと願う。


「グルゥ?」


 有り得ないような幸運に恵まれ、エグジニスに到着したことに驚き、それについて色々と考えていたレイだったが、セトの鳴き声で我に返る。


「ああ、悪い。そうだったな。いつまでもここにいても意味はないか」

「グルルゥ!」


 レイの言葉にその通りといった様子でセトが喉を鳴らす。

 レイはそんなセトと共にエグジニスの正門に向かう。

 先程レイが見た時は、正門の前に何人か並んでいる者もいた。

 しかし、レイが自分の幸運……あるいは嵐の前の静けさによるものかもしれないと考えている間に、手続きが終わって街の中に入ったのか、既に正門前に並んでいる者はいない。

 そのお陰で、レイとセトは目立つことなく正門に近付くことが出来た。

 ……もっとも、それは並んでいた者達に驚かれなかったということで、正門の担当の警備兵はまた別の話だったが。

 最初、警備兵達はレイの姿は目に入らず、セトの姿を見るとモンスターかと判断して慌て出す。

 しかし、それでもセトがレイに合わせるようにゆっくりと歩いていると、その歩く速度からモンスターの襲撃ではないと判断し、更にはセトの側にレイがいるのに気が付き、動揺は静まる。

 警備兵達にとって幸いだったのは、以前レイがエグジニスに来た時に接したことのある警備兵がいたことだろう。

 これでレイが普通の……それこそどこにでもいるような冒険者や商人ならともかく、今はセトと共にいる。

 そんな相手をそう簡単に忘れる筈もない。

 そんな訳で、セトと一緒にいるのがレイだと判断した警備兵によって混乱は落ち着き、ちょうどそのタイミングでレイは正門に到着する。


「レイ……だよな? 久しぶりだな」


 レイのことを知っている警備兵がそう声を掛ける。

 その言葉に少し戸惑ったレイだが、その警備兵の態度から恐らく以前エグジニスで会ったことのある相手だと判断し、頷く。


「ギルムの方で色々と忙しかったからな」


 取りあえずそう言っておく。

 実際にそれは嘘ではない。

 ただ、その忙しかった最大の理由……穢れの件については話していないだけだ。


「ああ、そう言えば増築工事をやってるとか、そんな話を聞いたな。その関係が?」

「それもあるな」


 これは微妙に嘘だった。

 増築工事が始まった当初はともかく、今となってはレイの力がなくても増築工事は順調に進んでいるのだから。

 もしレイが協力をすると言えば、それだけ増築工事も素早く進むので歓迎されるだろうが。


「そうか。……出来ればいつか、ギルムには一度行ってみたいんだよな」


 しみじみと呟く警備兵。

 この世界において、自分の生まれ育った村や街を出るといったことは珍しい。

 商人や冒険者ならともかく、一般人の中には一生に一度も他の村や街に行ったこともないまま死ぬというのは、珍しい話ではなかった。

 そういう意味では、セトに乗って自由に色々な場所に行くことが出来るレイというのは特別な存在だろう。

 レイと話している警備兵も、警備兵という仕事をしている以上、そう簡単に他の村や街に行くわけにはいかない。

 ましてや、エグジニスからギルムまでとなると、レイの場合はセトにのって一直線に移動出来るものの、普通に移動するとなると街道を移動する必要がある。

 曲がりくねっている街道を移動し、盗賊やモンスターに襲われる危険を冒して移動するとなると……やはりそう簡単に行くことは出来ないだろう。


「いずれ機会があったら、行ってみてくれ。……それより手続きを頼む」

「そうだな。いつまでもエグジニスの恩人をこのままにしておく訳にはいかないか。ちょっと待ってくれ。すぐに手続きを終わらせる」


 そう言うと、警備兵はその言葉通りすぐに手続きを終わらせる。

 エグジニスの住人にとって、レイはネクロゴーレムという災厄を倒してくれた存在だ。

 その際に正門を含めてエグジニスには結構な被害が出たが、もしレイがいなければ……それこそネクロゴーレムが好き放題に街中で暴れていた場合、最悪エグジニスが壊滅していた可能性すらあったのだ。

 それを思えば、レイがネクロゴーレムをエグジニスの外……それもかなり離れた場所で倒してくれたのは、感謝しかない。

 世の中には必ずしも人と同じ感情を抱く者だけではないので、中にはレイを恨んでいる者もいるが。

 特に、ネクロゴーレムによって自分の家であったり、店であったりといった場所が壊された者にしてみれば、レイに感謝をすると同時に、よりにもよって何故自分の家や店を……と思っている者もいる。

 その辺についての情報を警備兵から聞いたレイは、微妙な表情となる。


「もしかして俺が動かなかった方がよかったのか?」

「いやいや、そんな訳はないだろう。レイを恨んでいるのはほんの一部だ。大多数は感謝してるよ」

「多分、その恨んでいる連中の中には建物の恨み云々以外の連中も含まれてるんだろうな」


 その言葉に、警備兵はそっと視線を逸らす。

 その行為が、レイの言葉が事実だと示していた。

 実際、レイが以前エグジニスに来た時は、本来ならゴーレムを購入する為に来たのに、結局トラブルに巻き込まれている。

 ……自分からトラブルに関わったという見方も出来るが。

 とにかく、その件によってエグジニスの中でもレイと敵対した組織……裏の組織であったり、ゴーレムの開発に違法な手段を用いていた工房であったりが、大きな……それこそ場合によっては致命傷と呼んでもいいような被害を受けていた。

 そんな者達にしてみれば、レイは恨みを抱きこそすれ、感謝をしようとは到底思わない相手だ。

 レイもそれが分かっているので、今のような言葉が出たのだろう。


「そんな訳で、どこか面倒に巻き込まれないような宿屋を紹介してくれないか? 下手な宿に泊まったら、それこそ暗殺者が来てもおかしくはないし。……もしくは、感謝をしに来る奴も多そうだし」


 暗殺者はともかく、感謝を示す相手は問題ないのでは?

 話を聞いていた警備兵……それこそまだ新人の警備兵はそのように思ったが、それでも口に出すようなことはしない。

 今のような話をしている時に自分が口を出せば、それはそれで面倒なことになると理解していた為だろう。

 具体的には、後で怒られるとか。そんな感じで。


「うーん、そうだな。ネクロゴーレムの騒動で被害を受けた宿も多いんだよな。そんな中でレイが言うような宿となると……ちょっと待ってくれ」


 警備兵は少し考える。

 ただの宿であれば、エグジニスはゴーレム産業が盛んで多くの商人や貴族が来ることから、幾らでもある。

 だがそんな中で、レイの出す条件に合う宿となるとそう多くはない。


「一応言っておくけど、セトがいる以上、レイが来たというのは誤魔化せないぞ?」


 ただでさえグリフォンというモンスターは珍しいのだ。

 そのグリフォンがレイの従魔となっているのは、ネクロゴーレムの一件で多くの者が自分の目で見て知っている。

 そんな中でセトを引き連れたレイがエグジニスの中に入れば、すぐにレイがレイだというのは知られ、その情報は広く知れ渡るだろう。

 そう告げる警備兵に、レイはそれは仕方がないとセトを撫でながら頷くのだった。

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