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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゆっくりとした冬

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3498話

「あら、お帰り。今日は随分と派手に行動したみたいね」


 マリーナの家の中では、珍しい……訳でもないが、リビングでエレーナとマリーナがお茶を飲んでいた。

 そんなマリーナが、家の中に入ってきたレイに向かってそう声を掛ける。

 他の面々の姿は見えないが、恐らく自分の部屋にいるなり、まだ帰ってきてなかったりするのだろう。


「派手……うん。まぁ、多分派手なのは間違いないと思う。とはいえ、必要なことだったけど」

「でしょうね。……でも、どうせなら私達も見に行けばよかったわ。そう思わない?」


 マリーナがエレーナに向かって尋ねる。

 そんなマリーナの言葉に、エレーナは素直に頷く。


「見たいかどうかと言われれば、その通りだろう。だが、私やマリーナが行けば、間違いなく騒動になる」


 エレーナの言葉には強い説得力があった。

 エレーナは姫将軍の異名持ちとして有名で、マリーナは元ギルドマスターとして多くの者に慕われている。

 また、双方共に傾国の美女と表現してもおかしくないだけの美貌を持つ。

 そんな二人がいれば……あるいはこの二人に方向性は違えども同等の美貌を持つヴィヘラも一緒にいれば、間違いなく大きな騒動になるだろう。

 力で鎮圧するといったことは可能ではあるが、そのような騒動になると知っていれば、エレーナやマリーナがわざわざ自分からそのようなことをするとはレイには思えなかった。


「そうかもしれないわね。いっそ変装して行ったらよかったかも。それなら目立たなかったでしょう?」

「マリーナが変装しても、そう簡単にどうにかなるとは思えないけどな。……幻影とかを使えば話は別だが」


 ダークエルフらしい尖った耳や褐色の肌は、そう簡単に隠せるとはレイには思えない。

 変装したからこそ目立ってしまうということになってもおかしくなかった。


「それは……まぁ、それはいいとして。取りあえず中庭にでも顔を出してきたら? セトがイエロと遊んでるけど、帰ってきたのを教えた方がいいと思うけど」

「そうか? そうだな。セトにも心配を掛けたかもしれないし」


 今日はセトと一緒にいる時間が長かったので、余計に自分と離れて寂しく思ったかもしれない。

 そう思いつつ中庭に向かおうとしたレイだったが、不意に足を止める。


「そう言えば、今日ギルムの外で四肢や尻尾、首を切断した後で、明日の解体がしやすいように適当な大きさにする為にギルムから少し離れた場所まで行ったんだが……そこで透明なモンスターに襲われたんだが、どういうモンスターか分からないか?」

「透明なモンスターとだけ言われても……確かに透明になるというのは珍しいスキルや生まれ持った能力だろうけど、それでも使えるモンスターとかはかなりいるわよ?」


 マリーナの言葉に、レイは強く納得する。

 実際、セトの光学迷彩のレベルが八になったということを考えれば、それだけ多くのモンスターが透明、もしくはそれに準ずる能力を持っていたことの証なのだから。

 もっとも、魔獣術では時々何故このモンスターの魔石でこのスキルが? といったこともあるのだが。


「透明になる能力はかなり強力だった。死体になっても透明なままだったし」

「それは……また。普通なら透明になるモンスターでも、死ねばその能力は解除されるのに。というか、透明になるスキルなり魔法なりを使っているのであって、普通に生活している時は透明になっていないものなんだけど」

「それについては、俺もそう思う。とはいえ、実際に死んでも透明だったのは間違いない」

「……レイのことだから、魔石を手に入れるためにも解体したんでしょう? よく解体出来たわね」

「ドワイトナイフを使ったからな。もしドワイトナイフがなければ、とてもではないが解体は出来なかったと思う」


 そう言うと、聞いていた二人は納得した様子を見せる。

 結構な量の魔力を使うが、ドワイトナイフは突き刺しただけで解体が出来るという非常に優れた効果があり、それはエレーナやマリーナも知っていた為だ。

 寧ろ死体ですら透明なモンスターの解体となると、ドワイトナイフのようなマジックアイテムでも使わなければ、とてもではないが出来ないだろう。

 解体を専門にしている業者であれば、また話は別なのだが。


「それで他の特徴としては、何らかの手段で空を飛んでいた。翼や羽根の類はなかったから、多分これもスキルか……あるいはもっと単純に魔力をどうにかして空を飛んでいるんだと思う。しかも特に飛翔音とかそういうのもなくて、静かに飛んでいた。そして鱗があったことから、多分爬虫類系のモンスターだと思う。……で、常時透明というのと同じくらい特徴的なのが、その防御力だな。俺が黄昏の槍を投擲しても、身体に突き刺さりはしたが貫くことは出来なかった」


 次々に説明される透明のモンスターの能力に、エレーナもマリーナも次第に真剣な表情になっていく。

 常時透明というだけでも厄介なのに、その上音もなく飛び、更には黄昏の槍でも貫けない程の防御力を持っている。

 客観的に考えて、それはレイやセトだからある程度楽に倒せたのだろうが、もし普通の冒険者が遭遇したらとてもではないが勝てないだろう。

 高ランク冒険者や異名持ちのような、冒険者の中でも上澄みであれば倒せるかもしれないが。


「厄介なモンスターがいるわね。……冬だからだと思う?」

「それを私に聞かれても困る。ギルムの周辺については、長い間ギルドマスターをやっていたマリーナの方が詳しいのではないか?」

「そのつもりだけど、ここは辺境のギルムよ? 私が知らないモンスターが出て来てもおかしくないわ。ましてや、レイの説明を聞く限りではそもそも見つけるのが困難なのは間違いないでしょう?」


 マリーナの言葉には強い説得力があった。

 辺境というのは、そういう場所なのだ。

 それこそギルドであっても全く把握していないモンスターが現れるのは珍しい話ではない。

 ましてや、今は冬だ。

 この季節だけ姿を表すようなモンスターも相応にいる。

 そのようなモンスターの全てを把握しろという方が無理だろう。

 ましてや、モンスターというのは色々な種類がいて、辺境ともなれば毎日のように新種が現れてもおかしくはない。


(そう言えば、地球とかでもアマゾンとかでは毎日のように新種の生き物が見つかるってTVやってたな。……ある意味、辺境という意味では同じなのか。もっとも、危険度という点ではこっちの方が上だろうが)


 アマゾンでも凶暴な獣や魚、あるいは毒を持つ生き物といったように、多数の危険な生物はいる。

 しかし、そのような動物は全体で見ればそこまで多くはない。

 それに比べると、辺境のモンスターは基本的に問答無用で襲ってくる。

 また、動物と違って道具を使った、場合によっては魔法やスキルを使うこともあるのだ。

 どう考えても、危険度という点ではギルムの方が上だろう。


(だからって、喜ぶようなことではないんだが)


 そんな勝負で勝っても、レイは到底嬉しいとは思えない。


「ともあれ、俺とセトが戦ったその透明の敵は高ランクモンスターなのは間違いない。そうなると、数そのものはそこまで多くはないと思う」

「でも、レイとセトでそれぞれ一匹ずつ倒したんでしょう? だとすると、二匹で行動していたことになると思うんだけど」

「マリーナの言う通りだが、恐らくは番いで行動していたと考えた方がいいと思う。……もしあのモンスターが大量にいるようなら、それこそギルムでは大きな被害が上がってるだろうし」


 現在のギルムは、増築工事中で結界は張られていない。

 そんな場所だけに、透明の……それも高ランクモンスターが複数入ってくるようなことになれば、その騒動はかなり大きなものになる筈だ。

 ギガントタートルの足を適当な大きさに切っていた時、少し離れた場所ではセトが周囲の様子を警戒していた。

 にも関わらず、透明のモンスターは襲撃してきたのだ。

 それはつまり、セトの強さを理解した上でも自分達なら勝てると判断したのだろう。

 セトの強さによるモンスター除けが効かない以上、ギルムという場所を知れば透明なモンスターが嬉々としてやってきてもおかしくはない。


「そうね。……ならそのモンスターの素材、少し貸して貰える? 明日にでもダスカーとワーカーに知らせておきたいんだけど」


 マリーナの言葉に、レイは躊躇せず頷く。

 常時透明なモンスターの素材であることを考えると、色々と使い道はあるだろう。

 だが、生憎とレイは錬金術師ではないので、マジックアイテムを作ることは出来ない。

 ……自分で作ることは出来ずとも、素材を渡してマジックアイテムを作って貰うことは出来るのだが。

 ともあれ、今のところはそんなつもりはないので、素材を渡す程度なら問題ない。

 マリーナからは貸して欲しいと言われたので、いずれ戻ってくるというのもレイの判断を後押しした。


「魔石はないけどな」

「それはしょうがないわよ。……本当は魔石があった方がいいのは間違いないんだけど」


 魔石というのは、モンスターにとって一番重要なものだ。

 モンスターとしての情報の全てがそこに集約されていると言ってもいい。

 だからこそ、魔獣術では魔石を使うことによってスキルを習得したり、強化したり出来るのだから。

 そのような魔石だけに、調べればそのモンスターの情報を色々と知ることが出来る。

 レイが魔の森で倒したモンスターの解体をギルドに頼んだ時も、ギルドはその魔石から色々と情報を手に入れた筈だ。

 しかし、出て来た透明のモンスターは二匹。

 そしてセトとデスサイズで魔石が二つ必要である以上、その魔石を使わないという選択肢はレイにはない。

 レイにとって、魔獣術は何にも増して優先すること……とまではいかないが、それでも優先度は高いのだから。


「それはしょうがないから、気にしなくてもいいわよ」


 マリーナの言葉に、隣で聞いていたエレーナも頷く。

 二人とも、レイの事情については知っている。

 そうである以上、魔石がなくなってもそれで不満を言うようなことはない。


「けど、ダスカー様やワーカーは不満なんじゃないか?」

「そうだけど、文句は言わせないわよ。そもそも、もしレイが倒していなかったら、その透明なモンスターの情報は何もなかったのよ? そういう意味では、ここで情報を手に入れることが出来たのは大きいでしょ」

「それに、レイが言ったように高ランクモンスターで数が少ないのなら、ギルムに来るという可能性は低いだろう。遭遇すれば厄介な相手だが、そこまで危険度は高くないと思う」

「……無音で飛べるという時点で厄介だとは思うけどな。……まぁ、取りあえずこれを渡しておくよ」


 そう言い、レイはミスティリングから透明なモンスターの鱗を取り出す。

 この鱗もまた、ドワイトナイフを使った結果、残った素材だ。

 透明な鱗をどのように使えばいいのかは、レイにもちょっと思い浮かばないが。


「へぇ、これが……なるほど。透明な鱗ね」


 レイに渡された鱗を手に、マリーナは感心した様子で呟く。

 エレーナがそんなマリーナを興味深そうに見ていたので、レイは追加で透明の鱗を取りだしてエレーナに手渡す。

 レイの手とエレーナの手が触れた瞬間、少しだけエレーナが恥ずかしかったものの、照れ臭さからそれを表情に出さないようにする。

 エレーナは受け取った透明の鱗に無理矢理意識を向ける。

 ここでレイのことを考えると、色々と不味いと判断したのだろう。

 そうして鱗の様子を確認すると、透明なだけあってそこに鱗があるかどうかは分からない。

 ただし、掌に微かに何かが乗っている感触があるので、そこに透明の鱗があるのは間違いなかった。


「これは……凄いな。こうして鱗だけであっても透明なのか」

「そんな感じだな。不思議だろう?」

「うむ。……ただ、こうして透明だと床に落とした場合、見つけるのは非常に難しそうだ」


 エレーナの言葉に、レイはなるほどと納得する。

 実際、透明である以上は一度意識から外せば、それを新たに見つけるのはそう簡単なことではないだろう。

 セトのように鋭い五感があれば、嗅覚で見つけることも出来るかもしれないが。


「興味深い物を見せて貰った。これは返そう。本当に落としては困るだろうからな」


 そう言い、エレーナはレイに透明な鱗を返す。

 それを受け取ったレイは、落としたら困るというのは同様なので、素早くミスティリングに収納する。


「さて、取りあえずこの話はここまでか。……じゃあ、俺は中庭に行ってセトに会って来るよ」


 そう言い、レイは中庭に向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 進化は環境への適応だから環境が悪いほど早まるし進化した種による生態系の弱肉強食が更新されれば対応するようにまた進化する、人間も水泳選手は手とかに水かきができるからねぇ汚れ仕事とかしてると爪が…
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