3494話
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「……だと思った」
ドワイトナイフを使って解体をした未知のモンスターだったが、それによって解体された素材や魔石の類も全てが透明だった。
一見しても、そこに素材や魔石があるようには思えない。
だが、それでもそこに素材や魔石があるのは間違いないのだ。
それを証明するかのように、レイがそっと手を伸ばすと、そこにはやはり魔石がある。
素材もあるのだが、触っただけでは何があるのか分からない。
鱗を持つモンスターであった以上、素材として鱗があってもおかしくないのではないかとすら思える。
また、それはレイが倒したモンスターだけではない。
セトが倒して持ってきた死体も解体したのだが、こちらもレイが倒したモンスターと全く同じように解体された結果を目で見ることは出来なかった。
ただ、こうして見ているだけでは何も分からない。
鱗があるのかもしれないが、その辺は触って確認する必要があり……
「あ、これは鱗か? いや、けどそれにしては一枚しかない? それもかなり大きい」
レイの手が触れたのは、掌程の大きさの鱗。
死体に触った時、モンスターの身体に鱗は生えていたものの、決してここまで大きな鱗ではなかった。
それはつまり、この鱗が普通のうろこではないということを表していた。
「まぁ、これは何かの素材に使えるだろ。他には……これは、角? 角? え? 角? 角って生えてたか?」
鱗の次にレイが見つけたのは、角と思しき物。
あくまでも、それは触った感触から恐らくは角だと認識したので、実際には角ではなく他の何かである可能性も否定は出来ない。
出来ないのだが、これまで数え切れない程のモンスターと戦ってきた経験からすると、恐らくこれは角であると思えた。
「透明だったから、実は角が生えていたとかでも驚きはしないけど」
そんな風に思いつつ、レイは鱗に続き角をミスティリングに収納する。
鱗にしろ角にしろ、いずれ何かに使える素材だろうという思いからの行動だった。
これはミスティリングがあることの弊害でもある。
容量が無限……あるいは実際には限界があるのかもしれないが、とにかく今のところは幾らでも収納出来る。
その為、レイは取りあえずすぐに使えないような素材はミスティリングに収納しておけばいいと考えるようになったのだ。
これは多数のモンスターの肉をミスティリングに収納しており、それをいつでも好きな時に取り出して料理し、食べることが出来るからというのも影響している。
もしミスティリングに収納出来る量が決まっており、それが馬車一台分、あるいは部屋一つ分……もしくは屋敷一つ分といったものであれば、レイも手当たり次第に取りあえずミスティリングに収納しておけばいいとは考えず、売ったり、場合によっては捨てたりといったことをしただろう。
だが、収納しておけるのだから取りあえず困ったら収納しておけばいいという考えになってしまったのだ。
「後は……これ、何だ?」
柔らかな何か。
それが何なのかはレイも分からなかったが、ドワイトナイフを使った結果ここに残ってる以上、素材であるのは間違いない。
具体的にどういう素材なのかはレイにも分からなかったが、取りあえずミスティリングに収納しておく。
どのように使えばいいのか……それ以前にどういう形をしているのかも分からなかったので、この素材については先送りにすればいいと考えたのだ。
いずれ、何かの機会に必要になったら使えばいいし、使う必要がないのならミスティリングに入れておけばいいだけの話なのだから。
そのようにしながら素材を収納していき……残ったのは二つの魔石。
レイが倒した透明のモンスターの魔石と、セトが倒した透明のモンスターの魔石だ。
「今更だけど、俺とセトが倒したモンスターはどっちも同じモンスターという認識でいいのか?」
死んでも透明のままという特異な点が一致している以上、同じモンスターだと認識しても間違いではないと思う。
思うのだが、黄昏の槍の一撃でその身体を貫かれなかったりすることを考えれば、明らかに高ランクモンスターだ。
辺境である以上、それなりに高ランクモンスターと遭遇する可能性はあるのだが、だからといって高ランクモンスターの魔石を粗雑に扱う訳にはいかない。
もしセトが倒したモンスターとレイが倒したモンスターが、同じ特徴を持っていても違う種類の場合……もしくは片方が上位種や希少種であった場合では魔石の使い方に迷う。
(俺が倒したモンスターも、セトが倒したモンスターも、双方共に透明だった。だとすれば、もし二種類のモンスターが違った場合、両方の魔石を食べさせるとセトの光学迷彩のレベルが一気に二上がる可能性もある訳だ)
現在のセトの光学迷彩のレベルは七。
すると、もしレベルが二上がった場合、一気にレベル九になるのだ。
レイの予想では、レベル五でスキルが一気に強化された以上、レベルが十になれば再度強化されるかもしれないと思っていた。
あるいは……本当にあるいはの話だが、魔獣術の最高レベルが十ではなく九であった場合、今回の魔石で一気に最高レベルになる……といった可能性も否定は出来ない。
その辺の諸々を考えると、やはりモンスターの死体が透明のままでしっかりと違いを見ることが出来ないというのは大きかった。
「セト、悪いけどセトが倒したモンスターの魔石はセトが、俺が倒したモンスターの魔石はデスサイズが使うということでいいか?」
「グルゥ? ……グルルルルゥ!」
レイの言葉に、セトはそれで構わないと喉を鳴らす。
セトにしてみれば、恐らくは最初からそのつもりだったのだろう。
なお、基本的に魔獣術というのは戦闘に何らかの……それこそ石を投擲して敵に当てるといったような小さなことでも関与しなければ、その魔石で強化することは出来ない。
ただ、セトとデスサイズの場合は双方共にレイの魔獣術によって生み出されたという繋がりがあるので、セトが倒したモンスターの魔石をデスサイズで切断しても、あるいはデスサイズで殺したモンスターの魔石をセトが飲み込んでも、双方共に魔獣術として有効だ。
「じゃあ……まずはセトからだな。ちょっと待ってくれ。……うん、これがセトが倒したモンスターの魔石だな。いくぞ」
「グルゥ!」
レイが持っていた魔石をセトに向かって放り投げる。
その魔石を、セトはあっさりと飲み込んだ。
透明な魔石なのだが、セトはあっさりとそれを飲み込むことに成功したのだ。
【セトは『光学迷彩 Lv.八』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それがレイの予想通り、光学迷彩のレベルが上がったことを証明していた。
そのことに、少しだけ安堵するレイ。
魔石を持っていたモンスターの特徴から、恐らく光学迷彩のレベルが上がるだろうというのは、レイも予想していた。
基本的に魔獣術は、使った魔石を持っていたモンスターの特徴やスキルを習得したり強化したりする。
そう考えれば、今回のモンスターの魔石でセトが光学迷彩のレベルが上がるのは自然な流れだ。
だが……それはあくまでもそういう傾向があって、絶対にそうなるという訳でもない。
事実、今まで魔石を使った結果、何故そのスキルを習得する? もしくはレベルアップする? といったことがそれなりにあった。
なので、今回も恐らく光学迷彩のレベルが上がるだろうとは思っていたものの、それでも絶対ではなかった。
しかし、今のアナウンスメッセージでその懸念が払拭されたのだから、レイが安堵するのは自然なことだろう。
「じゃあ、レベルアップした光学迷彩を使ってみてくれるか?」
「グルルルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは即座に光学迷彩を発動する。
すぐに透明になるセト。
そのまま十分程の時間が経過し……やがて、セトの姿が現れる。
十分もの間、じっとしていたのはセトにとって退屈だったのだろう。
スキルが切れると、すぐにレイに近付いて顔を擦りつけてくる。
レイはそんなセトの頭を撫でながら、レベル八になった光学迷彩について考える。
(レベル七の時は五百秒だったのが、六百秒……十分か。レベルが九か十になれば大幅に強化されたかもしれないけど、八ならこんな感じか。とはいえ、セトのような存在が十分もの間透明になれると知れば、それに恐怖する者は多いだろうな)
体長三mオーバーで、非常に高い身体能力を持つセトが、透明のままで突っ込んでくると考えれば、それこそ一軍を相手にしても致命的な被害を与えるには十分だった。
勿論、十分で一軍を全滅させるようなことは……あるいはセトなら出来るかもしれないが、それでもかなり難しいのは事実。
しかし、軍を指揮する者達を中心に透明のセトが襲い掛かった場合、どうなるか。
ましてや、セトは地上を移動するだけではなく、空も飛べる。
軍隊にとって、これ以上厄介な敵はそういないだろう。
「うん。さすがセトだな」
「グルゥ?」
撫でられてるセトは、何故いきなり自分が褒められたのか理解出来ず、不思議そうに喉を鳴らす。
しかし、レイはそんなセトの戸惑いに気が付かず……あるいは敢えてスルーして、セトを撫でていた。
そうして少し時間が経過し……
「さて、じゃあ次は俺の番だな」
レイはセトから離れると、デスサイズを手にそう呟く。
そんなレイに少しだけ残念そうな様子を見せるセト。
セトとしては、出来ればもう少しレイに撫でて欲しかったのだろう。
レイはそんなセトの様子に気が付いていないのか、あるいは気が付いていて気にしないようにしているのか。
ともあれ、レイが自分で倒したモンスターの魔石……こちらも透明なのだが、それを手に持つ。
「さて、どうなるんだろうな。取りあえず切断するのに注意しないと」
セトは透明な魔石でもあっさりと飲み込めたものの、デスサイズの切断ではどうなるか。
いっそ、果実か何かの赤い果汁でも付着させた方がいいのか?
一瞬そう思ったレイだったが、それはすぐに却下する。
大丈夫だとは思うが、その果汁によって魔石を斬った時に何らかの悪影響があるかもしれないのだ。
そうである以上、今は余計なことはせず普通に魔石を切断した方がいいだろうと思えた。
(もし透明で斬れなかったら、別に一度だけしか出来ない訳じゃないし。何度か繰り返せば多分どうにかなるだろう)
そう判断し、念の為にセトに少し離れておくように言ってから、魔石を軽く放り投げる。
次の瞬間、デスサイズが振るわれ……
【デスサイズは『腐食 Lv.七』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それが、この魔石が外れではなかったことを証明していた。
証明していたのだが……
「何で腐食?」
思わずといった様子でデスサイズを見て、そう呟く。
セトに魔石を使った時に、もしかしたら光学迷彩以外のスキルを習得するかもしれないと思った。
そういう意味では、光学迷彩系……例えば短い間であってもデスサイズが透明になるとか、あるいは刃の部分だけでも透明になるとか、そういうスキルを習得してもおかしくはないと思っていた。
あるいは何らかの遠距離攻撃を行っていたのを考えると、そっち系統のスキルを習得してもおかしくはなかった。
だが……習得したスキルは、何故か腐食。
(もしかして、あの透明なモンスターは腐食系のスキル持ちだったとか? 例えば、あの遠距離攻撃に触れると、腐食していた可能性もあるとか?)
そんな疑問を抱くものの、既に倒してしまったモンスターのことだ。
あるいは透明なモンスターということでこの後もまた遭遇する可能性はあるが、その時は気を付けようと思う。
「グルルゥ?」
考え込んだレイを見て、セトはスキルを試さないの? と喉を鳴らす。
レイは少し困った様子でデスサイズを見る。
腐食の威力は強力ではあるものの、同時に危険でもある。
もしここで使った場合、周囲にどういう影響があるのか分からない。
レベルが七になったということで、その威力もかなり強力なのは想像出来たが……
「そうだな。ただ。ここでやるとギガントタートルの足を切断する時に悪影響があるだろうし、ちょっと離れた場所でやるか」
そう言うと、レイはセトと共に今までいた場所から離れる。
十分に離れた場所で、デスサイズを握る、
「腐食」
スキルを発動し、デスサイズを振るう。
地面に突き刺さった瞬間、雪と……何よりその下にある地面が見て分かる程に腐食し始める。
「うわっ!」
そのあまりの勢いに、レイは慌ててスキルを中断して地面に突き刺さったデスサイズの刃を抜く。
刃が抜かれたことによって、ようやく腐食の効果は止まったが……
「さて、ギガントタートルの足の切断を始めるか。足は全部で四本あるし、尻尾と頭もあるからな」
腐食した地面からそっと視線を逸らし、レイはそう言うのだった。
【セト】
『水球 Lv.五』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.七』『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.五』『光学迷彩 Lv.八』new『衝撃の魔眼 Lv.四』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.六』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.二』『アースアロー Lv.二』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.四』『翼刃 Lv.三』『地中潜行 Lv.一』『サンダーブレス Lv.二』『霧 Lv.二』『霧の爪牙 Lv.二』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.七』new『飛斬 Lv.六』『マジックシールド Lv.三』『パワースラッシュ Lv.五』『風の手 Lv.五』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.四』『ペネトレイト Lv.六』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.五』『飛針 Lv.二』『地中転移斬 Lv.一』『ドラゴンスレイヤー Lv.一』
光学迷彩:使用者の姿を消すことが出来る能力。ただしLv.七の状態では透明になっていられるのは六百秒程であり、一度使うと再使用まで三十分程必要。また、使用者が触れている物も透明に出来るが、人も同時に透明にすると百五十秒程で効果が切れる。
腐食:対象の金属製の装備を複数回斬り付けることにより腐食させる。レベルが上がればより少ない回数で腐食させることが可能。レベル五以上では、岩や木といった存在も腐食させる、半ば溶解に近い性質を持つ。