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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3472/3865

3472話

「レイ!」


 セトが地面に着地すると、村の外で待っていたエレーナ達がレイの名前を呼んで近付いてくる。

 エレーナ、マリーナ、ヴィヘラの三人の美貌には、揃って心配の色がある。

 レイはほぼ完全に回復したと言っていたものの、その言葉を本当に信じてもいいのかどうかは分からなかった。

 だが、レイが言った以上は言葉を翻すとは思えずに行かせたのだが……それでもやはり、心配だったのだろう。

 そんな三人の後ろには、アーラやオクタビアの姿もある。

 レイの能力については二人共十分に理解している。

 だからこそ、エレーナ達のようには心配していなかったのだろう。

 エレーナ達の場合は、想い人であるからというのも心配している理由の一つだった。


「悪いな、心配させたか」

「全くだ。様子を見てくるだけなら、もっと早くに戻ってこられた筈だ」

「もっとも、村の気温が急激に下がったから、レイの魔法が成功したというのは理解していたけどね」

「巨人はもう死んでた?」


 エレーナ、マリーナ、ヴィヘラの順に、レイに向かって声を掛けてくる。

 そんな三人に対し、レイは何をどう話せばいいのか迷い……


「取りあえず主要な面々を集めてくれ。色々と話しておきたいこともあるし」


 そう告げる。

 レイの様子から、ただ巨人の死体を見てきただけではないと判断したのだろう。

 レイが無事な様子を見て安堵しつつ、戻ってくるのが遅いという不満から、真剣な表情でそれぞれが頷く。

 レイが何の意味もなく、このようなことを口にするとは思えない。

 話を聞いていた面々は、すぐに行動に移るのだった。






「集まって貰って悪いな。知っての通り、俺は巨人のいた場所を見てきた。その際に色々とあったから、それを報告しようと思う」


 そう言い、レイはここに集まった面々……穢れの関係者の本拠に奇襲を仕掛ける為に集まったギルム組の面々と、レイがベスティア帝国の内乱で率いた遊撃隊に所属しており、現在は部隊を纏める立場にいるキャリスを見る。

 なお、キャリスの部下達はこの場にはいない。

 ここにいるのはキャリスだけで十分だと判断したのだろう。


「まず最初に言っておくのは、この村でも気温が下がったのは実感してるだろうが、熱については対処出来た」

「どうやってですか?」


 そう聞いてきたのはキャリス。

 レイの実力をこれ以上ないくらいにはっきりと知っているキャリスだったが、その実力はあくまでも戦闘力についてのものだ。

 それだけに、レイの魔法によって一定ラインからは近づけない程の熱気を生み出したのは納得出来るものの、その熱気をどうにかしたというのはすぐに納得出来なかった。

 ましてや、キャリスはレイが目覚めるまでの間、何度もどこまでなら行けるかというのを試している。

 それだけに、圧倒的なまでの熱気についてはこの場にいる中でも恐らく一番知っている。


「魔法でだ」


 レイの口から出たその言葉は、キャリスを納得させるには不十分だ。

 だがそれでも、レイがそう言うのならと納得してしまうのは、何だかんだとレイという存在を知っているからだろう。

 とはいえ、驚きと呆れの視線をレイに向けることを止めることは出来なかったが。

 レイは多くの者にそのような視線を向けられるが、特に気にしない。

 この手の視線を向けられるのは慣れているからだ。

 その為、視線を気にせずに説明を続ける。


「熱気を何とか出来たから、巨人のいる場所に向かったんだが……巨人は生きてた」

『え!?』


 先程の魔法については驚かなかった、エレーナを始めとしたレイの実力について知っている者達の口からもそんな驚きの声が上がる。

 ここにいる者達は、レイが巨人に対してどれだけの魔法を使ったのか、余波を感じただけで十分にその威力を理解していた。

 巨人のいた場所から大分離れたこの村でも初夏の気温になるような、そんな圧倒的な威力を持つ魔法。

 その威力を想像するのは難しくはない。

 それこそどのような存在だろうと、あの魔法を食らえば死んでしまうだろうという絶対的なまでの確信がそこにはあった。

 だというのに、その魔法を食らって生きていたというのは到底信じられることではない。


「ちょっ、ちょっとレイ。巨人が生きていてレイがこうして無事に戻ってきたということは、レイが巨人を倒してきたの?」


 ニールセンの問いに対し、レイは首を横に振る。


「巨人が生きていたのは間違いないが、それでも無傷って訳じゃない。……いや、寧ろ死ぬ寸前だった。多分だけど、もう少し俺が行くのが遅くなれば既に死んでいたと思う」


 そう言うレイの言葉には真実の色がある。

 実際、レイがシャロンのいた場所に到着し、話し始めてから十分かそこらでシャロンは死んでしまったのだから。

 それを思えば、もう少しレイが村を出発するのが遅れていればシャロンは間違いなく死んでおり、レイが魔法を使った場所に行ってもそこは何も存在しなかった筈だ。

 あったのは、それこそガラス化した地面だけが延々と広がっている光景だけだろう。


「そして巨人だが、驚くことに自我があった」

『な……』

「ただ、その自我は巨人の自我というよりは大いなる存在の依り代にされたシャロンという女の自我だったが。フォルシウスと話した奴なら覚えてると思うけど、長老達の上に更に誰かがいるって話があっただろう? それがシャロンという巫女で、そのシャロンが儀式によって大いなる存在を呼び出した時にその依り代になった訳だ」


 巨人に自我があったというレイの報告に驚いていた面々だったが、フォルシウスとの会話を覚えていた者達はレイの言葉にそう言えば……といった様子を見せる。

 もっとも、そんなレイの言葉を完全に信じられるかと言われれば、正直なところ微妙ではあったが。

 何しろこの場にいる多くの者が巨人を実際に自分の目で見ている。

 間近で見たのはレイ達で、キャリスやビューネは待機していた離れた場所から見ただけだが、それでも十分に巨人の偉容については納得出来ている。

 それだけに、直接巨人を見たのと、レイから話だけを聞いたシャロンという巫女の関係については、素直に納得出来たりはしない。


「あ……なるほど。そう言えば……」


 そんな中、不意にそんな声を上げたのはエレーナ。

 その言葉に、一体どうしたのかといった視線が集まる。

 エレーナは自分に視線が集まっているのに気が付いたのか、口を開く。


「私とレイとセトが巨人と戦った時、巨人の外見は明らかに女だった。レイの言ってる内容から考えると、そのシャロンという巫女が依り代になったからその意識が関係してあのような形になったのかもしれない」

「……ああ、なるほど」

「レイ?」


 エレーナの言葉に真っ先に同意したのは、レイ。

 エレーナはまさかレイがそのことに気が付いていなかったのかと言いたげな表情で視線を向ける。

 特定の趣味を持った者なら嬉しいだろう視線だったが、幸か不幸かレイはそのような特定の趣味……もしくは特殊な趣味はない。

 少し慌てたように口を開く。


「いや、あの時はそんなことを考えていられる余裕がなかったし。それに目覚めてからも、少しでも早く魔力を回復させるのに集中していたし」


 そんなレイの言葉を信じたのか、あるいはここでこれ以上追及しても仕方がないと思ったのか。

 とにかくエレーナはレイに向かってこの件でこれ以上追及せずに口を開く。


「つまり、あの巨人は最初からレイの言うシャロンという人物の意識によって動かされていた可能性が高い」

「その割には、俺達と戦ってる時は喋らなかったけどな」


 そう言うレイだったが、実際にはレイが魔法を使って意識を失い、セトがそんなレイとエレーナを連れてその場から離れた後で、言葉を口にしていた。

 その場にいなかった以上、レイ達がそれを知らないのは仕方がなかったが。


「けど、セトが顔を攻撃するとしつこくセトを狙ったのはレイも見ただろう。女なら、そのように行動してもおかしくはない」

「……エレーナの竜言語魔法で心臓とかを狙われても、そっちには反応しなかったけどな。シャロンの自我があったのなら、そこに反応してもいいと思う」


 竜言語魔法によるレーザーブレスで、巨人の心臓……左胸のある場所を攻撃したが、巨人は反応しなかった。

 シャロンの自我があったのなら、身体を……胸を攻撃されて黙っていられるとは思わない。


(あるいは胸よりも顔の方を重要だと考えたのか? まぁ、その可能性はあるかもしれないけど)


 普段は隠されている胸と、普段から表に出ている顔。

 そのどちらを重要視するのかと言われれば、やはり顔なのかもしれないとレイは思う。

 とはいえ、その辺りは人それぞれだ。

 レイの考えが正しいとは思えない。

 女心と秋の空という言葉を思い浮かべながら、レイは説明を続ける。


「とにかくそんな訳で巨人……以後はシャロンと呼称するが、そのシャロンと少しだけ話すことが出来た」

「じゃあ、他の拠点についても聞くことが出来たの?」


 そう尋ねるマリーナだったが、それに対するレイの返事は首を横に振るというものだ。


「生憎と話せた時間そのものは短かったし、シャロンは巫女として長老の上に位置していたのは間違いないが、だからこそ細かい事情……例えばどこに穢れの関係者の拠点があるのかということは知らなかった」

「それは……」


 レイの言葉に、マリーナは仕方がないという思いと、そのくらいの情報は知っていて欲しいという相反する思いから、複雑な表情を浮かべる。

 仕方がないというのは、レイから聞いた話によれば、シャロンは一種の象徴に近い存在だったのではないかと思えたからだ。

 そうである以上、わざわざ拠点がどこにあるのかということを知らなくても仕方がないと思える。

 だが同時に、巫女という長老よりも上……実質的にはどうか分からないが、名目上は穢れの関係者達を率いるだろう立場にいたのだから、全てではないにしろ、幾つかの拠点くらいは知っていてもおかしくはないだろうという思いがそこにはある。


「一応、本当に一応聞くけどよ。実はそのシャロンって奴から拠点についての情報を聞いていて、それを言ってないだけってことはないよな?」

「レリュー、俺がわざわざそんなことをする必要があると思うか? 普通なら手柄を挙げたいとか考えてそんな風に思うかもしれないが、俺は別にそこまで手柄に拘ってはいない。寧ろ穢れの関係者については、俺を抜きにして話を進めて欲しいくらいだ」


 これはレイの正直な気持ちだ。

 これまで延々と穢れを、そして穢れの関係者の相手をしてきただけに、もう面倒臭いという思いがそこにはある。


「けど、もしその拠点にマジックアイテムがあると知ったら、レイならそれを欲して自分だけで拠点を制圧しようとか考えてもおかしくないんじゃないか?」

「ぐ……それは……」


 レリューの言葉に、レイは即座に反論出来ない。

 レリューはレイがマジックアイテムを集めるのを趣味にしているのを知っている。

 ……いや、それはレリューだけではない。

 そのことを知らないのは、それこそレイとの付き合いが短いキャリスの部下達だけだろう。

 ギルム組は、穢れの関係者の本拠地のあるここまでの旅路で、大なり小なりレイがマジックアイテムを集める趣味を持ってる光景を見ている。

 マジックテントを始めとして、ミスティリングや流水の短剣、窯といった非常に便利なマジックアイテムの数々。

 それ以外にも、穢れに特攻を持つ魔剣はレイが穢れの関係者の拠点の一つ、オーロラのいた場所から見つけたものだ。

 ……実際にはその魔剣を見つけたのはレイではなく、マリーナ達なのだが。

 そんな諸々から、レイがマジックアイテムを欲して拠点の場所を聞き出しつつも、それを隠していると疑われてもおかしくはない。

 実際、本拠地を攻める時、レイは穢れの関係者達が集めたマジックアイテムを手に入られるかもしれないと楽しみにしていたのは、多くの者が知っている。

 そんな諸々の状況を考えると、レリューがマジックアイテムの件からレイを疑ってもおかしくはないのだろう。


「俺としては、マジックアイテムを集めるだけなら穢れの関係者の拠点に行くよりも、春になったら行く予定になっているダンジョンの方に期待してるから、わざわざ面倒な穢れの関係者の拠点に行こうとは思えないな」

「けど、それを証明は出来ないんだろう?」

「ああ、出来ない。けど同時に、俺が穢れの関係者の拠点を聞き出していて、そこにあるマジックアイテムを独占しようとしているのも証明は出来ない筈だ」

「まぁ、そうだな」


 レイの言葉にあっさりと同意するレリュー。

 これ以上は水掛け論になるというのもあるが、実際には今回の件はレイがそういうことをしていないと、他の者達に教える為の一幕だったのだろう。

 そう気が付いたレイは、レリューに感謝の視線を向けるが……レリューは鼻を鳴らして視線を逸らすのだった。

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