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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3466/3865

3466話

カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 レイが村長の家から出ると、既にそこには多くの者が集まっていた。

 ガーシュタイナーとオクタビアの二人が、レイが目覚めたことを知らせて集めておいたのだろう。

 そのような者達は、レイが姿を見せたことに驚く。

 話には聞いていたものの、実際にレイが目覚めたことに驚いた者もいるし、改めてこうして目覚めたレイが動いているのを見て、レイが見て分かる程に痩せていることに驚いている者もいる。

 そして何より……


「グルルルルルゥ!」


 そんな周囲の様子を全く気にせず、セトが喉を鳴らしながらレイに近付く。

 周囲にいた者達も、セトがどれだけレイを心配していたのかは知っているので、それを邪魔するような者はいない。

 もっとも、今のセトの行動を邪魔しようとしても、レイしか見えていないセトはそれに気が付かず、吹き飛ばしていた可能性が高かったが。

 他の者達もそれを分かっていたからこそ、セトを邪魔するようなことをしなかったのだろう。


「心配を掛けたな、セト」


 そう言いながら、顔を擦りつけ、甘えるセトをレイが撫でる。

 セトはそんなレイに撫でられながら、嬉しそうに喉を鳴らす。

 レイとセトは魔力的に繋がっている。

 その為、レイが死ぬようなことはないと理解していたセトだったが、それでもずっと姿を見せなかっただけに、心配していたのだ。

 そんなセトの気持ちが分かるだけに、レイもセトの気が済むまで撫で続ける。

 ……そんなレイを心の底から羨ましそうに見ているのは、ミレイヌだ。

 セト好きの第一人者を自称――ヨハンナが聞けば異議を唱えるだろうが――するミレイヌだ。

 レイが心配でここ暫くは元気のなかったセトを、ミレイヌは必死になって励ましていた。

 しかし、そんなセトはレイを見た瞬間にここまで嬉しそうにしたのだ。

 ミレイヌとしては、セトが元気になってよかったと思うと同時に羨ましく思ってしまうのも仕方がない。

 レイがセトを撫で続け、数分。

 ようやくセトもある程度は落ち着いたのか、レイから離れる。

 ただし、レイから離れはしたが、レイのすぐ側から動く様子はない。

 今は可能な限りレイの側から離れたくはないのだろう。

 また、レイが痩せていることもこの場合は関係していた。

 もしレイが倒れた時、自分がそれを受け止めるのだという思いからの行動。

 エレーナ達も同じようにレイがふらついたり倒れたりしたら自分が助けようと思っていたのだが、セトがやるのならと、セトに任せる。

 エレーナ達はレイが意識不明だった状態の時、ずっと側にいることが出来た。

 だが、セトは体長三mというその大きさの為、レイに会うことが出来なかった。

 セトにはサイズ変更というスキルがあるので、無理にレイに会おうと思えば会えたのだろう。

 しかし、セトは今ここで自分が無理矢理レイに会っても、レイは決して喜ばないだろうと判断していた。

 そんな訳で、ずっとセトはレイに会えなかったのだ。

 なら、ここはセトに譲ろうとエレーナ達が考えても、そんなにおかしなことではない。


「さて、取りあえずは野営に必要な道具とか、食料とか、そういうのを出すから、必要な者達は使ってくれ。ああ、現在この村の住人の家に泊まらせて貰っている場合は無理にとは言わない。ただ、俺の関係で無理をさせてると思うから、村長やこの村の住人にはガメリオンの肉を渡そうと思う」


 ざわり、と。

 それを聞いていた者達がざわめく。

 もっとも、ギルム組はそこまで驚いてはいない。

 ガメリオンは晩秋から初冬に掛けて姿を現すモンスターで、今は冬だ。

 つまり、ギルム組はガメリオンの肉についてはまだそこまで餓えてはいない。

 だが、キャリスやその部下達にしてみれば、ガメリオンというのは希少な肉として聞いたことがあるといった者や、全く知らない者達だ。

 前者は驚き、後者は一体どういう肉だといった疑問。

 それでも大きな騒ぎにならなかったのは、ガメリオンを知らない者達にとってもレイが出す肉なのだから不味い肉の筈がないと思ったのだろう。


「それと巨人については、悪いが今は放っておく。今の俺は魔力がまだ回復していないから、様子を見に行くことは出来ない。ただ、毎日やっていたどこまで進めるのかを確認するのは止めてもいい」


 わぁっ、と。

 先程のざわめきと違い、今度はキャリスの部下以外の者達からも歓声が上がる。

 何しろ崖の方に進めば、真昼の砂漠並の暑さになる。

 そんな中を進むのは、一歩ごとに体力と精神力を消耗するのだ。

 どうしてもやらないといけないのならともかく、やらなくてもいいのならやりたくないと思うのは自然なことだった。

 今までは、いつレイが目覚めるか分からないからこそ、少しでも巨人の情報を得ようとして、どこまで近づけるのかを試していた。

 だが、レイが目覚めた以上、わざわざそのようなことをする必要はない。

 ……もっとも、喜んでいる者の中にはあの行動が無駄だったのかと、レイが目覚めるのならわざわざあそこまで苦労する必要はなかったのではないかと、そのように思っている者もいたが。

 ただ、レイがいつ目覚めるのかは当初全く分かっていなかった。

 そうである以上、少しでも巨人の情報を入手しようとするのは間違った話ではない。

 不満に思った者達もその辺については理解しているのか、実際にその不満を口に出すことはなかった。


「後は、繰り返すようだが俺が魔力を回復したら巨人の様子を見てきて、それで仕事は終わりだ。……とはいえ、これはあくまでもギルムから来た俺達の話で、キャリス達がどうなのかは分からないが」


 そう言い、レイは少しバランスを崩す。

 するとそんなレイの動きを見逃さなかったセトが素早く近寄り、レイの身体を支える。

 レイは感謝を込めてセトを撫でつつ、キャリスに視線を向けた。

 そんなレイの視線を向けられたキャリスは、少し困った様子で口を開く。


「色々と上に報告する必要があるのは間違いないですが、ここまで来たら最後まで付き合います。このまま中途半端な状態で戻っても、報告する内容も完全とはいかないでしょうし」


 キャリスのそれは本音であると同時に建前でもあった。

 内乱の時にレイに率いられたキャリスは、レイの強さを尊敬していた。

 そのレイがこのような状態になるのだから、自分が少しでも力になれればいいと、そう思ってのここに残るという選択だった。

 もっとも、自分がいなくても元皇女のヴィヘラや他にも同等の強さを持つだろうエレーナやマリーナ、そしてグリフォンのセトがいる以上、戦力的には問題ないと思えたが。

 それでも何かあった時の為に、万が一を考えて残ることにした。

 そんなキャリスの考えを理解しているのか、いないのか。

 レイはキャリスの言葉に分かったと小さく頷くだけだ。


「さて、じゃあそんな訳でそれぞれ行動に移ってくれ」


 そう言い、レイはミスティリングから必要な物資を次々に出していく。

 集まった者達は、それぞれが自分に必要な物資を持っていく。

 ある程度の人数が減ったところで……


「ねぇ、レイ。私の串焼きはないの?」

「一体何の話だ?」


 ニールセンの言葉に、レイは呆れ混じりにそう言う。

 串焼きを要求するニールセンだったが、別にレイはニールセンから串焼きを預かったりはしていない。

 預かっていない物を寄越せと言われても困る。

 困るが……色々と言いながらも、レイは息を吐くとミスティリングから串焼きを取り出してニールセンに渡す。


「わーい」


 渡された串焼きに、嬉しそうに齧りつくニールセン。

 そんなニールセンを見ていたヴィヘラが、呆れたように言う。


「そんなに甘やかしていいの?」

「今日くらいはな。俺が倒れたことで、ニールセンにも心配を掛けた様子だし」


 いつも通りに接してきたニールセンだったが、その目には心配そうな色があった。

 ニールセンにとっても、レイはそれなりに長い間一緒に行動してきた相手だ。

 それだけにレイが意識不明になれば心配をしない訳がない。

 レイもそれが分かったからこそ、こうして串焼きを渡したのだ。


「ニールセンの件はいいとして、マジックテントをどこに設置する? どこかいい場所があるか?」

「うーん、そうね。この村の中ならどこでもいいと思うけど。この村の住人は大らかな人が多いから、家の前にマジックテントを設置するとか、そういう嫌がらせじみたことをしない限りはどこに設置しても問題ないと思うわ」


 ヴィヘラの言葉に頷くレイだったが、少しだけ驚く。

 村長の家を借りていた身で言うことではないかもしれないが、このような国の端にあるような小さな村の場合、閉鎖的であってもおかしくないと思ったからだ。

 そのような閉鎖的な村であっても、レイ達の戦力を考えれば受け入れるしかない。

 村にしてみれば、協力を断れば即座に盗賊に鞍替えする可能性も否定は出来ないのだから。

 実際にはそのようなことはないのだが。

 村長や村人達とまだ会っていないレイとしては、ベスティア帝国の端にある小さな村ということでそのように認識してもおかしくはなかった。


「そうか。じゃあ、どこか適当な場所を教えてくれ。……セト?」

「グルゥ!」


 レイの言葉に真っ先に反応したのはセトだった。

 セトは身体を揺らして自分に寄りかかっていたレイをしっかりと背中に乗せる。

 レイを背中に乗せたセトは、満足そうに歩き出す。

 エレーナ達も……そして串焼きを食べていたニールセンも、そんなセトを追う。

 村の中を進み、やがてセトが足を止めたのは村の中でも端の方だった。

 端の方だけに村人の建物もなく、それを見れば何故セトがここにきたのかはレイにも理解出来た。


「なるほど、ここにマジックテントを設置すればいいのか」

「グルゥ!」


 その通り、と嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 レイと一緒にいられるというだけで、セトにとっては嬉しいのだろう。

 レイはそんなセトの首を撫でながら、エレーナ達に視線を向ける。


「どう思う? セトはここがいいと言ってるけど。どこか他にいい場所はあるか?」


 尋ねるレイだったが、エレーナ達は首を横に振る。


「私も一応この村の中はある程度見て回ったが、特にどこがいいという場所はないな。マリーナとヴィヘラはどうだ?」


 エレーナの言葉に、マリーナとヴィヘラも異論はないと言う。

 一応この村で危ない場所がないかどうかを確認はしていたものの、三人は基本的にレイの部屋にいた。

 その為、あくまでも村を見て回ったのは一応でしかない。

 そんなエレーナ達に比べて、村長の家に入れなかったセトは村の中をかなり歩き回っている。

 ここを見つけたのも、そのような理由からだ。


「どうやらここでいいみたいだな。……じゃあ、マジックテントを設置するか」


 そう言うレイだったが、マジックテントは既に展開した状態でミスティリングに収納されている。

 設置と表現しているが、やるべきことはミスティリングから取り出すだけだ。

 数秒も経たないうちにマジックテントの設置が完了する。


「じゃあ、後は村長や村人達に渡すガメリオンの肉だけど……出して貰える? 肉はこっちで配っておくから。レイは少しでも早く魔力を回復するように休んでちょうだい」


 マリーナの言葉に、それでいいのか? と思わないでもない。

 だが、マリーナ達が自分を心配してそのような言葉を口にしたというのは十分に分かるので、その言葉に素直に従うしかなかった。


「分かった。じゃあ、頼む」


 そう言い、レイはミスティリングからガメリオンの肉の塊を取り出す。

 既に殆どのガメリオンは解体されているので、取り出したのは後は切ればそのまま料理に使えるという状態の肉の塊だ。

 重量にして、五十kgくらいはある肉の塊を数個。

 それを見たマリーナは即座に精霊魔法を使い、汚れないように水の精霊を呼び出し、肉を持ち上げる。

 肉を水に触れさせると旨みが逃げ出したり、肉が水っぽくなるのではないか。

 そう思わないでもなかったが、マリーナがその辺について考えていない筈はない。

 これがただの水ならレイの心配通りのことになるかもしれないが、マリーナが出した水は精霊魔法によって生み出された水だ。

 肉に触れても、レイが心配しているようなことにはならない。


「じゃあ、私はこの肉を持って行くわね。どういう風に分けるのかは、村長に任せた方がいいでしょうし」


 このような小さな村の場合、村長の持つ権限は大きい。

 それだけに、村長に断らずに肉を切り分けてそれぞれの家に渡すといったことをした場合、表立って態度には出さないだろうが、村長にとっては面白くないと思う可能性は十分にあった。

 それだけに、肉の取り分については村長に任せるのが最善だった。

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