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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3458/3865

3458話

 エレーナ達が村長に大体の事情を説明してから、数時間。

 エレーナ達は仮眠から目覚める。

 とはいえ、この村はベスティア帝国の中でも端の方にある、かなり小さな村だ。

 宿屋の類は存在せず、一番広い建物は村長の家となる。

 その村長の家は行商人や客人が来た時に泊まる客室はあるが、その客室にあるベッドには魔力を限界まで使った影響か、明らかに普段よりも痩せ細っているレイの姿がある。

 そうなると他の面々……それこそエレーナ達の寝る場所は村長達が使ってるベッドか、あるいは床や椅子に座って眠る必要があり、レイの眠っている部屋で寝ることを選んだ。

 レリューを始めとした冒険者組は、キャリスの部下達と共にテントで眠り、ミレイヌは村長の家の前でレイを心配しているセトに寄りかかって眠っていた。

 なお、オクタビアとアーラはレイのいる客室の中ではなく、護衛の意味も込めて客室の扉の前で眠っていた。

 普段であれば、冬という今の季節にそのようなことをすれば、風邪を引く……いや、それどころか、場合によっては凍死してもおかしくはない。

 だが、幸か不幸か巨人を殺す為にレイの使った魔法により、雪は全て水となっている。

 それでも今は当初……エレーナ達がこの村にやって来た時と比べると、ある程度気温は下がっているのだが。

 具体的には、初夏から春くらいに。

 この村にエレーナ達がやって来てから既に数時間が経ったことを考えれば、恐らくそう遠くないうちに気温は元に戻ると思えた。

 そんな暖かな……それこそ寝るのに薄い掛け布団があればいいだけの気温の中で、エレーナ達は仮眠から目覚めていた。

 現在この部屋の中にいるのは、ベッドで眠っているレイ。それ以外椅子に座って眠っていた、エレーナ、マリーナ、ヴィヘラ。そしてヴィヘラの膝枕で眠っているビューネと、ベッドの上の邪魔にならない場所で眠っているニールセンだ。

 そんな中でエレーナが最初に起きて、それに反応するようにマリーナとヴィヘラも起きる。

 ビューネとニールセン、そしてレイはまだ眠ったままの中、エレーナ達は話し始める。


「レイがいないと、これ程に苦労するとは思わなかったな。……いや、そうなるだろうと分かってはいたが、実際に経験すると大きく違う」

「それでもマリーナの精霊魔法がある分だけ、楽な部分はあると思うけどね」

「ふふっ、そう言われると嬉しいわね」


 そうして少し話をしていたエレーナ達だったが、その話題はレイの状況に移っていく。


「それにしても、まさか魔力を使ってここまで痩せるとは思えなかったわね。……私は魔法を使わないからそこまで詳しくないけど、魔力を極限まで使うとこういう風に痩せるの? スキルだとこうはならないんだけど」


 ヴィヘラがそう言い、痩せ細ったレイを見てからエレーナとマリーナに尋ねる。

 本人が言ったように、ヴィヘラは魔力はあるものの、魔法は使えない。

 本人が言うようにスキルは使えるが、ヴィヘラの経験からスキルを連続で使って魔力を消耗しても、ここまで痩せ細るということはなかった。

 ならば同じように魔法を使う二人に聞いてみようと思うのは自然なことだろう。

 エレーナは普通に魔法を使うし、マリーナは普通の魔法ではないが精霊魔法を使うのだから。


「うーん、その辺は人によるとしか言えないわね。私が知ってる限りだと、限界まで魔力を使うと数日眠り続けるとか、レイとは反対に太るとか……中には笑い続けるという人もいたわ。どれも私がギルドマスターになる前に冒険者をしていた時に見たんだけど」

「笑う? 眠るということや、レイの様子を見れば太るというのは分かるが……笑う? 私はそのような例は初めて聞くな」


 エレーナも姫将軍としてそれなりに……いや、それなり以上に顔は広い。

 それだけに希少な魔法使いについてもそれなりに知っているのだろう。


「特殊な例なのは間違いないわ。ただ、そういう感じで本当に人それぞれなのよ。そしてレイは、見ての通り限界まで魔力を使うと痩せるんでしょうね」

「……貴族のお嬢様とかが知ったら、羨ましがりそうね」

「あのね、ヴィヘラ。……痩せるにしてもこんな短時間で急激に痩せて身体に悪影響が出ないと思う?」


 呆れ混じりに言うマリーナだったが、言われたヴィヘラは寧ろそんなマリーナに呆れの視線を向ける。


「あのね、マリーナは分からないかもしれないけど、多少健康に問題があっても一晩……いえ、数時間でこれだけ痩せられると聞けば、それこそ希望する人は間違いなくいるわよ?」

「……本当に? そういうものなの?」


 マリーナがこう言うのは、元々マリーナが……というか、エルフを含めてダークエルフが太りにくい種族特性を持っているというのもある。

 ただ、そこでも微妙に違うのは、エルフは本当の意味で太りにくい性質を持っているのに対し、ダークエルフは太りにくいのは間違いないが、余分な脂肪は胸に集まりやすいというのもある。

 結果として、エルフもダークエルフも太りにくいという点では一緒だが、エルフは良く表現すればスレンダーなのに対し、ダークエルフは男好きのする身体をしている者が多いということだろう。

 もっとも、これはあくまでも種族的にそういう方向性の特性があるというだけであって、絶対ではない。

 普通のエルフでも豊かな曲線を描く身体付きの者もいれば、ダークエルフでもスレンダーな身体付きの者もいるのだから。

 そんなマリーナとは違い、エレーナとヴィヘラの場合はそれなりに太りにくい体質ではあるが、マリーナ程に極端なものではない。

 それでも何故太らずにいるのかといえば……それは単純に、食べた分だけ動いているからだろう。

 エレーナとヴィヘラの模擬戦は、毎日のように行われている。

 それこそ今回の旅でも、野営の時には行われていた。

 その運動量は、寧ろ痩せすぎないために出来るだけ多く食べる必要があるくらいだ。

 そんな訳で、この場にいる極上の美女三人に関しては自分が太るという心配については全くなかった。

 だからこそ、女が――時には男も――必死になるダイエットについては、ある程度理解しているつもりでも本当の意味で理解しているという訳ではなかったのだろう。


「とにかく、話を戻すわよ。魔力を使いすぎた場合の症状は個人差がある。レイの場合は痩せたというものだけど……取りあえずこの様子を見ると死ぬといった心配はないでしょうね。ただ、問題なのはいつ目覚めるか分からないことだけど」


 マリーナのその言葉に、他の二人もレイに視線を向ける。

 三人にとって幸いだったのは、レイが痩せ細ったのは間違いないものの、それでもこうして気絶している状態でも苦しそうにしていないことだろう。

 何も知らない者がレイを見れば、痩せているレイがただ眠っているだけにしか見えない。

 もしこれでレイが苦しげにしていたら、三人も落ち着いてはいられなかっただろう。


「レイが目覚めないと、色々と困るわね。巨人が本当に倒されたかどうか確認にもいけないし、食料とか野営道具とか、そういうのも使えないし」

「一応巨人の生死を確認することは出来るだろう。……ただ、あのレイの魔法の威力を考えると、それこそ迂闊に近づけないし」


 エレーナの言葉に、他の二人も同意する。

 それだけ、レイの使った魔法によって周囲に出た影響は大きかったのだ。

 ……なお、これはエレーナ達も知らないことだったが、レイの魔法による影響そのものは、それこそベスティア帝国、ミレアーナ王国、そして周辺国にも及んでいた。

 もっとも、その影響そのものは一℃か二℃普段よりも気温が高くなったといった程度で、影響の広さに比べて被害そのものはそこまで大きくなかったのだが。


「そうなると、どうにかしてレイを回復させる必要がある訳だが……やはりマリーナの精霊魔法では難しいのか?」

「そうね。これが例えば怪我をしたとかなら、それを治療することも出来るけど。今回はあくまでもレイが魔力を限界まで使ったのが原因だもの。魔力が自然に回復するのを待つしかないわね」

「魔力を回復するポーションとかは?」


 ヴィヘラの言う魔力を回復するポーションは、かなりの希少品ではあるがレイであれば持っていてもおかしくはない。

 ……レイであれば、だが。


「レイなら持ってるかもしれないけど、それを使うにはレイがミスティリングから出さないといけないわ」


 レイを目覚めさせる為に使う魔力を回復するポーションは、レイでなければ使えないミスティリングに収納されている。

 そう考えると、魔力を回復するポーションがあっても、それを使うことは不可能に近かった。


「だとすれば、やはりレイが自然と目覚めるのを待つしかない、か。……だが、そうなると具体的にいつ目覚めるのかが問題だな。今日明日に目覚めるのなら問題はないが、数日……数十日も目覚めるのに必要となると、いつまでも村長の家に厄介になる訳にもいかないだろう」


 エレーナの指摘は当然のことだった。

 今は緊急事態ということで、村長の家を借りている。

 また、不測の事態からレイを守るという護衛の意味もあって、村長の家の周りで他の面々は野営をしていた。

 だが、いつまでもそのようなままという訳にはいかないだろう。

 村長達にも普通の生活があるのだから。


「エレーナが言いたいことは分かるけど、宿屋もないこの村でどうするの? ……こういう時にレイのマジックテントが使えればいいんだけど、それも無理だし」


 先程の魔力を回復させるポーションと事態は同じだ。


「家……とはいかないけど、簡単な小屋でも建てる? 今なら精霊魔法を使えるし、建築資材があれば、それで小屋を建てて、その周囲を土で覆えば隙間風の対処も出来るわよ? 外見は色々と問題があるけど」


 普通の家に比べると、明らかに外見は劣るだろう。

 だが、レイが目覚めるまでの間だけ使うと考えれば、そのような家であっても問題はない。

 ……もっとも、さすがにレイが目覚めるまで数ヶ月や、もしくは数年といった時間が必要になるなら、いつまでもこの村にいる訳にもいかないのだが。

 ただし、レイがいつ目覚めるのかが分からない以上、今はその辺について心配しても意味はなかったが。


「どうする? レイがまだ目覚めないとなると、皆を指揮するのはエレーナでしょう? その辺についてはエレーナが決めた方がいいんじゃない?」

「ちょっと待ってくれ」


 ヴィヘラの口から出た言葉に、エレーナは思わずといった様子で声を上げる。

 その表情にあるのは、困惑。


「え? 何故私が指揮を執ることになってるのだ? そういうのなら、私ではなくマリーナの方が向いてるのではないか?」

「そこで私の名前を出さなかったのは、悪くない判断ね」


 ビューネの頭を撫でながら、ヴィヘラが笑みと共にそう言う。

 ヴィヘラは元ベスティア帝国の皇女という経歴の持ち主だが、だからといって指揮を執るのを好む訳ではない。

 ……あくまでも好まないのであって、出来ない訳ではないのだが。

 それだけに、指揮を執るのは他の者に任せたいという思いがそこにはあった。


「で、私? ただ、私よりは姫将軍の異名を持つエレーナの方が、皆を纏めるのには向いてると思うけど」

「マリーナもギルドマスターの経験者だろう。であれば、マリーナでも十分に皆を指揮することは出来る筈だが?」

「そうね。やれと言われれば出来ると思うわ。ただ、この先のことを思えば、やっぱりエレーナがレイの次の立場の方がいいと思うのよ。正妻候補なんだから」

「……そ、それは……」


 マリーナの口から出た言葉に、エレーナの整った顔が急速に赤く染まっていく。

 まさかここでそのような立場について持ち出してくるとは、エレーナも思っていなかったのだろう。


「私はまだ正妻を諦めた訳じゃないけど……でも、皆を纏めるという意味では私よりもエレーナの方がいいかも」


 その言葉に、エレーナはどう答えればいいのか迷う。


「せ、正妻云々はともかくとして、他の者を纏めるのを私がやるべきだというのなら、やらせて貰おう」


 そう宣言するエレーナに、マリーナとヴィヘラは生暖かいと評するのが相応しい笑みを浮かべる。

 レイとの関係には色々と思うところはあるものの、幸いなことに全員が普通の人間よりも遙かに長い寿命を持っている。

 そうである以上、レイとの関係の進展はそこまで急がなくてもいい。

 今の距離感でも十分に幸せなのだから。

 そんな風に思いつつ、マリーナとヴィヘラはベッドで眠っている……本当にただ眠っているようにしか見えないレイをじっと見つめるのだった。

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