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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3455/3865

3455話

カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 小さな種火。

 それは外見こそ小さく、そして儚い姿をしていた。

 しかし実際にはその炎はレイの魔力のほぼ全てを込められて生み出され、圧縮された炎だ。

 普通の魔法使いが数億、数兆……それだけ集まっても、まだ足りないだけの魔力が圧縮した炎。

 逃げろ、と。レイが叫んだ瞬間、セトは巨人から素早く離れ、こちらも地上から距離をとっていたエレーナに近付く。

 それを見た瞬間、エレーナは躊躇することなく跳躍し、自分の上を飛んでいたセトの足に掴まる。

 次にセトはレイのいる場所まで向かう。

 本来なら、セトにしてみればレイが最優先すべき存在だ。

 しかし、レイとエレーナではエレーナの方が近かったので、最初にエレーナを拾ったのだ。

 そうしてエレーナを前足にぶらさげたまま、セトはレイのいる方に向かって飛び……


「グルゥ!」


 極限まで魔力を使ったレイは半ば朦朧としており、いつ意識を失ってもおかしくはない状態だった。

 しかし、そんなレイもセトの鳴き声で我に返ると、数秒だけ目に光を取り戻す。

 残っている力を使ってデスサイズをミスティリングに戻すと、何とかセトが自分の側を通った瞬間に跳躍し、その背に乗り……その瞬間、意識が失われた。

 セトはそんなレイが心配ではあったが、それでも事前に受けていたレイの指示に従い、最大限の速度を出してこの場から離れる。

 それはレイの指示でもあったが、セトが本来持っているモンスターとしての勘でもあったのだろう。

 このままここにいれば、間違いなく自分も死ぬと。

 だからこそ、セトは自分の背に乗っているレイが心配ではあったが、全速力でその場から退避した。

 そうしてレイ、エレーナ、セトが誰もいなくなると、その場に残ったのは巨人だけとなる。

 巨人は最初何があったのか分からない様子で動きを止めていたが、それが致命的だった

 レイの放った種火が巨人に触れた次の瞬間、その場は全てが灼熱……いや、そんな言葉では言い表せないような、そんな地獄が生まれたのだ。

 まさに太陽そのものが地上に現れたかのような、極限の状況。

 周囲にあった崖は、瞬く間に燃え、灰となって消えていく。

 大地は一瞬にして煮えたぎり、巨人が地上に脱出した時に水となった雪も一瞬にして蒸発する。

 その際に爆発的に増えた水蒸気によって爆発が起きたものの、その爆発そのものが燃やしつくされ、それも含めて圧倒的な熱量が巨人を包み込んでいく。

 最初は熱や炎、爆発といったものを吸収していた巨人だったが、やがて五十mを超える姿の端……本当に端の部分だけだったが、燃やされ始めた。

 もしレイが、そしてトレントの森で穢れがレイの魔法で燃やされるのを見たことがある者がいれば、その光景を思い浮かべただろう。

 規模こそ違うが、それは穢れがレイの魔法によって燃やされるのと同じような光景だった。

 最初はどこか戸惑った様子で周囲を……それこそ灼熱地獄という表現ですら生温い光景に戸惑いを見せた様子の巨人だったが、それでも自分の一部が燃え始めたことに気が付いたのか、身体を動かそうとし……しかし、動かない。

 戸惑ったように動きを止めた巨人だったが、再度その身体を動かそうとするも……やはり動かない。

 巨人は動けないまま、次第にその身体を炎によって侵食されていく。

 その速度は最初こそ遅かったものの、巨人の身体が炎に侵食される範囲が広がると同時に、侵食速度も加速度的に増していく。

 それに気が付いた巨人は必死に身体を動かそうとするものの、やはりその身体が動くことはない。

 ……いや、炎の侵食によってその身体は余計に動けなくなっていく。

 気が付けば、巨人の身体は既に半分程が炎によって侵食され、燃やされてしまっていた。

 大いなる存在と呼ばれるだけあって、当然のように再生能力も持っているのだが、巨人の身体を侵食する炎はその再生能力という概念そのものを焼いていく。

 そうして気が付けば、巨人の大きさは半分以下……二十m程にまで減っていた。


「ア……ア……ナンデ……ワタシ……」


 もしこの場にレイがいれば、あるいは巨人を間近で見た者がいれば、その光景に目を見張っただろう。

 何しろ今まで沈黙していた巨人がそんな言葉を発したのだから。

 とはいえ、巨人の顔は目も耳も鼻も口も存在しない。

 そんな状況で一体どうやって声を出したのかという疑問を抱いたかもしれないが。

 ともあれ、巨人は自分が焼かれているのを理解したのか再び声を上げる。


「ワタシハ……ミナヲヒキイル……ナゲキノナイ……ダカラコソチョウロウタチノウエニ……・」


 そうした声を発しつつも、巨人は焼かれ続けるのだった。






 巨人が焼かれ続けている頃、先にレイから出来る限り巨人のいる場所から離れるようにと言われていた者達は、必死になって走っていた。

 グライナー、レリュー、ミレイヌの冒険者三人と、ガーシュタイナー、オクタビアの騎士二人。

 そしてレイ一行のうち、レイとエレーナ、セト以外を除いた面々。

 キャリスやその部下達にニールセン。

 そんな面々は最初十分に離れただろうと判断出来る場所まで離れていた。

 しかし、レイの実力をよく知る者達……マリーナ、ヴィヘラ、アーラの三人から、もっと離れる必要があると言われてしまう。

 最初はその言葉を聞いた者達も、幾ら何でも大袈裟すぎると思いつつ、それでもこの中ではもっとも影響力を持つ元ギルドマスターのマリーナの言葉に逆らうようなことは出来ず、再び退避を始めた。

 巨人のいた場所から、既に恐らく十km以上は離れているだろう。

 だが……それだけの距離があっても、レイの魔法が発動した瞬間には強烈な熱気が襲ってきたのだ。

 それこそその場にいれば、レイの魔法によって致命的なダメージを受けてもおかしくはないと思える程の、強烈な熱気が。

 そこからは、全員が必死になって逃げ始めた。

 少しでも巨人から離れるべく、少しでも遠くへ。

 レイが口にしていた、出来るだけ巨人のいる場所から離れろという言葉は大袈裟でもなんでもないのだと理解して。


「はぁ、はぁ、はぁ……くそっ、これだけ離れてもまだ熱気が来るぞ! レイの奴、一体どんな魔法を使ったんだ!?」


 走りながらレリューが叫ぶ。

 そうして叫ぶことが出来るのは、レリューが疾風の異名を持つからこそだろう。

 疾風の異名は魔剣による攻撃からつけられた異名だったが、それ以外にレリューの速度からつけられた異名でもある。

 それだけに、走り続けている今でもレリューはまだある程度の余裕があった。

 ……その余裕があっても、既に息を切らしている辺り、今の状況がどれだけ異常なのかを示していたのだが。


「レイだからで、納得しなさい」


 こちらはまだかなり余裕がある様子のマリーナ。

 大いなる存在から大分離れたこともあり、精霊魔法を自由に使えるようになっているのがその余裕の正体だろう。

 もしマリーナが精霊魔法を使えるようになっていなければ、それこそレイの魔法の余波で致命的とまではいかないが、大きなダメージを受けていた者がいたかもしれない。

 そういう意味では、ここにいる者の中でマリーナが最大の功労者なのだろう。


「レイだからって……ははは、はぁ、はぁ……これを見れば、納得してしまうな!」


 マリーナの言葉にレリューが息を荒げながらも笑う。

 他の面々も、こうして必死になって走っている為か妙なテンションになってしまい、レリューの笑いが移ったかのように笑い始める。


「あ、あははは、駄目、駄目、駄目。やめて下さいマリーナ様、息が、息が……」


 ミレイヌが足を止めることなく笑い、それでも必死になって走り続ける。

 そうした中……


「あ、ちょっと、ほらあれ! セトじゃない!? 足にはエレーナもぶら下がってる!」


 ニールセンが後ろを見て叫ぶ。

 その言葉に、必死になって走っていた者達が後ろを見る。

 その言葉通り、空を飛んでいるセトと思しき姿があり、その足には誰かがぶら下がっているように見える。

 目の良い者は、そのぶら下がってるのがエレーナだと判別も出来る。

 そしてセトの背には、誰かが……レイが乗ってるようにも見えた。

 ただし、レイはセトの背に乗ってはいるものの、それは倒れているのか、しっかりとその姿を確認することは出来ない。


「エレーナは大丈夫そうだけど、レイはどうかしら。マリーナ、精霊で何か分からない?」

「今は無理よ。後ろからの熱を可能な限り遮断してるのに、それでも熱いのよ? この状況で更に精霊魔法を使ったりしたら、それこそこっちの対策が疎かになってしまうわ」


 マリーナのその言葉に、ヴィヘラは残念そうにする。


「ん」


 そんなヴィヘラに背負われているビューネは、励ますように短く呟く。

 ビューネは盗賊だけあって、速度には自信がある。

 だが、まだ小さいだけあって、どうしても持久力は大人に劣る。

 ……いや、その辺の普通の大人と比べれば、ビューネの持久力の方が上だろう。

 しかし、それはあくまでも普通の大人と比べての話だ。

 この場にいるような精鋭達に比べれば、ビューネの速度はどうしても劣ってしまう。

 その為、ビューネはヴィヘラが背負っているのだ。

 この場にセトがいれば、ビューネをセトの背に乗せることも出来ただろうが、そのセトはいない。

 なお、そのセトの友達で、エレーナの使い魔のイエロはビューネが抱いていた。

 つまりヴィヘラは、ビューネとイエロという一人と一匹を背負って走っているのだ。

 それでもヴィヘラの身体能力を考えれば、この程度のことは問題がない。


「そうなると、問題なのはあの巨人がどうなったかだな。……これだけの威力だ。祭壇のある空間で使った魔法よりも明らかに上だが、それがどうなったか」


 走りながら、グライナーがそんな風に言う。

 この中で最年長――マリーナを例外としてだが――のグライナーだが、その息はまだそこまで切れていない。

 レリューですらそれなりに息を切らせていたのを思えば、それだけグライナーが高い身体能力を持っているということを意味していた。


「はぁ、はぁ、この熱なんだし、多分大丈夫だとは思うけど」


 ミレイヌがそう言ったタイミングで、セトが一行の上を通りすぎ、エレーナがセトの足から手を離し、一行に合流する。


「セトちゃん! 大丈夫なの!?」


 息を切らせていた筈のミレイヌは、間近でセトを見た瞬間に何故か体力も気力も完全に回復したかのように元気を取り戻し、セトにそう声を掛ける。


「グルゥ!」


 セトはそんなミレイヌに大丈夫と喉を鳴らし、次の瞬間には再び翼を羽ばたかせて一行から離れていく。


「エレーナ様、ご無事でしたか!」


 ミレイヌがセトに声を掛けたように、アーラもまたエレーナに喜びの声を掛ける。

 なお、アーラも足の速さという点ではこの中では下の方だ。

 純粋な膂力という意味では上位なのだが。

 また、アーラはエレーナに心酔しており、だからこそエレーナを巨人のいる場所に残してきたことを心配していたのだが、こうしてエレーナが無事に戻ってきたことに安堵し、嬉しそうに声を掛ける。


「うむ。心配を掛けたようだが問題はない。……というか、巨人は竜言語魔法を食らっても特に気にする様子もなくてな。私は半ば無視されていた」

「それは……」


 エレーナが無視されたという言葉に、アーラは怒ればいいのか、安心すればいいのか迷う。

 エレーナの安全を考えれば無視されたというのは悪くない話だろうが、エレーナが無視されるというのは、アーラにとって決して素直に受け入れられることではなかった。

 とはいえ、そんなアーラの様子に気が付いているのかいないのか、エレーナは特に気にした様子もなく言葉を続ける。


「結局私とセトで相手の注意を引き付けたところで、当初の予定通りレイが全力の魔法を放ち……それがこの有様だ」

「この有様……」


 その表現に色々と思うところがあったアーラだったが、実際にこれだけ離れ、その上でマリーナの精霊魔法を使っても強烈な熱気に襲われたのだ。

 それを思えば、この有様という表現も決して間違いではないように思えた。


「それにしても、レイが魔法を使えば巨人も危険だと分かったでしょう? なのに、よく魔法を使わせてくれたわね」


 マリーナのその言葉に、他の面々も頷く。

 エレーナ曰く、この有様という状況からレイの魔法が極めて強力だったのは間違いない。

 そうである以上、巨人がそのような魔法を使うのを黙って見ているとは思えなかったのだ。

 実際、その考えは決して間違っていない。

 レイが魔法を使おうと呪文を唱え始めた時、巨人はレイの魔法を阻止すべく動こうとしたのだから。だが……


「何故か巨人は頭部を狙われるのを嫌がってな。レイを狙おうとしても顔を攻撃すればそれを止めることが出来た」


 エレーナのその言葉に、聞いている皆が走りながら疑問を抱くのだった。

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