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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3453/3865

3453話

 レイが魔法を使うのをエレーナがフォローする。

 そうして話が決まると、レイはすぐに指示を出す。


「ここにいるのは俺とエレーナ、後はセトだけでいい。……残りは、離れた場所にいるキャリスやビューネ達と合流して、少しでも早くここを離れろ。少しでも遠くに」

「ちょっ、待ってよ! 逃げろっていうの、この状況で!?」


 レイの言葉に、ミレイヌが不満そうに叫ぶ。

 だが、そうした不満を露わにしたのはミレイヌだけだ。


「落ち着け、ミレイヌ。ここに残ってお前に何が出来る? それに、レイがとてつもない魔法を使うんだ。地下でのことを忘れたのか? ここにいればレイの魔法に巻き込まれる。もしくは巻き込まれなくても、ここに残っているミレイヌを心配してレイが全力を発揮出来ない」


 グライナーがそうミレイヌに忠告する。

 異名がないとはいえ、ランクA冒険者だけあってグライナーは今まで色々な経験をしてきた。

 そんな経験の中でも今回のような、それこそ世界の滅亡といった規模の騒動は初めてだったが、それでもレイの話を聞く限りでは、巨人を相手に何が出来る訳でもない自分がここに残っても、レイの邪魔になるだけだというのは理解出来た。

 祭壇のある場所では、レイが魔法の範囲を限定していたにも関わらず周囲の温度が汗を掻く程に上がった。

 そして神殿のあった階層は、それこそ何があればそうなるのかと思えてしまうくらいに全てが燃えつき、何もなくなっていたのだ。

 そんなレイが、地下で使ったのよりも強力な魔法を使うというのだから、ここに残るというのは自己満足以外のなにものでもない。

 長年冒険者としてやってきた経験から、グライナーはそのことを理解していた。


「それは……」


 グライナーの言葉でミレイヌも我に返る。

 感情のままに言葉を口にしたものの、改めて考えれば自分がここに残っても、それはレイの……そして何よりセトの邪魔でしかない。

 そのような中で、それでもここに残りたいと言うのなら、それは我が儘……それも仲間をも危険な目に遭わせる最悪の我が儘でしかない。


「分かりました」


 すぐに頭を冷やし、自分のミスを認めてそのように口に出来るのはミレイヌだからこそだろう。

 もしこれがもっと聞き分けのない相手であれば、自分が口にした言葉で退くに退けなくなり、意地になっていた可能性も高い。


「納得してくれたようだな。……じゃあ繰り返しになるが、全員少しでもここから離れてくれ。グライナーの言葉じゃないが、下手に近くにいた場合、俺は全力を発揮出来ない。それこそ、この辺り一帯が神殿のあった場所のように何もなくなると思っておいて欲しい」


 実際に周辺の被害がそこまでのものになるかどうかは、レイには分からない。

 分からないが、それでもここで近くにいても問題ないと話しておいて、実際にはその場所もレイの魔法の効果によって燃やしつくされる場所でした……そんな風になるよりは、少しでもこの場所から離れておいた方がいいと判断しての言葉だ。


「エレーナ様……」

「心配するな、アーラ。私なら大丈夫だ。いざとなったら、レイに助けて貰えばどうにかなるからな」


 ミレイヌの方は一段落したものの、エレーナとアーラの方ではエレーナを心配したアーラが納得してはいない。

 元々アーラは、エレーナに心酔している。

 それだけにエレーナが危険な状況になるのを黙って見ていることは出来ない。

 だが……それでも、今の状況を考えると何も言えない。

 ここで巨人を倒せなければ、それこそ世界が破滅してもおかしくはないのだから。

 そして現状においては、レイとエレーナだけが巨人に対抗する手段を持っていた。

 アーラもそれは分かる。分かるのだが、それでもやはりエレーナを心配する気持ちを止めることは出来ない。

 エレーナはそんなアーラの気持ちが嬉しいのだが、いつまでもその気持ちに浸っている訳にいかないのも事実。

 今はまだ巨人が動いていないので問題はないものの、いつ動き出してもおかしくはない。

 そしてエレーナは、巨人が動き出したらそれを止める必要がある。


「さあ、皆。いつまでもここにいては危険だ。私が言うのもなんだが、レイの魔法の威力を考えると少しでも離れた方がいい。あの巨人を少しでも早く倒す為の状況を整えたい」


 そうエレーナが口にすると、アーラを含めた他の面々も素直にこの場から離れ始める。


(エレーナの方が、やっぱりリーダーには向いてるよな)


 セトを撫でながらエレーナの様子を見ていたレイだったが、そんなレイの前にニールセンがやってくる。


「いい、レイ。私は一緒にいけないけど……ここで必ず巨人を倒して戻ってきなさいよ」

「ああ、そうするよ。……そうだな。無事に戻ったら特製のサラダでも食べさせてやるから楽しみにしていろ」

「ちょっと、なんでサラダ? せめて、串焼きにしてよね。……まぁ、いいけど。じゃあ、サラダ楽しみにしてるから。絶対だからね!」


 そう叫ぶと、ニールセンは先に進んでいた他の面々を追う。

 そうなると、ここに残ったのはレイとエレーナの二人とセトの一匹だけだ。


「まさかこういうことになるとは思わなかったな」

「そうか? レイが関わっていた以上、私はこういうことになってもおかしくはないと思っていたがな。……少し規模が大きいが」

「グルゥ」


 エレーナの言葉に、セトが同意するように喉を鳴らす。

 そんな一人と一匹に、レイは微妙な気分を抱く。

 自分の性質、もしくは特性については十分に理解しているので、そのようなことを言われても反論は出来ない。

 出来ないのだが、それでも色々と思うところがあるのも事実。


「とにかく、マリーナ達がある程度離れたら俺は魔法の準備に入る。そうして魔法を発動する間、巨人が動き出したらエレーナがそれを阻止してくれ」

「任せておくといい。……といはえ、実際に私の竜言語魔法が効くかどうかは微妙なところだが」


 レーザーブレスで巨人の左胸を貫いたのは間違いない。

 だというのに、巨人はそれを全く何も感じていないかのように無視したのだ。

 エレーナにとっても巨人のその行動は完全に予想外だったのだろう。


(出来れば、レーザーブレスで受けたダメージを回復している最中だとか、そんな感じだったらいいんだけど……難しいだろうな)


 レイは巨人を見ながら、自分の楽観的な予想が当たっていて欲しいとは思うものの、自分でも楽観的だと思っているだけに、恐らくそれは難しいだろうと思えた。

 とはいえ、そんな楽観的な予想をしながらでもなければ、視線の先に存在する巨人を相手にどうこう出来るとは思っていなかったが。


「エレーナ、俺が魔法を使ったら、即座にセトに掴まってくれ。エンシェントドラゴンの魔石を継承したエレーナであっても、俺が魔力を最大限まで使って放つ魔法となると、耐えられるとは思えない」

「……分かった。だが、レイはどうする?」

「勿論、俺もセトに連れていって貰うよ。ドラゴンローブがあるけど、俺の魔法に耐えられるかどうかは微妙なところだろうし」


 ドラゴンローブは数百年を生きたドラゴンの皮や鱗を使って作ったマジックアイテムだ。

 非常に頑丈で、それこそ一流の技術を持つ者が使う長剣や槍、それ以外の武器であっても、大抵の攻撃は防ぐ。

 ……逆に言えば、一流を超える技量を持つ者の攻撃は防げない。

 そしてそれは、魔法に関しても同様だった。

 レイの魔法はそれこそ一流を超える一流、超一流と呼ぶ域に達している。

 アニメや漫画、ゲームのイメージの持つ要素が大きく、魔法使いとしても感覚型で理論的ではない為に他人に教えるのも難しい。また、何よりレイはその莫大な魔力を使っての魔法を得意としている。

 そんなレイが全力で魔法を使えば、当然ながらドラゴンローブが耐えるのは難しいだろう。

 だからこそ、レイも遊びなしの全力で魔法を放ったら、即座にこの場から退避するつもりだった。


(とはいえ、地下で使った以上の魔法となると……どうだろうな)


 具体的にどのような魔法を使えばいいのか。

 何となく予想は出来ているものの、その詳細を纏め切れてはいない。


「エレーナはどこに待機する? 俺と離れた場所の方がいいだろうけど」

「では、ここで。レイはどうする?」

「そうだな……巨人を挟んで反対側と言いたいところだけど、そうなるとお互いの行動を把握出来ないか。そうなると、あの崖の上だな」

「……大丈夫か? 魔法を放つ衝撃や、巨人の行動で崖が崩れる可能性もあると思うが」

「崖から落ちるだけなら、スレイプニルの靴を使えば問題はないけど……ただ、他の場所はちょっと難しいだろうし。エレーナから見える場所で、巨人からもある程度の距離を取りたいとなると、やっぱ崖だろうな」


 レイの言葉に心配そうな様子を見せるエレーナだったが、その説明には納得出来る点が多く、反論出来ない。

 何しろ今回レイが使う魔法は非常に強力な魔法となる。

 だからこそ、エレーナもレイのちょっとした仕草を見て自分の行動を判断する必要があった。


「さて、これで話は決まり……セト! エレーナ!」

「グルゥ!」


 レイが鋭く叫ぶと同時に、セトはレイの側までやってきて、レイがその背に跳び乗る。

 また、エレーナもレイの言葉に即座に反応し、レイの後ろに跳び乗る。

 セトはレイを背に乗せて飛ぶことは出来るが、レイ以外となると、それこそ子供を一人か二人くらいしか乗せて飛ぶことは出来ない。

 それでいながら、数百kgのモンスターの死体を足で持って飛ぶことは普通に出来る。

 これがセト特有の現象なのか、それともグリフォン全てがそのような特徴を持っているのかはレイにも分からない。

 ただ、それでもエレーナを乗せて飛ぶことは出来ずとも……地面を走るのなら、そこには何の問題もない。

 ズン、と。

 数秒前までセトのいた場所を、空から降ってきた何かが押し潰す。

 ……いや、違う。

 改めてレイがセトの背の上から後ろを見れば、そこにあるのは黒い柱のように見える、巨人の足だ。

 今の今まで動くことなくじっとしていた巨人だったが、どのような理由かはともかく、突然動き出したらしい。


(早い! せめてもう三十分……いや、二十分……十五分……十分くらいは待ってくれてもよかったものを!)


 巨人の足を見たレイは、予想外の展開に苛立ちを覚える。

 もっとも、そもそも巨人の存在がイレギュラーである以上、予想外が予想内であるのも事実だったが。


「レイ!」


 背中に抱きつくエレーナの声。

 もしこれが巨人の存在がなければ、そして冬ではなく春から秋までの草原か何かだったら、この状況はデートのようなものであっただろう。

 だが、今は違う。

 自分でも若干現実逃避していると思いながら、レイはエレーナに答える。


「作戦開始だ! どこか途中でエレーナを下ろす。……多分だが、巨人が狙っているのは俺だ! そうである以上、エレーナを下ろしてからある程度の距離が空いたら、竜言語魔法で巨人を攻撃して注意を引いてくれ! そうしたら俺は魔法の準備を始める!」


 そう叫ぶと、次の瞬間レイの背中からエレーナの感触が消える。

 それが何を意味するのかは、レイも当然のように理解していた。

 早い、と。

 そう思ったレイの思いは、称賛か呆れか。

 エレーナは少しでも早くレイの指示した行動に移れるようにと、セトの背から下りたのだ。

 そのことに驚きつつも、レイは自分のやるべきことを見失いはしない。


「セト、この様子だと巨人は俺達を狙い続けてくる筈だ! くれぐれも気を付けて行動してくれ! エレーナが竜言語魔法を使うまでは、とにかく回避を優先で!」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは任せて! と勇ましく喉を鳴らし……次の瞬間、走っていた場所を直角に曲がる。

 するとセトの曲がった先に巨人の足が空から降ってきた。

 もしセトが曲がっていなければ、レイ諸共巨人の足によって踏み潰されていただろう。


(いや、踏み潰されるんじゃなくて、そのまま吸収されるのか?)


 上空から岩を落とした時のことを思い出せば、巨人の足に踏まれた瞬間に吸収される可能性は十分以上にあった。

 とはいえ、もし吸収されなくても五十m以上の身体を持つ巨人に踏まれれば、それこそ踏み潰されて死ぬだろうから、踏まれた時点で死ぬのは半ば決まっているのだが。


「グルルルルゥ!」


 このまま地上を走り回っているだけでは、巨人にいいようにやられると思ったのだろう。

 背中に乗っていたエレーナがいなくなり、現在はレイだけが背中に乗っているということもあり、セトは巨人に対する威嚇か自分に対する鼓舞かはともかく高く鳴くと、翼を羽ばたかせて空に向かって駆け上がっていくのだった。

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