表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3442/3865

3442話

 壁を壊す。

 そう言ったレイの言葉に対する反応は二つに分かれた。

 エレーナを始めとして、レイと親しい……つまりレイの能力や性格を理解している者達は、少し驚きながらもすぐに納得する。

 だが、それ以外……レリュー、ミレイヌ、グライナー、ガーシュタイナー、オクタビアといった面々は、レイが何を言ってるのか理解出来ないといった表情を浮かべる。

 なお、ニールセンは一応レイと親しい側に入っていた。


「一応聞くが、本気か? この岩の壁を壊すって」


 レリューの疑問に対し、レイは当然といった様子で頷く。


「俺の力なら、あの岩の壁を破壊することが出来る。そして壁を掘り進んで、魔法金属の扉を迂回して儀式をやってるだろう祭壇に侵入する。おかしな話じゃないと思うが?」


 おかしい。

 レイの言葉にそう突っ込みたくなった者が何人かいたものの、今は少しでも早く扉の向こう側に……大いなる存在を呼び出す儀式をしている場所に行く必要があった。

 レイの言ってる内容が事実だとしたら……この壁を破壊して金属の扉の向こう側に行けるとしたら、それこそ文句を言うどころか、感謝の言葉しか出ない。


「でも、レイ。地上ならともかく、ここは地下よ? レイがあの壁を壊せるとしても、その衝撃で最悪この地下室が崩落するといった可能性もあると思うんだけど」

「ヴィヘラの言いたいことは分かるけど、今の状況でこの扉の向こうに行くのは壁を掘り進めて扉を迂回するしかないだろ。……向こう側にいる連中が素直に扉を開けてくれるとは思えないし」


 扉の外にいるのがレイ達と知れば、扉を開けるどころかどうやっても開かないように細工をしてもおかしくはないだろう。

 穢れの関係者達にしてみれば、大いなる存在を呼び出すまでの時間を稼げれば、それでいいのだから。


「私が何とかするわ。ただ……正直なところ、そこまで期待はしないでちょうだい」


 地下室の崩落についての話をしていると、マリーナがそう言う。

 マリーナが何をしようとしてるのかは、レイには……いや、他の者達にもすぐに分かった。


「大丈夫か?」

「レイが壁を掘り進めるまでの間くらいは何とか頑張ってみるわ。ただ、出来るだけ早くしてちょうだい」


 マリーナの精霊魔法は、万能とも呼べる効果を発揮する。

 だが、精霊と穢れは相性が悪い。

 正確には精霊が一方的に穢れを苦手としており、穢れの側では精霊魔法を使うのは不可能に近い。

 そのような中で、穢れよりも上位の存在たる大いなる存在を呼び出そうとしている場所で精霊魔法を使うのは、精霊魔法使いにとって非常に厳しい。……それこそ、半ば自殺行為と表現してもおかしくないくらいに。

 しかし、今のマリーナは自分が多少の無茶をしても、精霊魔法を使うべきだと判断していた。

 実際、もしレイの提案通りの方法で無理なら、また何か別の方法を考える必要がある。

 あるいはもっと時間を掛ければ、レイの提案よりも成功率が高く、危険性も少ない方法が見つかるかもしれない。

 しかし、今は一刻を争う事態だった。

 巧遅よりも拙速が重視される。

 そしてこの状況でレイ以上に素早く、そして確実に扉の向こう側に行ける手段を思いつく者はいない。

 だからこそ、マリーナは自分が多少無理をしても、レイの提案を採用するべきと判断したのだろう。

 ……もっとも、出来れば崩落が起きずにいてくれるのが最善なのは間違いなかったが。


「よし。じゃあ、話はこれで決まりということでいいな。……俺は今からすぐにでも壁を破壊する。向こう側にいる連中も、俺が壁を破壊し始めれば何をしたのかというのは分かる筈だ。そうなると金属の扉を迂回して向こう側の部屋に繋がった瞬間、攻撃をしてくる可能性もあるから十分に気をつけてくれ」

「……今の話を聞く限り、一番危ないのはレイじゃない?」


 ニールセンの言葉にレイは頷く。


「だろうな。俺が掘るんだから、最初に向こう側に行くのも俺だし。……ただ、それでも向こうが何か予想外の攻撃をしてきた時のことは考えておいた方がいい。そんな訳で、決して気を抜かないでくれ。庭の様子を見て、まだ地上にいる穢れの関係者がやって来る可能性も否定は出来ないし」


 いきなり背後から襲撃されるようなことになるのは、レイも遠慮したい。

 それはレイだけではなく他の者達も同じで、レイの言葉に異論を唱える者はいなかった。

 それを確認してから、レイはデスサイズを手に壁に向かう。


「地中転移斬……じゃないな。やっぱりこの場合はこっちか。……パワースラッシュ!」


 その言葉と共に放たれる一撃は、容易に岩の壁を砕く。

 これは岩の壁が脆いのではなく、それだけパワースラッシュの一撃が強力だったことの証だ。


(うん、やっぱりパワースラッシュでいいな)


 レベル五に満たない時は手首を傷める程の反動があったのだが、レベルが五となった今ではパワースラッシュの反動はなくなっている。

 他にも多連斬や地形操作、ペネトレイトといった使用スキルの候補はあったのだが、その中からレイが選んだのはパワースラッシュだった。

 多連斬は強力だが、追加の斬撃の発動する場所は大体でしか狙えない。

 地形操作は、そもそもこの地下室全体が強化されている可能性が高い以上、どうにかするには時間が掛かる可能性が高い。

 ペネトレイトは特に問題らしい問題はないが、パワースラッシュの方が効率的だ。

 そんな考えから、レイが選んだのはパワースラッシュ。

 実際にその考えはそんなに間違っておらず、放たれた一撃は壁を容易に破壊していた。

 パワースラッシュが問題なく岩の壁を砕いたのを確認すると、レイは続けてパワースラッシュを放つ。

 壁の表面にあった岩が破壊されると、その奥にあるのは土の壁だ。

 てっきり全てが岩で出来ていたのではないかと心配していたレイだったが、そのようなことがないと知り、安堵しつつ壁を掘り進めていく。

 ……その光景を見ていた者達は、掘るというよりも破壊という表現の方が相応しいと、そう思っていたが。

 一応岩壁だけではなく、土の部分も強化はされているのだろう。

 レイはデスサイズを振るいながら、その刃の抵抗でそのことを理解する。


「思ったよりも早く扉を迂回出来そうだ。すぐにでも向こう側に出るから、そのつもりでいてくれ」


 そう言いつつ、パワースラッシュを繰り返すレイ。


(そう言えば、今更だけどデスサイズで使うスキルって特に消耗がないんだよな)


 繰り返しパワースラッシュを使っているだけに、レイはそのことを実感する。

 これが例えばヴィヘラの浸魔掌のようなスキルを使う場合、魔力を消費して使われている。

 そもそもスキルというのは、魔力を持ちながら魔法を習得しなかった、あるいは出来なかった者達が使うのだ。

 それだけにスキルを使うのに魔力を消費するのは当然の話だった。

 これはセトも例外ではない。

 多種多様なスキルを使いこなすセトだったが、そのスキルを使う際には魔力を消費している。

 だが……レイにとっては非常に今更の話だが、デスサイズはどうなのか。

 こうして壁を掘っているパワースラッシュにしろ、大規模に地形を変動させる地形操作にしろ、もしくはそれ以外のスキルにしろ、使っているのはレイではなくデスサイズだ。

 そして当然の話だが、デスサイズはあくまでもマジックアイテムでしかなく、セトのように自我の類はない。

 魔力も当然持っていない。

 そうなると、一体デスサイズのスキルは何を消費して使用しているのか。

 そんな疑問を抱きつつ、もう何度目になるか分からないパワースラッシュを使った瞬間……


「開いた!」


 壁を破壊した向こうに明かりが見えたのを確認した瞬間、レイは鋭く叫ぶ。

 その瞬間、背後にいた面々が真剣な雰囲気を放つ。

 それを感じながら、レイは開いた穴に突っ込む。


「マジックシールド!」


 何が起きるか分からない以上、マジックシールドを発動する。

 なお、階段を下りる時に使っていたマジックシールドは、扉の前に特に敵がいないということもあってか、既に消去されていた。

 そんな中、レイは改めてマジックシールドを発動し、三枚の光の盾を生み出したのだ。

 また、レイが行ったのはそれだけではない。

 スキルが発動して光の盾が姿を現したのと同時に、ミスティリングから取り出したブルーメタルの鋼線の塊を前方に投擲している。

 その瞬間、何か……いや、穢れが何匹もブルーメタルから弾かれるようにしてどこかに飛んでいく。


(やっぱりな)


 壁から出たら、即座に穢れによる攻撃がくる。

 そう予想していただけに、今の行動に特に驚きはない。


「飛斬!」

「ぎゃっ!」


 放たれた飛斬によって、少し離れた場所にいた穢れの関係者が悲鳴を上げる。

 この祭壇にいた者達にとって、レイが壁から出てくるというのは予想外だったものの、それでも壁を破壊する音が周囲に響いていただけに、対処する準備は十分にあった。

 その為に壁からレイが出て来た瞬間に攻撃を集中させたのだが、目の前に姿を現したレイの行動は、完全に予想外のものだった。

 まさかこうもあっさりと攻撃を防がれるとは思っていなかったのだろう。


「出て来い!」


 壁の穴の前に光の盾を移動させ、レイは敵に向かって突っ込みながら叫ぶ。

 その瞬間、光の盾が次々に破壊されていくのを視界の隅で捉える。

 光の盾は敵の攻撃を防ぐという能力を持ってはいるが、それは一撃だけだ。

 壁の穴の前に固定しておけば、それこそ石を投げた程度の攻撃であっても防ぎ、役目を終えて消える。

 穢れはブルーメタルの鋼線の塊があるので、警戒する必要はないのだが、それ以外の攻撃となれば話は別だった。


(弓が……三、四、五人か。まずはそっちだな)


 遠距離から攻撃出来る弓を持つ敵は厄介だ。

 そう判断したレイはミスティリングから出した黄昏の槍を弓を持つ一人に投擲し、その結果を見ずに別の弓を持つ敵に向かう。


「なっ!」


 そう驚きの声を上げたのは、レイが自分に真っ直ぐ向かって来たからか。

 あるいはレイの投擲した黄昏の槍によって、弓を持っていた者の頭部が砕かれたからか。


(どっちでも変わらないけどな)


 急速に近付き、弓を持つ者の首をデスサイズで切断しながら、そんな風に思う。

 その時には既にレイの左手に黄昏の槍が戻ってきていた。


「次!」


 叫ぶと同時に地面を蹴り、残りの弓を持つ敵に向かうレイ。

 残っていた者達はレイの存在に恐怖の表情を浮かべる。

 だが、レイは敵がそのような表情を浮かべたからといって、攻撃に手を抜くようなことはしない。

 ここにいる以上、穢れの関係者であるのは間違いなく、相手は世界の破滅を願っているのだから。

 そうして三人目、四人目の首や胴体を切断して殺すと、最後に残った五人目は勝ち目がないと判断したのだろう。

 持っていた弓を捨て、その場から逃げ出そうとするが……


「どこへ行くのかしら?」

「が……」


 ヴィヘラの手甲に包まれた手で殴られ、肋骨を数本へし折られた男は地面に崩れ落ちる。

 既に戦闘に加わっているのは、ヴィヘラだけではない。

 エレーナ達を含めた他の面々も壁の穴から中に入り、多くの者と戦いを繰り広げていた。

 光の盾は全てが消え去ってしまっていたが。


「レイは祭壇に行って、儀式を止めるんだ!」


 エレーナがミラージュを鞭状にし、穢れの隙間を縫うように刃を動かし、穢れを放った相手の首を切断しながら叫ぶ。

 そこら中で始まっている戦いは、レイ達の方が有利だ。

 だが、エレーナの言葉を聞いて改めて周囲の様子を確認すると、かなりの人数がそこにはいた。

 神殿の外で襲ってきた者達よりも少ないが、百人を超えているのは間違いない。


(問題なのは、どうやって儀式を止めるかだよな。……取りあえず向こうの方にある祭壇っぽい場所に向かうか)


 この空間はかなりの広さを持つ。

 それこそ体育館数個、いや十個以上の広さはあるだろう。

 もっとも、体育館と一口に言っても小さな体育館もあれば、大きな体育館もある。

 レイが想定したのは、日本にいる時に通っていた高校の体育館だった。

 とはいえ、そのような広い空間を見てもレイは驚かない。

 そもそもの話、この上にあった地下空間そのものが圧倒的な広さを持っていたのだ。

 そのような場所の地下に広い空間があっても、それで驚けという方が無理だった。

 ……もっとも、穢れの関係者が大いなる存在を呼び出すのがここであると考えれば、この場所は今回の一件のラスボスのいる場所と表現しても間違いではない。

 そういう意味では、慎重に……そして大胆に行動し、出来るだけ早く儀式を防ぐなりなんなりする必要があるのは間違いなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ