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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3439/3865

3439話

 ミレイヌ達が合流して数分……お互いの情報交換が大体終わったそのタイミングで、レイが口を開く。


「植物が全部燃えてからそれなりに時間が経ったし、多分これでもういいと思う」


 レイの言葉に、話に夢中になっていた者達が赤いドームを見る。

 既にそこには植物の一本も存在していない。

 それこそ地面に埋まっている根も、土が高温で燃やされたことによって致命傷を受けていてもおかしくはなかった。


「えっと、レイ。今まではちょっと忙しくて聞いてなかったけど、一体何でこんなことを?」


 ミレイヌが若干の呆れを込めて尋ねる。

 ミレイヌにしてみれば、レイがわざわざこのようなことをする理由が分からなかったのだろう。


「事情は聞いただろう? 通路で行けない以上、この庭から儀式をやってる場所に行く必要があるけど、植物が邪魔だったからな。中には毒のある植物とかもあるかもしれないから、纏めて燃やしたんだ」


 うわぁ……とレイの言葉にミレイヌが微妙な表情を浮かべる。

 ただ、グライナーはランクA冒険者としてレイの判断はそこまで間違っているとは思っておらず、納得の表情を浮かべていたが。

 ガーシュタイナーは、この庭の植物がどうこうというのは特に気にしていないのか、植物も何もなくなった赤いドームの中を真剣な様子で見ていた。


「レイ、それで植物はともかく毒はどうなったの?」

「普通の毒とかなら、確実に無効化した筈だ」


 マリーナの言葉にレイは自信を持って返す。

 穢れを殺す時よりも魔力を込めて焼かれた赤いドームの中は、全ての植物が、そして植物が焼かれたことによって毒が出ても、その毒をも焼いて無効化したという確信があった。

 そんなレイの様子を見れば、毒については問題ないだろうと全員が納得出来た。


「そんな訳で、一度全員建物の中に入ってくれ。赤いドームを解除すると、あの中にある熱が周囲に漏れ出る。マリーナが精霊魔法を使えるのなら、その辺はどうにかなるかもしれないけど、それが無理な以上はこっちでどうにかするしかない」

「精霊魔法が使えないのは、私が未熟だからじゃないんだけど……いえ、実際に使えない以上は、何を言っても言い訳にしかならないわね」


 そう言い、マリーナは壁の穴を通って通路に戻る。

 他の面々も、レイの言葉に危険を察したのか大人しく通路に戻った。

 ……ニールセンが微妙に庭に残りたそうにしていたものの、レイとしてはさすがにそのままにする訳にもいかず、その身体を掴んで半ば強引に通路に戻る。


「あ、ちょっと!」

「長」


 抗議の声を上げるニールセンだったが、レイが一言だけそう口にすると、即座に黙り込む。

 ここでレイに手間を取らせたことが長に知られれば、間違いなくお仕置きをされると理解していたのだろう。

 暴れるのを止めたニールセンを自由にし、レイは通路の中に全員がいることを確認する。


「よし、この穴からも熱気がくるかもしれないから、一応気を付けておいてくれ」


 そう言い、赤いドームを解除する。

 瞬間、赤いドームの中にあった強烈な熱気は解放された。

 赤いドームから解放された熱気は、その大半が上に向かう。

 だが、熱気の逃げ場は他にもあり、その一つがレイ達の壊した壁だった。


「うおっ! これは……砂漠か?」


 壁から入ってきた熱気に、レリューが思わずといった様子で言う。

 瞬時に通路の中が五十度を超えるだろう気温になったのだから、当然だろう。

 とはいえ、その暑さ……いや、熱さも一分もしないうちに多少は落ち着いてくるのだが。


(これ、俺が開けた壁はともかく、他の場所……具体的には庭に通じている扉とかがあった場所ではどうなっていたんだろうな。……あ、でもこの神殿にはもう殆ど人がいなかったから、そういうのは関係ないのか?)


 そんな風に思っている間にも温度は下がっていき、やがて冬にしては少し暑いといった程度になる。

 そっと壁の穴の向こう側を覗いてみると、そこには何もない。

 いや、焼け焦げた土であったり、庭の反対側にある壁であったり、そういうのはあるのだが、庭には何も残ってはいないと思ったレイだったが……


「あれは、階段か?」


 庭の中心。植物が生えている時にはその植物で見ることが出来なかった場所に、階段がある。

 勿論、その階段は上に向かう階段ではなく、地下に続く階段だ。

 そして階段から腕のように見える、黒く焦げた何かが何本か伸びているのが見えた。

 一瞬、本当に一瞬だったが、もしかしたらそういうモンスターか何かでもいるのかと思ったレイだったが、よく見ると違う。

 黒く焦げたその腕は、まるでレイが見たのが切っ掛けのように思えたが、次の瞬間には黒い灰になって空中に流れていく。


「え? 階段!? どこ、どこ……って、暑い!」


 レイの呟きを聞いたニールセンが興味津々といった様子で壁の穴から庭を見るものの、丁度そのタイミングでまだ庭に残っていた熱気が通路の中に入ってきたのか、ニールセンはすぐに隠れる。

 ドラゴンローブを着ているレイにしてみれば、このくらいの熱気は特に問題はないのだが……ニールセンにしてみれば、十分危険を感じさせるものだったらしい。


「それで、レイ。本当に階段があるの?」


 空中で踊るように暴れるニールセンを見ながら、マリーナがレイに向かって尋ねる。


「ああ。庭の中心辺りにな。それも何人か魔法から逃れようとしたのか、もしくは偶然そこにいたのかは分からないが、階段から腕が伸びていて、それが灰になって消えていった。いや、消えていったというのは正しくないか? 空気に流されたというのか……どっちでもいいか。とにかくそんな感じだ。どう思う?」

「庭は神殿の中心にあるのはほぼ間違いないだろう。そう考えると、その地下に続く階段はこの神殿の本当の意味で中心にあると考えてもいい。だとすれば……儀式を行っている場所がそこである可能性は高いな」


 マリーナではなく、エレーナが自分の予想を口にする。

 その予想は他の面々にとっても間違ってはいないと思えたらしく、それぞれに頷いていた。

 レイもエレーナのその意見には賛成だった。

 偶然が重なって見つけた場所だったが、そのような場所であればこそ、壁は外の崖と同じように強化されていたのだろう。


(この強化する技術は出来れば欲しいよな。ギルムの増築工事とかで使えそうだし。とはいえ、その技術が穢れ関連であれば、どうしようもないだろうけど。この戦いが終わったらギルムから……いや、他の派閥からも人を送ってきて徹底的に調べる筈だ。その時にその辺ははっきりするか。ダスカー様にはそういう技術があったと報告しておけばいい。というか、ガーシュタイナーやオクタビアが説明するか)


 地形操作を使っても容易には壊せない強化方法。

 現在増築工事真っ最中――冬の間は休んでいるが――のギルムにしてみれば、そのような技術を使えるのなら、これ以上ないくらいに有益だろう。

 レイが心配したように、もしそれが穢れを使った技術であれば、どうしようもないが。

 とはいえ、穢れの関係者達が使っている技術の全てが穢れを使った技術とは限らない。

 中にはそれこそ穢れの関係者達の独自技術ではあるが、その技術の根幹に穢れを使っていないというものがあってもおかしくはないのだから。


「エレーナの予想が正しければ、俺の魔法は思いもよらず相手に先制攻撃となった……のか?」

「レイの見たのが本当に腕であれば、そうだろう。もっとも、穢れの関係者達が儀式を行う場所だ。何らかの防御手段があっても不思議ではないが」


 穢れの関係者にとって、大いなる存在を呼び出す儀式を行う場所だ。

 何かあった時……それこそ今回レイがやったように、庭全体を攻撃した時に対処出来るようにしているという可能性は十分にある。

 レイにしてみれば、これで穢れの関係者達の儀式が失敗してくれていれば最善ではある。


「けど、私達と戦って死んだ人達はそのまま生け贄になったのよね? なら、レイの魔法で大勢が死んでも、その死んだ相手も生け贄になるんじゃない?」

「それは……ヴィヘラの言う通りかもしれないな。とはいえ、まさかあそこに地下に続く階段があるとか、全く予想していなかったしな」


 これはレイにとっても正直な感想だ。

 もし庭に地下に続く階段があると知っていれば、レイももっと違う手段を選んだだろう。

 それが具体的にどのような手段かはレイにも分からなかったが。

 植物を燃やし、可能性の問題だがそれによって生まれた毒も燃やし……といったことを行うのだ。

 そのようなことを行うのなら、それこそレイにとって手っ取り早いのは今回のように庭を丸ごと焼き尽くすことだ。

 それが一番簡単で手っ取り早く、確実性も高い。


「取りあえずあの階段が怪しいのは間違いないし、あの階段を守っていた連中……守っていたのか? その辺もちょっと分からないが、とにかくあの階段にいた奴も何人か死んでいる。もしかしたら階段の外にも誰かがいたけど植物で見えなかっただけという可能性はあるが。とにかく、儀式をやってる場所、祭壇か? その祭壇があると思しき場所に行く方法が見つかったんだから、幸運だろう」


 レイの行為を幸運と呼んでもいいのかどうかは微妙なところだったが、それでもとにかく今回の件が大きな意味を持つのは間違いない事実。

 幸運と呼ぶには少し無理があるものの、それでももし本当にあの階段の地下が儀式を行う場所……祭壇か何かであれば、レイの言葉は決して間違っている訳ではない。

 他の者がそれを素直に認めるかどうかは、また別の話だが。


「とにかくあの階段が怪しい以上、最優先で調べてみる必要があるだろう。レイ、庭の熱は、もういいのだろうか?」

「こうして見て何の問題もないのなら、普通に移動出来る。……とはいえ、まずは俺が最初に行くか」


 エレーナにそう返すと、レイは壁の穴から庭に出る。

 そして特に何も感じず……


(あ、ドラゴンローブか)


 簡易エアコンとも呼ぶべき機能がついているドラゴンローブだけに、それこそ砂漠であっても、あるいは極寒の地であっても、ドラゴンローブを着ているレイは特に問題なく行動出来る。

 それだけに、魔法を使って燃やされた庭でも、赤いドームを解放して熱気を放った場所であれば、特に何の問題もないのは明らかだった。

 そう判断したレイは、普段は無意識に使っているドラゴンローブの機能を止めてから改めて庭の様子を確認する。

 少し暑いが、言ってみればその程度だ。

 真夏の暑さとまではいかず、初夏に近い温かさといったところか。


「熱については問題ない。ただ、毒についてまでは分からないから、一応気を付けてくれ。多分大丈夫だとは思うけど」


 レイにとっては、特に毒の類も問題はなかった。

 だが、レイの身体はゼパイル一門が作った身体で、身体能力的な意味でも一般人のものとは比べものにならない。

 そうである以上、もし高熱で毒を燃やしたことがレイにとって問題がなくても、それはあくまでもレイにとって問題がないのであり、他の面々にとっても同じだとは限らなかった。

 レイもその辺については十分に自覚があるので、ドラゴンローブの機能を再び使いながらも、念には念を入れて来るように言う。

 そんなレイの言葉に、話を聞いていたエレーナ達は何があっても即座に対処出来るよう、真剣な表情で壁を越えてくる。


(とはいえ、もし燃やされてもまだ毒が残っていたのなら、赤いドームを破壊した時に熱と一緒に上とか壁の穴からこっちにきてもおかしくはないんだが……そういうのがなかったということは、多分大丈夫だとは思うんだけどな)


 レイの予想通り、壁の穴から庭に入ってきた者達は特に毒で被害を受けている様子はない。

 全員が特に何の問題もなくレイのいる場所までやってくる。


「どうやら問題はないみたいね。……じゃあ、早速あの階段の方に行ってみましょうか」


 マリーナの言葉に異論のある者がいる筈もない。

 庭の中央にある階段のある場所まで進む。

 もしこの庭の植物が燃やされる前であれば、階段に辿り着くまでにかなり大変なことになっただろう。

 それこそ植物の中を掻き分けるように進む必要があったのだから。

 あるいは植物を伐採しながら進むか。

 もっともここに階段があるというのは植物が全て燃やされてから明らかになったことだ。

 もし植物を燃やすという行動をしていなければ、レイ達の誰もここに階段があったとは思わなかっただろう。

 そういう意味では、この庭の植物を燃やすという決断をしたのは最善の行動だったのだろう。 

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