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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3436/3865

3436話

 ガリウスの言葉にレイが武器を構えたのは、出来るだけ早くガリウスを倒す為だった。

 わざわざこうしてガリウスが生贄だという話をしたのは、それが時間稼ぎの為だと判断したからだ。

 ガリウスにしても、レイが興味を惹くだろう言葉を口にしたのは、時間稼ぎだと知っても、今の状況を把握する為に少しでも自分から情報を引き出そうとすると考えたからこその説明だったのだろう。


「じゃあ、行くぞ」


 その言葉と共に、レイは真っ直ぐガリウスとの間合いを詰める。

 既にブルーメタルの鋼線の塊を蹴り、それをガリウスの方に飛ばすのも忘れない。

 また、レイの周囲には光の盾もまだ存在し……


「そう簡単にやれると思うな!」


 ガリウスには既に最初に会った時のような余裕のある口調はない。

 だが、その為に穢れを使う実力も当初より上がっており……一度だけ見せた、ブルーメタルにでも穢れを向かわせるという行為を行う。

 しかしブルーメタルに近付くことが出来ても、その穢れは光の盾によって動きを止められる。

 光の盾が攻撃を防ぐことが出来るのは、あくまでも一度だ。

 だが、レイとガリウスの距離を考えると、その一度で十分だった。

 瞬く間に間合いを詰めるレイに向け、ガリウスは腰の鞘から長剣を引き抜く。

 素手でレイと戦おうなどとは、ガリウスも全く思っていなかったのだろう。

 長剣を構える姿はおかしなところはない。

 それだけを見ても、素人が長剣を持っているだけではなく、ガリウスはしっかりと武器を使った戦闘訓練を積んでいたことは明らかだ。

 瞬く間に近付く中で、レイはそれを理解し……だが、甘いと思う。

 もしガリウスが本当に武器を使った戦闘の訓練に集中していたとすれば、あるいはレイに届いたかもしれない。

 だがガリウスは長剣を使った戦闘の才能があるのは間違いないが、同時に穢れを使った戦闘の才能もあった。

 組織の都合上なのか、あるいはガリウスが自分で選んだのか。

 その辺はレイにも分からなかったが、ガリウスにとって戦闘のメインはあくまでも穢れを使った戦闘だったのだろう。

 あるいはレイにあっさりと渡したマジックアイテムによって相手から見えない状態で穢れを使って不意打ちをするのがメインだったのか。

 その辺はレイにも分からなかったが、それでも長剣を使った剣術が主な戦闘方法ではないというのは、ガリウスを見れば何となく分かった。

 だからこそ、レイは相手の様子を見ても特に警戒することなく間合いを詰める。

 何より、レイの武器はデスサイズと黄昏の槍という長柄の武器だ。

 長剣よりも間合いが広い以上、相手が待ち受けているという時点でレイにとって有利なのは間違いなかった。


「しぃっ!」


 鋭い呼気と共に、レイは黄昏の槍による突きを放つ。

 一瞬、本当に一瞬だけだったが、ガリウスの眉がピクリと動く。

 ガリウスにしてみれば、レイの攻撃はセトと同じく代名詞となっているデスサイズによるものだと思っていたのだろう。

 この通路はかなりの広さを持ち、デスサイズを振るうのも全く問題がない。

 また、今までのガリウスとの戦いでもデスサイズを多用している。

 実際にはデスサイズのスキルを使っての攻撃だったからというのが理由なのだが、ガリウスにはそこまで分からない。

 その為、一瞬意表を突かれるも、自分目掛けて突き出された黄昏の槍の穂先を弾くべく長剣を振るい……


「っ!?」


 次の瞬間、その表情には驚愕の色が浮かぶ。

 本来なら長剣を握る手に黄昏の槍を弾いた時の衝撃がなければおかしいのに、その衝撃が全くなかった……どころか、長剣の刃は黄昏の槍に当たることがなかったからだろう。

 レイは間違いなく黄昏の槍による突きを放った。

 それは間違いなかったが、突きを放ってすぐにそれを戻したのだ。

 言葉にすれば単純なフェイントだったが、レイが近付く速度と、何より突きにも十分な殺気が込められていた。

 結果としてガリウスは黄昏の槍による突きがレイの本命だと思って迎撃したのだが、それがものの見事に外れた形だ。

 長剣の一撃が黄昏の槍ではなく空中を斬り裂き、ガリウスにとっては予想外のことで体勢が崩れる。

 それは本当に一瞬、僅かな体勢の乱れだったが、レイにとってはこれ以上ない程の隙だった。


「パワースラッシュ!」


 体勢が崩れたガリウスに振るわれる一撃。

 その一撃の危険性を察したのか、ガリウスは必死になって何とかその攻撃から逃げようとする。

 あるいは長剣を振るっていないままであれば、その長剣を盾代わりに出来たかもしれない。

 だが、黄昏の槍に向けて一撃を放ち、しかもそれは空中を斬り裂いたことでガリウスは自由に動かせなかった。

 必死になって手元にもどそうとするが、それも難しく……

 ぐしゃり、と。

 そんな音が周囲に響く。

 続いてドサリという音も響くが、その音は不自然に軽い。

 当然だろう。ガリウスの上半身はなく、下半身だけが床に倒れたのだから。

 ガリウスの上半身は、それこそ着ていた鎧……隠れている時に音で相手に気が付かれないように革鎧を着ていたのだが、その革鎧もレイの放ったパワースラッシュによってあっさりと砕けている。

 いや、革鎧の場合は砕けるのではなく千切れたという表現の方が正しいのかもしれない。

 そしてガリウスの後ろにあった壁には、上半身が砕けた肉片となり、付着している。


「ふぅ……終わったな」


 呟きつつ、レイはデスサイズを握っていた右手首の様子を確認する。

 パワースラッシュは、レベル四までは威力が強力だったものの、その衝撃の反動として手首の痛みがあった。

 その為、威力は高いもののレイはあまりパワースラッシュを使うことはなかった。

 しかしレベル五を超えてからはスキルが強化され、パワースラッシュの反動が手首に返ってくることはなくなっている。

 その為、以前までと比べるとそれなりに……いや、かなり使いやすくなっているのは間違いない。


「いや、ちょっとその……やりすぎじゃないか?」


 レリューが呆れつつ、レイに声を掛ける。

 レイがガリウスを倒すのは理解していたものの、まさか上半身全てを肉片にするというのは、完全に予想外だったのだろう。


「そう言ってもな。ガリウスから情報を聞き出した感じだと、出来るだけ早くどうにかした方がいいのは間違いない。……そんな訳で、先に進むぞ」


 ガリウスが時間稼ぎの為に口にした情報は、レイ達にとって大きな意味を持っていた。

 今まで知らなかった穢れの関係者の秘密の一端が明らかになったのも大きい。


「私の心臓を何てことに使おうとしてるのかしら」


 ニールセンはこれ以上ないくらい不満ですといった様子を見せている。

 自分の心臓……より正確には妖精の心臓が狙われているのは知っていた。

 知っていたものの、その理由がまさか大いなる存在を呼び出す為の生贄に使われるとは思っていなかったのだろう。

 もっとも、それはニールセンの心臓に限った話ではなく、他の妖精達の心臓も含まれているのだが。

 そういう意味では、以前ニールセン達が偵察に向かった山小屋……正確には外側からは山小屋に見える場所を使っていた穢れの関係者は、近くに降り注ぐ春風の妖精郷があったことに気が付かなかったのは、間抜けだったが。

 いや、この場合は妖精郷の隠蔽能力を褒めるべきか。


「ここで無駄に戦いに時間を掛けても仕方がない。ガリウスが大人しく降伏してくれれば、こっちとしても助かったんだが、そういう感じでもなかったし。それより、先に進むぞ。大いなる存在とやらが呼び出される前に、潰してしまいたい」


 これがアニメや漫画、ゲームであるのなら、ラスボスと呼ぶべき存在が出てくるよりも前に倒すというのは話の展開的にどうかと思う。

 だが、レイが生きているのは現実だ。

 強敵が……それもちょっとやそっと程度ではない強敵が現れるのを知っているのに、わざわざそれを黙って見ているような悠長なことはしない。

 大いなる存在が召喚されるのなら、召喚するよりも前に召喚しようとしている者達、あるいは召喚するのに必要な魔法陣やら祭壇やらその手の物を破壊して、召喚を阻止した方が手っ取り早い。


(穢れの関係者が呼び出す存在だ。それはつまり穢れと関係している何かだと考えた方がいい。だとすれば、魔獣術的な意味でも強くて厄介なだけの存在だろうし)


 強力なモンスターの魔石からであれば、本来ならほぼ間違いなく魔獣術によって新たなスキルを習得するなり、あるいは既に習得してあるスキルがレベルアップするなりする。

 だが、穢れは幾ら殺しても魔石を残すことはない。

 そんな穢れの関係者達が呼び出す大いなる存在だ。

 穢れと同系統の存在であるのは容易に想像出来る。

 つまりそれは、もし倒しても当然ながら魔石を残さないということを意味してた。


(ダンジョンの核とか、ちょっとした例外はあるけど……どうだろうな。ワンチャンあったりしないか? ……ないか)


 ダンジョンの核の場合、倒せば確定として地形操作のレベルが上がる。

 そういう意味では非常にありがたい存在だった。

 何しろ地形操作はこの地下空間を守っていた崖を崩壊させたのを見れば分かるように、レイの代名詞となっている火災旋風とはまた違った意味で高い殲滅力を持つ。

 その地形操作のレベルを上げることが出来るのは、レイにとっても非常にありがたい。

 ……問題なのは、そもそもダンジョンそのものが決して多くはないということか。

 レイとしては、今回の一件が終わってギガントタートルの解体をし、春になったら向かう予定になっている迷宮都市にあるダンジョンに期待しているのだが。


「とにかく、まずは進むぞ」


 レイはそう指示を出して通路を歩き始める。

 ガリウスを始めとした他の面々が死んだ為か、既に穢れは存在していない。

 もっともレイの周囲に存在していた光の盾も今では全てなくなっているが。

 だが、周辺にはガリウスを始めとした者達の死体が並び、色々と酷い状態になっている。

 レイとしては、出来るだけ早くこの場から移動したかった。

 それは他の面々も同様で、レイの意見に反対を口にする者はいない。

 もしここにいるのが、まだ冒険者になったばかりの者であれば、周囲の様子から吐いたりしてもおかしくはない。

 もしくは死体から金目の物を漁ったりする者もいるかもしれない。

 だが、ここにいるのは精鋭だ。

 わざわざ死体漁りをしなくても、楽に生活出来るだけの余裕がある。

 ……もっとも、この神殿について何らかの重要なアイテムを持っていると考えれば、死体漁りをしてもおかしくはないのかもしれないが。


(あ、でもあのマジックアイテムのことを考えると、もしかしたらまだ何かマジックアイテムを持っていた可能性は……あるのか?)


 ガリウスからあっさりと渡された金属の箱。

 恐らくレイですら察知出来なかった、空間の揺らぎの中に隠れていた仕掛けがその金属の箱なのだろう。

 もっとも、レイの強引な力業によってその金属の箱は壊れていたが。

 あるいは、もしかしたら実はこの金属の箱は特に何があるという訳でもない、ガリウスによるブラフという可能性も否定は出来ないが。

 この件が終わったらマジックアイテム屋にでも行って調べて貰おう。

 そう思いながら、レイは通路を進む。


「そう言えば、ミレイヌ達はまだ合流しないのかしら?」


 通路を小走りに移動していると、不意にヴィヘラがそう呟く。

 何かがあってそのように口にした訳ではなく、何となく……本当に何となくそう言っただけだろう。

 とはいえ、レイもそのことは気になっていたので、周囲の様子を確認しつつ口を開く。


「そろそろ合流してもいいとは思うんだけどな。何かがあった……というのは、多分確定だと思うけど」


 でなければ、合流するのがあまりに遅い。

 そう思いながら言うと、話を聞いていた他の面々もそれには頷く。


「問題なのは、その何かが具体的にどのような規模であるのかだろう。レイの判断としては、どのように思っている?」

「普通に考えれば、やっぱり穢れの関係者と遭遇して戦いになってるってことだと思う」


 エレーナの問いに、即座にそう答えるレイ。

 この状況……穢れの関係者達の本拠地に攻め込んでいる状況で、他に何らかのトラブルに遭遇したとは思えないし、思いたくなかった。

 とはいえ、それはそれで問題があるのも事実。

 もしこの地下空間にいた者達を生け贄として大いなる存在を呼び出そうというのなら、わざわざ戦力を他の場所に向かわせるかというものがある。


(とはいえ、だとすれば最初にビューネ達のいる場所が穢れの関係者に襲われたのは……いや、あの時はまだ地下空間に入ってなかったし、そう考えればおかしくないのか?)


 そんな疑問を抱きつつ、レイは通路を進むのだった。

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