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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3433/3865

3433話

 神殿に足を踏み入れるレイ達。

 当然ながら、中に入った瞬間に何らかの攻撃があるのかと思い、警戒していたのだが……


「静かだな」


 そう疑問を口にするレイ。

 レイの周囲には、マジックシールドによって生み出された光の盾が三枚浮かんでいる。

 先程の戦いで無事逃げ延びた者の大半が神殿の中に入ったのだ。

 その数を使って何らかの奇襲をしてくるかもしれないということで、念の為にマジックシールドを使ったのだ。

 だが、空中に浮かぶ光の盾は一切攻撃を防ぐことはない。

 そんな光の盾を見ながら呟くレイに、すぐ近くにいたヴィヘラが頷く。


「そうね。結構な人数がこの中に入った以上、あの人達がざわめいてもおかしくはないのに」

「あれだけ一方的にやられたら、そうなるでしょうね」


 マリーナの言葉に、話を聞いていた面々から反論は出ない。

 戦いに負けて……それも拮抗した戦いの結果負けたのではなく、一方的に蹂躙されて負けたのだ。

 穢れの関係者として世界の破滅を願っている者達が、完膚なきまでにその心をへし折られ、逃げ出した。

 そうである以上、逃げ込んだ先で大人しくしているとは考えられなかった。

 それこそ何故自分達がこうまで一方的に負けたのかといったことを嘆いたり、怒ったりしてもおかしくはない。

 だというのに、神殿の中は静寂に満ちていた。

 この神殿は高さはともかく、かなりの広さがある。

 その広さ故に、逃げ込んだ者達のざわめきが聞こえてこない……という可能性もあったが、それにしたところでここまで静寂が満ちているのは理解出来なかった。


「どうする?」

「進む。このままここでミレイヌ達が合流するまで待ってもいいけど、相手にあまり時間を与えたくない」


 マリーナの言葉にレイはそう返す。

 こちら側の戦力を充実させるという意味では、ミレイヌ達が合流するまで待ってもいい。

 だが、それによって敵に時間を与え、結果としてそれがレイ達にとって致命的になる可能性は十分にあった。

 だからこそ、ここで待ち続ける訳にはいかない。

 これが例えば盗賊と戦うのなら、レイもここまで慎重にはならない。

 相手がどのような行動をしてこようと、対処出来る自信があるからだ。

 だが、今こうしてレイ達が戦っているのは穢れの関係者達だ。

 それなりにレイも穢れの関係者達とは戦ってきたものの、相手が何らかの奥の手を有している可能性は否定出来なかった。

 それこそ何らかの儀式を行い、それによって世界を崩壊させる……といったことが出来てもおかしくはない。


(いや、それはないか)


 レイはすぐにそれを否定する。

 そもそも穢れの関係者の目的が世界を崩壊させることだ。

 儀式を行ってそのようなことが出来るのなら、それこそ今まで幾らでもそのチャンスはあった。

 何しろ穢れの関係者は長い間、誰にも知られることなく存続してきた組織なのだから。

 そうである以上、やれるのならさっさと世界を崩壊させていただろう。

 しかし、実際にはそのようなことは起きなかった。

 ならば、世界を崩壊させることはまだ出来ないと考えてもおかしくはない。


(もっとも、世界を崩壊させることは出来なくても、もっと狭い範囲……それこそこの地下空間を俺達諸共に破壊するといったようなことは出来るかもしれないが)


 結局のところ、相手が何を企んでいるのか分からず、予想も出来ない以上は、少しでも早く進み、敵を……穢れの関係者の長老達や二十人近くいるという腕利き達を倒す必要があった。


「行くぞ」


 レイが言い、神殿の中を進む。

 他の面々もレイが進んだのならと、進み始めた。

 神殿そのものが薄らとした光を放っており、レイのように夜目が利かなくても視界に困ることはない。

 また、それを抜きにしてもレイの側に浮かんでいる光の盾による明かりもある。

 視界に困ることはなく、レイ達は進む。


「そう言えば、時間的にはもうそろそろ朝じゃないか?」


 進む中、沈黙に耐えかねたのかレリューがそう呟く。

 レイ達がこの地下空間に入った時間を考えると、レリューの言葉もそう間違っているようには思えない。


「ちょっと待ってくれ」


 レイがそう声を出し、ミスティリングから懐中時計を取り出す。

 時間を確認すると、午前六時少し前といったところ。

 今は冬なので、この時間でも外は暗いだろう。

 ……神殿の中にいて周囲や光の盾の明かりがあることを考えると、暗さというのはあまり意味がなかったが。


「そうだな。もう六時くらいだ。……出来れば早いところ、この中での戦いを終えてゆっくりと眠りたいところなんだけど、それはいつくらいになるんだろうな」


 懐中時計をミスティリングに収納し、少し疲れたように言う。

 意識してしまえば、徹夜であるということもあって少し眠気に襲われる。

 ただし、そこまで強い眠気ではない。

 今の自分の状況を思えば、緊張や興奮でそこまで眠気はないのだろう。

 それを抜きにしても、レイの身体はゼパイル一門によって生み出された身体だ。

 眠気についても、ある程度の耐性があってもおかしくはない。


「そうだな。出来るだけ早くこの戦いを終わらせて、ゆっくりと休みたいものだ」


 はぁ、と大きく息を吐くレリュー。

 今が具体的に何時なのかを理解し、それによって疲れを自覚してしまったのだろう。

 とはいえ、レリューも異名持ちの高ランク冒険者だ。

 一晩や二晩の徹夜くらいは、やろうと思えば出来る。

 眠気を完全に我慢出来る訳ではなかったが。


「皆、そう思ってるのは間違いない。とにかく早くここでの戦いを終えて……ん?」


 喋りながら歩いていたレイだったが、不意にその動きを止める。

 いきなりのレイの行動だったが、後ろを歩く者達がそんなレイの動きに戸惑うようなことはない。

 勿論、レイの身体にぶつかるといったようなことも。


「レイ、何が?」


 エレーナの問いだったが、レイはすぐに答えない。

 口を閉じ、何かに集中するように通路の先に視線を向ける。

 自分の言葉を無視された……といったようなことは思わず、エレーナはレイが何かに集中しているのを理解し、その邪魔にならないように沈黙を保つ。


「出て来い」


 十秒近く沈黙したレイの口から、そんな声が出る。

 それを聞いていた者達は、レイの言葉にどういうことだと聞き返したりするようなことはせず、すぐに戦闘準備を整えた。

 この状況でレイがこのようなことを言うのだ。

 それを聞いて訝しげに思う者よりも、敵がいると認識した者の方が多い。

 そして……レイの言葉を証明するかのように、空間が揺れて声が響く。


「何故私がここにいると分かった?」


 聞こえてくる声は、女のようにも男のようにも思える高くもなく、低くもない声。

 その声を聞いただけでは、声を発しているのが男か女かも分からない。

 ただ、その声には強い驚きの色がある。

 声の主にしてみれば、まさか自分の存在が察知されるとは思わなかったのだろう。

 だからこそ、思わずといった様子でレイに何故自分の存在が分かったかと、そう聞いたのだ。


「それをわざわざ答えると思うか?」


 レイの言葉に、声の主はギリリと歯を噛みしめたらしい音が周囲に響く。

 ……実際には、レイが声の主の存在を察知したのは勘だった。

 何かがある。という違和感があったというのもある。

 明確に何かがあって見つけた訳ではない以上、どうやって見つけたと言われても何となくとしか答えられなかったのだ。

 ともあれ、最初は勘であっても相手が喋ったことによる影響か、もしくは見破られたことによる動揺か、空間の一部……レイのいる場所から五m程先にある通路の壁付近の空間が揺れているのを見れば、今はそこに声の主がいるのは間違いない。


(多分だけど、俺達が通りすぎたあとで背後から攻撃を仕掛けるとか、そういうつもりだったんだろうな。あるいは単純に偵察か。……セトがいれば、もっと前に分かったかもしれないけど)


 今回はレイの勘で見つけたものの、もしここにセトがいればレイの勘で見つけるよりも早く、セトが嗅覚や視覚……もしくはレイと同じく勘で声の主を見つけていた可能性が高い。

 とはいえ、セトがいない状況でそのようなことを口にしても、意味はないが。


「お前は多分、二十人の腕利きの一人だろう? なら、このまま見逃す訳にもいかない。大人しく死んでくれ。……飛斬!」


 言葉の最後にデスサイズを振るって飛斬を放つ。

 放たれた斬撃は、空間の揺らぎに向かい……


「何?」


 レイの口から驚きの声が上がる。

 放たれた斬撃は、空間の揺らぎを通りすぎ、その後ろにあった壁に深い傷をつけたのだ。

 そんなレイの様子には、他の面々も一体何があったのかといったように驚いていた。

 レイの目論見では、空間の揺らぎに隠れている者を斬り裂くのだと思っていたのだが、その予想が完全に外れた形だ。

 また、驚いているのはレイだけではない。

 他の面々も、レイの様子に……より正確には飛斬が見せた光景に驚いていた。


「ふふふ……残念」


 相変わらず空間の揺らぎから聞こえてくる声。

 飛斬が壁を傷つけただけだったことで明らかだったが、今の一撃で声の主が傷つくことはなかったらしい。


「厄介だ……な!」


 その言葉と共に、左手に持つ黄昏の槍を投擲する。

 空気を貫き、一条の光となって空間の揺らぎに向かって放たれた黄昏の槍だったが、それがもたらした結果は飛斬と同じだった。

 空間の揺らぎを通り越し……唯一飛斬と違ったのは、黄昏の槍は飛斬の傷つけた壁を貫いて姿を消したことだろう。

 レイはそんな黄昏の槍を手元に戻しつつ、不愉快そうに空間の揺らぎを睨む。

 黄昏の槍を使った攻撃であっても、声の主を攻撃することは出来ない。

 これはレイにとって……いや、それどころか一行にとって非常に厄介なことだった。

 一行の中でもっとも攻撃力に優れているのはレイだ。

 それはこの場にいる全員が理解をしていた。

 だというのに、そのレイの攻撃が相手には通用しないのだ。


「ふふふ。どうしたのかな? 私に攻撃出来ないのなら、この先に進むことも出来ないのでは? 大人しく降伏することをお勧めするよ」

「穢れの関係者に降伏しても、ろくな目に遭わないと思うけどな」


 声の主に返事をするレイだったが、今の自分の言葉で相手が今までとは違う反応をするのではないかと考えていた。

 その最大の理由が、穢れという言葉だ。

 穢れを御使いと呼んでいる相手にしてみれば、レイの言葉が許せずに激高して何らかの隙を見せるのではないか。

 そのように思っていたのだが……


「そのように思うのは当然だ。では、私と戦うと? レイの攻撃がこちらに通用しないのは、今のを見れば明らかだろう?」

「さて……それはどうか、な!」


 声の主の言葉にレイは再度黄昏の槍を投擲する。

 そんなレイの行動に、声の主が呆れたように鼻で笑うのを聞きながらも、特に悔しそうにはせず……それどころか、それこそが狙いだといった様子でレイは前に出た。

 空間の揺らぎのある場所まで間合いを詰めると、デスサイズを振るう。


「多連斬!」


 放たれた斬撃は最初に振るった一撃だけではなく、その一撃の後にスキルの効果として二十の斬撃が放たれる。


「ぎゃあああ!」

「ぐぅっ!」

「ぎゃ……」


 放たれた斬撃により、最初にレイが攻撃した場所……空間の揺らぎのある場所を攻撃した瞬間、すぐに悲鳴が周囲に響く。


(三人分の悲鳴?)


 多連斬を使ったレイは、聞こえてきた悲鳴の数に疑問を抱きつつも、その行動を止めることはない。


「氷雪斬!」


 続けてスキルを発動。

 ただでさえ巨大なデスサイズの刃が、氷によって包まれ、一m程巨大となる。

 氷に包まれたデスサイズの刃を、レイは悲鳴の聞こえてきた方向……空間の歪みと、その近くを横薙ぎに振るう。

 斬、と。

 デスサイズを握る手に間違いなく相手を斬り裂いた手応え。

 同時に、空間の歪みのあった場所……そして歪みのあった場所から二人が姿を現し、氷の刃によって双方共に身体を斬り裂かれて地面に崩れ落ちる。


(二人?)


 聞こえてきた声は三人分。

 だが、倒れたのは二人。

 それを見たレイは、考えるよりも前に後ろに跳んでいた。


「何かおかしなところはなかったか?」


 デスサイズを構え、空間の歪みと地面に倒れて傷口から血と内臓が零れ落ちている者達を観察しながら、レイは他の面々に尋ねる。


「レイの攻撃で突然姿を現したように思える。ただ……あの二人の倒れている位置を見れば分かると思うが、空間の歪みとは違う場所だ!」


 最後の一声と共にエレーナはミラージュを振るい、空間の歪みから飛んできた短剣を弾く。

 レイはそれを見ても特に驚く様子はなく……そして空間の歪みから新たに姿を現した三人を見て、納得する。


「なるほど、これだけの人数が潜んでいたのか」

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