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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3432/3865

3432話

「私達が戦っていたのに、レイとマリーナは随分とゆっくりした行動だったようだな」


 レイとマリーナが目的の場所……地下の中央にある、穢れの関係者達の長老達がいる建物の前に到着すると、そんなレイとマリーナを待っていたエレーナが不満そうに言う。

 エレーナにしてみれば、自分達が穢れの関係者達と戦っている……正確には逃げ出した穢れの関係者の残党達を追撃していた時に、レイとマリーナがイチャついているように思えたのだろう。

 そんなエレーナの横では、ヴィヘラも口には出していないものの、不満そうな様子を見せている。

 もし穢れの関係者達の中にヴィヘラが戦いを楽しめるような強敵でもいれば、ヴィヘラも多少は満足したのだろう。

 だが、生憎とヴィヘラが満足するような強者はいなかった。

 あるいはレイがマリーナの指示に従って、ヴィヘラに近付いていた強者……フォルシウスから話を聞いた、二十人の強者の一人と思しき相手を先手を打って殺すようなことをしていなければ、ヴィヘラもそのような強者と戦えて満足したのかもしれないが。


「あら、羨ましいの?」

「ぐ……」


 挑発するようなマリーナの言葉に、エレーナは呻き声を漏らす。

 ヴィヘラは何故か拳を握り締めていた。


「えっと……いや、これ……大丈夫なのか? あの建物に突入する前に、仲間割れが起きそうなんだけどよ」


 そんなやり取りを見ていたレリューが、呆れたような……いや、実際には本当に仲間割れでも起きるのではないかと心配そうな様子で言う。

 しかし、そんなレリューにアーラは笑みを浮かべて首を横に振る。

 いつの間にかアーラの右肩に座っていたニールセンも、アーラの真似をするように首を横に振っていた。

 ニールセンが座っているのには気が付いているのだろうが、自分の真似をしてるのには気が付いていないのだろう。

 アーラは笑みを浮かべて口を開く。


「あれはエレーナ様達にとっては、一種の戯れです。ギルムにいる時も時々見てましたから」

「……あれが、戯れ?」


 恐る恐るといった様子で尋ねるレリュー。

 オクタビアもそんな二人の会話をしっかりと聞いている。


「ええ、問題ありません。それに……何か問題があっても、結局はレイ殿によってどうとでもなりますから。恋愛というのは、惚れた方が負けとはよく言ったものですね」


 ある意味では、このアーラの発言は問題発言だろう。

 貴族派の象徴たるエレーナ。

 辺境のギルムにおいて長年ギルド長をやって来たマリーナ。

 元ベスティア帝国の皇女ヴィヘラ。

 そんな三人がレイに男女的な意味で好意を抱いているということを口にしたのだから。

 とはいえ、それを聞いた者達は特に驚いた様子はない。

 ギルムからここに来るまでの旅路で、その辺について予想するのは難しくなかったからだ。

 余程鈍い者でもなければ、普段の態度でそのくらいのことは理解出来る。

 そしてここにいる面々……いや、別行動を取っているミレイヌ達も含めて、その辺について鈍い者はいない。

 それでもこうしてはっきりと公言するのは問題があるのだが、その辺についてはレリュー達も特に気にしてはいない。


「そうそう、レイったらそういうのは鈍いんだから。レリューもレイのああいうのを見習っちゃ駄目よ?」

「いや、俺はレイよりも先に異名持ちになった……先輩なんだが」


 得意げに言うニールセンに、レリューはそう返す。

 実際、レリューが疾風という異名で呼ばれるようになったのは、レイが深紅と呼ばれるよりも前の話だ。

 そういう意味では、レリューの言葉は間違ってないのだろう。

 ……ただ、レイの場合は色々と特殊なところがある。

 トラブル誘引体質とでも呼ぶべき体質を持つ為か、多くのトラブルに巻き込まれたり、あるいは自分から関わったりしている。

 レイは多くのトラブルに巻き込まれるも、その実力によって全てのトラブルを解決してきた。

 全てを完全に解決したという訳ではないにしろ、それでも最悪の結果は防いできたのだ。

 その結果としてレイの異名は広く知れ渡っている。

 もっとも、やはり一番レイの異名が知られたのは、その異名で呼ばれるようになったベスティア帝国との戦争でだろうが。

 戦争だけに、敵味方含めて多くの者がレイの戦いを見ていたので、その噂が広がるのが早かったのは当然かもしれないが。

 ともあれ、レリューは先輩であるのは間違いないものの、実績という点では既にレイに追い抜かれていた。

 本人も若干レイと関わりがある為か、その辺を少し気にしてはいたようだったが。


「ん、ごほん。さて、いつまでも戯れてないで、話を進めないか? エレーナ達がここにいて、他に誰もいない……」


 そこで一旦言葉を止めたレイは、周囲の様子を――正確には地面を――見る。

 先程レイとマリーナが通ってきた地面とは比べものにならないが、それでも地面には血や内臓、もしくは死体がそのまま転がっていた。

 レイが口にした、他に誰もいないという表現が、この場合相応しいかどうかは微妙なところだろう。


「誰もいないが、生き残りはあの建物……神殿とでも呼ぶのか? あの中に入ったのか?」


 誰もいないという言葉を無理矢理押し通したレイが尋ねると、修羅場から逃れる為というのもあってか、レリューが頷く。


「ああ、そうだ。どうしてもこっちの数が少なくて敵を殲滅することは出来なかった。生き残りはあの建物の中に逃げ込んだよ。神殿……まぁ、そうだな。多分神殿と呼んでもいいと思うが」


 建物を見ながらの言葉に、エレーナ達も言い争いを止めて頷く。


「うむ。穢れの関係者達にしてみれば、あれが御使い……いや、違うな。長老よりも上の存在がいるかもしれないという話だったことを考えると、そのような者達がいる場所である以上、神殿という表現は間違っていないのだろう」

「宗教って嫌だよな」


 エレーナの言葉に、レイはしみじみと呟く。

 レイの脳裏にあるのは、以前遭遇した聖光教という宗教団体だ。

 それ以外にもレイがそのように思うのは、地球全土で見ても非常に珍しい宗教に関しては特殊な日本の出身というのもあるのだろう。

 クリスマスを楽しみ、元旦には初詣をする。

 それ以外にもハロウィンやバレンタイン、結婚、葬式。

 また、宗教団体が起こした事件についても多く知っている。

 そんなレイだけに、元々宗教というのは胡散臭い存在と認識されていた。

 そのようなレイがこのエルジィンにおいても、聖光教という存在と揉めたのだ。

 宗教という存在が胡散臭いを通り越して問題集団という風に認識されてしまっても、おかしくはなかった。

 だからこそレイが神殿を見る目には軽い嫌悪感の色がある。


「まぁ、そう言うな。生活の中で必要な存在でもある。……だからといって穢れを崇めろと言われても私は即座に断るがな」


 エレーナの言葉に、話を聞いていた全員が頷く。

 アーラの右肩に座っているニールセンも頷いているが、ニールセンに宗教というのがどういうものか分かっているとはレイには思えなかった。

 もっとも宗教を本当に分かってるかと言われれば、レイも頷くことは出来なかったが。

 レイが知ってるのはあくまでも宗教の負の面ばかりだ。

 実際には宗教によって救われた者がいるというのも知ってはいるのだが……それでも今までの経験から、レイが宗教を見る目は厳しい。


「ともあれ、逃げた連中の殆どはあの神殿の中に入った。何を思ったのか、神殿以外の場所に逃げようとした者達もいたが、そちらは全てとは言わないが、ある程度片付けている」


 レリューは少し不満そうな様子で言う。

 レリューにしてみれば、神殿に逃げ込まなかった者達は全員殺してしまいたかったのだろう。

 だが、数の差もあって結局ある程度の数を逃がしてしまった。

 それが不満だったらしい。


「そっちは……外の状況を考えると、俺達が知らない隠された場所から脱出しても、何も持たずに逃げた以上は凍死してもおかしくはない。この地下空間のどこかに隠れてるのなら、そのうち見つけられると思う」

「見つかるか? 何だかんだと、この地下空間はかなり広いぞ?」

「レリューの心配も分かるけど、この神殿で必要な書類とかそういうのを全て入手したら、最悪この地下空間を崩してしまえばいい。崖の頑丈さを考えるとかなりの抵抗があるとは思うが、それでも崖も結局崩れたんだ。そうである以上、この地下空間を崩すのも無理じゃないと思う。実際、フォルシウスから聞いた話だと崖が崩れた時はこの地下にまで振動とかそういうのが伝わってきたらしいから、崩すのが無理ということはないと思う」

「……恐ろしいことを考えるな、お前」


 恐ろしいと口にするレリューだったが、その言葉に込められているのは恐れではなく呆れだ。

 ちょっとした街くらいの広さがあるだろうこの地下空間を、丸ごと潰してしまうと言うのだ。

 レイのことを知らなければ、何を大袈裟なことをと思うのだろうが、崖を崩した光景を目にしたレリューにしてみれば、レイがやれると言えば出来るのだという認識がある。


「それは最後の手段だけどな。……それより、いつまでも神殿の外でこうしてるのもどうかと思うし、そろそろ中に入らないか? 資料とかそういうのを集める必要がないのなら、それこそ魔法で丸ごと燃やしてもいいんだけど、それはちょっと出来ないしな」


 穢れの関係者の拠点のある場所、それ以外にも穢れの関係者と繋がりのある者達のリスト、またレイにしてみれば何らかのマジックアイテムの類がないかという願望もある。

 オーロラの治めていた洞窟には、穢れに特効のある魔剣があった。

 穢れによって世界が滅ぶことを望んでいたオーロラが、何故そのような魔剣を隠し持っていたのかはレイにも分からない。

 レイが聞いた話によると、枕の下のような場所ではなくベッドの下に隠してあったということを考えると、あるいは魔剣はオーロラが自分の為に使う為に入手したような物ではなく、誰か……魔剣の特性を考えると、穢れの関係者の中にいた裏切り者が作った魔剣だったのかもしれないが。

 ともあれ、そのようなマジックアイテムがあったのは間違いない。

 また、結局レイは使わなかったものの、この本拠地に入るのに必要なのだろう指輪もあった。

 その辺の諸々を考えると、やはり本拠地の中に何らかのマジックアイテムがあってもおかしくはなかった。

 ……これからの戦闘を考えると、出来れば現在レリューが使っている穢れに特効のある魔剣がもう何本か入手出来ればいいのだが。

 その辺はあまり期待出来ない。

 もしそのような魔剣があっても、その魔剣を入手する頃には既に戦いが終わっている、もしくは終わりに近い可能性がある。


「とにかく、普通に進むとしよう」

「ミレイヌ達との合流はいいのか?」


 エレーナのその問いに、レイは少し考えてから頷く。


「ミレイヌ達が合流すれば戦力が増えるのは間違いないが、いつ合流するのか分からないからな」


 幸いなことに、穢れの関係者の大半は穢れを使えない者達だ。

 その上、先程まで戦っていた者達の大半は戦力としては二流、三流といった程度の者達でしかない。

 数だけが厄介だったが、その数もレイ達でどうとでもなる程度の数だった。

 だからこそそれを思えば、ミレイヌ達が合流すると大きな戦力となるのは間違いない。

 しかし同時に、ここまで……敵の本拠地の中でも特に重要な場所まで攻めてきた以上、敵にあまり時間を与える訳にもいかなかった。

 もしここで相手に時間を与えたことにより、何らかの反撃を受けた場合、目も当てられないのだから。

 そのようなことになるよりも前に、ここは一気に敵の本拠地の中でも最重要な場所と思しき神殿に攻め込むのが最善だとレイは判断していた。


「俺達が神殿の中に突入すれば、間違いなく騒動になる。そうなると、ミレイヌ達がここまでやってきた時、すぐ神殿の中に入って合流する筈だ」


 ミレイヌ達であれば、その辺りを読み間違えることはないだろう。

 そうレイは思っていたし、もしミレイヌが何らかのミス――考えられる可能性としてはセト関連だが――でその辺りを読み間違えたとしても、ミレイヌと一緒にランクA冒険者のグライナーや、騎士のガーシュタイナーがいる。

 ちょっとしたミスがあっても、その点で最終的に何も問題はないだろうというのがレイの予想だった。


「レイがそう言うのなら、私はそれで構わない。今回の一件で指揮を執っているのはレイなのだから」


 エレーナのその言葉に他の面々も特に反対をすることはなく頷き、レイ達は建物の中に入ることにするのだった。

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