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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3431/3865

3431話

 穢れの関係者達との戦いは、時間が経つに連れて急速に終息していく。

 レイ達の勝利という形で。

 最初こそ人数の多さと、何よりレイ達が穢れの関係者の野望……世界を破滅を妨げる為に来たということで、半ば暴走するかのようにレイ達を攻撃していた。

 だが、そのような戦いになったのは長老を始めとする穢れの関係者の上層部の手による思考誘導と、何よりレイ達が少数だというのが大きかった。

 実際、普通に考えれば十人にも満たない相手と数百人の軍勢が戦えばどちらが勝つのかは容易に想像出来る。

 だが……それはあくまでも普通に考えればの話だ。

 レイを始めとして、量より質に特化した存在が何人もいるとなれば、話は変わってくる。

 レイが最初に放った魔法によって生み出された灼熱地獄や、エレーナ達の攻撃によって、次々と数を減らしていく穢れの関係者達。

 それでも穢れの関係者達の数が多いうちは、その物量で何とかレイ達に対抗出来ていたものの、レイ、エレーナ、マリーナ、ヴィヘラ、アーラ、オクタビア、レリュー……そんな精鋭揃いを相手に、数は多いものの純粋な戦闘力では一般人より少し上といった程度の者達が抗える筈もない。

 次々と数を減らしていき、その数が一定以下になった瞬間、瓦解する。

 実際には戦いの中でもレイ達を相手に勝ち目がないと逃げ出していた者はいたのだが、そのような者の数はそこまで多くなかった。

 だが、瓦解した瞬間、一気に大勢が逃げ出したのだ。


「追撃するぞ!」


 叫びつつ、レイはデスサイズを手に呪文を唱え始める。


『炎よ、我が魔力を力の源泉として、全てを燃やし尽くす矢となり雨の如く、嵐の如く、絶えず途切れず降り注げ』


 呪文を唱えると、レイの上空には五百本近い炎の矢が生み出される。

 炎の矢が十分に生み出されたところで、レイは魔法を発動する。


『降り注ぐ炎矢!』


 放たれた五百本の炎の矢は、逃げ出した穢れの関係者達を背後から襲う。

 レイの魔力によって生み出された炎の矢は、その一本一本が非常に強力だった。

 何らかの防御用のマジックアイテムやスキル、あるいは魔法といったように対抗手段があれば話は別だったが、穢れの関係者達とはいえ、ここにいた者達は特に鍛えられた強者という訳ではない。

 それでもその中に混ざっていた穢れを使う者……フォルシウスが言っていた二十人の中の者達の可能性が高かったが、そのような者達の中には穢れを使い、炎の矢を防ぐ者もいた。

 実際に穢れによって炎の矢は黒い塵となり消滅する光景をレイも見ている。

 極端に魔力を込めた魔法なら、穢れを倒すことも出来ただろう。

 実際にレイは今まで何度となく魔法を使って穢れを殺してきたのだから。

 だが、今回使った魔法はあくまでも多数の敵を殺すためのものでしかない。

 逃げる相手を殺すには十分な威力を持っていたが、穢れを相手にした場合は消滅してしまう。

 だが……それでも穢れが消滅させることが出来た炎の矢は十本あるかどうかだ。

 五百本の中の十本。

 そうなると、大半の炎の矢は消滅することなく、穢れの関係者達に襲い掛かったことは間違いない。

 実際、レイにはその自覚がなかったが、穢れを使って炎の矢を迎撃した、二十人の中の数人は、炎の矢によって殺されている。


「レイに続け! 世界を守る為にも、穢れの関係者達は殲滅する必要がある!」


 エレーナは武器を手に叫ぶ。

 その光景は幻想的で、見る者の士気を高めるには十分だった。

 ……残念なのは、この場にいる者の大半は穢れの関係者達で、最初に襲い掛かって来た時の勢いは既になく、必死になって逃げており、エレーナのそのような光景を見ることがなかったということか。

 ただし、エレーナの言葉は数少ない味方には大きく影響する。

 特にエレーナに心酔しているアーラだ。

 エレーナの檄にやる気を漲らせ、パワー・アクスを手に逃げる穢れの関係者達を追う。

 そんなアーラ程ではないにしろ、他の者達も逃げる敵を追う。

 マリーナも次々に矢を射ると、その矢は逃げる者達の身体を射貫いていく。

 数が少ないレイ達が敵を追撃する光景は、一種異様だった。

 ただ、このエルジィンにおいては圧倒的な質が量を凌駕するのは珍しい話ではない。

 この光景は、ある意味でそこまで珍しくはない光景でもある。


「さて、取りあえずこっちに来た有象無象はこれでいい。後は本拠地だな。……マリーナ、敵は待ち受けていると思うか?」

「待ち受けていないということはないでしょうね」


 あっさりとそう告げるマリーナ。

 レイと会話をしつつも、矢を射る手は止めない。

 そんなマリーナの言葉を聞いても、レイは残念に思ったりはしない。

 今のこの状況でレイ達を待ち受けていないということはまずないと、そうレイも思っていたからだろう。


「やっぱ地形操作で一気に建物を破壊するか?」

「レイがそれでいいと思ったらいいんじゃない? ただ、後処理がかなり大変よ?」

「……だろうな」


 今回のレイ達の襲撃は、穢れの関係者を殲滅するという目的もあったが、同時にこの本拠地とレイ達が以前襲撃した洞窟以外にも別の拠点のある場所を見つけるという必要があった。

 それを見つける為には、やはり穢れの関係者の本拠地の中からその場所に対する何らかのデータ……具体的には地図や何らかの書類を見つける必要がある。

 それを見つける為には、建物を地形操作で破壊するのは止めた方がいいと、改めてレイは思う。


(いやまぁ、崖ですら地形操作にあそこまで耐えたんだ。だとすれば、あの建物は崖以上に強化されている可能性が高い。そう考えると、レベル六の今の地形操作ではどのみち建物を壊せない可能性の方が高いか)


 そんな風に思いつつ、レイは黄昏の槍を投擲する。

 魔法を使った追撃だけではなく、槍の投擲による追撃。

 その一撃は、逃げている者達の身体を数人程も背中から貫く。

 精鋭揃いで、まともに戦えばエレーナ達の勝利は間違いない。

 だが、精鋭であっても数が少ないのは間違いなく、そうなるとどうしても倒せる相手の数は減ってくる。

 エレーナのミラージュを鞭状にして使えばそれなりの範囲の敵を攻撃出来るが、それでもまだ逃げている敵は多い。

 あるいは竜言語魔法を使えば多数の敵を一度に攻撃出来るかもしれないが、ここは地下だ。

 地上であればともかく、地下で圧倒的な威力を持つ竜言語魔法を使おうものなら、それこそ崩落して地下が埋まってしまう可能性があった。

 そしてヴィヘラ、アーラ、オクタビア、レリューの四人は純粋な攻撃力こそ高いものの、多数を一気に攻撃する方法がなく、近くにいる者を次々に倒していくしか出来ない。


「このままだと逃げられるな。……侵入した連中はどうなってると思う?」


 一度に八人の胴体を貫き、致命傷を与えた黄昏の槍を手元に戻しながら、レイはマリーナに尋ねる。

 マリーナはレイのその問いに、数秒矢を射る行為を止めて首を横に振る。


「私に聞かれても困るわ。そもそも秘密の入り口というのがどういう場所なのかも分からないし、そこを本当に見つけることが出来るかどうかも分からないんだから。……もしかしたら、まだ秘密の入り口を見つけていない可能性もあるわ」


 そう言いつつも、マリーナは心の底からそう思っているのかと言えば、マリーナの様子を近くで見ているレイは違うと即座に答えるだろう。

 マリーナは元ギルドマスターとして、多くの冒険者の能力を知っている。

 そんなマリーナだけに、ミレイヌやグライナーといった者達なら隠された入り口を見つけて突入するのは難しくないだろうと思っていた。

 それを理解したレイは、再度黄昏の槍を投擲して先程同様に数人を背中から貫くと手元に戻す。


「さて、これ以上ここにいたら相手との距離が離れすぎてしまうし、俺達も進まないか?」

「もう? いえ、でも……そうね。こうして見た限りだとそうした方がいいかしら。こっちに向かってくる敵はどこにもいないし」


 レイとマリーナの周囲は綺麗で、特に何かが落ちていたりはしない。

 だが、少し離れた場所には死体が、あるいは血や肉や内臓が地面に撒き散らかされている。

 その中を歩くのはあまり気が進まなかったものの、それでもレイはいつまでもここで逃げていく穢れの関係者達を見ているだけでは不味いだろうと判断していた。


「こういう時、精霊魔法を使えれば便利なんだけどね」

「だろうな。とはいえ、出来ないことで無理を言っても仕方がない。今はとにかく進むとしよう」


 マリーナが精霊魔法を使えれば、水の精霊魔法で地面を洗い流したり、地の精霊魔法で汚れている地面を地下に沈め、地下の土を上に持ってくるといったことも出来る。

 だが、そのようなことが出来ない以上、今は多少不愉快であっても血や内臓で濡れた地面を進むしかない。


(いっそ魔法で綺麗にするか? あるいは地形操作で地面を入れ替えるとか。……いや、何かあった時に対処出来るようにしておいた方がいいか。このまま行くしかないか)


 レイは離れた場所にある焼け焦げた地面を見て、いっそ全て燃やしてしまった方が手っ取り早いのではないかと思う。

 思いはしたが、戦場が広範囲に渡っている以上、少し難しいが。

 ……あくまでも難しいのは少しであって、やろうと思えば出来ない訳でもなかったが。

 ただ、これから本格的に穢れの関係者との戦闘が待っている。

 フォルシウスから聞いた二十人のうち何人かは既に戦闘で死んでいるものの、まだ大半は残っていると思ってもいいだろう。

 そうである以上、疲れを残さず万全の状態でいたかった。

 レイの魔力量を考えれば、半ば魔法は使いたい放題だったりするのだが、それでもやはり強力な魔法を使うとなれば結構な魔力を消耗することになる。

 あるいは、レイが特化している炎以外の属性の魔法を無理矢理使う時に消費する魔力も大きい。

 これで倒す相手が穢れの関係者でなく、その辺の盗賊といった者達であればレイも魔力量を気にしたりはしなかっただろうが。

 穢れの関係者の腕利きや長老、そして何より穢れという存在そのものをどうにかするといったことを考えると、使える魔力は多ければ多い程いい。

 そういう意味では、魔力を使う以外の方法……それこそ黄昏の槍を投擲したり、あるいは使い捨ての槍を投擲したり……それどころか、この地下を守っていた崖を破壊した時に生まれた岩を投擲したりといった方法もない訳ではないのだが。

 だが、そこまで無理をしなくてもエレーナ達に任せておけばいいだろうと、レイはマリーナと共に血や内臓によって汚れていない場所を歩いて進む。

 どうしても歩く場所がない時は、マリーナを横抱き……いわゆるお姫様抱っこをして、スレイプニルの靴によって跳躍したりもした。

 そんな風に進んでいると、中には戦いの中でまだ死んでいない……ある意味、幸運か不幸が分からないような者達も何人か見る。

 もしレイが慈悲深い性格をしているのなら、ポーションを使って傷を癒やすなり、あるいはいっそ楽にしてやるなりするのかもしれない。

 しかし、レイはそこまで善意に満ちている訳ではない。


(世界の破滅を望んで、その結果として自分も死ぬ。つまり世界を道連れにして自殺しようとしている連中だ。そんな連中を楽にしてやるなんて慈悲深い行為はいらないだろ。死ぬのならさっさと自分達だけで死ね)


 そんな風にすら思い、スレイプニルの靴で空中を進む。

 踏めない場所を通りすぎ、無事に地面に着地するとマリーナも下ろす。


「どうせなら、もう少し抱いてくれてもよかったのに」

「今ここで言うことじゃないと思うんだが」

「あら、ここじゃなければいいの?」


 何も知らない者が見れば、即座に襲ってもおかしくはないような女の艶を見せて尋ねるマリーナに、レイが何かを言おうとしたところで……不意にマリーナから女の艶が消える。


「どうやら大丈夫そうね」

「マリーナ?」


 マリーナの言葉の意味が分からず疑問の表情を浮かべるレイ。

 マリーナはそんなレイに、笑みを浮かべて口を開く。


「レイが穢れの関係者達に色々と思うところがあるのは知ってるけど、さっきはちょっと危険な表情を浮かべていたわよ? 穢れの関係者を殲滅するのはともかく、それに快感を覚えるようなことはしないでね」

「そう言われても……俺がそういうことをするように見えたか?」


 尋ねるレイにマリーナは素直に頷く。

 そんなマリーナの様子を見たレイは、自分でも気が付かないうちに穢れの関係者達に対して強い憎悪を抱いていたのだろうと理解し、マリーナに感謝の言葉を口にする。

 それを受け取ったマリーナは笑みを浮かべ……そうして二人は地下の中央にある建物に向かうのだった。

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