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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3428/3865

3428話

 結局フォルシウス達はその場に残るということを決めた。

 その件については、レイも特に何も思わない。

 ……いや、向かう場所については理解出来ているが、それでも何かあった時に道案内であったり、この場所での常識といったものを教えてくれる者がいてくれればレイ達も助かったのだが。

 しかし、フォルシウス達が来ない以上はその辺には期待出来ない。

 何人か道案内として一緒に来るように言えばよかったか?

 ふとそう思ったレイだったが、仲間思いのフォルシウスの性格を考えれば、例え提案しても却下されていただろう。


「レイ、敵があれ以降出て来ないのは変じゃない?」


 道……この地下空間には、しっかりとした道が整備されており、その道を進んでいたレイにヴィヘラがそう言う。


「さっき大勢やって来たし、中央にあるという長老とやらがいる場所を守る戦力も必要だ。そう考えると、予備戦力がないんじゃないか? 冬で他の拠点と行き来が出来ない中で奇襲をしたんだし」

「けど……穢れは転移してくるのよね? なら、他の拠点にいる穢れの関係者も本拠地に転移をしてくるという可能性はない?」

「あるかないかで言えば、恐らくはあると思う。……けど、そうやって自由に転移が出来るのなら、トレントの森にも穢れだけじゃなくて穢れの関係者を転移させてもよかったんじゃないか?」


 トレントの森にも穢れの関係者はやって来たが、それは転移ではなく普通に地面を歩いてだ。

 そして結構な日数、レイ達はトレントの森で穢れと戦っていたが、穢れの関係者が転移してくることはなかった。

 それはつまり、転移には何らかの制限があるということを意味している。

 あるいはとんでもないリスクが。

 これがちょっとしたリスク程度なら、ボブや妖精のいる場所である以上、そのリスクを許容してでも転移するだろう。

 そうならなかったのは、やはり何かの理由がある筈だった。


(例えば、転移の成功率が著しく低い。それも転移が失敗した場合は死ぬとか、そんな感じで)


 そのくらい転移の成功率が低ければ、穢れの関係者であっても容易に挑戦しようとは思わないだろうというのが、レイの予想だった。


(あ、妖精の心臓のことを聞くのを忘れたな)


 フォルシウスから色々と話は聞いたものの、何故穢れの関係者が妖精の心臓を狙っているのか、そのことについて聞くのを忘れてしまっていた。


「何よ?」


 レイの視線に気が付いたニールセンが、何故自分を見ているのかと不思議そうに聞いてくる。


「いや、何でもない。もしヴィヘラが言うように強硬派がいたら、ニールセンを見つけ次第すぐに襲ってくると思っていい。それがないということは、この辺に穢れの関係者がいないのは間違いないと思っていい筈だ」

「……レイがそう言うのなら、信じるしかないみたいね」


 何故か残念そうに言うヴィヘラ。

 いや、レイは何故ヴィヘラが残念そうなのか知ってるだけに、何故かという表現を使うのはおかしいのだが。


「安心しろ。この地下空間の中央に行けば、そこでは間違いなくこっちを待ち受けている筈だ」


 敵が待ち受けているのを安心しろと言ってもいいのかどうかレイは分からなかったが、ヴィヘラの性格を考えると、その言葉はそこまで間違ってはいない筈だった。


「そうね。最低でも二十人は強い相手がいるんでしょう? なら、存分に楽しめそうだわ」

「ヴィヘラ、その敵の中には中立派の者もいるから、出来れば戦わないで欲しいとフォルシウスが言っていたのをわすれたのですか?」


 ヴィヘラの言葉に、オクタビアがそう注意する。

 だが、ヴィヘラはそんなオクタビアに笑みを浮かべて口を開く。


「中立派というのは、どうやって分かるのかしら? 向こうから自分が中立派だと主張をして、攻撃してこないのなら、こっちからも攻撃はしないけど」


 ヴィヘラの言葉に、オクタビアも反論は出来ない。

 そもそも中立の立場からレイ達に攻撃したくないのなら、地下空間の中央にある建物で待ち受けたりせず、どこか別の場所にいればいい。

 そうすれば、レイ達と戦うことはないのだから。

 ……もっとも、レイ達とは別の場所から侵入してきたガーシュタイナー達と遭遇したら、戦いになる可能性は十分にあったのだが。


「そうだな。俺達がこれから来るというのに、待ち受けているんだ。そうである以上、戦いになっても仕方がないと思う」

「でしょう?」


 レイの言葉に嬉しそうな様子を見せるヴィヘラだったが、それを遮るようにレイは言葉を続ける。


「けど、フォルシウスから言われたんだ。せめて戦いになる前に中立派は降伏するなり、この場から抜けるなりといったように言ってみたらどうだ?」

「むぅ……仕方がないわね」


 不承不承、本当に不承不承といった様子でヴィヘラが言う。

 そんなヴィヘラの様子に、仕方がないといった表情を浮かべるオクタビア。


(この二人、何だかんだと仲が良くなったみたいだな。……もっとも、この一件が終われば会う機会はあまりなくなると思うから、こういう関係も今だけなのかもしれないが)


 ヴィヘラの立場……ベスティア帝国を出奔した皇女の立場として、そう簡単に領主の館に顔を出すのは色々と不味い。

 領主の館には、それこそベスティア帝国の者が……ヴィヘラの顔を知ってる者がやって来ないとも限らないのだから。

 あるいはオクタビアが休日にヴィヘラと遊ぶ為にやってくる可能性はあるが。


「取りあえず毎回降伏勧告をする必要はない。ただ、最初に一度降伏勧告はしてくれ。それで降伏しなかったら、敵を自由に攻撃してもいいから」

「それなら……まぁ」


 レイの言葉に完全に納得した様子ではないヴィヘラだったが、それでも一度だけならと納得した様子を見せる。

 そうして話が決まったところで、レイ達は地下空間の道路を進む。


「それにしても、改めてこの地下空間を見ると……広いな」


 エレーナの声が周囲に響く。

 実際、今こうしてレイ達が歩いていても、まだ中心部分に到着することはない。

 それはこの地下空間がどれだけ広いのかを意味していた。


「出来れば今夜中にどうにかしたいんだけどな」

「レイの言うこともよく分かる。私も同じ意見だ。もし戦いが明日、明後日といったように続けば、こちらにも被害が出るかもしれない」


 エレーナの言葉は、それを聞いている者達にも十分に納得出来たらしい。

 実際に今の状況で戦いを行った場合、絶対にここにいる者達が生き残れるという確証はない。

 そんな状況で戦いが長引けば、レイ達の方にも何らかの被害……それこそ場合によっては死人が出る可能性も決して否定は出来なかった。

 レイとしては、一緒に行動している面々は全員が信頼出来る相手だし、相応の強さを持っていると理解している。

 それだけに、今回の戦いでも大丈夫だとは思うが……戦いの中に絶対というものはない。

 それこそ戦いの中で少しでも油断をすれば、その瞬間に致命的な一撃を放たれ、偶然その一撃が命中するといった可能性は決して否定出来ない事実だった。


「そうね。穢れがいなければ私も精霊魔法で回復出来るんだけど」

「精霊魔法を使えないというのは痛いよな。一応ポーションの類はそれなりに……というか、かなり揃ってるけど」


 マリーナの精霊魔法は、かなり応用性が高い。

 それこそ万能と評しても決して過剰な言葉ではないくらいには。

 しかしその精霊魔法も、穢れの関係者の本拠地であるここでは使えない。

 あるいは使えてもかなり無理をすることになり、マリーナの消耗を考えると可能な限り使いたくないというのが正直なところだ。

 そんな精霊魔法による回復を使えない代わりに、レイはミスティリングに収納されているポーションを提示する。

 勿論ポーションを持ってるのはレイだけではなく、他の面々から預かっている荷物の中にも相応にポーションが入っている。

 それらのポーションを上手く使えば、レイ達が怪我をすることはあっても、それによって致命傷となり、死ぬことはないだろうとレイは思っていた。


(けど、穢れは駄目だ)


 そう内心で呟く。

 これが例えば長剣の斬り傷といったものではあれば、ポーションで傷を癒やすことも可能だ。

 しかし、穢れは違う。

 穢れに触れてしまえば、そこが黒い塵となって穢れに吸収されてしまうのだ。

 もし誰かが穢れに触れてしまった場合、黒い塵になっているすぐ上の部位を切断するなりする必要がある。

 切断すれば、当然ながら指、手、足といった部分はなくなってしまう。

 死にはしないが、それがこれから生きていく上で大きなハンデとなるのは間違いなかった。

 とはいえ、それでも死ぬのと生きるのとではどっちがいいかと言われれば、大抵の者は生きている方と答えるだろうが。


「穢れにはくれぐれも注意してくれ。……特に穢れの移動速度は、使い手によって違ってくる。ニールセン、お前は特に注意しろよ」

「え? ちょっと、なんで私だけ?」


 何故自分だけ特別に注意されるのか。

 それに驚き、同時にちょっとした不満を抱きつつニールセンはレイを見る。

 だが、レイはそんなニールセンの視線を受けても、後ろめたい思いはないかのように真剣な表情で口を開く。


「妖精だから何をするか分からないしな。……まぁ、それは冗談としても、ニールセンは小さいだろう? なら、俺達なら指先とかが穢れに触るといった程度の被害でも、ニールセンが穢れに触れると俺達と同じ程度の被害にはならない」


 そうレイが言うと、ニールセンは真剣な表情で頷く。

 ニールセンも、自分が穢れに狙われるというのは十分に理解しているのだろう。

 特に穢れの関係者は妖精の心臓を求めていた。

 そんな中で、ニールセンが穢れに殺される……いや、黒い塵として吸収されてしまえば、それこそ穢れの関係者が欲していた心臓を渡してしまうということにもなりかねないのだから。

 具体的にそれでどうなるのかは、生憎とニールセンにも理解は出来なかったし、とてもではないが試そうとは思わなかったが。


「そうね。何かあったらすぐにでも逃げるから。もしくはレイの懐に逃げ込むかも」

「前者はともかく、後者はやめておけ。穢れの関係者と本格的に遭遇すれば、俺も正面から敵と戦ったりする必要が出てくる。そうなれば、ドラゴンローブの中に入っているニールセンも身体が振り回されるぞ」

「それは……」


 実際に今まで何度か同じような目に遭ったことのあるニールセンだけに、レイの言葉に反論は出来ない。

 それでもどこに逃げるかとなると、一番安全で……何より一番慣れているのは、やはりレイのドラゴンローブの中であるのも事実。


「その時々で安全な場所は違うでしょうし、その辺に気を付ければいいんじゃない? それより……ほら、レイ。あれじゃない?」


 レイとニールセンの会話に割り込んだヴィヘラが、視線の先に見えてきた建物を指さして言う。

 そんなヴィヘラの言葉に、その場にいる全員が視線を向け……


「結構な人数が集まってますね」


 オクタビアがうんざりとした様子で言う。

 オクタビアの言葉通り、その建物……この地下空間の中央にあるのだろう、恐らく長老達が、そして腕利きの二十人がいるのだろう建物の周囲には、大勢が集まっているのがレイの目でも確認出来た。


「あれ全部この地下空間に住んでいた連中か?」


 こちらもまた嫌そうな表情でレリューが言う。

 建物の周囲には数百人……いや、千人以上いるのではないかと思える程に多くの者が集まっているのが見えた。

 建物の中に入りきれないで外に溢れている分でそのくらいだと考えると、実際に集まっている人数は一体どれくらいになるのか想像も出来ない。


(あの建物は……二階建てくらいか。ただ、高さはそこまでじゃないけど、広さという点ではかなり広いな)


 穢れの関係者の本拠地の中にある、本当に重要な場所。

 そのような場所だけに、あのように広いのも理解は出来る。

 だが、その建物を攻略する方としては決してありがたくはない。


(せめてもの救いは、あの広さなら俺も戦うのが難しくないということか。……通路の広さが具体的にどのくらいなのかは分からないけど)


 デスサイズと黄昏の槍という長柄の武器を使うレイにしてみれば、狭い場所より広い場所の方が思う存分武器を使えるという意味で戦いやすい。

 あの建物の広さから考えると、通路も相応に広いのだろうというのは予想出来た。

 とはいえ、どのくらいの広さなのかというのは実際に行ってみなければ分からないが。


「取りあえず建物の中に入るにはあの群衆をどうにかする必要がある訳か。……本部とはいえ、よくもあれだけの人数を集めたな」


 そうレイが呟いたその時……視線の先にいた者達の何人かが、不意にレイ達の方を見て驚き、何かを叫ぶのだった。

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