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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3427/3865

3427話

 フォルシウスとの話……具体的には、奴隷の首輪とブルーメタルのアクセサリの件については、取りあえず問題がないということで終わった。

 もっとも、それはあくまでも今この場ではということで、後々何らかの問題を起こすような者が出て来ないとも限らない。

 その時はダスカーが出て来て、その問題を解決するだろう。

 取りあえずレイとしては、フォルシウス率いる穏健派が大人しく自分に協力し、何よりこの地下にある本拠地についての情報が入手出来るのが非常にありがたい。


「それで、ここの情報についてだけど……いや、その前にこれを聞いておくべきか。さっき襲ってきた強硬派の連中は捨て駒か何かという認識でいいな?」

「捨て駒という表現はどうかと思いますが、概ねその認識でいいと思います。向こうもレイ殿を含めた方々をあの程度の戦力で倒せるとは思っていなかったでしょう」


 あの程度の戦力と口にするフォルシウスだったが、襲ってきた強硬派は百人近くいた。

 その大半がレイを含めた面々によって殺され、最後まで生き残った者達はレイ達の圧倒的な実力に戦意を、いや心をへし折られて降伏している。

 そうして捕虜となった者達は、手足を縛られてレイ達が下りてきた階段の側に転がされている。

 ダスカーからは、捕虜は可能であればということで、基本的に敵は殲滅させるのを前提とするように言われていたがものの、心がへし折られてやる気がなくなってしまった相手をレイもわざわざ殺そうとは思わなかった。

 穏健派の中には、自分の知り合いを殺されたということで強硬派の生き残りを殺したいと思う者もいたが、レイ達が捕虜にしてしまった以上はそのようなことも出来ない。

 そのことを不満に思う者もいたが、それでもこの状況でレイ達を敵に回すことがどれだけの愚行なのかを理解出来る頭があったのは幸いなのだろう。


「やっぱりもっと凄腕……というか、強い連中もいる訳か。一応穢れを複数使うような手練れもいたんだけどな」

「手練れと一口に言っても、そこには多くの意味があります。ここに来ていた以上は……ああ、もしかしたら捨て駒が暴走しないように上手く調整する役目でもあったのかもしれませんね」

「もう死んだからいいけどな。それで残りの……強力な敵は一体どれくらい残っている?」

「二十人はいるかと。全員が私達……いえ、穢れの関係者の中でも精鋭と呼ぶべき者です。ただ、だからといって全員が強硬派という訳ではありません」

「違うのか? 話の流れから全員強硬派だとばかり思ってたんだが」

「違います。中には穏健派でも強硬派でもない……中立派とでも呼ぶべき方々もいますから。そのような方は、まだ話したり出来ますから」

「区別が出来ないと意味はないけどな」


 レイも、わざわざ襲ってきた相手に強硬派か中立派かといったことを聞いたりはしない。

 そんなことを聞いている間に、その隙を突いて敵が攻撃してくる可能性があるのだから。


「それは……そうですね。ただ、可能であればですが、中立派の方は殺さないでくれると助かります」

「向こうから攻撃を仕掛けて来れば、こっちも手加減をしたりは出来ないぞ」

「分かっています。なので、出来れば……もし機会があったらで構いません。中立派の方々には、何度か助けて貰ったことがありますので」


 そう言い、フォルシウスは説明する。

 穏健派は元々穢れの関係者の中でも少数派だった。

 レイにしてみれば、それは当然だろうと思うが。

 元々が世の中に絶望した者達の集まりで、世界を崩壊させることを目標にしていた者達の集まりだ。

 そんな中で世の中には絶望しているものの、世界を崩壊までさせる必要がないのでは? といった考えを持つ者達は、少数派となるのはおかしなことではない。

 そのような少数の異端である以上、強硬派にしてみれば目障りなのは間違いなく……色々と理不尽な目に遭っていたらしい。

 中立派の者達はそんないざこざを何度か止めたことがあり、その恩からフォルシウスはレイに出来れば中立派は殺されないで欲しいと頼んだのだ。


「とはいえ、中立派も穢れの関係者の一員だろう? フォルシウス達のように奴隷の首輪やブルーメタルのアクセサリをつけるのを許容しない限り、敵なのは間違いない。下手に殺さずに逃がして、その結果として大きな騒動が起きたら洒落にならないし」


 穢れはレイを含めた少数が殺すことが出来るし、ブルーメタルやミスリルの釘はそこまで大量に存在する訳ではない。

 そうである以上、もし中立派が生き残ってこの場から無事脱出し、その後で穢れを使って何らかの騒動を起こした場合、どうしてもそれは大事になってしまうだろう。


「それは……」


 フォルシウスもそこまでは考えてなかった……いや、考えたくなかったのか、ショックを受けた様子を見せる。


「中立派の件はそこまでとして……結局穢れの関係者を潰すにはどうすればいい? 誰が一番偉い?」

「長老達がいます。権力という意味では、長老達が一番でしょう。……ただ、その長老達であっても滅多に会うことが出来ない者がいるという話です。個人的には、組織に神秘性を持たせる為、意図的にそのような存在を作ってるのではないかと思っているのですが」

「なるほど、それはあるかもしれないな」


 穢れの関係者の目的は世界の崩壊だ。

 そのような組織であっても、カリスマ的な存在……もしくは絶対的な存在がいれば、組織を纏めるのに上手くいくだろう。

 もっとも、それはあくまでも本当にそのような者がいればだが。

 レイが見たところ、フォルシウスはそのような存在はおらず、長老達が自分達のいいように組織を動かす為の方便にしていると思っているように見えた。

 実際にはそれが事実かどうかはレイにも分からない。

 もしかしたら本当にそのような存在がいるのかもしれないし、いないのかもしれない。

 その辺については実際にレイが敵の本拠地……この場所ではなく、本拠地の中でも特に重要な場所、具体的にはその長老達がいる場所に行けばはっきりするだろう。


(もし本当にそういう厄介な奴がいたら……ヴィヘラなら嬉々として戦いを挑みそうだな)


 少し離れた場所でオクタビアと話をしているヴィヘラに目を向けるレイ。

 もしこれで敵がモンスター……未知のモンスターであれば、レイも自分が倒したいと思っただろう。

 だが、フォルシウスの話を聞く限りでは、敵は人と思しき相手だ。

 あるいは人ではなく獣人やエルフ、ドワーフといった者達かもしれないが。

 ともあれ、魔石を持っていない以上、レイは自分が倒したいとは思わない。


「その謎の人物を倒すのはともかく、まずは長老達だな。それと精鋭の二十人か。……その連中はどこに行けばいる?」

「この通りを真っ直ぐにいけば見えてきます。この地下空間の中央にありますし、周囲とは明らかに違う建物なので、分かりやすいでしょう」

「大きさは? 一目見ただけで分かるように、他の建物よりも大きかったりしないのか?」

「大きさそのものはそこまででもありません」

「……そうか」


 レイはフォルシウスの言葉を聞きながら、視線をこの地下空間の中央付近に向けて残念そうに言う。

 レイ達のいる場所……具体的には階段を下りてきた場所は、地下空間の中でも端の方だ。

 この地下空間の広さが具体的にどのくらいのものなのかはレイも分からないが、それでも結構な距離を移動する必要があるのは間違いなかった。


(見た感じ、本当にちょっとした街くらいの広さはありそうだよな。……やっぱり穢れでこの空間を作ったのか、それとも元々こういう地下空間があったのか)


 ギルムのような街というよりは準都市とでも呼ぶべき場所と比べると明らかに狭いものの、普通の村なら複数が余裕で入りそうなくらいには広いし、街も普通の街なら間違いなく入るだろう。

 そう考えると、この地下空間の広さについては十分に分かる。


(そう言えば、ガーシュタイナー達はどうしたんだろうな? 上手い具合に中に入ってるんだろうけど)


 侵入が失敗したなどとは、レイも思わない。

 だが、侵入に成功したとして、現在どのような状況にいるのかは非常に気になる。

 出来れば早いところ合流した方がいいだろうと、レイはフォルシウス達を見てそう思う。

 これが普通の状況……具体的にはフォルシウス達と遭遇しておらず、派手に戦いながら地下空間の中を進んでいるといったようなことであれば、レイもそこまで合流を急がない。

 いや、寧ろ自分達が派手に動くことにより、それを陽動としてガーシュタイナー達が動きやすくするといったようなことを考えたりもする。

 だが、今はレイ達に降伏したフォルシウス達がいる。

 フォルシウス達をこのままここに置いていくか、あるいはレイ達と一緒に行動するのかは、まだ分からない。

 だがどちらにしろ、もしガーシュタイナー達が何も知らないでフォルシウス達と遭遇した時、そこに不幸な行き違いが起きる可能性は十分にあった。

 そうなると、場合によってはフォルシウスが死に、それを見た穏健派達が仇討ちを考え、ガーシュタイナー達もそれに対抗し……といった騒動になりかねない。

 レイとしては折角降伏して、それも奴隷の首輪やブルーメタルのアクセサリも身に付けることを了承したフォルシウス達を、わざわざ殺したいとは思わない。

 かといってガーシュタイナー達を殺したいとも思わないので、やはり最善なのは出来るだけ早くレリュー達と合流し、フォルシウス達は問題ないと、その降伏はダスカーも認めたと説明することだろう。


「じゃあ、俺達はそこに向かおうと思うが、フォルシウス達はどうする?」

「どうする……とは?」


 フォルシウスはまさかそのようなことを聞かれるとは思っていなかったのか、少し驚いた様子でレイに尋ねる。

 レイはそんなフォルシウスに向かい、少しだけ申し訳なさそうな様子で口を開く。


「あの階段以外にも、外に通じている隠し通路とか隠し階段とか、そういうのがあるだろ? 俺達の仲間で別行動をしていた奴が、穢れの関係者に襲われたらしい。……指輪を認証する仕掛けのあった崖を破壊するのを妨害しようとしたんだろうな」

「……あの衝撃はそれででしたか」


 レイの言葉に、フォルシウスはしみじみと呟く。

 その様子から、地上からかなり下の方にあるこの場所であっても、レイの地形操作によって崖が崩壊した時の衝撃は伝わってきたのだろう。

 あるいはその衝撃によって、フォルシウス達はレイ達に降伏しようと思ったのかもしれなかったが。


「ですが、崖が崩壊したとなると、階段の入り口も岩によって塞がってしまったのでは?」

「ああ、岩とかを排除するのは大変だったな。その途中で襲い掛かって来た奴もいたし」


 あっさりと岩を排除したと口にするレイに、フォルシウスは驚く。

 レイの破壊した崖がどのくらいの大きさなのか、十分に知っていたからこその驚きだ。


(ん? 俺のことはそこまで調べてないのか?)


 驚きの表情を浮かべたフォルシウスに、レイは疑問を抱く。

 レイがミスティリング……アイテムボックスを持っているのは、それなりに知られている事実だ。

 そうである以上、巨大な岩をミスティリングに収納したと理解しても、おかしくはない。

 だが、フォルシウスはそれを全く知らない様子だった。

 レイのことを知っているのに、ミスティリングについては知らない。

 そこに何か作為的なものを感じるレイだったが、今はそれよりもこれからどうするべきなのかを考える方が先だった。


「岩の件はともかく、これからどうする? ここに残りたいというのなら、それでもいいが……さっきも言ったように、俺の仲間が別の場所からここに侵入している。もし遭遇した場合、攻撃される可能性もあるけど」

「それは……」


 レイの言葉に難しい表情を浮かべるフォルシウス。

 フォルシウスにしてみれば、レイと一緒に行くのは論外だ。

 何しろ本拠地の中でも中枢とでも呼ぶべき場所に行かなければならないのだから。

 穏健派の中には戦う力を持たない者も多い。

 そのような者がこれから本格的にレイ達が戦いをする場に行けば、一体どれだけの被害が出るのか。

 先程の強硬派の襲撃を生き残った者達が、また戦いの場に行きたいかと言われれば、多くの者は否と答えるだろう。

 かといって、ここに残った場合はレイが言うようにレイの仲間……ガーシュタイナー達と遭遇した時、戦いになる可能性が高いのも事実。

 どちらを選ぶにしろ、危険な目に遭う可能性は否定出来ない。

 だが……それでも、何とか無事に生き残るという意味では……


「ここに残ります」


 そう、フォルシウスはレイに告げたのだった。

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