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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3426/3865

3426話

新年、明けましておめでとうございます。

今年も1年、よろしくお願いします。

 周囲に広がっているのは、無数の血と肉と内臓と骨の欠片。

 それが一体どれだけの人数の死体なのかとレイが聞かれれば、分からないとあっさり首を横に振るだろう。

 レイにしてみれば、この乱戦の中で自分が何人殺したのかなど覚えている筈もない。

 一人、二人、三人、四人、五人……十人、二十人。

 その程度の人数であれば覚えていてもおかしくはないが、五十人を超えるだろう数を殺したとなれば、わざわざ数える気にもならない。

 また、戦っているのはレイだけではない。

 レイ以外にもいつの間にかエレーナやヴィヘラといった面々が戦っており、離れた場所からはマリーナが射ったのだろう矢が飛んできて強硬派の頭部を射貫く。

 なお、オクタビアとレリューの二人は戦闘に参加せず、フォルシウスを守っている。

 それ以外の穏健派も、レイ達が来るまで戦っていた者達が護衛しながら、レイ達と強硬派の戦いから遠ざかっていく。

 ……尚、穏健派の者達は強硬派を警戒しているが、同時にレイを警戒しているのも間違いはない。

 これはそれだけレイの戦い方が派手で、一方的に敵を蹂躙していたからだろう。

 守るべき相手――になるかどうかはまだ分からないが――にそのような態度を取られても、レイは特に気にした様子はない。

 これでレイを怖がり、排除しようと攻撃してきたりすればともかく、穏健派の面々はレイの存在にただ怯えているだけだ。

 そうである以上、レイがそのような相手に対し、特に何かをしたりといったことはしない。


「さて……まだいたか」


 ドラゴンローブのフードの下で不機嫌そうに眉を顰めながら呟くレイ。

 その視線の先では、レイに向かって放たれた穢れが、まるで見えない何かによって弾かれたような動きをしていた。

 その理由は、当然ながらレイが戦いの最中、地面に放り投げたブルーメタルの鋼線だ。

 穢れを近づけさせない能力を持つブルーメタルの鋼線は、既に十個以上地面に置かれている。

 戦いの最中、ブルーメタルの鋼線からある程度離れた場所で、相手の隙を見つけてはミスティリングから取り出して地面に放り投げていった結果だ。

 戦いの最中、何度か穢れがブルーメタルの鋼線によって弾かれる姿を目にしていたレイは、当然のように穢れを使う者を優先的に殺していった。

 だが、それでもここは穢れの関係者の本拠地だけあってか、穢れを使う者は多かった。

 あるいは穢れを自由に使えるようになったからこそ、穏健派ではなく強硬派に所属しているのかもしれないが。

 とにかくレイにしてみれば、穢れを使う敵が厄介な存在なのは間違いない。

 優先的に殺すのは当然だったが、それでもまだこうして生き残っている者がいる。

 穢れを使っていた相手は、穢れが弾かれたことに動揺と怒りをないまぜにした表情を浮かべる。

 そんな相手に向かい、地面を蹴るレイ。

 向こうはそんなレイの行動に半ば自棄になったかのように複数の……五匹の穢れを生み出す。

 穢れを使える者でも、一度に使える穢れの数は個人によって違っている。

 そういう意味では、六匹の穢れを使える男はかなりの凄腕なのだろう。

 何故レイに最初に攻撃した時、一匹しか使わなかったのかは分からないが。

 あるいは、一匹だけに限定することによって、穢れを動かせる精度も上がるのかもしれない。

 ともあれ、その男は五匹の穢れを使ってレイを迎え撃とうとし……


「え?」


 ある程度……具体的には五m程の距離までレイが近付いたところで足を止めたのを見て、理解出来ないといった声を上げる。

 しかし、レイはそんな相手の戸惑いを気にすることはなく……


「地中転移斬!」


 スキルを発動し、地面に向かってデスサイズの刃を振るう。


「ぎゃあっ!」


 悲鳴を上げたのは、穢れを使う男。

 レイがデスサイズを振るった地面を通して、自分の側の地面から現れたデスサイズの刃が男の右膝を切断したのだ。

 地中転移斬は、その名の通り地面に振るった刃が標的の地面まで転移させることによって攻撃するスキルだ。

 今はまだレベル一なので射程五mが限界だったが、それでもこうして相手の意表を突く初見殺しとしては十分な威力を発揮していた。


「よし、次は……」

「もう大体片づいたから、安心して欲しい」


 レイの側までやってきていたエレーナが、連接剣のミラージュを手にレイにそう声を掛ける。

 エレーナの声に周囲の様子を確認すると、その言葉通り既に多くの強硬派は死んでいた。

 まだ何人か生き残りもいるが、数少ない生き残りは既に武器を地面に捨て、降伏のポーズをとっていた。

 戦いが始まった当初こそ、強硬派として穏健派に……そして自分達にとっての御使いを穢れなどという呼び方をしたレイは絶対に殺してやると激高していたのだが、戦いが進むにつれてレイの実力を思い知ってしまう。

 レイは一方的に強硬派を蹂躙し、顔も名前も知っている、場合によっては親友ですらある者達が次々に殺されていく光景。

 その戦いの中でレイが軽くでもいいから傷を負っていれば、もう少し話は違ったかもしれない。

 だが、レイは無傷。

 その上で、レイの仲間達も戦いに参加してきているのを見れば、レイに抱いていた憎悪も消えてしまう。

 その憎悪諸共、レイが相手の心をへし折ったと表現してもいい。

 ……それでもこうして多くの者が殺され、そこでようやく戦意がなくなったのを思えば、強硬派達が一体どれだけ強い憎悪をレイや穏健派に向けているのかが分かりやすい。


「どうやら本当に戦いは終わったみたいだな。エレーナはこれからどうなると思う?」

「こうして出て来た者達は、強硬派ではあるがその中でも地位が高い者、あるいは戦闘力の高い者ではないだろう。捨て駒の様子見といったところだろう」

「……一応、穢れの使い手もいたけどな」


 レイが地中転移斬で倒した穢れの関係者は、右膝から下を失ったショックからか気絶している。

 恐らくそう遠くないうちに死ぬだろう。

 ポーションを使って治療すれば話は別だが、レイは自分と敵対した相手を善意で治療するようなことはしない。


「強硬派も、弱い相手だけでは意味がないと思ったのだろう。……もっとも、レイを相手にそのような者達がどうにか出来る訳ではないとは読めなかったようだったが」

「俺だけじゃなくて、エレーナもそうだと思うけどな」


 エレーナは穢れを倒すことは出来ないが、穢れの関係者を倒すことは可能だ。

 実際には竜言語魔法を使えば穢れを殺すことは出来るのだが、トレントの森での一件を考えれば、このような地下で使う訳にはいかない。

 そんな訳で、エレーナは穢れを殺すのではなく、穢れの関係者を狙って攻撃していた。

 しかし、それはエレーナにとってもかなり難しい。

 何しろエレーナのミラージュは連接剣として長い射程を持っているが、それはつまり穢れに触れるかもしれない場所が増えていることを意味してもいたのだから。

 穢れに触れれば、ミラージュであっても黒い塵となって破壊されてしまう。

 そうである以上、エレーナがミラージュで穢れの関係者を攻撃する時は、穢れに触れないよう細心の注意を払う必要があった。

 普通なら非常に難しいことだったが、それを容易に出来るからこそエレーナは姫将軍の異名を持つにいたったのだろう。

 穢れの関係者にしてみれば、自分の操っている穢れの隙間を縫うようにして、突然ミラージュが飛んで来るのだ。

 余程反射神経が高いか、戦闘センスのある者でもない限り、気が付けば……もしくは気が付く前に頭部を切断されるなり、割られるなりして死んでしまう。

 そういう意味では、穢れではなく穢れの関係者を倒すのにエレーナの攻撃方法は向いているということになるのかもしれない。

 相手の意表を突くというのであれば、レイが先程放った地中転移斬も同じようなものだったが。


「ともあれ、生き残った奴も降伏したことだし、向こうに戻るか。いつまでもここにいても血生臭いだけだし」

「レイが原因だろう?」


 エレーナの指摘に、レイはそっと視線を逸らす。

 レイにしてみれば図星を指された形だからだろう。


「ほら、マリーナとヴィヘラもこっちに手を振っている。いつまでもここにはいられないし、フォルシウスとの話もしっかりとする必要があるだろ」

「……そういうことにしておこう」


 エレーナはまだこの場で追及しようと思えば色々と追及は出来た。

 だが、ここでそのようなことをしても、無駄に時間を使うだけだと判断したのだろう。

 それ以上は特に何を言うでもなく、レイと共にマリーナ達の待ってる方に向かって歩き出す。


(フォルシウスに話か。そう言えばまだ何も話してないんだよな)


 対のオーブを使ってダスカーと相談し、それによって一応の穏健派の扱いは決まった。

 もっとも、それは特に何らかの命令はしないとはいえ、奴隷の首輪とブルーメタルで作ったアクセサリをつけることを義務づけるというものだったが。

 それをフォルシウス達穏健派が受け入れるかどうかは、生憎とレイにも分からない。

 だが、こうして強硬派との戦端を開いてしまった以上、フォルシウスもレイの提案を受け入れない訳にはいかないだろう。

 もしレイの提案を受け入れなかった場合、最悪穏健派は強硬派の生き残り……それも恐らくは精鋭と呼ぶべき実力を持つ者達と、そしてレイ達の双方を敵に回すということになるのだから。


(そういう意味だと、今回の穏健派と強硬派の戦いは、俺達にとっては悪い話ばかりという訳じゃないのか。……戦ったのは俺達が殆どだから、多少はこっちに利益があってもいいよな)


 フォルシウスも不承不承ながらレイの提案を受け入れる筈だった。

 筈だったのだが……


「ええ、そのくらいであれば構いません」

「……本気で言ってるのか?」


 最初はレイもフォルシウスが何を言ってるのか分からず、数秒の沈黙の後でようやく理解したレイは、改めてそう尋ねる。

 フォルシウスが『そのくらい』と言ったのは、レイがダスカーに指示された内容だった。


「奴隷の首輪とブルーメタルのアクセサリだぞ? 正直なところ、断られると思っていたんだけどな」

「そうですね。レイ殿が言ったのでなければ……あるいはもっと欲深そうな相手が言ったのなら、さすがにすぐに受け入れたりは出来なかったでしょう。ですが、レイ殿はそのようなことをしない。……違いますか?」

「やるかどうかと言われればやらないが、だからといってそれを素直に信じられるのか?」


 レイ本人には、そのようなことをやろうというつもりは全くない。

 だが、それはあくまでもレイがそう言ってるだけだ。

 もしレイのことを中途半端にしか知らないのなら、その言葉を素直に信じたりは出来ないだろう。

 何しろレイは盗賊を襲っては、その生き残りを犯罪奴隷として売ったりしている。

 客観的に見た場合、レイを一種の奴隷商人と思ってもおかしくはない。

 フォルシウスはその辺について知らないのか、あるいは知った上でレイの提案を受け入れたのか。

 それはレイにも分からなかったが、それでもフォルシウスが引き受けてくれたというのは非常に大きな意味を持つ。


「一応言っておくけど、奴隷の首輪とブルーメタルのアクセサリを付けるはフォルシウスだけではなく、穏健派全員……より正確には、お前と一緒に俺達に降伏する全員だぞ?」

「分かっています。私達は世界に絶望してはいますが、だからこそ私達だけで大人しく暮らすことが出来るのなら、それは歓迎します。……ただ、確認ですが、先程言っていた奴隷の首輪をするものの、理不尽な命令はしないというのは本当なのですよね?」

「ダスカー様が言った以上、間違いないとは思う。ただ……そうだな。ギルムやその近くで働くことは出来ない以上、どこかを新たに開拓するとか、廃村になった場所に住むとか、そういう感じになると思う。そうなると、その場所を治める領主がいる。勿論ダスカー様もその辺は考えてると思うけど」


 ダスカーにそのつもりがなくても、辺境にフォルシウス達を住まわせる訳にはいかない以上、どこか他の場所に住まわせる必要がある。

 そしてダスカーの領地はギルム周辺である以上、当然ながらフォルシウス達が住むのは別の貴族が領主をしている場所となる。

 そうなると、その領主がどのような者かによって待遇に差が出る。

 民衆にも優しいのか、民衆には無関心なのか、民衆を自分の家畜としか思っていないのか。

 その領主、あるいは代官が民衆を家畜と思っていないような者であれば、フォルシウス達はまた穢れの関係者となって騒動を起こす可能性は十分にあった。


(ダスカー様もその辺は理解しているだろうから、問題ない相手と交渉するだろうけど)


 そんな風に思いつつ、レイはフォルシウスと会話を続けるのだった。

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[一言] いつも更新楽しみにしてます。 あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします。
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