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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3425/3865

3425話

これが今年最後の更新となります。

今年も1年、ありがとうございました。

来年もよろしくお願いします。

 ずしゃり、という地面に着地する音が周囲に響く。

 ただし、ここで行われている戦いは強硬派と思しき者達が穏健派を一方的に攻撃しているというものだ。

 その戦いの中でレイが空から降ってきて地面に着地したからといって、その音は他の者達の注目を集めるようなことはない。

 ないのだが……それでも全員に気が付かれない訳ではない。

 偶然レイが着地した場所の近くにいた男の一人が叫ぶ。


「レイだ……御使いを、そして俺達を迫害するレイがやって来たぞ!」


 何故その男がレイをレイだと認識出来たのか。

 それは、やはりここにレイがやって来ているという情報を知っており、何よりレイがデスサイズと黄昏の槍を両手に持っていた為だろう。

 槍だけを持っている者なら、珍しくもない。

 初心者用の武器として、槍は非常に使いやすい武器なのだから。

 だが、その槍以外に大鎌を持つ相手など、それこそレイくらいしか存在しない。

 あるいはレイ以外にもそのような者はいるのかもしれないが、この状況で大鎌と槍をそれぞれ持つ人物となれば、レイ以外は存在しなかった。

 そして……穏健派にしてみれば、レイはフォルシウスが交渉している相手なので色々と……本当に色々と思うところはあれど、実際にレイに攻撃するようなことはしない。

 しかし、それは穏健派だからだ。

 強硬派にしてみれば、先程レイが来たと叫んだ男の声が深い憎悪に塗れていたように、不倶戴天の敵がレイだ。

 結果として、その声が聞こえた強硬派は一瞬の躊躇もなくレイに向かって殺到する。


「入れ食いだな。……多連斬!」


 自分に向かってくる強硬派達の存在に呆れつつも、レイは自分から相手に近付いてスキルを発動する。

 使われたスキルは、多連斬。

 デスサイズを振るった一撃が何重にもなるという、効果は極めて単純ながら、それを使うのがレイで、そのスキルを放つのがデスサイズとなれば話は変わってくる。

 レベル六の多連斬が放つ追加の斬撃の数は、二十。

 それはつまり、レイがデスサイズで二十回攻撃したことを意味していた。


「ぎゃああああああっ!」


 放たれた斬撃で手足を失い、悲鳴を上げる者達。

 それでも悲鳴を上げることが出来た者達は、まだ幸運だったのだろう。

 本当に不運な者は、それこそ多連斬によって胴体を切断されたり、首を切断されたりといったように一撃で殺されていたのだから。

 この本拠地に下りる時に使ったマジックシールドを使わなかったのは、光の盾は一撃だけならどのような攻撃も防げるが、光の盾そのものが視界を遮るという難点があった為だ。

 完全に盾の向こう側が見えない訳ではないが、それでも視界に影響が出るのは事実。

 仲間と一緒ならともかく、レイだけで、あるいはレイとセトだけで戦っている時はそれが微妙に厄介だった。

 ましてや、現在のマジックシールドでは光の盾を三枚作れる。

 それは三度相手の攻撃を防げるということを意味しているが、同時に三枚の光の盾によって結構な範囲の視界が通常より悪くなっていることを意味してもいた。

 そんな理由から、レイはここではマジックシールドを使わず、敵を倒すことを優先するスキルを放ったのだ。

 ……もしこれで、レイの性格がもっと防御よりであれば、マジックシールドを使って穏健派の者達を守ったかもしれないが、生憎とレイはそのような性格ではない。


「はぁっ!」


 多連斬によって周囲に強硬派の血と肉と骨と内臓が撒き散らかされ、多連斬の攻撃範囲の外にいた為にその光景を見た者達は一瞬何が起きたのか分からないといった様子を浮かべ……レイはその隙を逃すようなことはない。

 左手に持っている黄昏の槍を放つ。

 数人……いや、十人近くの強硬派が黄昏の槍で身体を貫かれ、命を落とすか、あるいは瀕死の重傷を負う。

 投擲する方向を間違えば、あるいは穏健派の者が敵の中に入り込んでいれば、穏健派の者達に被害が出た可能性もある。

 しかし、レイは強硬派のいる中に向けて槍を投擲したし、その中に穏健派の者がいても……それはそれで仕方がないと判断していた。

 黄昏の槍を投擲しつつ、更に追撃でレイは一撃を放つ。


「飛斬!」


 放たれた飛ぶ斬撃は、強硬派を何人も斬り裂いていく。

 強硬派が混乱している中、レイはミスティリングからブルーメタルの鋼線を取り出し、素早く地面に投げる。

 きちんと鋼線の状態で地面に置くのとは違い、かなり歪な様子で地面に放り投げられたブルーメタルの鋼線だったが、それでも十分に効果は発揮する筈だった。

 今はまだ敵も穢れを使ってこない……いや、穢れを使っている者は空中から見た時に何人かいたが、その数は決して多くはなく、今のところレイに攻撃をしてはいない。

 あるいは多連斬や飛斬、黄昏の槍の投擲で死んだ者の中に、穢れを使う者がいたかもしれないが。

 ともあれ、今のところは穢れで攻撃されていないのを確認しつつ、レイは投擲した黄昏の槍を手元に戻す。


「さて……」


 呟き、レイは周囲を一瞥する。

 助けられた穏健派も、唐突に攻撃された強硬派も、レイのいきなりの行動に……より正確にはレイの攻撃によって生み出された死人や怪我人の数に唖然とする。

 一連のレイの攻撃によって死んだのは、間違いなく二十人を超えているだろう。

 十秒にも満たない時間で、それだけの命が奪われたのだ。

 唖然とするのは無理もない。

 もっとも、レイにしてみれば穢れの関係者……特に強硬派は、世界を破滅させようとしている者達だ。

 世界が破滅すれば、それこそ一体何人が死ぬか分からない。

 それに比べれば、二十人程度死んだところで、それがどうした? というのが正直なところだ。


「一応聞いておくが、お前達は穏健派だな?」


 そうレイが尋ねたのは、素手で強硬派と戦っていた数人の者達だ。

 レイに視線を向けられた数人は、即座に頷く。

 もしここで返事をするのが遅れると、自分達も攻撃されるのではないかと思っているようだった。

 そのような者達の様子を確認すると、次にレイは強硬派に視線を向ける。

 レイの視線を受けた者の何割かは、レイの圧倒的なまでの力を見て視線を逸らす。

 だが、強硬派の大半はレイに視線を向けられても視線を逸らすことなく……それどころか、憎悪を隠しもせずに睨み付ける。


「お前達がいると厄介だしな。……死んで貰う」


 殺意を込めて放たれた言葉に、強硬派は激高した。

 強硬派にしてみれば、御使いを穢れなどと呼んでいるレイだ。

 しかも本拠地を攻撃してきた以上、強硬派にしてみればレイは決して許せる相手ではない。


「お前が死ねぇっ!」


 最初にそう叫んだのは、レイに憎悪の視線を向けていた者の一人……ではなく、レイが見回した時に視線を逸らした男の一人だった。

 レイという不倶戴天の敵を前に、レイの力をその目にしたからといって、視線を逸らしてしまった自分が許せなかったのだろう。

 あるいはその件で誰か他の者にレイを怖がったと指摘されるのを怖がったのか。

 ともあれ、その男は長剣を手にレイに向かって突っ込んできた。

 男は穢れの関係者ではあるし、長剣を手にしていることからも一定の実力は持っているのかもしれない。

 だがそれは、あくまでも普通の基準での一般の話であり、ランクA冒険者、あるいは異名持ちの基準で見た場合、話にもならないレベルだ。


(こいつに餌になって貰うか)


 長剣を手に近付いてくる男を前に、レイはそう考える。

 穢れの対策として、ブルーメタルの鋼線を地面に置いた。

 それによって穢れの心配はしなくてもいいが、同時にそれはブルーメタルの鋼線があるからこその話だ。

 つまり、そのブルーメタルの鋼線から離れれば、敵は穢れを使うことが出来る。

 それはレイにとって面白くないので、だからこそ今のように向こうから近付いて来て欲しかった。


「ペインバースト」


 そんな餌の為にレイが使ったスキルは、ペインバースト。

 デスサイズで斬りつけた相手に与える痛みが増すという、極悪なスキルだ。

 その上、相手に与えるのは痛みだけで実際の斬り傷は普通に攻撃した時と変わらない。

 現在のペインバーストはレベル四で、相手に与える痛みは十六倍という、かなりの倍率となっている。

 そんなスキルを発動したレイは、自分に向かって振るわれる長剣の一撃を回避し、そのまま掬い上げるような一撃で男の右足首を切断する。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 地面に転び、激痛に悲鳴を上げる男。

 右足首の切断というだけで激痛なのは間違いないが、それが十六倍もに増幅されて男を襲ったのだ。

 右足首がない以上、立っていることは出来ず、地面を転げ回って泣き叫ぶ。


(あれ? これ、ちょっと不味いか?)


 レイの目論見としては、今のように悲鳴を上げているのを見て、仲間がそれ程の痛みを受けたのが許せず、レイに向かって強硬派が殺到してくるというものだった。

 だが、実際には男の上げる悲鳴が悲痛すぎて、強硬派もどうすればいいのか迷っている様子を見せている。

 男がここまで派手に騒いでいなければ、強硬派もレイの目論見通りの行動をしたかもしれない。

 しかし、ペインバーストはレイが予想していた以上に男の心を打ちのめしてしまったのだろう。


「黙れ」


 これ以上男を騒がせておくと、強硬派の戦意が下がっていくだけだ。

 そう判断したレイは、騒いでいる男の首をデスサイズで切断する。

 一切の抵抗もなく男の首は切断され、地面に転がる。

 同時に首からはかなり派手に血が噴き出す。

 その首はレイの方を向いていなかったので、レイのいる場所まで血が飛んで来ることはなかったものの、その光景を見ている者達……特に強硬派にしてみれば、仲間の首をこうも簡単に切断したレイは決して許容出来ることではなかったらしい。


「殺せぇっ!」


 元々がレイに憎悪を抱いていた者達だ。

 レイの圧倒的な力を見た為、その力を恐れたものの、短絡的な性格をしている者は多く、仲間の首を目の前で切断されたのを見れば、それを決して許容出来ず、叫ぶ。

 一人がそうして叫べば、どうするべきかと迷っていた者達もその怒声に流されるように、レイに向かって殺意を向ける。

 しかし……それはレイにとって狙い通りでもあった。

 穢れを使う相手に対処するとなると、ブルーメタルが必須だ。

 いっそ、ブルーメタルの鋼線で腕輪か何かでも作った方が手っ取り早いのではないかと思ったものの、今更そんなことをしている余裕はない。

 また、ブルーメタルも魔法金属だ。

 それもまたしっかりと全てが解明された訳ではない。

 レイの莫大な魔力がブルーメタルにどのような影響を与えるのかも分からない以上、他の面々はともかく、レイがブルーメタルの鋼線で腕輪を作るのは止めておいた方がよかった。


「死ねやこのクソ野郎が!」


 斧を……それも戦闘用でも何でもなく、樵が使う斧をレイに向かって振り下ろそうとする男。

 真っ先に動いたのは斧を持っていた男だったが、その後ろからは短剣を持った男もレイに殺意の込めた視線を向けていた。

 振り下ろされた斧の一撃を、レイはあっさりと回避する。


「あ?」


 まさか自分の一撃がこうもあっさり回避されるとは思っていなかったのか、男の口から間の抜けた声が零れる。

 先程までの戦闘でレイの強さは自分の目で見ている筈だったが、それでも怒り狂った状態ではそのことを忘れてしまっていたのだろう。


「パワースラッシュ」


 スキルを発動し、デスサイズを振るう。

 その一撃は、斧を持った男の胴体を切断……するのではなく、爆散させる。

 当然ながら、男の背後にいた短剣を持った男は四散した男の肉片や血を……そして骨片をまともに浴びることになる。


「うぎゃあああああああ!」


 これが、例えば肉片や血だけであれば、気持ち悪かったり目が塞がれて一時的に視界が塞がれることになっても、それだけで終わるだろう。

 しかし、今回はパワースラッシュで砕かれた斧を持った男の背骨の破片が激しく飛ばされたのだ。

 その破片は短剣を持った男の右目に命中し、眼球を破壊した。

 また、目だけではなく顔にも複数の骨の破片が食い込み、男に痛みを与える。

 怒り狂っていても、その状況でレイに向かって攻撃出来る筈もない。

 走ってきた勢いのまま地面に倒れ、次の瞬間にはレイが左手に持つ黄昏の槍で頭部を砕かれる。

 残虐な殺し方ではあったが、レイにしてみれば下手に苦しめたりはせず、一撃で……男も知らないうちに殺しているのだから、寧ろ慈悲深いとさえ思っていた。


(さっきみたいに、俺の力に怯えて攻撃してこないとかにはなってないのがせめてもの救いか。もっとも、こうして真っ先に迫ってくる連中は捨て駒の雑魚なんだろうけど)


 デスサイズで金属鎧を着ている相手を金属鎧諸共に切断しながら、レイはそう思うのだった。

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