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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3421/3865

3421話

 レイ達と向かい合っていた穢れの関係者の集団から一人の男が離れる。

 レイ達の方に向かってくるその男は特に武装をしている訳ではない。

 勿論、それはあくまでも離れた場所から見ただけの判断だ。

 もしかしたら服の中に何らかの武器を隠し持っている可能性もある。

 ……とはいえ、服の中に武器を隠していたりする場合、どうしても歩き方に何らかの影響が出てしまう。

 微かな変化であるが、それを見抜ける者はそれなりにいる。

 もっとも、日本でならともかく、このエルジィンにおいては服の下に何らかの武器を隠し持つというのは珍しい話ではないので、それを見抜くことが出来てもあまり有益な技術ではないのだが。

 それでもこうして武器も持たず……まるで自分が平和の使者ですといったような様子で近付いてくる相手であれば、懐に何らかの武器を持っている可能性は低かったし、歩き方から見てもレイは特に何も武器の類を持っているとは思えなかった。

 ゆっくり、レイ達を刺激しないように注意して歩いてくる男は、相変わらず敵意や殺意の類はない。

 世の中には殺意を消したまま相手を殺すといったことが出来る達人もいるらしいが、身体の動かし方から見ても、レイは近付いてくる男が何らかの戦闘訓練を受けているようには思えない。

 つまり、もし戦闘になった場合、間違いなくあっさりと殺されるか、もしくは捕らえられることになるだろう。


「一体何を考えてると思う?」

「世界を滅ぼそうとする異常者が相手だぜ? そんな連中が何を考えてるのか、分かる訳がないだろ」

「まぁ……うん。それは否定出来ないな。ああいう連中の考えが理解出来たら、それこそ自分も向こう側に行く事になりそうだし」


 レイとレリューの会話を聞いていた他の者達は、それぞれ程度の差はあれど、嫌そうな表情になる。

 それだけ世界を滅ぼすことを目的としている穢れの関係者達と同じことを考えるのは嫌なのだろう。


「そう言えば、今更ですがこの地下空間の中って明かりはどうなってるのでしょう?」


 話題を変えようと思ったのか、オクタビアがそう言う。

 そんなオクタビアの言葉に、レイもまた周囲を見る。

 レイは夜目が利くものの、今はその夜目は使われていない。

 壁が発光しており、地下空間そのものが昼と同じような明るさになっていたからだ。

 レイは今まで何度かこのような光景を見たことがある。

 それはつまり……


「ダンジョンと似てるな」


 レイの言葉に、同じように思っていた者達は頷き、そうでない者達は驚く。

 もしこの地下空間がダンジョンと同じような能力……いや、性能を持つとしたら、それはつまりこの地下空間がダンジョンなのではないかと、そのように思えてしまうからだ。

 レイとしては、ダンジョンの核をデスサイズで切断すれば確定で地形操作のレベルが上がるので、ここがダンジョンであっても困らないし、寧ろそうであって欲しいとすら思うが。


「ダンジョンではありませんよ」


 そうレイの疑問に答えたのは、穢れの関係者の男。

 レイ達が会話をしてる間に大分近付いており、会話の内容も聞こえたのだろう。


「そうなのか? 俺が知ってるダンジョンには似たような場所があったけどな。……まぁ、それはともかく。そこで一度止まれ」


 レイはそう言い、デスサイズと黄昏の槍を構える。

 向こうが何かしようとしても、レイなら即座に……それこそ一瞬で近付き、男を殺すことが出来るように。

 ましてや、男は武器は勿論、防具の類も装備していない。

 その上で歩き方から、特に戦闘に秀でている訳でもないのは明らかだった。

 年齢としては四十代くらいの落ち着いた雰囲気を持っている。


「この階段の上のホールでは、随分と過激な歓迎を受けたんだが……ここでは違うみたいだな」

「そうですね。上にいた方達は残念ながら血の気の多い方達だったのでしょう」


 あっさりとそう言う男。

 まるで先程のホールでレイ達と戦った者達が死んでも、全く気にした様子もない。

 そこまで考えたレイは、もしかしたら何か誤解でもしてるのではないか? と疑問に思って口を開く。


「言っておくが、上のホールで俺達を待ち伏せしていた連中は全員死んだぞ? 捕虜にしたとか、気絶しただけで終わらせたといったことはない」

「そうですか。残念です」

「……その割には、あまり残念そうには見えないけどな」


 レイと会話をする男は、穏やかな表情を浮かべている。

 仲間が死んで残念だと口にした時も、その穏やかな表情は一切変わることはない。


(もしかして、穢れの関係者の中にも派閥があったりするのか?)


 人というのは、三人いれば派閥が出来る。

 穢れの関係者が具体的に何人いるのかは分からないが、オーロラが治めていた洞窟にいた者達のことを考えると、数百人……いや、千人以上がいてもおかしくはないと思える。

 それだけの数がいるのなら、その中でそれぞれの考え方から派閥が出来てもおかしくはない。

 穢れの関係者の目的として世界の破滅があるが、その破滅に向かうまでの道筋の違い、あるいは……これはレイにとっての希望的な予想だが、世界を滅ぼす力を自分達が持っていても、実際に世界を滅ぼす必要はないと考えている者がいる可能性もあった。


「仲間なのに、随分と冷淡なんだな」

「いえ、そんなことはありませんよ。私も彼等が死んでしまったことは悲しいと思っています」

「そういう風に見えないから、こう言ってるんだけどな。……まぁ、その件についてはもういい。ただ、そろそろ自己紹介くらいはしてくれると嬉しいんだが?」


 そう言うレイの言葉に、男は頭を下げる。


「申し訳ありません。挨拶が遅れましたね。私はフォルシウスと申します」

「そうか、そっちはもう俺達について知ってると思うが、俺はレイだ」

「はい、存じております。レイさん達は私達の間では非常に有名ですしね」

「……だろうな」


 フォルシウスの言葉はレイにも十分に理解出来た。

 穢れの関係者は長い間人に知られることなく、存在してきたのだ。

 そんな中でボブの件もあって、レイは明確に穢れの関係者と敵対した。

 それが結果として大きな騒動となり、レイと穢れの関係者は派手にぶつかっている。

 オーロラの洞窟の件についてフォルシウスが知ってるのかどうかはレイにも分からなかったが。

 だからといって、ここでオーロラの洞窟について知ってるかといったことを聞いたりは出来ない。

 もし聞いて、それで知っているのならいい。

 だが、もしオーロラの洞窟の件がまだこの本拠地にまで届いていない場合、わざわざ相手の知らない情報を教えてしまうことになるのだから。


(とはいえ、多分知ってるんだろうけど)


 オーロラの洞窟にいた者達を皆殺しにした訳ではない。

 そうである以上、オーロラがいなくなっても何らかの手段でこの本拠地にその報告がされていると見るべきだろう。


「それで……そうだな、率直に聞くがなんのつもりだ? 俺達はお前達の敵だ。敵同士がこうして向き合ってるのに、そっちには全く敵意や殺意がない」

「そのような無謀なことをしようとは思っていませんよ」


 穏やかな表情を変えず、そう言うフォルシウス。

 一切その表情を変えないことから、レイはどこか不気味なものを感じていた。


「お前はそうかもしれない。だが、お前達穢れの関係者をそのままにしておくようなことは、到底出来ない」


 穢れとレイが口にしたところで、その時初めてフォルシウスの表情が変わる。

 ただし、それは表情が大きく変わった訳ではなく、微かに頬がヒクついたといった程度だったが。


「それにお前達は妖精の心臓を欲してるんだろう? そういう意味でも、お前達を好きにさせる訳にはいかないんだよ」

「そうよそうよ。私達が好き好んで死ぬとでも思ってるの!?」

「おい」


 今までレイの後ろに隠れていたニールセンだったが、自分達の件が話題に出たからだろう。

 レイの背中から出て……それでもレイを盾にするようにしながら、不満を持って叫ぶ。

 ニールセンにしてみれば、妖精だということで自分が一番穢れの関係者に狙われたのだ。

 そのことで話題になった以上、自分が出ない訳にはいかないと判断したのだろう。

 それでも自分を盾にしていることに、レイは思わず突っ込んでしまったが。


「妖精……」


 フォルシウスはニールセンの存在については何も知らなかったのか、その表情が驚きに染まる。

 今まではレイが何を言っても穏やかな表情から変わることがなかっただけに、驚きとはいえ、その表情が変わったことこそがレイにとっては驚きだったが。

 ただ、驚いてばかりいられないのも事実。


「言っておくが、ここでニールセンに手を出すような真似はするなよ。そうなったら、こっちも相応の対応を取る必要があるし」


 フォルシウスに警告しつつも、レイはもしかしたらこの警告は無駄なのではないかとも思う。

 レイの目的は、穢れの関係者の壊滅だ。

 大人しく捕虜になるのならともかく、今の状態のままで穢れの関係者達が生き延びるということはない。

 そしてレイが知ってる限り、穢れの関係者達が大人しく捕虜になるとも思えなかった。

 もし捕虜になったとしても、その捕虜が穢れを使う者であったらオーロラと同様にブルーメタルの牢獄を用意する必要があり、コストがとんでもないことになるだろう。

 穢れの関係者の危険性を知っている者にしてみれば、もし捕虜になったとしても生かしておく必要性は感じない。

 それこそ少数の者だけをブルーメタルの牢獄にいれ、それ以外はさっさと殺すという選択になっても、レイが驚くことはない。

 普通なら犯罪者の多くは犯罪奴隷として売りに出され、鉱山で働かされたり、盗賊やモンスター、場合によっては他の領地や国との戦いの際に使い捨てられてもおかしくはないのだが……穢れの関係者の場合、穢れを使うことが出来るかもしれない。

 普通なら奴隷の首輪を自分で外すといったことは出来ないが、穢れは普通ではない。

 それこそ奴隷の首輪であっても容易に破壊出来る可能性があった。

 その為、危険を覚悟して穢れの関係者を犯罪奴隷として使うよりも、少数の例外を除いて全員殺してしまった方が手っ取り早い。

 犯罪奴隷は、それなりに数がいる。

 わざわざ穢れの関係者を犯罪奴隷にしてまで欲しいというのは……恐らくそう多くはないだろう。

 もっとも、世の中には物好きな者もいるので、絶対にとまではいかないが。


「……分かっています。妖精というのは私達にとって非常に重要な意味を持ちますが、ここで手を出すようなことはしません」


 フォルシウスはレイの言葉に素直にそう答える。

 それがレイにとっては、余計に不気味に感じられた。

 穢れの関係者が妖精を……より正確には妖精の心臓を欲しているのは、今までのレイの経験から間違いない。

 なのに、フォルシウスはあっさりとニールセンに手を出すつもりはないと言い切ったのだ。


(言葉だけで約束なら、幾らでも出来るけどな)


 フォルシウスが何かを考えているのは明らかだが。

 それが具体的になんなのかは、残念ながらレイにも分からない。

 分からないが、それでも今の状況……穢れの関係者の本拠地にこうしてレイ達がいることを思えば、本当の意味でフォルシウスが友好的に接してくるとは思えない。


(考えられる可能性としては何がある? ここが本拠地だから、この本拠地の中で俺を暴れさせたくないのか? それならさっきのホールで待ち伏せをしていた理由も分かるけど)


 あのホールでレイ達を倒すことが出来れば、それが最善だった。

 ……いや、実際に最善なのは、レイ達が崖を見て諦めることだったのだろうが。

 とにかく、レイがこうして本拠地の奥深く……本当の意味で重要な場所までやって来たので、フォルシウスは即座に争いにならないようにしているという可能性は十分にあった。


(ん? いや、待てよ? もしかして本拠地にいる戦力は少ないのか?)


 普通に考えれば、そんなことは有り得ない。

 ここは穢れの関係者にとっての本拠地である以上、何かがあった時の為に戦力を用意しておくのは当然の話だ。

 だが……そもそも穢れの関係者の本拠地に、崖を壊して入ってくるような存在がいる時点で、それはとてもではないが普通とは言えない。

 あるいは崖が崩れたことによって穢れの関係者が受けた被害はレイが予想していたよりも大きかった可能性は十分にある。

 そもそも今は冬で、セト籠やそれを運ぶセトのような特殊な移動方法でもない限り、そう簡単に遠くに出掛けるようなことは出来ない。

 なら……もしかしたら。

 そんな思いから、レイは相手の反応を見逃さないようにして尋ねる。


「もしかして、現在この本拠地に戦える者の数は少ないのか?」


 レイの言葉に、フォルシウスは微かにだが頬をピクリと動かすのだった。

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