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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3419/3865

3419話

「……どうやらそろそろらしい」


 階段を下り続けていたレイの口から、そんな声が漏れる。

 その声を聞いた瞬間、レイの後ろにいる他の面々の表情も真剣なものになった。

 今までも別に気を抜いていた訳ではない。

 だが、それでもこの状況で襲ってくるようなことがあっても、このメンバーならどうとでも出来ると判断していたのか、少しはリラックス出来た。

 しかし、レイがこのように言った以上階段の終わりが近いのは間違いなく、本格的に穢れの関係者との戦いになるというのを全員が理解している。


(寧ろ、今のこの状況で攻撃して来なかったのはなんでなんだろうな?)


 階段の先にある明かり……マジックシールドのスキルによって生み出された光の盾とは違う明かりを見ながら、レイはそんな疑問を抱く。

 階段を下りている最中であれば、回避する空間的な余裕はあまりない。

 穢れの関係者にしてみれば、レイ達を一網打尽にするにはこれ以上ない好機だ。

 あるいは、この階段に穢れの関係者以外の者が入ってきた時に対処するように何らかの罠を仕掛けるというのでも構わない。

 勿論、レイもそれを警戒しており、だからこそ、マジックシールドを使っていた。

 階段を下りている最中でもデスサイズを持っていたのは、その為だ。

 だが、結局穢れの関係者が攻撃してくることはなかった

 この階段を下りる前、階段の上にあった岩をミスティリングに収納している時は、襲い掛かって来たにも関わらず。


(何でだ? ……いやまぁ、向こうがそれでいいのなら、こっちは楽だから構わないけど。あるいは、この階段はヴィヘラが言っていたようにかなり豪華な作りだ。そして地下にある本拠地に続いているとなると、もしかしたらただの階段ではなく、宗教的な意味があるのかもしれないな。……穢れの関係者を宗教と呼んでいいのかどうかは微妙だけど)


 そんな風に思いつつ、階段を下りていき……明かりの中に入るよりも前に、光の盾を前方に向ける。

 とん、と。

 階段の最後の一段を下りて、広間となっている場所に入った瞬間……


「撃てぇっ!」


 その言葉と同時に一斉に攻撃が放たれた。


「ちっ!」

 

 相手に最後まで言わせるよりも前に、レイは階段へと続く広間の中に突入していた。

 ただし、光の盾は自分ではなく、階段へと続く入り口を塞ぐように設置しながら。


(気配がない!?)


 レイは気配を察知する能力に長けている。

 セトには及ばないものの、人という枠組みの中で考えた場合は明らかに上位に位置する能力を持っていた。

 それだけに、階段を下りている途中は全く気配を感じなかった。

 それでも攻撃に即座に対応出来たのは、純粋にいざという時の反射神経によるものだ。

 床を蹴ってレイが退避すると、一瞬前までレイのいた場所を矢や炎、水、氷、風……それ以外にも様々な攻撃が通りすぎる。

 最初の三発は光の盾が防ぎ、そのまま消えていく。

 だが、放たれた攻撃は三発どころかその十倍以上はある。

 それでもレイは光の盾の後ろにいた面々がその攻撃を防いだり、迎撃してるのを一瞬で見てとると、空中にいるうちに敵のいる場所、そして自分のいる場所についても把握する。

 階段から続いていた場所は一種のホールとでも呼ぶべき半円球の空間だった。

 そしてレイ達が入ってきたのとは反対の場所には更に下に続く階段がある。

 つまりこのホールは、一種の踊り場とでも呼ぶべき場所なのだろう。


(気配は……感じられる。だとすれば、階段にいたから気配を察知出来なかったのか?)


 空中で身を捻りつつ、デスサイズを振るう。


「飛斬!」


 空中で放たれた飛斬は、数人の身体を切断し、あるいは身体を斬り刻む。

 そんな様子を見ながら、レイは飛斬を放った衝撃を使い、更に空中で身を捻って壁を蹴り、床に着地すると同時に、空中で発動していたネブラの瞳で生み出していた鏃を左手で投擲する。

 ネブラの瞳で生み出した鏃は、右手に一個を持って投擲するのなら、その威力は壁を貫いてもおかしくはない威力を持つ。

 だが、今の一撃は違う。

 利き手ではない左手で、それも一個ではなく複数の鏃を纏めて投擲するといった攻撃である以上、一撃必殺とはいかない。

 しかし、レイはそれでも構わない。

 今の一撃は、あくまでも牽制……そして階段にいるエレーナ達が即座に敵を攻撃出来るようにする為のものなのだから。

 今の一撃は十分に効果的な一撃だったと思いつつ、レイは床を蹴って更に行動を起こす。

 空中でデスサイズを右手から左手に持ち替え、ミスティリングから黄昏の槍を取り出し、そのまま右手で投擲する。

 轟、と。

 空気を斬り裂く音と共に投擲された黄昏の槍は、穢れの関係者のうち先程攻撃するように指示を出した者の胴体を貫き、その背後にいる数人の身体も貫き、壁に柄の半ばまで突き刺さったことでその動きを止める。


「御使いを!」


 いきなり……それこそ数秒の間に多数の者達が死んだにも関わらず、生き残っていた者達は動揺しつつも攻撃を止める様子はない。

 だが……それでも、行動は遅い。

 レイの攻撃によって数秒の攻撃が止んだ瞬間、レイ達が下りてきた階段から一斉にエレーナ達がホールの中に入ってくる。

 一ヶ所に固まっていると危険だと判断したのだろう。

 ホールの中に入ると、エレーナ達はすぐにそれぞれ別行動を行う。

 そこまで事態が進んでしまえば、もう穢れの関係者に出来ることは少ない。

 ……にも関わらず、穢れの関係者は今の場所から逃げる様子はない。

 自分が死んでも構わない。

 誰か一人でもいいからレイ達を殺したい。

 そこまでは無理でも、多少なりとも怪我をさせたい。

 地下にいる同志達が少しでも有利になるように。

 そう思っての行動だったのだろうが、この場合は一旦退いた方がよかっただろう。

 最初の奇襲が失敗し、エレーナ達がホールの中に入ってしまった以上、攻撃をする為にいた穢れの関係者達が地力で勝っているレイ達に勝てる筈もない。


「というか、俺の出る幕がないな」


 投擲した黄昏の槍を手元に戻し、いつものように二槍流になったところで、既に穢れの関係者は大半が床に倒れている。

 それは気絶しているのではなく、死んでいるのは明らかだ。

 レイの飛斬や黄昏の槍の投擲によって死んだ者も多いが、エレーナ達によって殺された者も多い。

 数の差というのも大きいのだろう。


「誰か生きてるのはいるか?」

「いるけど、どうするのですか?」


 レイの言葉に近くにいたアーラがそう聞くが、アーラの前にいるのは間違いなく死体だ。

 胴体が切断されて上下に分かれていながら生きている者は……それでもいるのかもしれないが、レイの視線の先で倒れている者はとてもではないが生きてるようには思えなかった。


「駄目元で尋問でもしてみようかと思ってな」


 ダスカーからは、敵を生け捕りにする必要はないと言われている。

 だが、それでも生きているのなら、何らかの情報を入手出来る可能性もある。

 ……もっとも、穢れの関係者の繋がりの深さ、組織に対する忠誠心の強さを思えば、もし何らかの情報を口にしても、それを素直に信じられるかどうかは微妙なところだが。

 それでも何らかの手掛かりになるのなら、これから本拠地に向かう際に力となる可能性はある。


「そうですか。ですが、レイ殿の攻撃で大きな被害を受けたところに、エレーナ様達が攻撃をしましたしね。……ましてや、不利になっても逃げるという選択肢がなかったようです。そう考えると、生き残りはいないか、いても瀕死の重傷かと」


 レイの攻撃で大きな被害を受けたという言葉に、微妙に責められているような気がしたレイだったが、それは気にしないようにして息を吐く。


「そうか。……さっきも言ったけど、駄目元だったからな。死んでいて情報収集が出来ないのなら、それはそれでいい。そう言えば穢れがいたようだったが……痛っ!」

「ちょっと、レイ! 幾ら何でも暴れすぎでしょ!」


 今の今までレイのドラゴンローブの中で寝ていたニールセンが、抗議するように叫びながら姿を現す。

 地形操作で崖を攻撃している時、崩壊した崖の岩をミスティリングに収納している時、階段を下りている時。

 それらの時は、レイも特に派手に動くようなことはなかったのでドラゴンローブの中で眠っていたニールセンも気持ちよく眠っていられた。

 だが、今は違う。

 レイは派手に動き、それによってドラゴンローブの中で眠っていたニールセンも派手に動き回ることになってしまい、それで無理矢理起こされ、不機嫌になったのだろう。

 レイにしてみれば、今のような状況で眠っているのか問題だと思うのだが、それを言ってもニールセンの性格を考えると余計に怒らせるだけなのは明白だった。


「悪いな。とはいえ、あの状況で俺が先制するように動かないと、色々と面倒なことになっていただろうし」

「レイ殿の言う通りかと。レイ殿の攻撃のお陰で、向こうは動きが鈍ったのは間違いないですし」


 レイだけではなくアーラの援護もあって、ニールセンは不満を和らげる。

 エレーナの件以外では生真面目な性格をしているアーラがそう言うのなら、と。


「むぅ……アーラがそう言うのなら、仕方がないわね。それで、ここはどこ?」

「穢れの関係者の本拠地……正確にはそこに向かってる途中だな」


 レイとニールセン、アーラが話していると、他の面々も集まってくる。

 久しぶり――といってもそんなに時間は経っていないのだが――に姿を現したニールセンの様子を見に来たというのもあるが、やはりこれからどうするのかを聞きに来たというのが大きいだろう。


「もう中に入ったんだ。いつの間に……」

「お前が寝ている間にだよ。どうやら連中の本拠地は地下にあったらしい。で、今はその地下にいる」

「地下……? へぇ珍しいわね」


 妖精のニールセンにとって地下は珍しいのか、飛び立って周囲の様子を確認する。

 だが、周囲の様子を見たところで確認出来たのは、このホールで待ち受けていた穢れの関係者の死体ばかりだ。

 ニールセンが想像していたのとは全く違う光景だったのか、嫌そうな表情を浮かべる。

 そんなニールセンをその場に残し、レイは先程聞いたまだ生きているという穢れの関係者に近付く。

 幸い、生き残りはそんなに離れた場所ではなかったので、すぐにその相手……瀕死の男の前に到着する。

 レイの周囲には集まってきた他の面々もおり、何かあっても即座に対応出来るように準備をしていた。


「まだ生きてるな? 話を聞かせて貰おう」


 男に尋ねるレイだったが、すぐにその場で身を引く。

 次の瞬間、瀕死の状態にもかかわらず男から吐き出された血の混じった唾がレイのいた場所を通りすぎていく。

 それは、男がレイに何も話すことはないといった意思表示。

 そんな男を見たレイだったが、特に気にした様子もなく口を開く。


「こっちの質問に答えるのなら、ポーションを……今のお前の状態からでも死なないように出来るくらいのポーションを使ってもいいぞ?」


 瀕死の状態から死なないように怪我を治すポーションとなると、かなり効果の高い……言い換えれば、値段が非常に高価なポーションとなる。

 それを使うのかと、話を聞いていたもののうちレイとあまり繋がりのない者は驚くが、レイはそれを気にした様子もなく、死にかけの男の返事を待つ。

 だが、死にかけの男はそんなレイに対して、嘲笑を浮かべる。


「命……惜しさに……そんなことをすると思う、か?」


 その傷の深さから、途切れ途切れではあるがしっかりと聞こえる声でそう言う。

 それを聞いたレイは、そうかと頷くと……手にしたデスサイズで男の首を切断する。

 いきなりのレイの行動だったが、それを見ていた者の中に今のレイの行動を非難する者はいない。

 もしここに正義感の強い者、道徳心の強い者がいれば、瀕死の相手を殺すというレイの行動に怒り狂ってもおかしくはない。

 だが、ここにいるのは全員がその手の感情とは無縁……とまではいかないが、今やるべきことを理解している者達だ。

 それは騎士のオクタビアであっても変わらない。

 ここで下手に相手の傷を治療するようなことをすれば、それこそ後方から何らかの攻撃を受けないとも限らないのだから。

 生き残っていた男は弓を使って攻撃していたので、穢れを使われるということはないだろう。

 だがそれでも、いつ何が起きるのか分からない以上、ましてや死の寸前になっても穢れの関係者に対する忠誠心を失わなかった以上、殺すのが確実なのは間違いない。

 そのような相手を生かしておいても、害にしかならないのだから。


「情報は何も入手出来なかった」


 そう言うレイだったが、特に残念そうな様子はない。

 穢れの関係者の忠誠心を考えれば、以前の血筋自慢のような例外でもない限り、そう簡単に情報を漏らすとは思っていなかったのだから。

 あくまでも情報を入手出来たらラッキー程度の気持ちの行動だったのだから。


「じゃあ、また階段を下りていくか。……順番はさっきと同じで」


 そう言うレイに、話を聞いていた者達は頷くのだった。

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