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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3418/3865

3418話

 レリューとの会話でレイは今回の奇襲が無事に終わっても微妙に面倒なことになりそうな気がしたものの、今はまず目の前にある件を片付ける必要があった。

 そんな訳で地下に続く階段を塞いでいた岩をミスティリングに収納し……


「よし、これで本格的に穢れの関係者の本拠地に攻撃出来るな」


 地下に続く階段を見ながら言うレイに、その言葉を聞いていた者達も真剣な表情を浮かべる。

 目の前に存在する階段の先にある穢れの関係者の本拠地がどのような場所なのか、気になったのだろう。

 先程襲撃してきた者達は、楽に倒すことが出来た。

 だが、この地下にいる敵も同じように楽に倒せるかと言われれば、問題ないと断言出来る者は誰もいない。

 そもそも敵は、穢れの関係者という長い間その存在を知られずにいた者達だ。

 今までは敵の方からレイ達に攻撃を仕掛けていた。

 つまり、向こうが自分から姿を現してくれていたのだ。

 オーロラの治める洞窟を攻めた時は例外だったが。

 しかし、今からレイ達は敵の本拠地に攻め込む。

 それはつまり、今までは自分達の目の前に自分から出て来てくれた穢れの関係者の行為を、今度は自分達が行うということになる。

 相手の本拠地という、これ以上ない敵のホームグラウンドに攻め込むのだ。

 一体何があるのか、それはレイにも全く理解出来ない。

 だからこそ慎重に動く必要があるのも事実。


「全員、準備はいいな? 俺が先頭を行く」

「ちょ……レイ? 本気?」

「本気だ。俺は三度だけならどんな攻撃も防げるスキルがある。忘れたのか?」

「いや、忘れる訳ないでしょ、あんなに派手なスキルを」


 マリーナが呆れと共にそう言う。

 実際に先程の戦いでもレイ達は壁として光の盾を使ったのだから、こんな短時間で忘れる筈もない。


「けど、行くのは地下でしょ? 間違いなく目立つわよ?」


 ヴィヘラが言うように、地下に続く階段には特に明かりのようなものはない。

 ダンジョンのように壁や床、天井が薄ら光っていたりということもなかった。

 ここを出入りしている者達は、明かりをどうしているのか。

 あるいは本拠地にいる穢れの関係者全員、夜目が利くのかもしれないのかとレイは思う。

 とはいえ、今のこの状況ではそのようなことを考えても意味はないと判断し、それ以上は考えないでおく。


「マジックシールド」


 スキルを発動し、先程他の面々が見たのと全く同じ光の盾が三枚生み出された。


(やっぱりこれ、目立つよな。それこそ、この光の盾を狙って攻撃してきてもおかしくはないと思える程に。もっとも、攻撃してきてもあまり意味はないけど)


 レイは自分の周囲に浮かぶ三枚の光の盾を見て、そんな感想を抱く。

 だが実際、光の盾に攻撃をしても、それはあっさりと防がれるだろう。

 防いだ光の盾は消えるが。


「よし、じゃあ行くぞ。……一応、さっき襲ってきた連中がどこから出て来たのかとか、そういうのも知りたいんだが、それは難しそうだし、ここを進む」


 先程の敵の全員が、崖の崩落で生き残った者だとはレイも思っていなかった。

 いや、寧ろ生き残りはかなり少ないだろう。

 岩を収納する時、血のついた岩や……岩に潰された死体も幾つか見ている。

 つまり、レイが岩を収納している時に襲ってきた者達はどこか別の場所……それこそビューネ達と遭遇した相手が出て来たような、隠された入り口から出て来たのはほぼ間違いない。

 だが、こうして目の前にある階段と違い、そのような隠された場所を探すとなると、また時間が掛かる。

 一応レイにはその手の探索用の魔法もあるが、目の前に階段があるのにそれを使わないという選択肢はない。


「レイには言うまでもないと思うけど、気を付けてね」

「分かっている。……というか、マリーナも一緒に来るんだろう? まさかここに残るつもりなのか?」

「一緒に行くわよ。……とはいえ、個人的にはここに誰かが残ってこの階段を確保しておいた方がいいと思うけど」


 マリーナの提案は普通ならレイも頷いただろう。

 だが、現状においても既に二手に分かれた状態なのだ。

 この上、ここに誰かを残すのは難しい。

 そもそもここに誰かを残すということは、その誰かは何かがあった時……それこそ穢れの関係者の襲撃があった時、対処出来るだけの実力が必要となる。

 だが、穢れの関係者が襲撃してきた時、もっと具体的には穢れを使った攻撃をする者がいた時、それに即座に対処出来るのは、浸魔掌を使うヴィヘラと穢れに特効を持つ魔剣を使うレリューだけだ。

 これから穢れの関係者の本拠地に進む以上、そのような力を持つ二人がいないのは戦力的に痛い。


「ここは穢れの関係者の本拠地なんだ。その本拠地に被害を与えるような大きな攻撃が行われるとは思わないし、もし閉じ込められるようなことがあっても、俺達ならそれを破壊して脱出するのは難しくないと思う」


 それは力ずくで強引に突破をするという、全く頭を使わない行動。

 普通ならもっと考えろといったことを指摘する者もいるだろう。

 だが、力ずくでどうにかするだけの手札をレイが持っているのは間違いない。

 その手札が通用するのなら、わざわざ別の複雑な方法を使ってどうにかする必要もなかった。


「レイがそう言うのなら、構わないだろう。……もし何か難しいことがあった場合、私も協力しよう」


 凛とした様子でエレーナがそう言う。

 実際、もしレイ達が地下にある穢れの関係者の本拠地に入った後でこの階段の入り口を何らかの手段で封じて閉じ込めるなり、色々な方法が考えられる。

 だが、エレーナがその気になれば……それこそ竜言語魔法を使えば、地下から封じている岩なりなんなりを破壊するのは難しい話ではない。


「じゃあ、行きましょうか」


 ヴィヘラがやる気に満ちた様子でそう言う。

 いよいよ穢れの関係者の本拠地に侵入するのだ。

 そこに強敵が待っている可能性は十分にあり、それはヴィヘラにとって望むところだった。


「そうだな。じゃあ、行くぞ。……言うまでもないが、これから何が起きるのか分からない。くれぐれも注意してくれ」


 レイは全員に念を押すように注意してから、三枚の光の盾を自分の前に移動させて階段を降りていく。

 その手にはデスサイズが握られているだけだ。

 いつもならデスサイズ以外にも黄昏の槍を持っているのだが、階段の広さを考えると長柄の武器は非常に使いにくい。

 それでもレイだけで行動するのなら、武器を持ったままだっただろう。

 だが、今回はレイ以外にも何人もがいる。

 エレーナのようにレイとの付き合いの長い者なら、階段でレイが敵と戦闘になっても邪魔にならないように出来るだろうが、今回はレリューやオクタビアといった、レイとの付き合いが短い者もいる。 とはいえ、レリューは以前レイと一緒にダンジョンに挑んだこともあるので、ある程度はレイの戦闘スタイルを知っているし、オクタビアもダスカーに仕える騎士の中ではトップクラスの腕を持つ。

 また、以前に領主の館で何度も模擬戦を繰り返しており、ある程度は戦闘の癖についても理解していた。

 それでもやはり、エレーナ達のようにしっかりと……それこそ阿吽の呼吸とでも呼ぶべき行動を取れる訳でもない以上、注意する必要がある。

 そんな中でデスサイズを持っているのは、攻撃用ではなくスキルを発動させている為だ。


(突きを放とうとして、それでレリューやオクタビアに被害が出たら洒落にならないしな)


 レイの放つ突きは武器の性能もあって高い能力を持つ。

 だがそれは、突きを放つ前の段階での動きにも影響がある。

 一旦デスサイズや黄昏の槍を引いた時、背後にいる誰かに当たってしまう可能性がある。

 ましてや、黄昏の槍はともかく、デスサイズで放つ突きは石突きを使ったものだ。

 つまり、背後にはデスサイズの刃の部分が向けられることになる。

 デスサイズの斬れ味を考えると、レイにそのつもりがなくても腕の一本や二本……いや、それどころか胴体が切断されるようなことになってもおかしくはない。

 だからこそ、万が一にもそのようなことならないように、レイは片手を空けて階段を降りていく。

 もっとも、素手ではあるがレイの実力を考えれば、素手でも十分に強い。

 また、決定打とはならないものの、腰には鏃を生み出すネブラの瞳がある。

 ましてや、どんな攻撃も防ぐ光の盾が三枚あるのを考えると、レイは今の状態でも極めて高い戦闘力を持っているのは間違いない。


「階段は……思ったよりも広くないな」

「地下に続く階段なんだから、そんなに広くなくてもいいのでは?」


 レイの後ろ……正確にはレイのすぐ後ろではなく、真ん中辺りにいるオクタビアがそう言う。

 オクタビアにしてみれば、地下に続く階段を広く作るとなれば、それだけの労力が必要となる。

 なら、このような階段であってもおかしくないのでは? と思ったのだろう。

 しかし、レイは階段を降りながら首を横に振る。


「ここは穢れの関係者の本拠地の……言わば、正式な出入り口だ。なのに狭いというのは、ちょっとおかしくないか?」

「だからこそ、ではないでしょうか? 穢れの関係者の偉容を見せるのも大事ですが、その為に長年秘密裏に存在してきた自分達が目立つようなことになれば、人が集まってくるかもしれません」

「つまり、外見よりも中身を選んだと?」

「あくまでも私の予想ですが」

「オクタビアの意見もそう間違ってないと思うわよ?」


 そう言ったのは、ヴィヘラ。

 横の壁……手を伸ばせば触れることが出来る壁に触れながら、ヴィヘラは言葉を続ける。


「この階段は下に続いているということは、地下に本拠地があるんでしょう? なら、歴史を見せるというか、穢れの関係者の偉容を見せるというか、そういうことをするなら、そっちでもいい訳だし。それに……この階段や壁も、見た感じかなりしっかりとした作りになってるわね」


 元皇族だけあって、ヴィヘラは芸術品の類には詳しい。

 この階段は別に芸術品の類ではなかったが、こうして触れている壁の部分は崖や地面をそのまま使っている訳ではなく、非常に滑らかだ。

 触れれば、それで十分に相応の品だと理解出来る。

 このような建材を地面に埋めて作るというだけで、かなりの財力を持っていることを意味していた。

 また、財力だけではない。この崖の周辺には誰も住んでおらず、人がいないとはいえ、それでもこうした大規模な工事を人に見つからないように行ったのだ。

 もっとも、この本拠地がいつからあるのかは不明だが、それでもここ数年という訳ではない筈だ。

 そうである以上、かなり昔にはこの場所について知っていた者もいたのかもしれないが、時間が経つに連れてその件については忘れ去られていった可能性も十分にあった。


「この壁? ……ああ、確かにこれは地面がそのままあるとか、そういう感じじゃないな。だとすれば、もしかしたらこの壁を切断して持っていけば相応の金になるかも」


 ヴィヘラの言葉に、レリューが壁に触れてそう呟く。

 だが、そんなレリューの言葉にオクタビアは不機嫌そうな表情を浮かべる。

 生真面目な性格をしているオクタビアにしてみれば、レリューの言葉を不謹慎だと思ったのだろう。


「レリューさん、いい加減にして下さい。今の状況が分かってそんなことを言ってるんですか?」

「何だよ、別に本気で言った訳じゃねえってのに。冗談だ、冗談」

「言っていい冗談と悪い冗談があるんですが、それは知ってますか?」

「はいはい、分かったよ。下手な冗談を言って悪かった。……全く、ヴィヘラが言ったりしたら、別に怒ったりはしない癖に」

「なっ……」


 レリューの口から出た言葉は、オクタビアにとってもすぐに反論出来ないものだった。

 それでもオクタビアは何かを言おうとして口を開き掛けたが……


「その辺にしておきなさい。これから一体何があるのか分からないのよ? ここで騒いでいる声が階段の先まで続いていたらどうするの?」


 二人の言い争いを、ヴィヘラが止める。

 そんなヴィヘラの言葉に、レリューは渋々と、オクタビアは申し訳なさそうに言い争いが止まった。


「それにしても、この階段……長いな。てっきりもっと短いかと思ってたんだが」


 レリューとオクタビアのやり取りで若干気まずい雰囲気になったのを察したレイは、少し雰囲気を緩める為にそう言う。

 レリューとオクタビアの関係性が悪化した状態で穢れの関係者の本拠地に奇襲をすると、肝心のところで連携ミスが起きるかもしれないと、そう思ったからの言葉。

 聞いていた他の面々もレイのそんな考えは理解していたものの、特に突っ込むようなことはしない。

 それこそレリューやオクタビアもレイの考えは理解したものの、それについて何かを言うでもなかった。


「これだけの階段を作って、地下に本拠地となる空間を作る。このようなこと、そう簡単に出来るとは思えません」

「オクタビアが言うように、普通なら出来ないが……穢れがいれば、ある程度は何とかなるかもしれないぜ? 何しろ触れたら黒い塵にして吸収するんだろ? こういう地下空間を作るのにはうってつけの筈だ」


 オクタビアとレリューの会話を聞きながら、レイは階段を下り続けるのだった。

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