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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3417/3865

3417話

 大きな岩をミスティリングに収納したところで、唐突に姿を現した地下に続く階段。

 それを見たレイの口からは驚きと納得の声が上がった。

 驚きは、やはり地下に続く階段の存在。

 納得は、これもまたやはり地下に続く階段の存在。

 双方共に同じ理由ではあったが、考えてみれば当然だった。

 穢れの関係者達の本拠地を作るにしても、普通に考えれば崖の中よりも地下の方が安全だろう。

 崖は岩の塊だからこそ重量があり、頑丈で、安心な一面もある。

 だが、もし崖の中身をくり抜くように掘ってそこに本拠地を作った場合、何かあった時に中身が空に近い崖は崩れてしまう可能性が十分にあった。

 それなら崖の中ではなく、地下を掘って本拠地を築いた方がいい。

 ……そうなったらそうなったで、本拠地が崖の重みで潰される危険もあったのだが。

 あるいは崖が穢れの関係者達によって何らかの強化をされていたのは、その辺についての理由もあるかもしれない。

 何より崖に中身を掘って本拠地を作った場合、どうしてもその本拠地の範囲は崖の大きさ以上には出来ない。

 だが地下なら、それこそかなり自由に本拠地を広げることが出来る。

 そういう意味でも、崖の中より地下の方が本拠地を作るのに向いているのは レイにも十分に理解出来た。


(ともあれ、こっちはこれでいいとして……いや、岩が落ちてこないように地下階段の周囲の岩を出来るだけ収納しておいた方がいいか)


 レイは背後から聞こえてくる戦闘音が明らかに小さく、あるいは減ってきたのを感じながらも、自分のやるべき仕事を行い続ける。

 今見えているのは、あくまでも地下に続く階段の一部だ。

 小柄なレイであれば何とか入ることが出来るかもしれないといった程度の隙間でしかない。

 だからこそ、レイは他の面々……この場にいる中では一番体格がいいレリューであっても入れるように、地下に続く階段の一部を塞いでいる岩を収納する。

 ただし、強引に岩を収納すれば、その岩の上にあった岩が落ちてきて大惨事……それこそ地下に続く階段が壊されたりもしかねない。

 だからこそ、レイは慎重に岩を収納していく。


(いやまぁ、階段を塞いだ程度なら、それこそミスティリングに収納すればそれでいいんだけどな)


 触れればそれだけでミスティリングに収納出来る以上、この状況で特に心配するようなことはない。

 ただし、岩が落ちた衝撃で階段が壊れると地下に向かう時に困る。


(問題なのは、この崖の崩落で本拠地にどれだけの被害が出ているか、か。……それにビューネ達の方がどうなってるのかも気になるな)


 ビューネ達のいる場所は、レイ達がいた場所からかなり離れていた。

 そうである以上、崖が崩れても特に被害らしい被害はないと思える。

 だが、それはしっかりとレイが自分の目で確認した訳ではない。

 もしかしたら、何らかの被害が出ているという可能性もあるのだ。

 もっとも、向こうにいるのも腕利きばかりである以上、不測の事態が起きても対処するのは難しくないと思えたが。

 そんな風に考えながら岩の収納を続けていると、やがて小さくなっていた背後の戦闘音が完全に消えたことに気が付く。


「終わったのか?」


 一息吐けるところまで岩を収納すると、レイは後ろの様子を確認する。

 レイが岩を収納している間……そして戦闘が行われている間も、周辺には土煙や雪煙が舞い上がっていた。

 だが、ある程度の時間が経ったことにより、土煙も雪煙も完全にではないが既に大分落ち着いている。

 目の前の数m先が見えないといったようなことはなく、ある程度の距離を見通すことが出来た。

 夜目が利くからこそ、月明かりしかない今でもレイはそれだけの距離を見ることが出来たのだが。


「終わったわ。何だかんだで、二十人くらいは襲ってきたわね」

「そんなにか」


 自分の側にいたマリーナの言葉に、レイは驚く。

 てっきりその半分……十人くらいの人数で襲撃してきたのではないかと思ったのだ。


「向こうにしても、まさか自分達の本拠地がいきなりこんな目に遭わせられるとは思ってなかったんでしょうし。……それにしても、地下ね」


 地面にある地下に続く階段を見たマリーナの言葉に驚きはない。

 納得の色だけが強くそこにはあった。

 マリーナも崖に敵の本拠地があるとは思っていなかったのだろう。


「ここを片付けたらすぐ地下に向かうことにしよう。……ビューネの方でも隠されている入り口を見つけて中に入っているのは間違いないだろうし」

「そうね。……それにしても、襲ってきた相手はどこから出て来たのかしら」

「どこかに隠し扉とかそういうのがあるんだと思う。出来ればそっちも見つけたいところだけど……」

「こっちの方が先でしょう?」


 マリーナは地下に続く階段を見ながらそう言う。

 レイもマリーナのその言葉に異論はないので、その言葉に反論はしない。


「そう言えば……マジックシールドは全部消えたみたいだな。まぁ、当然か。役に立ったか?」

「それなりに、といったところかしら。固定して壁代わりに使うのは、ちょっと難しいわね」


 どのような攻撃でも一度だけ防ぐ能力を持つ光の盾だが、それはつまりどんなに弱い攻撃を受けても消えるということを意味している。

 実際、今回の戦いの中でも光の盾のうちの一枚は穢れの関係者が牽制として放った短剣の一撃が端に当たったことによって消えたのだから。


「やっぱり俺が直接使わないと駄目か。……とはいえ、光の盾だけにどうしても目立つんだよな」


 今が夜だというのもあるのだろうが、そんな中で光の盾を使えばどうしても目立つ。

 穢れの関係者の本拠地に侵入するレイがそんなに目立ってしまえば、それこそ穢れの関係者達に怪しんで下さいと言ってるようなものだろう。


「あ、そう言えば……マジックシールドは穢れの攻撃も防げたか?」


 これはレイが少し気になっていたことだ。

 どんな攻撃も防げる光の盾と、触れた存在を黒い塵にして吸収する穢れ。

 いわゆる、矛盾が生じるのではないかと思っての問いだったが……


「残念だけど、穢れが光の盾に触れるということはなかったから、ちょっと分からないわね」

「そうか」


 その件は少し残念に思い……そんなレイとマリーナの側に、他の面々が集まってくる。


「レイ、何か見つけたのか?」


 エレーナの問いに、レイは視線を地面に……正確には地下に続く階段に向ける。

 レイの視線を追い、他の面々も地下に続く階段を目にする。


「これはまた……地下に本拠地があったのか。そうなると、崖が崩れても死んだ数は少ないとみるべきか?」

「多分少ないだろうな。ちなみに位置的に考えて、あの辺が指輪を使う幻影のあった辺りだと思う」


 レイが指さした場所には、既に何もない。

 それでも崖があった時の位置関係を考えると、その言葉はそこまで間違っていないように思えた。

 とはいえ、その件は別にそこまで重要なことではない。

 指輪を使わなくてもよかったという意味では、悪くないことだったが。


「あの指輪のある場所を壊すだけだった筈なのに、随分と派手に壊したわね」


 からかうようなヴィヘラの言葉。

 それは別に責めている訳ではないのは、ヴィヘラが浮かべている笑みを見れば明らかだ。

 そんなやり取りをしつつ、レイはレリューに視線を向ける。


「レリュー、魔剣はどうだった?」


 穢れに対する特効を持つ魔剣……その刀身に触れただけで穢れが死ぬという、穢れにとってはまさに最悪の魔剣を持つレリューだったが、その表情は微妙で決して満足しているようには見えない。

 もしかして、魔剣に何か問題があったのか?

 そうレイは思ったが、一応魔剣はトレントの森でレイだけではなく、妖精郷に護衛に来た騎士達にも使って貰って確認している。

 その時は特に何も問題がなかったので、今回も同じく問題がないと思っていたのだが。

 だがそんなレイの心配はすぐレリューによって否定される。


「いや、効果は発揮された。穢れを相手にした時は、それこそ触れただけで死んだ」

「その割には、あまり愉快そうな表情じゃないみたいだが?」

「……何と言えばいいんだろうな。俺は別にどこぞの女と違って戦闘狂って訳じゃねえ」

「へぇ」


 どこぞの女と言いつつ視線を向けられたヴィヘラは、面白そうな笑みを浮かべてレリューを見る。

 だが、そのレリューはそんなヴィヘラの様子を気にした様子もなく言葉を続ける。


「ただ、そんな俺でも戦闘をしている以上は……そう、敵を斬ったとか、そういう手応えがないと、本当に相手を倒したかどうか分からないんだよな」

「ああ、なるほど」


 レイが使うデスサイズは、魔力を流した状態では相手が金属鎧を着ていても、一切の抵抗もなく斬り裂くことが出来る。

 そういう意味では、敵を倒した時の手応えがないというのは、レイにとってそんなに珍しい話ではない。

 だが、それはあくまでもレイの話だ。

 そんなレイとは違い、レリューは普通に相手を斬り、その感触でどれだけのダメージを与えたのか、次の攻撃は必要なのかといったことを察知する。

 それは頭で考えるのではなく、感覚的なもの。

 そんな戦闘スタイルに慣れているレリューにしてみれば、触れただけで穢れが死んでしまう今の魔剣は、強力無比で今は必要なのは理解しているものの、それでも使いにくいと思ってしまうのだろう。


「悪いが、それについては慣れろとしか言えないな。それに魔剣を使うのはあくまでも今回の件だけだ。……いや、もしかしたらこの本拠地を探索したことによって、穢れの関係者の他の拠点を見つけるかもしれないから、その時はやっぱりレリューが参加することになるかもしれないけど」

「俺がかよ?」


 レイの言葉に嫌そうな表情を浮かべるレリュー。

 だが、レイはそんなレリューの様子を理解しつつも、恐らく自分の考えはそんなに間違っていないだろうと思う。

 ダスカーの立場としては、穢れの関係者について知る者は少なければ少ない方がいい。

 そうである以上、もし穢れの関係者の拠点の場所を新たに見つけても、そこに派遣するのは今回の件を知ってる者の方がいい。

 そして今回の奇襲に参加している者の中で魔剣の扱いに長じているのはレリューだ。

 ……実際にはエレーナもミラージュという連接剣の魔剣を持ってはいるが、貴族派の代表というエレーナの立場を考えれば、穢れの関係者の拠点を潰して欲しいと要請は出来ないだろう。

 もしやるとしたら、それこそ今回のようにエレーナが自分から志願した場合だが……それもダスカーの立場としては容易に許容出来ない。

 今回は穢れの関係者の本拠地を奇襲するという重大な役目があったので、エレーナの参加を断ることは出来ず、寧ろその参加を歓迎するようなことになってしまったが。


「……穢れの関係者の拠点か。その場合、レイとセトも参加するんだよな?」

「どうだろうな。俺は俺で色々とやるべきことはあるし」


 ギガントタートルの解体であったり、それこそレイが楽しみにしている迷宮都市に行くことだったり。

 もっとも後者の迷宮都市は、ダンジョンに挑戦する冒険者ではなく、その冒険者達を育てる為の冒険者育成校の教師としての派遣となるのだが。

 とはいえ、戦闘訓練の教師であって、時間的にそこまで縛りはない。

 空いている時間はダンジョンに挑むことが出来ると考えれば、レイにとって悪い話ではなかったが。


「いや、けど……穢れの関係者の拠点が新たに見つかった場合、そこにどうやって行くんだ? レイが……いや、セトがいないと、下手をすると移動するのにとんでもない時間が掛かるかもしれないぞ?」

「それは……」


 レリューの言葉はレイを納得させるのに十分だった。

 そもそも今回こうして少人数での奇襲となっているのは、それこそセトが運べるセト籠の広さを考えてのことだ。

 そのセトを使わずに移動するとなると、レリューが言うように時間が掛かりすぎる。

 それこそその拠点の場所によっては、数ヶ月……いや、下手をしたら一年掛かるという可能性も十分にあった。

 レリュー程の凄腕を、往復の時間を考えるとそれだけの間、ギルムにいないというのは、いざという何か……それこそモンスターのスタンピードが起きたりした時のことを考えると、あまりにも勿体ない。

 それを抜きにしても、異名持ちの冒険者をそれだけの間雇い続けるとなると、それこそ報酬は普通では考えられない額になるだろう。

 辺境の領主をしているダスカーなら出せる金額だろうが、出せるからといってほいほい金を使う訳にもいかない。

 ただでさえ、現在のギルムは増築工事中で出て行く金額の方が入ってくる金額よりも大きいのだから。


(あ、これ……もし拠点があったら、俺も参加しないといけない感じだな)


 レリューとの会話で、レイはそんな風に思うのだった。

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