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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3416/3865

3416話

 師匠についての話を誤魔化したレイは、マジックシールドを展開して土煙と雪煙がまだ収まらない崖……いや、崖の跡地とでも呼ぶべき場所を進む。


(これ、奇襲を防ぐ為にはいいかもしれないけど、寧ろ奇襲の目印になってないか?)


 全ての攻撃を一度だけは防ぐことが出来る、光の盾。

 だが、光の盾というからには当然光で出来ている訳で、夜の今はかなり目立つ。

 土煙や雪煙が舞い上がっている中であっても、光の盾は周囲から目立ってしまう。

 それこそ、ここに敵がいると離れた場所からでも十分に理解出来てしまうような、そんな光景。


(光の盾があると敵の攻撃を防げるけど、見つかりやすい。光の盾がないと敵の攻撃は自分で防ぐなり回避するなりする必要があるけど、見つかりにくい。……どっちもどっちか)


 それなら自分だけではなく他の者も守れる光の盾があった方がいいだろうと判断し、レイは歩みを止めない。

 実際にはレイと一緒に来ている者達も全員が精鋭と呼ぶべき腕利きである以上、もし奇襲があってもそれを回避するどころか、カウンターの一撃を放つのも難しい話ではない。

 もっとも攻撃手段が穢れであった場合は、下手にカウンターの一撃を放つと、それこそ穢れに触れることになり、それが致命傷になってもおかしくはなかったが。


「来ないな。もう大分崖に近付いてるし、そろそろ奇襲があってもおかしくはないと思うんだが」

「あの崖の崩れ方を見れば、隠し扉か何かの側で待機していた者がいても、崩れてきた崖に潰されただろう。馬鹿正直に崖が揺れてる間も隠し扉の側で待ち伏せをしていればの話だが」


 エレーナのその言葉には強い説得力があった。

 とはいえ、レイはエレーナが言うように馬鹿正直に待ち伏せをしていたという可能性はかなり高いだろうと思っていたが。

 何しろ相手は狂信者と呼ぶべき者達だ。

 自分達の目的……世界を滅ぼすということを邪魔する相手を殺す為なら命を懸けるのはおかしな話ではない。

 寧ろ当然といったようにそのようなことをしてもおかしくはなかった。

 もっとも、穢れの関係者の中にも色々といる。

 中には世俗に染まっているような者もいるだろう。

 ……そのような者が本拠地にいるとは限らないし、いても自分達を待ち伏せする為に半ば捨て駒になるとはレイには思えなかったが。


「とにかく……」


 そうしてレイが何かを言おうとしたものの、不意にその言葉を止める。

 レイの様子から、もしかして敵の奇襲でもあったのかと思った者が何人かいたが、それは違う。


「到着だ」


 そう言うレイの視線の先には、文字通りに瓦礫の山がある。

 崖のあった場所……つまり、崖が崩れた場所に到着したのだ。


「うわ、これ……どうするんだよ? ここに敵の拠点があっても、どうやって中に入る?」


 光の盾の明かりで崖の崩れた場所を見たレリューが嫌そうな様子でそう言う。

 何しろ崖が崩れたということは、穢れの関係者の本拠地に繋がる通路の類も潰されているということになる。

 当初は崖の入り口部分だけを地形操作によって破壊する予定だったのだが、崖に施された強化が予想以上に強く、結果として崖そのものが完全に崩れてしまっていた。

 この状況で穢れの関係者の本拠地に侵入するのは、かなり難しい。

 巨大な岩の塊は、一つで数百kgはあってもおかしくはない。

 そんな大きさの岩が、それこそ文字通りの意味で山となって積まれているのだ。


「安心しろ。普通なら無理でも、俺なら……いや、ミスティリングがあればどうにかなる」


 そう言い、レイは一番近くにある岩に触れ……次の瞬間、その岩は消える。

 ミスティリングに収納されたことを見ていたレリューが理解するよりも前に、次々と岩を収納していく。

 何しろ、岩は落下してきた勢いで積み重なっている状態だ。

 下にある岩を一つ収納すれば、自然とその分の岩が上から落下してきてもおかしくはない。

 そうならないよう、レイは次々と……それこそゼパイル一門によって作られた身体の能力を最大限活かすようにして、岩をミスティリングに収納していく。

 それこそ収納して出来た岩の隙間に次の岩が落ちるよりも前に、素早く次の岩を収納し、更にその上の岩を収納し……といったことを繰り返していき……


「エレーナ!」

「分かっている!」


 そんなレイの様子を見ていたヴィヘラが素早くエレーナの名前を呼ぶ。

 その声を聞いた瞬間……いや、聞くよりも前に動いたエレーナは、連接剣のミラージュを素早く振る。

 キン、という甲高い金属音が周囲に響き、地面に短剣が落ちた。

 何が起きたのかは、考えるまでもない。

 だが、レイはその音を聞いても、そして穢れの関係者達とエレーナ達が戦っている戦闘音を聞いても、岩を収納することはやめない。

 代わりに光の盾を戦闘となっている場所に向かわせる。


「こっちは岩の収納で手が離せない! 光の盾をそこで固定しておくから、それを壁代わりに使ってくれ!」


 もし今ここで岩を収納するのを止めれば、間違いなく岩は崩れるだろう。

 そうならないように、レイは崩れそうになる岩や、数手先に崩れるだろう岩を次々と収納していた。

 光の盾を戦場に向かわせたのは、せめてもの援護だ。

 光の盾はどんな攻撃でも一度だけは防げる。

 ……それはつまり、一度防げば光の盾は消えてしまうということを意味してもいたのだが。

 それでも襲撃してきた穢れの関係者との戦いにおいては、十分有益だろう。

 そう思いながら、レイは岩を次々に収納していく。







「レイを守れ!」


 エレーナの指示に従い、レイを守るのを最優先にしながら襲ってきた穢れの関係者を倒していく。

 不幸中の幸いだったのは、襲ってきた者達の中に穢れを使える者は少なかったことか。

 穢れを使える者は穢れの関係者の中でも階級の高い者が多い。

 このような奇襲にそのような階級の高い者を派遣するのを面倒に思ったのか、あるいは崖崩れによって穢れを使う者達が死んだのか。

 その辺はエレーナ達にも分からなかったが、それでも穢れを使える敵が少ないのはエレーナ達にとって幸運だった。


「光の盾が一枚消えたから、気を付けて!」


 弓を手に、マリーナが仲間に告げる。

 どんなに強力な攻撃であっても、一度は防げる光の盾。

 しかし、その光の盾はどのような攻撃であっても一度防げば消えてしまうのだ。

 それこそ渾身の一撃で放たれた武器の一撃であろうと、その辺の石を拾って軽く投擲した程度の攻撃であっても。

 それはある意味光の盾の弱点でもある。

 もっとも、レイにしてみれば光の盾はそういう能力であると最初から割り切っているので、それを弱点とは全く思っていなかったのだが。


「殺せ! 殺せ殺せ殺せ!」


 憎悪に染まりきった、怨嗟の叫びとでも呼ぶべきような叫びが周囲に響く。

 襲撃してきた者……穢れの関係者達にしてみれば、自分達の理想も理解出来ず、それを邪魔しに来た者達だ。

 ましてや、自分達の本拠地に対して大きな被害を与えた存在を許すことなど出来なかった。

 殺意を剥き出しにしながら襲い掛かる穢れの関係者達。

 だが……不幸なことに、襲撃をしてきた者達の中に穢れを、御使いを使える者の数はあまりに少ない。

 これはレイやエレーナ達の予想が当たっており、崖の中……指輪を使って初めて開く扉のすぐ前で奇襲をしようと準備をしていた者達の多くが崖の崩壊によって死んだからだ。

 多少の例外はあれど、穢れの関係者の中で穢れを自由に使うことが出来るのは、相応の地位にいる者……穢れ、いや、御使いに対して半ば信仰心に近い思いを抱いている者達だ。

 それだけに自分達の本拠地を攻撃しにきた……どころか、カモフラージュとして使っている一種の側とはいえ、その崖を攻撃するような相手を許せる筈もなく……幾ら崖が揺れても隠し扉から入ってくるだろう相手を殺す為の行動を止められる筈もない。

 そのような者達は、崖に対する攻撃を認識していても崖が崩れるとは思ってもいなかったのだろう。

 実際、レイの地形操作を使ってもかなりの時間崖はその攻撃に耐えていたのは間違いなく、それを思えば待ち構えていた者達の考えも決して間違っている訳ではない。

 ただ……予想外だったのは、それを行ったのがレイという規格外の存在だったことだろう。

 結局穢れの関係者によって長年強化されてきた崖も、レイの――正確にはデスサイズの――地形操作というスキルには抵抗出来ず、最終的には待ち伏せをしていた多くの者を道連れに崖が破壊されてしまった。

 その為、ここにいるのは穢れを使えない……自分が直接戦うしかない者達も多い。

 だがさすがに本拠地と言うべきか、そのような者達であっても御使いに対する信仰心は狂信的であった。

 ……とはいえ、そんな穢れの関係者と戦っている者の中には穢れに対する特効を持つ魔剣を持つレリューに、浸魔掌という一撃で穢れを殺すことが出来るスキルを持つヴィヘラがいる。

 マリーナも精霊魔法は穢れの影響で自由に使うことは出来ないが、その弓の腕は達人と呼ぶに相応しい。

 他の面々も、穢れを使ってこないで生身で攻撃してくる相手には存分に実力が発揮出来る。

 幾ら襲ってくる者達の士気が高い……いや、高すぎて半ば暴走している状態であっても、それだけでお互いの実力差が完全に埋まる訳ではない。

 元々の実力差が大きい以上、勝敗は予想以上に短い時間で決まる。


「もう少しで終わるようよ」


 岩の収納をしているレイにそう声を掛けたのは、マリーナ。

 弓で攻撃をしてるので、敵からある程度距離を取る必要があるというのも、レイの側までやってきた理由だろう。

 同時に、岩を収納しているレイの護衛を行うという意味でも、レイの側にいた方がいいと判断したらしい。


「そうか。こっちも……ある程度の収納は終わりそうだ。そっちの戦いが片付いたら、本格的に探索が出来ると思う」


 ミスティリングは、基本的に触れればそれを収納出来る。

 つまり、本来ならとてもではないが移動させるのが難しい岩であっても、レイはそれに触るだけでいい。

 その上、この岩はレイにとってはそれなりに使い道がある。

 具体的には、セトに乗って上空を飛んでいる時に地上に向かって岩を落とすといったように。

 上空から数百kg……あるいはそれ以上の重量の岩が落ちてくるというのは、地上にいる者にとっては悪夢でしかない。

 鎧や盾といった防御手段があっても、その重量の岩が上空……それもセトが基本的に飛ぶ百mの高度から落とされたらどうなるか、考えるまでもないだろう。

 それ以外にもレイの代名詞とも呼べる火災旋風を作った時に、その威力を増す為に小さめの岩や石を火災旋風に入れたり、崖は穢れの関係者によって強化されていたことを考えれば、岩を研究すれば何らかのマジックアイテムを作れるかもしれない。

 その為、レイはひたすら岩をミスティリングに収納するという作業も苦にならない。

 これで実は岩を収納するのにもっと厳しい制約……それこそ岩を自分の手でしっかりと持たないといけないといったものがあれば、レイも多少は苦労したかもしれないが。

 幸いなことに、そのような制約はない。


「頑張ってね。こっちも……少し大変だけどね」


 そう言いつつ、矢を射るマリーナ。

 普通に考えれば、夜、土煙、雪煙といった悪条件で狙った相手を射貫くのは難しい。

 だが、それはあくまでも普通の……凡庸な能力しか持たない者の場合だ。

 マリーナは精霊魔法程に突出している訳ではないが、それでも弓の使い手としては一流でもある。

 もっとも、今は精霊魔法を使えないので実力を最大限に発揮出来ている訳ではないのだが。

 もし穢れの影響がなく、精霊魔法が自由に使えるのなら、風の精霊によって矢の軌道をある程度曲げたり、土や水によって、地面を踏んだり人間の身体が持つ水分から今のように見えにくい場所でも相手の存在をしっかりと把握出来たりといったことが出来る。

 そのような精霊魔法と弓を併用した場合、それこそ百発百中の腕前となる。

 遮蔽物に隠れていても、風の精霊魔法によって軌道を曲げられた矢によって射貫かれ、どこかに隠れていても土や風の精霊魔法でその存在を察知される。

 穢れの影響がある今の状況ではそこまで出来ないが、それでも十分凄腕と呼ぶべき能力を持つのがマリーナだ。


「後どのくらいで片付く?」

「そうね。襲ってきた人数は結構多かったけど……もうすぐでしょうね」


 先程聞いた時と比べても、間違いなく事態は進んでいる。

 それなら自分ももう少し頑張ろうと思ったレイが地面の一番下にある岩が、周囲に影響はないだろうと判断して収納し……


「え?」


 岩を収納した後に出て来た、地下に続く階段を見て、レイの口から驚きと納得の声が上がるのだった。

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