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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3413/3865

3413話

「なるほど。穢れの関係者にしてみれば、自分達の本拠地がレイによって破壊されようとしてるんだから、それを防ごうとするのはおかしくないか」


 キャリスから事情を聞いたレリューは、遠くに見える崖……未だにレイの地形操作に耐えている崖を見ながら、そう言う。

 もっとも崖が耐えることが出来るのは、恐らくそう長くはないだろう。

 それを示すかのように、レリューは遠くからでも分かる崖から落ちる岩を眺める。

 月明かりしかないので、崖から落ちているのが本当に岩なのかどうかは分からない。

 分からないが、それでも崖から落ちるとなると、それくらいしか思い浮かばないのは間違いないなかった。


「ともあれ、よくやってくれた。後は、この死体になった連中がどこから出て来たのかを調べれば、そっちからも中に侵入出来るかもしれないな。それをどうにか見つけられないか?」


 レリューの言葉に、キャリスは困った様子を見せる。

 キャリス達はダーリッジ達を倒したのを見れば分かるように、戦闘力という点では間違いなく秀でている。

 だが、探索能力が優れているかと言われれば、それは否だ。


「ん!」


 そんな中、岩に擬態していたイエロの側にいたビューネが声を上げる。

 とはいえ、その声の意味はキャリスにも、そしてレリューにも理解は出来ない。

 もしここにヴィヘラが……あるいはヴィヘラ程ではなくても、ビューネと一緒にいる時間が長いので何となくだがその言葉の意味を理解出来るレイ達がいれば、すぐにビューネが何を言いたいのか理解出来ただろう。


「えっと……?」

「いや、俺に聞かれても分からない」


 キャリスが視線でレリューに尋ねるも、即座に否定する。

 キャリスと比べれば、レリューの方がビューネとの付き合いは長い。

 長いが、それはあくまでもギルムからここにやって来るまでの時間だけでしかない。

 そんなレリューにビューネが何を言ってるのかと聞かれても、分かる訳がなかった。

 キャリスとレリューの様子を見て、自分の意思はこのままだと伝わらないと判断したビューネは、それ以上は何も言わずに行動に移る。

 イエロを抱いて向かったのは、ダーリッジ達が出て来た方向。

 自分なら、もしかしたら隠されている入り口を見つけられるかもしれないと、そう思っての行動だった。


「あ、そう言えば盗賊だったな」


 そんなビューネの行動で、レリューはようやく納得する。

 レリューにとってビューネというのは、あくまでも自分達が守る存在という認識だった。

 それこそ正直な気持ちを言わせて貰えば、何故穢れの関係者の本拠地の襲撃という重大な任務にビューネのような子供を連れてくるのかといった疑問すら抱いていた。

 マリーナの家に住んでいる全員が今回の奇襲に参加している以上、ビューネのような子供を一人残してくるのが心配なのは分かる。

 だがそれなら、誰かに預けるなり、宿屋に泊まらせるなりすればいいだろうと。

 レリューは知らなかったが、今もまだレイは夕暮れの小麦亭に部屋を借りている。

 つまりレイがその気になれば、ビューネを夕暮れの小麦亭に泊まらせておくといったことも出来たのだ。

 それでもビューネを連れてきたのは、やはり心配であったのと……そして盗賊としての技能に期待してのものだった

 ビューネもそれが分かっていたからこそ、今この場では自分が行動するべきだと判断したのだろう。


「盗賊? この子が?」

「ああ。とはいえ、レイが連れているのを見れば分かるように、悪い意味での盗賊ではなく冒険者としての盗賊だけどな」

「でしょうね」


 レイが盗賊喰いと呼ばれ、盗賊達に恐れられているのはキャリスも知っている。

 それだけに、レイが悪い意味での盗賊を仲間にするとは思えなかった。

 ……もっとも、何にでも例外はある。

 具体的には、元盗賊――ただし非道な行いはしていない――のエッグのように、ギルムの裏に関係する人物としてスカウトし、ダスカーに推薦したりもする。

 もっともそれは本当に例外中の例外で、大多数の盗賊はレイによって殺されるか、犯罪奴隷として売られるかといったことになったのだが。


「そんな訳で、盗賊なら隠されている入り口とかも見つけられるかもしれないから、手を出さないで黙って見ておいた方がいい。……いや、もしかしたらこの連中が戻ってくるのが遅いと思って追加の人員がくるかもしれないから、護衛を何人か一緒にいさせた方がいいな」


 レリューの意見はキャリスももっともだと思ったのか、部下の何人かに視線を向ける。

 その視線を向けられた者達は、何を言うでもなくビューネのいる方に向かう。


「それで、もし隠された入り口とかを見つけたら、どうするんだ? 生憎だが俺達はレイさんからビューネを守るように言われてるから、手を出せないが」

「だろうな。そうなると……まぁ、あっちにいる戦力をある程度分割してこっちに回すだろうな。今の時点でも戦力過剰のような感じだし」


 敵の強さ、厄介さについてはレリューも当然のように理解している。

 しかし、理解はしているものの、突入組の戦力が過剰なのも事実。

 レイ達一行。……これだけで、純粋な戦力としては強大無比だろう。

 それ以外にもランクA冒険者や異名持ち、若手のホープ、そしてダスカーに仕える騎士の中でも腕利きが二人。

 一体どんな相手と戦うのかと言われても、即座に答えるのが難しい戦力ではある。

 それだけに、レイが行っている指輪を使って中に入る……正門とでも呼ぶべき場所から中に入る面々以外にも、隠された裏口とでも呼ぶべき場所から入る戦力がいても問題はない。

 そうレリューは思っていたし、レイに話を聞いても恐らく同じように判断するだろうと思えた。


「分かった。こっちから人を出さなくてもいいのなら、問題ない。……けど、それはあくまでも見つけられるかどうかだろう? 本当に大丈夫なのか?」


 キャリスの目から見て、ビューネは子供だ。

 勿論、子供だからといって侮ることは出来ない。

 それはレイを見れば明らかだろう。

 レイも外見だけを見れば若い。……それこそ、レイの外見の年齢からすれば成長期だと思うのだが、数年前に見た時と今のレイを見てもとても成長してるようには思えない。

 もっとも、これが日本なら不思議に思う者もいるだろうが、ここはエルジィン……剣と魔法の世界だ。

 エルフや一部の獣人のように寿命が人よりも長い者はそれなりにいる。

 また、魔法使いは魔力を持っているので、それが理由で寿命が長くてもおかしくはない。

 そんな訳で、レイの外見については若干気になるも、その程度でしかない。

 ……寧ろ、もしかしたらビューネも外見と実際の年齢が違うのではないかと思ってしまう。


「取りあえず、俺はここで起こった件をレイに知らせてくる。……あの様子を見ると、崖が崩れるのはそう遠くないだろうし」

「分かった。頼む。レイさんに負担を掛けるのはあまり好ましくないが、それでも今は頑張って貰う必要があるしな」


 そうして言葉を交わすと、レリューはレイ達のいる場所に向かう。

 レリューの後ろ姿を見送ったキャリスは、真剣な表情で部下達に向かって口を開く。


「俺達はここで待機だ。ビューネの護衛に向かった者達は、相応の装備を持っているな?」

「レイさんから預かったミスリルの釘は持っています。ブルーメタルの鋼線は持たせられませんでしたが」

「それは仕方がない。まさかレイさんもこんなことになるとは思っていなかっただろうし」


 ミスリルの釘は、穢れを相手にするのに十分に使える。

 だが、ブルーメタルの鋼線があればミスリルの釘を多く持つ必要はない。

 そもそも穢れに向かって実際に使うのがミスリルの釘だが、ブルーメタルの鋼線は地面に置いたり埋めたりして、拠点防衛用として使うのを想定されているのだから。

 そうである以上、ブルーメタルの鋼線を持たせられなかったという部下の報告を聞いても、キャリスは特に怒ったりはしない。

 また、部下達の実力も十分に理解しているので、何かあってもビューネを守ることは出来るだろうと思っていた。


「後は、ビューネが隠された入り口を見つけるのを待つだけだな。……出来れば早くレリュー達がやって来る方がいいのだが」


 そう呟くキャリスだったが、ちょうどそのタイミングでここに向かって近付いてくる気配を察知する。

 それでも激しく反応しなかったのは、気配がしたのがレイ達のいる方……レリューが去った方向だったからだ。

 レリューの話を聞いてからやって来たには少し早すぎるとは思ったが、それでも敵意や殺気の類を感じないのも、迎撃の準備をしない理由だった。


「セトちゃん、大丈夫!?」


 そしてやって来たのは、一人の女。

 それも外見は間違いなく美人と評するだろう顔立ちの整った女……ミレイヌだ。

 キャリス達の前に止まると軽く頭を下げ、すぐにセトに向かって突撃する。


「そう言えば、あんなのもいたな」


 若干……いや、かなりの呆れと共にキャリスが呟く。

 キャリスはそこまでミレイヌと親しい訳ではない。

 だが、レイが地形操作で作った建物――もしくは洞窟――の中で待っている間、ミレイヌがセトを相手に可愛がっていたのをその目で見ている。

 その光景を見れば、ミレイヌがどのような性格をしているのかはすぐに分かってしまう。


(この女が一応ギルムの若手の中でも出世頭の一人って……本当に大丈夫か、ギルム?)


 キャリスは真剣にミレイヌの様子を見て、そのような感想を抱く。

 もっとも、ギルムにはレイがいる以上、ミレイヌが多少問題のある性格をしていてもどうにかなるだろうと思えたが。


「えっと、その……ミレイヌさん? レリューさんの話を聞いて来てくれたのよね?」


 セトを愛でているミレイヌに、キャリスの部下の一人が恐る恐るといった様子で尋ねる。

 するとミレイヌは顔を尋ねた女に向け――それでも手はセトを撫でたままだったが――て頷く。


「ええ、そうよ。そこに転がってるのが襲ってきた穢れの関係者達? 私が来たからにはもう安全よ!」


 そう断言するミレイヌだったが、セトを撫でている様子を見れば本当に大丈夫なのか? という疑問を抱いてしまう。

 とはいえ、それでもレイが連れてきた以上は腕利きなのは間違いない。


「それでこっちの話については聞いてるか?」


 取りあえず話が出来ると判断したのか、部下に代わってキャリスが尋ねる。

 現在こちらでビューネが隠されている入り口を探している。

 その入り口から戦力を派遣するにも、今ここにいるのはミレイヌだけだ。

 まさかミレイヌだけを穢れの関係者の本拠地に突入させたりはしないだろうと、レイの性格を十分に理解しているキャリスが尋ねると、ミレイヌもすぐに頷く。


「ええ、向こうからもう何人か寄越すそうよ。もっとも、多くても二人くらいでしょうけど。結局向こうが本命なんだし」

「いや、だが……向こうでは派手に動いているんだろう? なら、こっちから入る方が本命でもおかしくないと思うが」


 敵の意識が崖のある方に向いている以上、こちらを本命として多くの人員を使ってもいいのではないか。

 そうキャリスは思うのだが、ミレイヌは首を横に振る。


「穢れの対処をする方法は少ないわ。しかも周囲に被害を出さずに倒すことが出来るのは魔剣を持つレリューと自分のスキルで対処出来るヴィヘラだけ。そうなると、きちんとした戦力は纏まっていた方がいいのよ」


 レイやエレーナも穢れを倒す手段はあるが、レイの場合は魔法の効果範囲内のモンスターを殺すので、穢れを殺すにもある程度の広さが必要となる。

 エレーナにいたっては、竜言語魔法を使って殺すのでレイの魔法以上の広さに影響が出る。

 トレントの森でエレーナが穢れを倒した時、その影響によってトレントの森に大きな被害が出た。

 それを思えば、まさか崖の中にある穢れの関係者の本拠地で竜言語魔法を使う訳にはいかない。

 そのようなことをすれば、それこそ穢れの関係者の本拠地そのものが破壊されてしまう。

 他にどうしようもなければ、そのような手段も仕方がないだろう。

 だが、今は少しでも穢れの関係者についての情報が必要で、可能なら他の拠点がどこにあるのかの情報を集める必要もあった。

 ……そもそも、本拠地を破壊するだけならレイの使っている地形操作で崖だけではなく周辺一帯、それこそ穢れの本拠地が広がっている場所全体を破壊すればいいだけなのだから。

 もしかしたら、崖のように何らかの強化がされている可能性は十分にあったが。

 本来なら魔剣はエレーナが持つ筈だったものの、現在は旅の途中の話し合いもあってかレリュ-が持っている。


「分かった。どのみち俺達は中に突入するんじゃなくて、ビューネを守っているんだしな。レイさんがそう判断したのなら、それで構わない」


 ミレイヌの説明に、キャリスはそう自分を納得させるのだった。

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[一言] ブルーメタルで電車ごっこしながら進めば安全なのでは? ただし見た目は気にしないものとする
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