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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3409/3865

3409話

 地形操作で穢れの関係者の本拠地の入り口と思しき場所を破壊する。

 そう告げたレイの言葉に対する反応は二つに分かれる。

 レイについて詳しく知ってる者達は、レイが判断したのならそれで構わないと。

 レイについて詳しく知らない者達は、何とかして指輪を使った方がいいのではないかと。

 そんなやり取りを、レイ達は幻影からかなり離れた場所で行っていた。

 あのような場所……穢れの関係者の本拠地の入り口のすぐ側で騒いでいれば、向こうに気が付かれる恐れがある。

 場所が場所だけに、近付いた時点で既に見つかっていてもおかしくはないのだが。

 しかし、幸いなことに今はまだ穢れの関係者が攻撃をしてくる様子はないし、偵察に来るといった様子もない。

 なので取りあえず安心だろうと判断しての行動だった。


(とはいえ、本拠地のすぐ側で騒いでいる時点でもう気が付かれてもおかしくはないんだが。何しろ相手は、数百年以上も昔……あるいは千年に達する程の昔から密かに活動を続けてきた組織なんだし)


 一種の秘密結社と呼称しても間違いではない存在だ。

 今回の一件もボブが偶然穢れの関係者の儀式をやってる場所に迷い込むようなことでもなければ、穢れの関係者についてレイが知ることはなかっただろう。

 そういう意味では、本人にあまり自覚はなかったが、ボブのファインプレーでもあった。


「……あ」

「レイ?」


 不意にレイの口から出た意味ありげな言葉に、ヴィヘラが不思議そうな視線を向ける。

 そんなヴィヘラに釣られるように、他の面々もレイに視線を向けた。

 多くの者の視線に押されるように、レイは口を開く。


「穢れの関係者はかなり秘密裏に行動してきた連中だ。そうである以上、俺達が幻影の側にいたのに、気が付かないということはないと思う。なのに、何故あの時点で姿を現すなり、あるいは先制攻撃をしてこなかったと思う?」

「それは……こっちの存在に気が付いてなかったからとレイは考えてないのよね?」


 セトを撫でながらのミレイヌの言葉に、レイは当然といった様子で頷く。

 このような話をしている中でも、セトを撫でているのはある意味でミレイヌらしいと言えばらしかった。


「かなり昔から人知れず行動してきた連中だ。そんな迂闊な真似をするとは思えない。特に今は、オーロラが使っていた拠点が潰されてから、まだそんなに経ってないんだぞ? 間違いなく警戒している筈だ」


 穢れの関係者に本拠地以外の拠点が一体どれくらいあるのか、正直なところレイは分からない。

 だが、それでも穢れの関係者の隠密性や、何より目的を考えると所属している者は決して多くない筈だった。

 そんな中で拠点の一つが潰されたのは、穢れの関係者達にとって大きな……大きすぎる痛手であり、その情報を聞いた者達が受けた衝撃が一体どれだけのものなのかは考えるまでもないだろう。

 だからこそ今が冬で、この季節に奇襲を仕掛ける訳がないと思っていても、それでも状況が状況である以上、警戒は厳重になっている筈だった。


「もしかしたら……本当に万が一の可能性だが、オーロラの拠点の一件がまだ知らされていない可能性もあるけど、それは期待出来ないしな」


 普通に考えた場合、オーロラのいた拠点からこの本拠地まではかなりの距離がある。

 ましてや季節は冬で、今となっては雪も降っている。

 そんな中を移動して拠点の件を連絡するのは、かなり難しいだろう。

 普通なら、本拠地まで情報を届けるのも苦労する。

 だが……穢れの関係者は、穢れをトレントの森に転移させるといったことが出来るのだ。

 それを使えば、何らかの……それこそ直接人が行き来するといった方法を使わずとも、連絡が出来る可能性は十分にあった。

 長年自分達の存在が明らかになっておらず、しかも今は冬なので攻撃を仕掛ける者はいないだろう。

 そんな風に油断をしてくれるのがレイにとっては最善の状況ではあったが、まさかそのような楽観的な予想を信じて行動する訳にもいかない。

 レイにしてみれば、そうなってくれるともの凄く助かるのは事実だったが。


「そんな訳で、俺達の存在は既に穢れの関係者達には見つかっているのを前提で考えた方がいい。もしかしたら見つかってないかもしれないけど、そんな希望的観測を前提にするのは不味いしな」


 レイの説明に、他の面々も素直に頷く。

 レイ達と一緒に来た面々は精鋭で、穢れの関係者がどれだけ危険な組織なのか十分に理解している。

 キャリス達は穢れの関係者についてはそこまで詳しくないものの、レイの実力を知ってるキャリスがいて、そのキャリスを全面的に信頼している部下達がいる。

 これであからさまに嘘っぽければ、キャリスの部下達もキャリスに忠告するだろう。

 しかしレイの口から出た言葉は、規模こそ大きすぎるものの、納得出来てしまう。

 勿論、色々と気になるところはあるが。


「つまり?」


 強敵との戦いを思い浮かべたのか、ヴィヘラが獰猛な……それでいて凄絶なまでに美しい笑みを浮かべてレイに尋ねる。

 そんなヴィヘラの笑みに少しだけ目を奪われたレイだったが、悪いと思いながら言葉を続ける。


「つまり、穢れの関係者は恐らくだが、指輪を使って本拠地の中に入ってすぐの場所で俺達を待ち受けている可能性が高いと思う。こっちが奇襲をしようとするのを、向こうが奇襲で返すといった形だな」


 レイの説明に、それぞれが納得した様子を見せる。

 全員が完全に納得したといった様子ではなかったものの、それでもレイの言葉には一理あると思ったのだろう。


「そんな訳で、地形操作を使って本拠地の入り口の中にいるだろう敵を纏めて殺す。……これまでの俺の話は、あくまでも予想でしかない。もしかしたら考えすぎで、実は全く俺達に気が付いていないという可能性もあるが」


 これまで長い時間、穢れの関係者達が自分達の存在を知られずにいたのは間違いない。

 そうなると、見つからないのが常態化している……つまり、何をしても見つからないと思って完全に油断している可能性もあるのだが、それこそ楽観的な予想だろう。


「分かりました。レイさんがそう言うのなら、俺は問題ありません。どのみち俺達はビューネの護衛をする役目なので、内部の侵攻に関してはあまり関係ないですしね」


 本来なら、キャリスも元遊撃隊ということで相応の実力を持っており、レイ達と共に穢れの関係者の本拠地の奇襲に参加してもおかしくはない。

 だが、それはあくまでもキャリスが一人ならの話だ。

 今のキャリスは部隊を率いる身である以上、その部下達の指揮をする必要もある。

 あるいは、レイ達の戦力が少ないのなら自分も協力すると言っただろうが、レイ達の中でキャリスが確実に勝てると断言出来るのは、それこそ護衛対象のビューネくらいだ。

 アーラやミレイヌといった突出した強さを持つ訳ではない面々と戦っても、確実に勝てるとは言えなかった。

 だからといって自分が絶対に負けるとも思ってはいなかったが。


「頼む。ビューネの護衛については、ブルーメタルの鋼線があれば取りあえず穢れは近付いてこない筈だ。基本的に穢れの関係者の中でも穢れを使う者は腕利きだが、それはあくまでも穢れが厄介ということで、それを操っている者はそうでもない。これはあくまでも他の拠点で戦った時に感じたことだから、本拠地ともなれば生身でも普通に強い奴がいる可能性はあるが」

「ただ、そのように強い者がいても、それこそレイさん達の方に行くかと」

「だろうな」


 レイもキャリスの意見には異論はないので、素直に頷く。

 普通に考えて、本拠地が襲撃されているのに、その迎撃を行うのではなく敵の拠点――この場合はビューネのいる場所――に襲撃に向かうというのは、明らかにおかしい。

 本拠地を奇襲してきた相手を撃退した後でなら、レイもそのような、行動が分からないではなかったが。

 そんな訳でビューネ達が腕利きの敵に襲われる可能性は……皆無とまではいかないが、それでもかなり低いのは事実。


「でしょう? だから、護衛の方は安心して下さい。それに……セトもいるんですよね?」

「グルゥ?」


 急にキャリスに自分の名前を呼ばれたセトは、ミレイヌに撫でられて気持ちよさそうに目を瞑っていたが、どうしたの? と喉を鳴らす。

 それだけで、数秒前までの張り詰めた雰囲気が、どこかほんわかとしたものに変わってしまう。

 そんなセトの様子に笑みを浮かべながら、レイは口を開く。


「そうだな。セトの大きさを考えると室内での戦いは……無理って訳じゃないかもしれないけど、身動きがしにくいという時点で不利になる。ましてや、今回の敵は触れただけで致命傷になる穢れを使うし」


 ブルーメタルの鋼線をセトのどこかに巻けばいいのでは?

 一瞬そう思ったレイだったが、それでも万が一を考えると危険なのは間違いない。

 触れるだけで致命傷になる穢れが襲ってくるのに、体長三mオーバーのセトともなれば、通路や部屋の中でろくに身動きが出来ない可能性もあった。

 その辺の状況を考えると、やはりここはセトは穢れの関係者の本拠地に入らない方がいいとレイには思えた。


「グルルゥ……」


 レイの言葉にセトが残念そうに喉を鳴らす。

 それでも、レイに無理を言って一緒に行っても、足手纏いになるだけだと分かっているのか、それ以上は自分が行きたいと喉を鳴らさない。


「そんな訳で、もしこっちに敵がやって来てもセトがいれば安全だろう?」

「そうですね」


 レイの言葉にキャリスは一切疑問を感じる様子もなく、素直に頷く。

 内乱の時、遊撃隊の面々はレイやセトとの模擬戦を何度も……それこそ数え切れない程に行った。

 それだけに、セトが一体どれだけの強さを持っているのかは、十分に理解出来ていた。

 キャリスの部下達はそんな隊長の様子に若干思うところがあったようだったが、それでも隊長が言うのなら……と、異論を口にすることはない。


「それとさっきも言ったが、俺が地形操作で入り口付近は壊すつもりだ。その際、こっちにも何らかの影響……端的に言えば地面が揺れたりとか、そんな風になると思うけど、それで動揺したりしないでくれ」


 大規模に地面を動かす以上、当然ながら周囲にもそれなりに被害が出てもおかしくはない。

 レイとしては、それで妙な風に騒いだりして欲しくなかった。

 具体的には、地面が揺れたことに驚いてパニックになったりといった具合に。

 地震の多い日本に住んでいたレイにしてみれば、地面が軽く揺れる程度の地震は慣れているので、そんなに騒ぐようなことはない。

 だがそれは、あくまでも地震大国と呼ばれることもある日本に住んでいたからだ。

 地球全体で考えた場合、それこそ一生に一度も地震を経験しないという者も決して少なくないのだ。

 そういう意味では、少し揺れた程度の地震では全く驚いたり騒いだりしない者が多い日本という国は色々と特殊なのだろう。


「任せて下さい。レイさんが何をやろうと、今更驚きはしませんよ。部下達も……多分大丈夫だと思います」


 キャリスは内乱の時、レイが炎の竜巻を複数生み出し、敵の野営地を焼いた光景を見ている。

 そんな天変地異を操るレイなのだから、何をやっても驚くようなことはない。

 寧ろレイだからということで、強く納得すらしてしまうだろう。

 キャリスの部下達は、そんな二人の様子に多少なりとも疑問の目を向ける。

 レイについてはキャリスから聞かされているので知っているし、何より深紅の異名を持つレイは良くも悪くもベスティア帝国では有名だ。

 だが……それでも、今のような状況で本当にレイが口にしたようなことが出来るのかと、そう思ってしまう。

 この辺は、実際にレイの力を間近で見たことがあるキャリスと、そういう力を持つと人から聞いて情報しか知らない者の違いだろう。

 それはレイにも何となく理解出来たが、今からわざわざ自分の力を見せて納得して貰ったりしている時間はない。

 それなら、地形操作で崖を破壊する光景を見せて、それで納得して貰った方が手っ取り早いだろう。


「じゃあ、行くか」


 エレーナ達に視線を向けてそう言うと、その場から崖のある方に向かう。


「そうそう、崖を破壊したら、多分精霊魔法は使いにくくなると思うから、雪や風の制御も難しくなると思ってちょうだい」


 最後にマリーナがそう言うと、キャリスが言葉に詰まる。

 今は何故か……いや、レイが予想している限りでは穢れの関係者の存在を他の者達に知られる危険を少しでも減らす為に、何らかの手段を使って今のようにしてるのだろうが。

 しかし、崖を壊されてそれでも精霊魔法がそのまま使えるとは到底思えない。

 そうなると、現在は風や雪に干渉して快適な状態を保っている環境がそのままということは有り得ない。

 キャリスは結局それ以上何も言わず、仕方ないと諦めるのだった。

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