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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3408/3865

3408話

「これ、全部調べるのか……?」


 うんざりとした様子でレリューが言う。

 実際、過去に川だったのだろう場所を歩いている以上、その両脇には崖があり、どこまでも繋がっている。

 この崖が具体的にどこまで続いているのかはレイにも分からないが、結構な距離があるのは間違いない。

 そんな場所を延々と調べろと言われたのだから、レイもレリューが不満そうにする理由は分かる。

 分かるが、だからといってこの場所が一番怪しい以上は調べる必要があるのも事実。

 何しろ、この崖のどこかに穢れの関係者の本拠地に繋がる隠し扉か何かがあるかもしれないのだから。


「無駄口を叩いてないで、しっかりと探せ。それと探索ばかりに集中して周囲の警戒を疎かにしたりはするなよ。いつ穢れの関係者が襲ってくるのか分からないんだからな」


 グライナーがレリューに向かってそう注意する。

 レリューはグライナーの言葉に不満そうな様子を見せつつも、仕事を途中でやめるようなことはない。

 多少口は悪いが、レリューはしっかりとした冒険者だ。

 それだけに、自分の仕事をしっかりとこなすことについて異論はない。

 ましてや、グライナーが言うように警戒が必須というのも理解している。

 もしここが穢れの関係者の本拠地であった場合、それこそいつどこから攻撃されるのか分からない。

 そうである以上、いつ何が起きても対処出来るように準備しておくのは、冒険者として当然のことだった。


「分かってるよ。敵が出て来たら真っ先に攻撃してやる」


 そう言いつつ、周囲の探索に戻るレリュー。

 そんなレリューやグライナーから少し離れた場所では、ヴィヘラとビューネ、オクタビアが怪しい場所がないのかを調べている。

 ヴィヘラは……そしてレイも含めた仲間達は口にしていないものの、もしかしたらビューネが何かを見つける可能性は高いと考えていた。

 何故なら、ビューネはこの中で唯一の盗賊だ。

 ヴィヘラに懐いているだけあって……そして本人の希望もあって、盗賊ではあるが能力としては戦闘に傾いている。

 だがそれでも盗賊である以上、何か隠されてる物があれば、それを見つけられる可能性が高いのも事実だった。

 それでもビューネ達だけに任せておく訳にもいかないので、他の面々も崖を調べていたが。

 ただし、時間は既に真夜中だ。

 まさか穢れの関係者の本拠地かもしれない場所を探している中で、堂々と松明を用意する訳にもいかず、明かりは月明かりしかない。

 その月も完全に出ている訳ではなく、雲で半ば隠されている。

 せめてもの救いは、マリーナの精霊魔法によって風や雪を気にしなくてもいいことだけだ。

 ……ただし、精霊魔法の効果が微妙だとマリーナ本人が口にしたように、風や雪を完全に防いでいる訳ではない。

 雪は散らつき、風もそこまで強くはないが吹いている。

 精霊魔法を使っていない時に比べると便利なのは間違いないが、それでも精霊魔法が完全に使えないというのは、マリーナの精霊魔法がどのくらいの力を持ってるのか理解している者にしてみれば、驚きだった。


「グルルルゥ……?」


 そんな面々から少し離れた場所では、レイがセトと共に探索をしている。

 本来なら、ミレイヌもレイと一緒に……より正確にはセトと一緒に行動をしたかったのだが、それについてはセトに関わるとポンコツになるというのを、ギルムを出発してからの旅路で全員が知っており、それこそ場合によってはキャリス達のように合流したばかりの者達にすら知られていた。

 そうである以上、ミレイヌをセトと一緒に行動させる訳にはいかないと多くの者が判断し、結局セトとミレイヌは別行動となった。


(助かったのは間違いないよな)


 そう思いつつ、レイはドラゴンローブのとある場所を上からそっと撫でる。

 そこにはニールセンが眠っている。

 寒いからなのか、単純に外に出たくないからなのか、その辺の理由はレイにも少し分からなかったものの、とにかく今はまだドラゴンローブの中で眠っているのだ。

 そんなニールセンがいつ出てくるのか分からず、だからこそレイはセトと自分だけで探索をしていた。

 ……セトの嗅覚上昇のスキルを使うのを、あまり他人に見せたくないという思いもそこにはあったが。


「とはいえ、臭いで追うことが出来ないのは残念だったな」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトが申し訳なさそうに喉を鳴らす。

 レイはそんなセトを慰めるように撫でる。


「気にするな。これは別にセトが悪い訳じゃない。単純に向こうの方が上手なのか……そもそも、この場所には穢れの関係者の本拠地がないかもしれないというのが大きい」


 臭いで追跡をするというのは、そう珍しい手段ではない。

 それこそ日本でも警察犬や猟犬という存在がいるのを見れば分かるように、追跡で犬を使うのは普通なのだ。

 日本ですらそうなのだから、魔法やスキル、マジックアイテムといった諸々が存在するこの世界において、それこそ犬以上の嗅覚を持つ者はそれなりにいる。

 素の状態では犬に及ばなくても、スキルや魔法、マジックアイテムで一時的に嗅覚の精度を上げる方法もあった。

 そんな中で、セトは犬よりも鋭い嗅覚を持ち、その上で嗅覚上昇というスキルを持つ。

 そのようなセトがこうして探しても見つけられない以上、レイ達がいる崖には全く何もないか、もしくは穢れの関係者が何らかの手段で欺瞞している可能性が高かった。


「とにかく、もう少し頑張って……」

「レイ、少しいいか?」


 レイがセトを励ますように話していると、不意にそんな声が聞こえてくる。

 聞き覚えのある声に視線を向けると、そこにはエレーナとアーラの姿があった。

 僅かな月明かりであっても、エレーナの黄金の髪はその微かな月光を反射し、煌めいているように思える。

 月明かりに佇むエレーナの美貌に一瞬目を奪われつつも、レイはすぐに口を開く。


「どうした? もう探索は終わったのか?」


 エレーナ達の探査している場所を調べ終わったのかと、そう尋ねるレイ。

 そんなレイに対し、エレーナは真剣な表情で首を横に振る。

 エレーナの様子から、何か……それこそ冗談ではすまないような何かを発見したのだろうとレイは判断する。


「どうした?」


 数秒前と同じ問い。

 だが、そこに込められた感情の強さは大きく違う。

 レイの様子を察したのか、セトも嗅覚で何か怪しい場所がないかどうかを探すのを止めて、レイ達に近付く。


「アーラが妙な物を見つけた。もしかしたら……」


 途中で言葉を止めたエレーナだったが、その言葉の先については何を言いたいのかレイにも理解出来た。


「見つけたか」

「もしかしたらだが。実際に調べてみなければ、何とも言えん」

「分かった、案内してくれ。……もし本物だったら、地形操作でどうにかする」


 レイの言葉にエレーナとアーラがそれぞれ頷く。

 実際には地形操作を使わずにどうにかした方がいいのだが、穢れの関係者の本拠地がもしそこにあった場合、それが隠されているのは間違いない。


(あの指輪を使うのは……うん、出来れば避けたいしな)


 オーロラの屋敷から発見された指輪は、恐らく本拠地の中に入る際の身分証として使うのだろうと予想出来る。

 それが本当なのかどうかは、レイにも分からない。

 あくまでも予想でしかない。

 だが、その指輪を指に嵌めた者がどうなったのかはレイも知っている。

 犯罪者に試させたという話だったが、レイとしては例え犯罪者であっても、その結果については哀れに思う。

 そんな指輪を使わずに本拠地の中に入るのなら、それこそ地形操作を使うのが一番手っ取り早いのが事実。

 いざとなったら、それこそ崖を破壊するつもりでの言葉。


(ともあれ、まずはアーラが見つけたのがどういう場所なのかを見てみないと判断は出来ないが)


 そう思いつつ、レイとセトはエレーナ達に案内をされ、移動する。

 すると周囲で調べていた者達も、そんなレイ達の様子に気が付いたのだろう。

 自分達の探索を一時的に止め、他の者達もエレーナ達と共に移動を始めた。

 エレーナやアーラもそんな周囲の様子には当然のように気が付いていたものの、今のこの状況では何を言っても無駄だと判断したのか、特に何かを言うようなことはせず、好きにさせている。

 そうして歩くこと、数分……


「ここです、レイ殿」


 アーラが崖の一部を指さし、そう告げる。

 アーラが示した場所は、地上から一m強程の高さにある場所だ。

 だが、アーラの示した場所を見てもレイはそこに特に何かあるようには思えない。

 ただの崖がそこにあるようにしか思えなかった。


「アーラ?」


 一体何があるのかと、そう言外に尋ねるレイ。

 もしかしたら何かの冗談か悪戯ではないかとすら思ったのだが、アーラの様子を見る限りそのようにも思えない。


「手を伸ばして下さい」

「……手を?」


 アーラの顔が真剣なのを見れば、今の言葉を冗談か何かで言ってる訳ではないのは明らかだ。

 それはつまり、ここに何かがある。

 何かがあるが、それは見ただけでは分からないのだろうと判断する。

 レイ達の周囲には、ここに来た者達の全員が集まっている。

 そんな者達の視線を受けて、レイは手を伸ばし……


「これは……」


 伸ばした手が崖の中にめり込む……いや、そのように見えることに気が付き、レイは驚きの声を口にする。

 そして自分が触れているのが何なのかを理解した。


「幻影か。……それもとてつもなく高度な」


 ざわり、と。

 レイの言葉を聞いていた者達がざわめく。

 魔法、スキル、マジックアイテム……それらを使えば、幻影を生み出すのは難しい話ではない。

 だが、稚拙な技量の持ち主の作った幻影は見ている者に違和感を与え、それが幻影であると見抜かれることも難しくはない。

 腕のある者の作った幻影なら、一般人が欺かれることは珍しくはないものの、レイのように人外の能力を持ってる者にしてみれば、一見した場合は特に違和感がなくても、なにか……本当に微かな場所から違和感があってもおかしくはない。

 崖に施されている幻影は、それこそ崖で幻影が動く必要がないという理由や、幻影そのものがそこまで大きくはないことから、普通なら気が付かれにくいのも事実。

 だがそれでも、レイの能力であれば本来なら何らかの違和感があってもおかしくはないのだ。

 にも関わらず、レイの視線の先にある幻影は全く違和感がない。

 こうして触れてみて、それで初めてそこに違和感があると気が付けたのだ。


「これ、アーラはどうやって見つけたんだ?」


 レイは自分の能力について十分に理解している。

 そして、ゼパイル一門が作った自分の身体の能力についても、しっかりと理解していた。

 そんな自分ですら気が付けないのだから、この幻影は恐ろしく高度な……それこそレイから見ても高度だと認識出来るような、そんなレベルの幻影だ。

 穢れの関係者という存在は、見つかれば間違いなく処分される。

 世界の終わり、この大陸の崩壊といったことを狙っているのだから、生きとし生ける全ての者の敵と言ってもいいだろう。

 だからこそ、そのような者達に見つからないように、こうした隠蔽の為の技術が磨かれたのだろう。

 そのように厳重に隠されている場所をアーラが見つけられるとは、レイには思わなかった。

 エレーナが見つけたというのなら、レイも素直に納得出来ただろう。

 だが、アーラは……戦闘力という点ではかなりの強さを持っており、それなりに信頼出来るものの、隠されている何かを見つけるといったことは決して得意ではなかった筈だ。


「その、特に何か特殊な技能を使ったといった訳ではなく、偶然そこに手を伸ばしたら、幻影だった場所で」

「……なるほど」


 偶然で見つけたというアーラの言葉は、それなりにレイを納得させる。

 寧ろ実は特殊な技能を持っていて……と言われていれば、その方が納得出来なかっただろう。

 もっともアーラのエレーナに対する忠誠心はレイもこれ以上ない程に理解していたので、エレーナの為にその手の技能を身に付けましたと言われれば、不思議と納得出来たかもしれないが。

 もしくは、エレーナに対する忠誠心から見つけたと言われても納得出来る。


「ちょっと見せて貰える? ……あら、本当ね。ここに幻影で何かが隠されているわ」


 マリーナがそっと手を伸ばし、幻影の中に手を入れて確認する。

 迂闊ではないかと思わないでもなかったが、今はまずそれよりも目の前にある幻影……いや、幻影に隠されている何かの方が重要だった。


(普通に考えれば、指輪を使う場所……だろうな。問題なのは、それをどうするかだけど)


 ただ指輪を嵌めるだけなら、それこそ指輪を指で摘まんで幻影の中にあるだろう場所に使えばいい。

 だが、指輪という形である以上は指に嵌めて使うのを前提としている可能性が高いのも事実。

 そして罪人に試させたところ、指輪を嵌めた者はとてもではないが言葉に出来ないような状態になった訳で……


「うん、やっぱり地形操作で破壊しよう」


 そう、レイは告げるのだった。

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