3396話
「どうやらあそこみたいだな。……それでどうする? 相手は盗賊だし、人数も三人だけって話だ。別にここにいる全員で行かなくてもいいんじゃないか?」
視線の先にある洞窟を見て、レイがそう言う。
現在ここにいるのは、穢れの関係者の拠点を奇襲する全員だ。
それこそ異名持ちや高ランク冒険者、ダスカーに仕える騎士の中でも腕の立つ騎士といった具合に、腕利きが多い。
盗賊の三人を相手にするには、過剰戦力なのは間違いない。
それもちょっとやそっとではなく、プロサッカーの選手が小学生……それも弱小のサッカーチームに戦いを挑むくらいに過剰戦力なのは間違いなかった
あるいはそれ以上の戦力差があってもおかしくはないが。
「あの盗賊達が本当のことを言ったのかどうかは分からないんだし、何か妙な間違いがあっても面倒だ。全員で行った方が手っ取り早いだろ」
レリューが面倒臭いと言いたげにそう告げる。
だが、そんなレリューに、ミレイヌが口を出す。
「けど、レリューさん。あの盗賊の言ってたことが本当かどうか分からない以上、きちんと洞窟の中の状況を把握してからの方がいいのでは?」
「ミレイヌのお嬢ちゃんの言いたいことも分かるが、あの状況で嘘を言えると思うか?」
「それは……」
レリューの言葉にミレイヌが反論出来ずに黙る。
それは他の者達も同様だった。
盗賊にしては珍しく仲間意識の強い者達だったが、それだけに仲間を傷付けられると尋問には素直に応じたのだ。
もっとも、最終的に情報を全て聞いたと判断すると、レイのデスサイズであっさりと首を切断され、他の死体と共に魔法で燃やされたが。
とはいえ、その行為には誰からも非道だという言葉は出ない。
これが今のような……穢れの関係者の拠点に奇襲をするといったような用事ではなく、ただどこかに出掛ける最中に遭遇したのなら、生け捕りにして近くの街や村まで連れていき、犯罪奴隷として売り払ってもいいだろう。
だが、今のレイ達にそのような時間的な余裕はない。
かといって、そのまま逃がしたりすれば、それはそれでまた盗賊達が活動して周辺に被害が出る。
本当に悔い改めるのならともかく、口だけでそのように言われてもレイ達が信じられる筈もない。
その為、結論としては決まっていた。
なお、盗賊達に襲われていた家族からも、その行為に異論は出ない。
当然だろう、自分達の村の側にいる盗賊だ。
ここで殺さずに見逃した場合、次は村に襲撃をしてくる可能性も否定は出来なかったのだから。
……もっとも、首を切断したり死体を燃やす時は子供達を連れて離れた場所にいたが。
ともあれ、尋問によってこの洞窟の場所と、洞窟の中には留守番の盗賊が三人いるのは分かっている。
レイ達にとって幸運だったのは、二つ。
一つは洞窟の中に捕まっている誰かがいないこと。
そしてもう一つは、盗賊を率いていた男はレイとセトの攻撃によって既に死んでたことだろう。
盗賊を率いていた男は、この盗賊団の中では一番の腕利きだったらしいが、レイやセトにしてみれば、それはドングリの背比べでしかない。
それこそいつ倒したのかも全く理解出来ず、いつの間にか倒していた形だ。
そんな訳で、洞窟に残っているのは聞き出した情報が正しいのなら、雑魚……とまではいかないが、決して戦闘力に優れているような者達ではない。
「盗賊達を倒したのは俺だし、どうせなら俺がこのまま終わらせてくるよ」
「あら、私がやるわよ? 洞窟の中なら、それこそ私の得意分野だし」
笑みを浮かべながらそう言ったのは、マリーナだ。
マリーナの精霊魔法を使えば、洞窟の中にいる相手など容易に倒すことが出来る。
だからこそ、こうして自信満々といった様子で自分がやると言ったのだろう。
他の者もマリーナの言葉に異論はなく、結局洞窟の件についてはマリーナに任せられることになり……そして数分も経たず洞窟の中にいた盗賊達の始末は終わったのだった。
「うーん、お宝はあまりないな。まぁ、そこまで大きな盗賊団じゃなかったし、それも当然か」
盗賊達の死体を処分すると、レイは早速洞窟の中を探索した。
その結果見つかったのは、レイにしてみれば決して満足出来るものではなかった。
「マジックアイテムでもあると思ったの? 盗賊がマジックアイテムを持ってるなんて、かなり珍しいわよ?」
ヴィヘラの言葉に、レイはそうだろうなと納得する。
実際に今までレイは数え切れない盗賊達を倒してきたが、その中でマジックアイテムを持っている者は非常に少なかった。
そう考えれば、この程度の盗賊達がマジックアイテムを持っていなくてもレイは納得するしかない。
「それで、盗賊のお宝はどうするの?」
「全員で適当に分ければいいんじゃないか?」
盗賊のお宝は、金貨や銀貨、宝石……少し珍しいところで、宝飾がされている短剣といったところか。
その短剣はもしかしたらマジックアイテムかもしれないと期待したのだが、試してみたところ結局ただの短剣でしかなかった。
恐らくは貴族の持ち物だろうと予想出来る。
とはいえ、その短剣は別に貴族の家紋が彫られている訳でもなく、もし貴族の持ち物だとしてもそれを返す相手は分からない。
もっとも基本的に盗賊の持っていたお宝は倒した者が所有権を得る。
そうである以上、もしこの短剣がどこかの貴族の物であったとしても、その貴族がこの短剣を手に入れるには何らかの代価を支払って返して貰うしかない。
「分かったわ。じゃあ……そうね、ベスティア帝国に行くまでにどこかの村や街に寄ったら、このお金で食料とかを買うのに使うのはどう?」
「他の面子がいいなら、俺はそれで構わない」
「じゃあ、話を通してくるわね。レイはマジックテントの準備とかしておいてちょうだい」
洞窟の中だけに、風や雪の問題はない。
ただし、寒さということであれば洞窟ということもあってかなりの寒さだ。
盗賊達は盛大に焚き火をして暖を取っていたようで、その薪も洞窟の一部に用意されている。
(薪割りとかをしたのか、闇商人から薪を買ったのか、あるいはどこかから盗んできたのか……自分達で薪割りをするというのだけはなさそうだな)
薪割りというのは、それなりに労力が必要となる。
それをしっかりとやるだけの真面目さがあれば、盗賊をせず普通に働いているだろう。
そして闇商人というのも怪しいと思える。
盗賊達が利用する闇商人だが、闇商人にしてみれば薪というのは荷物になるだけで高値で買って貰えない。
何らかの理由で恩義を感じている相手であったり、高額の商品――盗品だが――を売ってくれる相手にサービスとして薪を提供することはあるかもしれないが、この盗賊団の規模や洞窟にあったお宝を考えると、闇商人と高額な取引が出来るとは思えない。
つまり、最終的には薪は盗んできたということになる。
盗賊達が薪を盗んでいる光景を思い浮かべ、レイはどのような表情を浮かべたらいいのか迷う。
薪は嵩張るし、重い。
また、当然ながら燃やすとなくなるので、かなりの量が必要だ。
レイが日本にいた頃、小さい時は家で薪ストーブを使っていたので、冬になるとミカンの段ボールを持って日に何度か薪が積んである小屋まで雪の中を歩いて行った記憶がある。
ましてや、小屋に運ぶ薪を作るにも畑の周囲にある邪魔な木を切って乾かし、それを薪のサイズまで斬って、軽トラで小屋まで運び、壁際に綺麗に並べるのだ。
そして当然ながら、子供のレイもそれを手伝わされた記憶がある。
そんな記憶があるだけに、暖房用の薪を洞窟の中にこれだけ用意するのに、盗んだとはいえ、どれだけの労力が必要なのかを想像することは容易だ。
「この薪も、明日出発する時に持っていくか」
何となく……本当に何となく、このまま薪を洞窟の中に置いておくよりは、今日使って残った分を持っていこうと考える。
「別にそれは好きにすればいいけど、わざわざ持っていく必要がある?」
呆れた様子で言うヴィヘラだったが、レイはそれに笑みを浮かべて口を開く。
「持ってても何か不都合がある訳でもないし、それなら別にいいだろう?」
ミスティリングに収納しておけば、重量も気にしなくてもいい。
いつ何に使えるのか分からないが、それでもいざという時に使えるかもしれないのだから、収納しておいても問題はないだろうとレイは思う。
「じゃあ、洞窟の中には特に問題ないし、野営の準備をしたいと思うんだが、構わないか?」
洞窟の中を一通り見回り、特に何か問題はないと判断し、そう尋ねてくるガーシュタイナーの声にレイは頷く。
「分かった。じゃあ、預かってるテントを出すから、全員集まってくれ。一応この洞窟はそれなりの広さがあるから、どこにテントを設置してもいい。ただ、もし何か問題が起きるようならすぐに……いや、そんなのはわざわざ俺が言うまでもないか」
ここに集まっているのは精鋭ばかりだ。
多少のトラブルがあっても、自分だけでどうとでも対処出来る者が揃っている。
わざわざレイが注意をしなくても、何の問題もなかった。
「そうね。なら、私はセトちゃんの側で野営をするわ」
真っ先にそう言ったのはミレイヌで、その言葉はレイにとっても特に疑問はない……それどころか、寧ろ納得出来るものだった。
「それは構わないけど、セトと一緒に遊びすぎて寝不足になるとかならないでくれよ。……まぁ、寝不足になっても移動中に眠ればいいのかもしれないけど」
セトの背に乗ってるレイとは違い、ミレイヌはセト籠に乗っている。
そうである以上、眠ったところで地面に落ちるといった心配はいらない。
……もっとも、本格的に眠ろうとして横になったりすれば、それによって他の者の邪魔になってしまう可能性は否定出来なかったが。
「分かってるわ、その辺は十分にこっちで調整するから、心配しないで」
調整すると口に出している時点で、それはつまりセトと夜遅く……場合によっては朝方まで遊ぶというのを前提にしているのではないか。
そうレイは思ったし、ミレイヌもそれを隠す気が全くないのを見て、やっぱり少し無理をしてでもスルニンを連れてくるべきだったか? と後悔する。
スルニンがいれば、ミレイヌが馬鹿な真似をしようとしても、それを止めてくれるだろう。
……もっともミレイヌは基本的に真面目な性格をしている。
考えなしになるのは、あくまでもセトのことだけだ。
そういう意味では、しっかりと有能な冒険者なのは間違いない。
実際、そうでもなければ今回の奇襲のメンバーに選ばれることはなかっただろう。
「これ以上は何を言っても無駄っぽいし、ミレイヌも一人前の冒険者なんだから、俺からは何も言わないよ」
「ふふっ、分かって貰えて嬉しいわ」
「ただ、あまりにも目に余るようなら、この依頼が終わった後でスルニンに話すかもしれないな」
ぎくり、と。
レイの言葉を聞いたミレイヌは、その動きを止める。
「えっと……レイ? 冗談よね?」
「どうだろうな。冗談かもしれないし、本当かもしれない。試してみるか?」
「ぐ……ぐぐ……そんなこと、出来る訳がないじゃない。ただでさえ、この依頼を終えて戻ったらお説教が待ってるのに」
ご愁傷様。
ミレイヌの言葉にレイはそう言いたくなるが、もし言えば間違いなく面倒になるので止めておく。
「依頼で活躍すれば、説教の時間も減るだろうから頑張ってくれ」
そう言い、ミレイヌ以外の面々にも次々にテントを渡していく。
「さて、そんな訳で俺達のマジックテントだが……場所はこの辺でいいか?」
レイ達が話していたのは、洞窟の中でもそれなりに奥の方。
特に何か拘りがある訳でもない以上、ここにマジックテントを設置……というより、ミスティリングから出しても問題はなかった。
「私はそれで構わない。何かあってもセトやイエロが気が付くだろう」
エレーナがそう言い、他の面々もそれに頷く。
実力が劣るのはアーラとビューネだが、アーラはエレーナがそう言うのであれば問題はないと判断し、ビューネは特に何も思うところはないのか、反対はせずにイエロを抱いたまま洞窟の中を興味深そうに眺めていた。
ビューネも別に洞窟の中に入るのはこれが初めてという訳ではない。
それでもこうして気になったのは、特に何か理由があってそのように思った訳ではなく、本当に何となくそのように思ったのだろう。
「じゃあ、マジックテントを出すぞ。見張りはセトがいるから必要ないと思うけど……他にも何人かいるし」
レイ達の側に自分のテントを設置しようとしてる何人かを見て、そう言うレイ。
こうして集団で集まって野営をするのも珍しくないだけに、レイはそれを気にせずミスティリングからマジックテントを出すのだった。




