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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3393/3865

3393話

 ミレイヌとスルニンが到着してから少し時間が経ち、やがて今回の作戦の本命の戦力とも呼ぶべき、エレーナ達が到着する。

 エレーナ、マリーナ、ヴィヘラ、アーラ、ビューネ。それとイエロ。

 五人と一匹が姿を現すと、不思議と周囲の雰囲気が明るくなったように思える。

 もっとも、穢れに対して有効な戦力ということであれば、レイもまた同様なのだが。


「レイ!」


 エレーナがレイの姿を見つけ、笑みを浮かべて声を掛ける。

 レイはようやくスルニンから解放されたミレイヌがセトと遊んでいるのを見ながら、エレーナの方に近付いていく。

 なお、ニールセンは朝も早いこともあってか、ドラゴンローブの中で眠っていた。

 先程までは起きていたのだが。

 レイにとっても、ニールセンがいると騒動を起こしたりするので、寝るのなら寝ていて貰った方が助かる。


「遅かったな」

「女の身支度には時間が掛かると決まっているだろう」

「分かってる。冗談だ。別に約束の時間に遅れた訳ではないし、何よりまだ朝も早い時間だしな」


 そう言いながら、ふとレイは日本にいた時のことを思い出す。

 スキーに行く時やタケノコ採りに行く時、早朝……それこそ今のようにまだ暗い時間に起きて車で出発することがあったのだ。

 小学生の時はそんな非日常とも呼ぶべき時間を楽しめたものの、中学生や高校生になればそういうのはいいから眠っていたいと、そう思っていた。


「そうね。でも、そろそろ時間じゃない?」


 マリーナがそう口を挟む。

 その言葉にミスティリングから懐中時計を出して時間を確認してみると、確かに予定の時間になりそうだった。


「もう少しで時間だが……ああ、レリューとグライナーも来たな」


 ちょうど話しているタイミングで、残っていた二人も姿を現す。

 双方共に、寝不足といったようなことはなく準備万端といった様子だった。

 もっとも、今この時点で準備万端であっても意味はない。

 穢れの関係者の本拠地のあるベスティア帝国には、セトの速度でも数日は掛かるのだから。

 それでも最初からやる気が乏しいよりは、今のこの状態の方がいいだろうとはレイにも思えたが。


「後はダスカー様だけだけど……」

「起こしてこようか?」

「やめてやってくれ」


 マリーナの悪戯っぽい言葉にそう言うレイ。

 ダスカーとマリーナの付き合いが長いのは十分に理解しているものの、その影響でダスカーがマリーナを苦手としてるのも知っている。

 そんなマリーナが起こしに来たら、ダスカーの精神的な疲労はどうなるか。

 ただでさえ秋までの仕事で疲れているのに、マリーナが驚かせるようなことをしたら、最悪ショックで死んでしまってもおかしくないのではないかとすら思ってしまう。


「ほら、そういう心配をしなくてもいいみたいよ」


 そう言って領主の館の方に視線を向けるヴィヘラ。

 その視線を追うと、そこには数人の騎士とメイドを引き連れて近付いてくるダスカーの姿があった。

 松明を持っているので、その顔を認識するのは難しくはない。

 ましてや、レイは夜目も利くのだから。

 そのことにレイは安堵する。

 マリーナが起こしにいかなくてもよかったと。

 そうしてダスカーが近付いてくると、自然とレイ達の周囲に他の面々も集まってくる。


(あ、他の連中の荷物を収納し忘れたな。まぁ、出発する前に収納すればいいか。まだセト籠も出してないし)


 騎士達の荷物は収納したものの、後からやって来た者達の荷物は、まだそのままだ。

 さっさと荷物を収納しておけばよかったと思いつつ、レイはダスカーの方を見る。

 すると偶然……いや、ダスカーにしてみれば今回の奇襲の鍵はレイなのだから当然かもしれないが、とにかくダスカーの視線とレイの視線が交わる。

 それに関して、ダスカーは特に何かを言うようなことはない。

 ただ、今回の奇襲を是非とも成功させてくれと、そう視線で訴える。

 レイはダスカーの視線に黙って頷き……


「皆、よく集まってくれた。これから諸君が向かうのは、穢れの関係者の本拠地。そこには穢れの関係者が待ち構えてるだろう。……いや、奇襲だと考えると待ち構えてはいないかもしれん。だが、それでも奇襲の効果があるのは最初の方だけだろう。向こうも大陸を、世界を崩壊させようとしている。そうである以上、いつでも襲撃を警戒してるだろう。だが、そのような相手との戦いであっても、決して負けることは出来ない。ここで負けるということは、穢れの関係者が行動を早めるということを意味している筈だ。だからこそ、この戦いで負ける訳にはいかないのだ。……敵を捕虜にするということは考えなくてもいい。とにかく穢れの関係者を壊滅させることだけを考えるように。そして……世界を救う為、頑張って欲しい」


 ダスカーのその演説は、決して長い言葉という訳ではない。

 だがそれでも、ギルムの領主のダスカーが口にした言葉として、多くの者にダスカーが今回の一件をどれだけ重要視しているのかを示していた。

 そうして一旦言葉を止めたダスカーが再び口を開く。


「では、頑張ってくれ」


 それが最後の言葉となり、レイに視線が向けられる。

 その視線の意味を理解したレイは、少し離れた場所にセト籠を出す。

 セト籠の存在を知ってはいたが、直接見るのは初めてという者も何人かいる。

 そのような者達は、初めて見るセト籠に感嘆の声を発していた。


「じゃあ、セト籠の中に入ってくれ。ああ、それとセト籠に入る前に俺に預ける荷物がある者は渡して欲しい。前もって連絡があったと思うが、荷物は俺がミスティリングに収納して運ぶ」


 レイが荷物を収納するというのは、セト籠の中を少しでも広く使う為ということでもある。

 セト籠の中はそれなりに広いものの、それでもこれだけの人数が中に入るとなると、出来るだけ広く使うには荷物を出来る限り少なくするのは必須だった。


「レイ殿、ではこちらをお願いします」


 まず最初にレイに近付き、補給物資を含めた各種荷物をレイに渡したのは、アーラ。

 自分達がレイと一番親しいからというのも影響しての行動だろう。

 レイはそんなアーラの言葉に頷くと、荷物を次々に収納していく。

 ……普通なら女の細腕どころか筋骨隆々の男であっても運ぶのは難しいだろう重量の荷物だったものの、アーラはその外見からは信じられない程の剛力の持ち主だ。

 そのアーラの後ろにいたレリューは、荷物の量を見て唖然としている。

 唖然としている理由が、アーラの剛力を目にしてのものなのか、もしくはアーラがレイに渡した荷物の量によるものかは不明だったが。

 アーラが渡した荷物の量は、普通に考えればかなり多い。

 今回ベスティア帝国まで行くのは間違いないが、セトの飛行速度を考えれば普通に移動するのとは比べものにならないくらいに時間は短縮される筈だった。

 だというのに、何故これだけの荷物が必要なのかという思いもあったのだろう。

 ポーションの類も相応にあるかもしれないが、それにしても荷物の量が多すぎる。


(レイが問題ないのなら、俺が突っ込む必要はないんだろうけど)


 レリューはそう思いつつ、レイに自分の荷物を渡す。

 レリューの荷物は、それこそ予備の武器であったり、ポーションであったりと、そこまで多くはない。

 レイに預けなくても問題はないのではないかと、レリュー本人も思ってしまう。

 だがそれでも、レイが預かってくれるのならその方がいいだろうとは判断したのだ。

 レリューに続き、他の者達もレイに荷物を渡してセト籠に乗り込んでいく。

 セト籠の中はそれなりに広いのだが、やはりこれだけの人数が入るといつもレイ達が使っている時のように快適とはいかない。


(パーソナルスペースだったか? もっとも冒険者ならその辺は特に気にしないかもしれないけど)


 冒険者というのは、パーソナルスペースなどというものを気にして出来る仕事ではない。

 もっともそれは冒険者だけではないが。

 日本においても、通勤ラッシュ時の電車というのは寿司詰め状態という表現が相応しいくらい混み合う。

 もっともレイは東北の田舎に住んでいたし、学校に通うのも自転車で電車に乗るようなことはなかった。

 通勤ラッシュ等についても、それこそTVで見たりした程度なので実際にはどのくらい大変なのかは分からないが……それでも身動き出来ないまま電車で移動するのが大変なくらいは想像出来た。

 それらに比べると、セト籠での移動はそこまで厳しくはない。

 多少狭いが、普通に全員が座れるだけの余裕はある。


(イエロが変にはしゃがないといいけどな)


 今回、イエロもセト籠での移動となる。

 セトの友達のイエロだけに、セトと一緒に飛ぶとお互いが気になり、気が付けば全く見当違いの場所を飛んでいるということにもなりかねない。

 ただでさえ、レイとセトは微妙に方向音痴気味なだけに、それで道に迷ってしまうのは避けたいとイエロの主のエレーナは考えたのだろう。

 それをレイが聞けば、不満を抱きつつも納得するしか出来なかっただろうが。

 レイも自分がそれなりに方向音痴気味であるというのは理解しているのだから。


「よし、全員乗ったな。……じゃあ、行くか」


 呟きつつ、レイはダスカーのいる方に視線を向ける。

 そんなレイの視線を受けたダスカーは、特に何も言うではなく……既に自分の言いたいことは全て言ったので、ただレイに向かって頷くだけだ。

 自分の出来ることはもうやった。後は実際に穢れの関係者の本拠地に奇襲をするレイ達を信じるだけだと、そう思ったのだろう。

 レイもそんなダスカーに一礼すると、セトを呼ぶ。


「じゃあ、セト。これからはかなり大変だと思うけど、よろしく頼む」

「グルゥ? グルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは任せてと喉を鳴らす。

 レイは大変だと口にしたものの、セト籠を運ぶセトにしてみれば、特に大変だとは思っていない。

 セト籠に乗る人員はかなり多いものの、そのくらいはセトにしてみれば誤差の範囲内にすぎない。

 ……セトの背に乗るというのであれば、この人数を運ぶのはまず不可能だっただろうが。

 セトはその大きさと違い、背中に乗せて運べる者の数は決して多くはない。

 レイ以外に子供が二人から三人、もしくは体重の軽い大人を一人といったところか。

 セトの体長は三mを既に超え、巨大な熊ですら足で掴んで運ぶのは全く問題がない。

 それでも背中に乗せられる人数にかなりの制限があるのは、グリフォン特有の問題……といった訳ではなく、セトがレイの魔獣術によって生み出された存在だからだろう。

 あるいはレイの魔力が大きすぎた影響によって、そのような欠点が出来たのかもしれない。

 その辺りはレイにも分からなかったが、とにかくセトが背中に乗せることの出来る相手が少数なのはどうしようもない事実。

 そういう意味では、セト籠というのはレイ達にとって非常に大きな意味を持っていた。


「ニールセンの方も準備はいいな?」


 尋ねるレイだったが、ドラゴンローブの中にいるニールセンはまだ眠ったままなのか、特に返事はない。

 それでも取りあえず問題はないのだろうと判断し、レイはセトの背に乗る。


「じゃあ、セト。行くぞ」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは鋭く鳴き声を上げ、数歩の助走で翼を羽ばたかせて空を駆け上がっていく。

 まだ太陽はなく、暗いままだ。

 月は雲にでも隠されているのか、光源となるのは地上にある篝火だけ。

 もっとも、夜目の利くセトだ。

 篝火があれば全く問題なく地上の様子を把握出来る。

 ギルムの上空を飛ぶセトは、やがて翼を羽ばたかせながら地上に……セト籠のある場所に向かって降下していく。

 ダスカーを含め、見送りに来ていた者達の前でセトは見事にセト籠を掴み、そのまま再び上空に向かう。


(今、まだ寝てる連中にしてみれば、まさかギルムの上空をセト籠を持ってセトが飛んでるとは思いも寄らないんだろうな。いやまぁ、中には夜目が利く者もいるだろうし、そういう奴が起きていればしっかりとこっちの姿を確認出来るとは思うけど。警備兵辺りなら、朝方でも見回りはしてるか?)


 そんな風に思いつつ、レイは夜……正確には早朝というのも早い時間にギルムを上空から見るという行為に不思議な興奮がある。

 いつもなら、レイも眠っている時間。

 それが余計に、非日常を演出してるのだろう。

 レイも冒険者である以上、それが仕事なら徹夜をすることもある。

 そういう意味では、まだ暗い朝方に上空からギルムを見るといった機会はまだあるのかもしれないが……それでも、今はとにかく眼下に広がる光景を楽しむ。


(次にギルムに帰って来るのは……奇襲が上手くいけば、そんなに時間は掛からない筈だよな。そして春になったら……もしくは冬のうちにかもしれないが、迷宮都市に行ければいいんだが)


 そんな風に思いつつ、レイはセトに乗って空を飛ぶのだった。  

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[気になる点] そういや、ハーピィのドッティだっけ?の存在感がなくなってる
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