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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3392/3865

3392話

 レイが領主の館で穢れの関係者の本拠地を奇襲する面々の模擬戦を行ってから数日。

 その日の早朝、レイは長やアリアス率いる騎士達、ボブ、ピクシーウルフ、そして多数の妖精達の見送りを受けて、ギルムに向かおうとしていた。

 今日、いよいよ穢れの関係者の本拠地の奇襲に向かうのだ。

 雪が降る中で空を飛ぶのは、本来ならかなり難しい。

 しかし、セトならそのくらいのことは全く問題がない。


「では、レイ殿。お気を付けて」


 長の言葉にレイは頷く。

 そんなレイの横にはニールセンもいるが、いつものような元気はない。

 領主の館で模擬戦を行った日、ニールセンはビューネと共に屋台を満喫してきたのだが、結局妖精郷に戻ってきたところで雷蛇との一件で消耗していた魔力が回復した長によって念動力で即座に捕獲され、お仕置きを受けることになった。

 お仕置きが普段よりも強烈だったのは、自分だけ残って屋台を楽しんできたというのもあるが、やはり穢れの件が終わったら他国にある迷宮都市にレイと一緒に行くつもりだったというのがあるのだろう。

 長にしてみれば、ニールセンには穢れの件が終わったらしっかりと自分の後継者としての勉強をして貰う必要がある。

 また、それ以外に嫉妬もあっただろう。

 自分がレイと一緒に行けないのに、ニールセンだけが迷宮都市に行くのは羨ましいと。

 そんな訳でお仕置きをされたニールセンは、数日が経ってもまだそこまで元気ではない。


「レイ、妖精郷は俺達が守るから安心してくれ。穢れについても、ミスリルの釘とブルーメタルの鋼線があるから、対処が可能だし」


 アリアスの言葉にレイは頷く。

 実際、何日か前にブルーメタルの罠を仕掛けた場所の対処をアリアス達に任せてみたものの、特に問題なくこなしている。

 もっとも、ブルーメタルに囲まれた場所が罠であるというのに穢れの関係者達も気が付いたのか、ここ数日は穢れの数が以前よりも大分少なくなっていたが。

 ……罠だろうと見抜いても、ある程度の穢れが引っ掛かることに疑問を抱くレイだったが、穢れがロボットのようにプログラムで動くような存在ならそういうこともあるのだろうと納得しておく。

 そんな訳で、穢れの数が少なくなってきたこともあり、アリアス達に任せても何の問題もなくなっていた。


「ああ、頼む。ただ、雷蛇の件もある。穢れ以外に襲ってくる敵もいるかもしれないから、そっちも十分に注意してくれ」

「分かってる。……レイじゃなければ、馬鹿にしてるのかと言いたくなってしまうな」

「ははは、悪い。ただ、雷蛇の件はどうしてもな」


 アリアス達は、ダスカーに仕える騎士の中でも精鋭だ。

 もっとも、レイが聞いたところでは、穢れの関係者の本拠地の奇襲に参加するガーシュタイナーとオクタビアは、アリアス達よりも更に腕利きらしいのだが。

 敵の本拠地を奇襲する人員なのだから、それはおかしいことではなかったが。

 他の面々……ボブやピクシーウルフ、妖精達とも軽く言葉を交わし、一通り別れの挨拶をしてからレイが口を開く。


「じゃあ、そろそろ時間だし。行くよ」


 そう言い、空を見上げる。

 雪が散らつき、太陽はまだ出ていない。

 それでもレイが懐中時計で時間を確認すれば、午前四時半ばといったところだ。

 ここからギルムにある領主の館までセトなら数分なので、午前五時という約束の時間には余裕で間に合う。


(これが夏なら、このくらいの時間ならもう薄らと明るくなったりしてるんだろうけど。……残念だな)


 レイも夜が嫌いな訳ではない。

 冬の早朝ということで焚き火があっても寒さは非常に厳しいが、ドラゴンローブを着ているレイにとってその辺は問題ない。

 ただ、夜目が利くとはいえ、それでもやはり昼間の方がしっかりと周囲を確認することが出来るのは事実。

 だからこそ、今がまだ真っ暗なのを残念に思っていた。


「セト、頼む」

「グルルゥ!」


 ピクシーウルフと挨拶を交わしていたセトは、レイの言葉にやる気満々といった様子で喉を鳴らす。

 そして見送りに集まってきた者達から少し離れると、ドラゴンローブの中にニールセンが入ったのを確認したレイを背中に乗せ、妖精郷を出るのだった。






 トレントの森から出発し、数分でギルムにある領主の館に到着する。


「レイ殿、早いですね」


 いつもの場所に着地したレイにそう声を掛けてきたのは、ガーシュタイナー。

 隣にはオクタビアの姿もある。

 二人ともダスカーに仕える騎士だけに、レイ達よりも先にここにいるのは、そうおかしな話ではない。


「遅刻するよりはいいだろう? それで、ガーシュタイナー達の荷物は?」

「こちらに用意してあります」


 ガーシュタイナーを含め、今回の奇襲に参加する者達が使う各種物資――食料も含めて――はレイが運ぶことになっていた。

 これはそうおかしな話ではない。

 ミスティリングを持っているレイだけに、荷物の運搬は慣れている。

 それこそ以前ベスティア帝国との戦争があった時、ダスカー率いる軍の荷物をかなりの量、レイだけで運んだのだから。

 レイがその気になれば、全ての物資を運ぶことも出来ただろう。

 だがそうなると、もしレイに何かが起きたら……あるいはレイが出奔するようなことがあれば、レイに預けた物資は全て失われてしまう。

 実際にはそんなことはなかったものの、それでも万が一を考えればダスカーとしてはレイに全ての物資を預けるといったことは出来なかった。

 当時と今とではレイに対するダスカーの信頼も違うので、もしまたベスティア帝国との戦争があった場合、ダスカーはレイに物資を全て預けるだろう。

 もっとも、現在のベスティア帝国は内乱の結果ミレアーナ王国と友好的に接するということになっており、何らかの理由で小競り合い程度なら起きるかもしれないが、全面的な戦争はまずないだろうが。


(俺達の行動が、その小競り合いの理由にならないといいんだけど)


 穢れの関係者の本拠地がベスティア帝国に存在する以上、本来ならベスティア帝国の許可を取って行動するのが筋だ。

 とはいえ、穢れの関係者の危険性や冬という季節を考えれば、そのようなことをしている余裕はないのも事実。

 そういう意味では、もしベスティア帝国でレイ達が見つかってもレイが皇帝から貰ったカードや、何よりも元皇女というヴィヘラの肩書きが役に立つだろう。


「これか。結構少ないな」

「いえ、これでも結構あるんですが」


 オクタビアがレイの言葉にそう返す。

 レイにしてみれば、てっきりもっと多くの物資があるのかと思っていた。

 だが、実際にそこにあるのはレイが予想していたよりもずっと少ない。

 もっとも、セトに乗って移動する以上、野営用の道具はそこまで必要ではない。

 寧ろポーションの類や、毒消し、相手を麻痺や眠らせる為の薬品……他にも戦いで消耗するだろう武器や防具の予備。

 他にも色々と雑貨の類。

 レイはそれらを次々にミスティリングに収納していく。

 ガーシュタイナーもオクタビアも、それを見ても特に驚くようなことはない。

 この二人はベスティア帝国の戦争にも参加してるので、レイがミスティリングを使うところは今まで何度も見てきたのだろう。

 レイにとっても、わざわざミスティリングを使われる度に驚かれるよりは、今のように普通に見ていられる方が助かるのも事実。


「さて、じゃあ……うん? ミレイヌが来たみたいだな。……スルニンも一緒だけど」


 姿を現したミレイヌは完全武装の状態ではあったが、その顔はやる気に満ちているというよりは、しょんぼりしている。

 その理由が、ミレイヌの隣にいるスルニンなのは間違いない。

 スルニンの方はミレイヌと違って完全武装といった様子でなく、いつも通りだ。

 もっともスルニンは魔法使いなので、金属鎧を装備したりはしないのだが。

 ただ、その手に握られている杖は高ランク冒険者が持つのに相応しい一級品なのは間違いなかった。


(けど、その杖もまさか物理的な意味での武器として使われるとは思っていなかっただろうけど)


 何となく……本当に何となくだが、ミレイヌの頭部が少し盛り上がってるようにレイには見える。

 もしレイの予想が正しいのなら、それは瘤だろう。

 それもスルニンの持っている杖が振るわれた結果出来たのだろう瘤。

 そんなミレイヌだったが、少し離れた場所にセトがいるのを見ると、その顔が一気に明るくなる。

 それでもすぐにセトと遊びに行かなかったのは、ミレイヌの側にスルニンがいるからだろう。

 もしここで自分が走り出すようなことをした場合、即座にスルニンの杖が振るわれると、そう判断してもおかしくはなかった。

 普通なら魔法使いというのは決して前衛向きではなく、杖で殴ろうとしても回避されてもおかしくはない。

 レイのように魔法使いでありながら戦士として戦える技量があれば話は別だが、レイが見た限り、スルニンは純粋な魔法使いだ。

 それこそ戦いの経験から、素人と比べれば圧倒的に動けるだろう。

 だがそれでも、本来ならミレイヌに攻撃を命中させるのは難しい筈だった。

 それが出来るようになっているのは、やはり長年一緒のパーティを組んでいたことにより、自然と出来上がった力関係からのものだろう。

 パーティリーダーはミレイヌだったが、そんなミレイヌのお目付役がスルニンであるという立場がお互いの力関係を決めていた。


「皆さん、おはようございます。……今回はうちのパーティリーダーが迷惑を掛けることになりそうですが、よろしくお願いします」

「ちょっと、スルニン……その言い方はちょっと大袈裟じゃない?」


 集まっていた面々に頭を下げるスルニンだったが、それを見ていたミレイヌは不満そうな様子で言う。

 ミレイヌにしてみれば、スルニンは自分のお目付役かもしれないが、だからといって保護者のような態度はどうかと思ったのだろう。

 だが、スルニンはそんなミレイヌのことばを聞く様子はない。


「今回の依頼は、かなり難易度が高いとのこと。うちのミレイヌは技量はそれなりにありますが、ここにいる方々と比べるとどうしても落ちます。何かあった時、是非ともよろしくお願いします。……本来なら私も行きたいところですが、人員の都合上無理だという話だったのが残念でなりません」


 スルニンはそう言い、頭を下げる。

 レイとしては、スルニンがいるのならいてくれた方が助かる。

 ギルムは腕利きの冒険者が多く集まるので、自然と魔法使いもそれなりの人数がいるが、それはあくまでもギルムだからだ。

 基本的に魔法使いというだけで貴族に雇われたり、冒険者のような危険な仕事をしなくても十分に稼げるのだから、冒険者の中にいる魔法使いというのはかなり少ない。

 スルニンはそんな魔法使いの中でも高ランク魔法使いという極めて貴重な存在だ。

 それこそ、もしスルニンがパーティを離脱したら、そのスルニンを巡って冒険者達の間で大きな騒動になってもおかしくはないだろう程には。

 そんなスルニンだけに、穢れの関係者の本拠地の襲撃に参加していれば、大きな力となるのは間違いない。

 唯一の難点は決して若くはないということだが、それでも足手纏いになるような人物ではないし、ベテランということで頼れる相手でもあるのだから。

 だが、既に人員は決まっている。

 これがセト籠ではなく馬車で移動するのなら、まだ追加の人員も用意出来るのだが。

 セト籠はどうしてもその大きさから、運べる人員は限られていた。

 もっとも、スルニンは筋骨隆々という訳ではない。

 魔法使いらしく、細身の身体付きだ。

 勿論冒険者……それもただの冒険者ではなく高ランク冒険者である以上、その辺の一般人よりはよほど身体を鍛えているのだが。

 それでも細身である以上、恐らく無理をすればセト籠に入らないこともない。

 その分、セト籠の中の快適性が多少落ちることになるが。

 とはいえ、今回の件は領主のダスカーやギルドマスターのワーカー、それだけではなく穢れというこの大地に住む全ての者の敵とでも呼ぶべき存在に対する奇襲だ。

 出来るからといって、そう簡単に人員を追加することは出来ない。

 もしそのようなことが行われれば、それこそ他からもこの人物を追加したいといったことを言ってくるだろう。

 スルニンもそれは分かっているので、元々から決まっていたミレイヌだけを参加させ、自分が参加するつもりはない。

 最初からミレイヌがこの件をスルニンに相談していれば、時間もあったのでスルニンも参加出来るように調整出来たかもしれないが。


「ミレイヌは腕利きの剣士だ。今回の戦いでも頼りにさせて貰うよ」


 そう言うレイに、ミレイヌは感謝の視線を向けるのだった。

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