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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3383/3865

3383話

 レイとダスカーが迷宮都市や冒険者育成校について話をしていたその間、ニールセンが何をしていたのかといえば……サンドイッチを食べていた。

 とはいえ、ただサンドイッチを食べていただけではない。

 レイとダスカーの話を聞きながらサンドイッチを食べていたのだ。

 そして二人の話を聞いているうちに、ニールセンの目が好奇心で輝いていく。

 妖精というのは好奇心が強いが、ニールセンはその中でも特に強い好奇心を持っている。

 そんなニールセンの前でダンジョンについての話をしていたのだから、それに興味を持つなという方が無理だった。


「ねぇ、レイ。そのダンジョンって私も行けるの?」


 好奇心から、レイに尋ねるニールセン。

 尋ねながらも、ニールセンは恐らく自分は問題なく行けるだろうと思っていた。

 レイと一緒に行動するようになってから、ニールセンはずっとレイと一緒に行動してきたのだ。

 なら、ダンジョンにもレイと一緒に行けると思うのは、そうおかしな話ではないだろう。だが……


「いや、それは難しいと思うぞ」


 レイの口から出たのは、ニールセンが一緒にダンジョンに行ってもいいという言葉ではなく、拒絶の言葉。

 まさかそのようなことを言われると思っていなかったニールセンは、驚きつつも不満を露わにする。


「ちょっと、何でよ。何で私が一緒に行ったら駄目なの?」

「何でと言われても……ダンジョンというか迷宮都市に行くのは、穢れの件が片付いた後だぞ? ニールセンが俺と一緒に行動してるのは、穢れの件があるからだ。なら、それが終わったら一緒に行動することはなくなると思うんだが」


 また、言葉には出さなかったが、穢れの件が終われば恐らく長によって後継者としての教育も始まるだろうとレイは予想していた。

 それが実際にどのような教育なのかは分からないが、ニールセンの立場を考えればそのようなことになってもおかしくはない。

 ……それを言えば、間違いなくニールセンは嫌がるだろうから黙っていたが。


「うー……それは……」


 レイの言葉にニールセンは不満を抱きつつも反論出来ない。

 穢れの件で現在自分がレイと一緒に行動しているのは、間違いのない事実。

 そうである以上、ここで自分が不満を言っても意味はないと判断したのだ。


(それに、こう言ってはなんだけど、ニールセンが一緒だと色々と動きにくいしな)


 ダスカーが妖精郷と接触したという情報は、今のところミレアーナ王国であっても知ってる者は多くない。

 そうである以上、妖精のニールセンが人前に出るのは難しい。

 つまり、常に人に見つからないようにレイのドラゴンローブの中に隠れているか、もしくはどこか別の場所に隠れる必要がある。

 ちょっとでも間違えば、ニールセンの存在が大々的に知られることになるのだ。

 ……そのニールセンをレイが連れていたという情報も一緒に。

 また、悪戯好きで好奇心が強いニールセンだけに、うっかりと人前に姿を現す可能性は否定出来なかった。

 そのような不安がある以上、レイはニールセンを連れていくのは遠慮したかった。

 なお、珍しさという点ではグリフォンのセトもかなりのものなのだが、それでもセトは自分の従魔として噂が広まってるので、そこまで騒動になることはないだろうというのがレイの予想だった。


「どうしてもニールセンが行きたいのなら、長から許可を貰うんだな。それなら俺も受け入れる」

「ぐぅ」


 レイの言葉にニールセンは不満そうに言う。


(ぐうの音も出ないとかいう表現はよく聞くけど……)


 ニールセンの口から出た声に、レイはそんな風に思う。


「ニールセンを勝手に連れていって、それで長に怒られるなんてことは避けたいしな。……ですよね?」

「そうだな」


 レイの言葉にダスカーが同意する。

 ダスカーにとっても、妖精郷との関係は非常に大事だ。

 そんな妖精郷の長を怒らせるようなことは、ダスカーも避けたいだろう。


「えー……」


 ダスカーの言葉に不満そうな様子を見せるニールセンだったが、そこには絶対にどうにかしたいといった様子はない。

 ニールセンも、長を怒らせることが一体どういうことなのか十分に理解出来ているのだろう。


「取りあえず迷宮都市と冒険者育成校についての話は、この辺にしておくか」


 このまま話を続けると面倒なことになると判断したのだろう。

 ダスカーはそう言って話題を終える。


「そうですね。俺もそろそろ戻る必要がありますし。……奇襲に参加する人員の選出、よろしくお願いします」


 レイの言葉にダスカーは頷くのだった。






「さて、到着と。……今度は妖精郷で特に何かが起きたりはしていないみたいだな」

「グルルゥ」


 妖精郷の側に着地したセトから降りたレイは、妖精郷の方を見ながらそう言う。

 もし妖精郷の中で何かがあった場合、外から見ても分かる筈だからだ。

 レイの言葉に同意するようにセトも喉を鳴らす。


「外から見た感じだと大丈夫そうだし……何より、雷蛇のようなモンスターの襲撃が続くとは思えないわよ」


 嫌そうな様子で言うニールセン。

 雷蛇が襲撃した時、長と共に必死になって妖精達の被害を防いだのだが、その時のことが半ばトラウマになっているのだろう。

 ニールセンにしてみれば、同じようなことは二度とごめんだと思うのは当然だった。


「アリアス達もいるから、余程のことでもない限り大丈夫だろ。……じゃあ、行くか」


 セトとニールセンを促し、妖精郷を守る霧の空間に入るレイ。

 レイとセトとニールセンといういつもの者達なので、霧の空間にいる狼達も特に何かをするようなことはない。


(少しは数が増えたか?)


 霧の空間の中で感じられる気配が増えているのに気が付くレイ。

 恐らく雷蛇との戦いで怪我をし、妖精郷で治療をしていた狼が霧の空間に戻ってきたのだろう。

 レイにしてみれば、霧の空間を守る狼が増えるのは喜ぶべきことだ。

 ……まだ雷蛇の襲撃からそんなに時間が経っていないのに、もう怪我が治ったのかというのは疑問だったが。

 そんな霧の空間を抜けて妖精郷に入ると、予想通りそこは特に何らかの襲撃を受けた様子はない。

 取りあえず戻ってきたことを長に報告に行くかと、長のいる場所に向かって進み始めたレイだったが、途中で何人かの騎士の姿を見つける。

 どうやらレイ達と別れた後で無事に妖精郷に戻ってこられたらしいと知り、安堵する。

 少し……本当に少しだけだが、霧の空間で狼達と騒動になるのではないかと心配したのだ。

 だが、こうしてレイ達の前で普通に行動しているということは、特に何かそれらしい騒動がなかったということを意味している。

 霧の空間の中で気配を探った時、狼達が特に興奮した様子がなかったのも、それを示している。


「随分と早く馴染んだわね」


 妖精達と話をしている騎士を見ながら、ニールセンが言う。

 ニールセンは騎士達がこうも簡単に妖精郷に馴染むとは思ってもいなかったのだろう。

 この辺は野営地で妖精好きの者達に追われたのが影響してるのかもしれない。


「適度な距離感で話せば、妖精達もそこまで嫌がったりはしないだろ。ニールセンも野営地の連中に迫られるようなことがなければ、そこまで嫌わなかったんじゃないか?」

「え? うーん……どうかしら。ちょっと分からないわね」


 少し考えるニールセンだったが、最終的にはよく分からないという結論に達したらしい。

 ニールセンにしてみれば、既に妖精好きの相手は何があっても迫ってくるという印象を抱いてるのだろう。

 レイから見てもそれは間違いではないように思えたので、敢えて反論するようなことはしなかったが。

 代わりにという訳ではないが、近くにいた騎士の何人かが興味深そうにレイのいる方に近付いてくる。

 そんな騎士達の表情にあるのは、期待の色。

 それを見たレイは、少しは妖精達と仲良くなる手助けをしてやるかと、騎士達に向かって言う。


「相手が妖精だからって、強引に迫るようなことをすれば相手を怯えさせてもおかしくはない。それは妖精云々ではなく、初めて会ったり何度か会ったことしかない相手にひたすらに迫られるのがどれだけ危険なのかで、何となく分かるだろう?」


 妖精云々ではなく、相手を人として例えれば騎士達にとっても分かりやすかったのか、何人かが納得した表情を浮かべている。

 ダスカーに仕える騎士、それも妖精郷に派遣されるような精鋭ともなれば、見ず知らずの女に迫られるといったこともある。

 人によってはそれでも構わないという者もいるだろうが、あまり好ましくないと思う者も当然いる。

 そのような相手が、ひたすら自分に好意的な態度で迫ってくるのを思えば、レイの言ってるように妖精だからといって意味もなく迫るのが問題だというのは分かりやすいだろう。


「じゃあ、行くか。妖精達と接するのなら適度な距離感でってのを忘れなければそれでいい」


 そう言い、レイは妖精郷の中を進む。

 何人かの騎士はそんなレイの言葉を聞きながら何かを考えたりしながらレイと共に妖精郷を歩く。


「あ、レイじゃない。ちょっと遊んでいかない?」


 レイに声を掛ける妖精。

 その呼び掛けは、場合によっては娼婦の誘いの声のようにも思える。

 思えるのだが、実際にはそれは文字通りの意味で何かをして一緒に遊ばないかという誘いだった。


「悪いな、今はちょっと遊んでいるような余裕はないんだ」

「えー、もうしょうがないわね。じゃあ、そっちの人達はどう?」


 レイからすげなく断られた妖精は、レイと一緒にいる騎士達を誘う。

 何人かの騎士は興味深そうにしていたものの、先程のレイの言葉が気になっているのだろう。

 このまま妖精の誘いに乗ってもいいのかと、疑問の表情を浮かべる。


「いいんじゃないか? 妖精郷を警護する上で妖精達と仲良くなるのは悪い話じゃないし。実際、ボブとかは妖精と仲良くなったおかげで穢れと接触した時も生き延びたようなものだし」


 レイの口から出たのは事実だ。

 現在レイが毎日のようにブルーメタルの鋼線で罠を仕掛けている場所は、そもそもボブが穢れと接触したのを利用してのものなのだから。

 その時、仕留めた鹿の死体を背負って逃げていたボブだったが、もし妖精達の援護がなければとてもではないが逃げ切ることは出来なかっただろう。

 もっとも、その場合はボブも死ぬよりはと、鹿の死体を放り投げて逃げていただろうが。

 ボブが妖精と親しいからこそ、妖精達は助けてくれたのだ。

 そういう意味でも、いざという時に助け合う為に妖精と親しくなっておくのは悪い話ではない。

 実際、レイも長とニールセンの協力がなければ雷蛇との戦いで負けるとまではいかずとも、倒すのにもっと時間が必要になったのは間違いないのだから。

 その辺りについて説明すると、騎士達は嬉しそうにしながら頷く。


「分かった。じゃあ、俺達は少しこの妖精と遊んでいく。レイは……まぁ、心配するのがそもそもおかしな話か」


 ここにいる騎士達は精鋭だが、だからといってレイに勝てるかと言えば否だ。

 それどころか、レイとまともに戦いになるかどうかも難しいだろう。

 その上、グリフォンのセトがいる以上、騎士達が守らなければならないような相手ではない。

 何かあった場合、寧ろ騎士達の方が守って貰う必要が出てくるだろう。


「そうだな。頑張って妖精達と遊んでくれ」


 そう言い、レイは騎士達をその場に残して妖精郷の奥……長のいる場所に向かう。

 いつものように、領主の館でダスカーと何を話したのかを報告するレイだったが……


「え? 迷宮都市ですか?」


 何故か――あくまでもレイにとってはだが――そこに反応する長。

 レイとしては、まさかそのような場所に反応されるとは思っていなかったので、意外に思いながらも頷く。


「あくまでも穢れの件が片付いたらの話だけどな」


 そう言いながらも、レイとしては迷宮都市に行く気満々だった。

 冒険者育成校の戦闘の授業で教師をやるのは、正直なところあまり好まない。

 好まないが、ダスカーから持ちかけられた話である以上、教師はせずにダンジョンにだけ挑むといったことはとてもではないが出来ない。

 なら、授業のない合間に、あるいは休日にダンジョンに潜るのもいいだろうと、そう考えていたのだ。


(クリスタルドラゴンの件でうるさいのも、戻ってくる頃に一段落してる……といいな)


 以前もレイのことでちょっとした騒動になった時、ギルムを一時的に離れていたことがある。

 その時のことを思えば、今回も似たようなことになる……いや、なって欲しいなと、そのように思うのだ。

 そんなレイとは裏腹に、長はレイの口から出た言葉に驚き、あるいは衝撃を隠せないようだった。

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