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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3378/3865

3378話

レジェンド20巻、発売しました。

続刊に繋げる為にも、よろしくお願いします。

「何だか穢れがあの罠で集まるかと思うと、少し楽しみだな」


 妖精郷に帰る途中、アリアスがそう言う。

 ブルーメタルの鋼線で作った罠が、インゴットで作った罠と同じ結果になるかどうかはレイにも分からない。

 そういう意味では、レイもまた自分達で仕掛けた罠が有効に動くかどうか、楽しみではある。


「そうだな。明日は楽しみにしていてくれ。とはいえ、もし罠に集まっていても、今日のように魔剣で殺したりはせず、魔法で一気に殺すけど」


 レイにしてみれば、今日魔剣を使って穢れを殺したのは、自分以外の者が魔剣を使ってもきちんと効果が発揮するかどうかを確認する為だ。

 それを確認し、実際に魔剣の効果を確認出来た以上、わざわざ明日も魔剣を使って穢れを殺そうとは思わなかった。

 そんなレイの言葉に、アリアスは一瞬だけ……そして二人の騎士は見るからに残念そうな様子を見せる。

 見ただけで不快感を覚える穢れを、一撃……それどころか、触れるだけで消滅させることが出来るというのは、それなりに快感だったのだろう。

 とはいえ、それでもあの魔剣がレイの物である以上、それについて不満を言うようなことはなかったが。


「けどそうなると、またあの熱気を感じるのか」


 騎士の一人が、ブルーメタルの鋼線で罠を仕掛け終え、戻る前に魔法で生み出された赤いドームを解除した時、周囲に流れた熱気について言う。

 とはいえ、そこに不満そうな色はない。

 レイやセトはドラゴンローブや元々の能力として寒さを感じないものの、騎士達はそれなりに寒さを感じる。

 今は雪こそ降っていないが、それでもいつ雪が降ってもおかしくはない天気だ。

 せめてもの救いは、ここがトレントの森の中なので、木々によって冬の寒風が遮られていることだろう。

 ……ブルーメタルの罠を仕掛けている場所のように、木があまり生えていない場所だとかなり寒かったりするのだが。

 そんな寒い中で熱気……暑いと感じて汗が噴き出るようなそんな熱気は騎士達にとっても悪くないものだったのだろう。

 穢れを焼き殺した残滓とも言うべき熱風となれば、あまり好ましいとは思えない者もいるかもしれないが、アリアス達はその辺を特に気にした様子はなかった。


「雪とか積もれば、面白いかもしれないな。……あ、でも雪が積もってもブルーメタルの鋼線とかは効果を発揮するのか?」


 自分で言ったレイだったが、不安を抱く。

 もし雪が積もってブルーメタルの鋼線……もしくはインゴットが見えなくなった場合、穢れを一ヶ所に纏めて魔法で焼滅させるという今のやり方が出来なくなる。

 それが出来なくなれば、またトレントの森中に穢れが現れるといったことになりかねない。

 ……もっとも、野営地や生誕の塔でもブルーメタルを使って穢れを近づけないようにしているし、ミスリルの釘を使えば不意に穢れに遭遇しても捕らえることが出来るので、以前程に対処が出来ない訳ではなかったが。


「その辺は実際に試してみるしかないんじゃない? ……もっとも、私達が穢れの関係者の本拠地に奇襲に行くまでにそこまで雪が積もるかどうかは分からないし」

「雪は、降ってた方が奇襲をする時にも便利なんだけどな」


 雪によって足音が殺され、姿も見えにくくなるのだから奇襲にはもってこいだ。

 もっとも、良いことばかりではない。

 雪によって足下が滑って思わぬミスをすることもある。

 そう考えれば、雪はレイ達だけに有利という訳ではないのだろう。

 奇襲をするということそのものが、レイ達にとっては大きなアドバンテージなのは間違いなかったが。


「俺達が護衛として派遣されたのは、その辺の理由もあるんだろうな」

「だと思うぞ。自分で言うのもなんだけど、俺とセトがいる妖精郷はかなり安全性が高い。……もっとも、雷蛇の時のように俺達がいない間に襲撃されると対処が難しくなるが」


 そんな風に会話をしながらトレントの森を進むと、やがて妖精郷が見えてくる。

 そのまま霧の空間に入り、妖精郷の中に入る。

 最初に妖精郷に入った時とは違い、妖精郷の中に入っても大量の妖精が待ち構えていたりといったことはしていない。

 何人かの妖精はいたが、それもレイ達を待っていた訳ではなく、偶然近くを通り掛かったといった様子だった


「何だか、最初に来た時と全く違ってちょっと拍子抜けだな」

「最初がおかしかったんだろう。これからは妖精郷に出入りしても、妖精達があそこまで集まるといった事はないと思うから気にするな。妖精郷を出入りしたから、もう俺達がいなくても霧の空間で狼に襲撃されたりといったこともないだろうし」

「それは助かるけど、完全に安心は出来ないな」


 レイと違って妖精郷に来たばかりのアリアス達だ。

 まだそこまで妖精達や狼達……特に狼達は、意思疎通出来るかどうか分からない。

 もしかしたら霧の空間を通る時に狼達に襲撃されるかもしれないという不安はある。

 勿論、アリアス達の強さを思えば、モンスターでも何でもないただの狼に不意を突かれたところで、多少の手傷を負いはするだろうが、それでも負けたり殺されたりするといったことはない。

 ないが、それでも襲撃のことを考えるとしっかりと警戒してしまうのは間違いなかった。


「安心して欲しいけど……今は無理でも、妖精郷で生活をしていれば、嫌でも慣れるとは思う。妖精の悪戯にもな」

「……妖精の悪戯か。子供の頃に親から聞いた話を思い出すな」


 アリアスがしみじみと呟くと、二人の騎士達もそれに同意するように頷く。

 野営地にいる妖精好きの者達程に妖精に固執する訳ではないが、それでも小さい頃に両親や祖父、祖母から聞かされたお伽噺を思い出しているのだろう。

 その中には妖精が出てくるものも多く、妖精の悪戯によって盗賊が酷い目にあったり、もしくは妖精達に祝福を受けて英雄となった者がいたり……様々な形で妖精が出てくる。

 しかし、そんな中でやはり一番多いのは妖精が悪戯をして相手を困らせるというストーリーだ。

 それを思い浮かべれば、自分達が妖精郷にいるとお伽噺のように悪戯をされるのではないかと、そのように思ってもおかしくはない。


「悪戯されるのはいいけど、お伽噺のような派手な悪戯は止めて欲しいですね」


 騎士の一人がしみじみと呟く。

 例えば食べている食事をちょっと持っていかれるくらいなら、特に問題はないだろう。

 だが、妖精郷を護衛する為の騎士としてここにいるのに、武器や防具を奪われたり隠されたりといったことになれば、いざという時に困る。

 そう言う騎士を安心させるように、レイは言う。


「その辺は長がいるから、そこまで心配する必要もないだろう。……なぁ?」


 そうレイが聞いたのは、セトの頭の上に座っているニールセン。

 ニールセンはレイの言葉の意味を理解し、不満そうにしながらも頷く。


「そうね。長が頼んで貴方達に来て貰ったのに、その邪魔をするようなことがあったら……間違いなくお仕置きされると思う。しかも軽いお仕置きじゃなくて、かなり厳しいお仕置きを」


 ニールセンのその声には、強い実感があった。

 今まで幾度となく長からお仕置きを受けているからこその実感だろう。

 レイは何度かニールセンがお仕置きを受けている光景を目にしているが、アリアスを始めとした他の騎士達は当然ながらそのような光景を目にしたことはない。

 目にしたことはないが、そんなアリアス達でもそのお仕置きがどのようなものなのかを半ば察することが出来る程に、ニールセンの声には強い実感があったのだ。

 だからこそ、アリアス達はニールセンの言葉を聞いて、素直に納得出来てしまう。

 そうして妖精郷の中を歩いていると、レイはとある光景を目にする。


「お」

「レイ? どうかしたのか? ……もしかしてあれがボブか?」


 レイの小さな呟きを聞いたアリアスが疑問の声を上げその視線を追う。

 するとそこには数人の妖精と何かを話しているボブの姿があった。

 ボブのことは初めて見るアリアスだったが、それでもその人物がボブであるというのはすぐに理解出来る。

 現在この妖精郷には、レイとアリアスが率いてきた護衛の騎士達以外に人間はボブしかいないと知っていたのだから。

 そして視線の先にいるのが初めて見る相手なら、それがボブであると認識出来ない訳がない。

 ……もっとも、ブルーメタルの罠に引っ掛かった穢れを倒したり、改めてブルーメタルの罠を仕掛けたりしている間に改めて誰かが妖精郷にやって来た可能性は皆無という訳ではないのだが。

 そんな著しく可能性の低い話も、アリアスの言葉にレイが頷いたことであっさりと解決してしまう。


「そうだ。あいつがボブだ。丁度いいから、挨拶していくか。何も知らない状況で妖精郷の中に俺以外の誰かがいるのを見れば、ボブも驚いてしまうだろうし」

「分かった。レイがいない場所で会うと、お互いに相手のことが分からないしな。ここで会えたのは幸運だったかもしれん」

「別にそこまで堅苦しく考えることはないと思うけど。……まぁ、いい。じゃあ行くか」


 そう言い、レイはアリアス達を引き連れてボブ達に近付いていく。

 レイだけではなく、他の面々も一緒にいるのでボブ達もすぐにレイ達の存在に気が付く。

 しかし、ボブはレイ達の方を見て……より正確にはアリアス達の姿を見て、驚く。

 レイだけなら……いや、セトやニールセンと一緒にいるのなら、そこまで驚いたりはしなかっただろう。

 妖精郷に護衛が来るというのは知っていたかもしれないが、こうして実際にアリアスが二人の騎士を引き連れて自分達の方に来るのを見て、驚いたのだ。

 そんなボブの様子に、一緒にいた妖精達は警戒の視線を向ける。

 ただ、その警戒の視線が向けられるのはレイやセト、ニールセンではなく、アリアス達だったが。

 妖精達にしてみれば、もしかしたらアリアス達はボブを苛めようとしてやって来たのではないかと思ったのだろう。

 当然だが、アリアス達は騎士……それもただの騎士ではなく、精鋭だ。

 ボブの側にいる妖精達が自分達を警戒していることにすぐに気が付く。

 気が付きはするのだが……


(一体何故俺達が警戒される?)


 アリアス達は妖精郷の護衛の為に派遣されたのだ。

 感謝されることはあっても、こうして警戒されるというのは完全に予想外だった。


「えっと……レイ?」

「気にするな。ボブと親しい妖精達にしてみれば、こうして大勢で近付いてくるのが面白くなかったんだろう。あるいはもっと単純に、ボブと一緒にいる時間を邪魔されたからなのかもしれないな」

「多分そうでしょうね。あの子達、最近ボブと一緒にいるのをよく見るもの」


 レイの言葉にニールセンが同意する。

 その一件にレイは改めてボブの側にいる妖精達を見てみるが、こうして改めて見ると以前ボブが穢れに遭遇した時、鹿の死体を担いだボブと一緒に逃げてきた時に見た顔が多いように思える。

 レイも顔を覚えるのが苦手という訳ではないが、あの時は急いでいたし、妖精郷にいる妖精はかなりの数になる。

 妖精郷の妖精の全ての顔を覚えるというのは無理があった。

 それでも何人かの妖精の顔に見覚えがあったのは、ボブと一緒に必死になって逃げていたのが印象深かったのだろう。


(軽く挨拶だけして、後はテントの場所……野営地に戻った方がいいか)


 妖精達の様子を見てレイはそう判断する。

 同時に、ボブは凄いなと思う。

 ボブが妖精郷に来た当初、決して妖精達に好かれていた訳ではなかった。

 ボブには穢れの関係者によるマーキングがされていたので、長が妖精郷に入るのを禁じたというのも影響してるのだろう。

 そのマーキングをどうにかすることに成功して妖精郷に入れるようになり、そこからボブと接する妖精が増えていき、ボブの性格を気に入った妖精達が一緒に行動するようになった。

 その妖精達が、現在ボブの側にいる者達なのだろう。

 レイの場合はニールセンと接触したり、妖精郷を狙っていた冒険者を倒したりといったことをしたので、妖精郷の妖精達から好かれている。

 ……長の個人的な感情であったり、レイが渡す料理の味であったり、他にもレイが好かれる要素は多種多様であったが。

 そんなレイとは違い、最初は嫌われているとまではいかないが、それでも決して好かれている訳でもない状態から始まり、今はこうしてボブとの話を邪魔されると不機嫌になるような妖精もいるのだ。


「ボブ、ちょっといいか? もう知ってると思うけど、これから暫くの間妖精郷を護衛する為にダスカー様から派遣された連中だ」


 レイの言葉にアリアスが一歩前に出て、口を開く。


「アリアスだ。雷蛇の件もあり、これから暫く妖精郷を守る騎士達を率いている」


 そう言うアリアスに、ボブは一礼してから自己紹介するのだった。

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