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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3377/3865

3377話

レジェンド20巻、発売しました。

続刊に繋げる為にも、よろしくお願いします。

「うお……これは……」


 目の前の光景を見てアリアスの口から出た言葉に、レイは最初に妖精郷に入った時も同じようなことがあったなと思う。

 とはいえ、レイ達の視線の先の光景を見ればそのように驚きの声を出してもおかしくはないと思うのだが。

 視線の先に存在するのは、百匹を超えるだろう穢れの群れ。

 そんな穢れの群れが、ブルーメタルで作った罠……より正確にはブルーメタルで一畳程の地面を覆っただけだが、そこに密集しているのだ。

 穢れに慣れていて、ブルーメタルの罠を仕掛けるのが三度目ともなるレイであっても、その光景には驚く。

 なら、アリアスを始めとして初めて穢れを自分の目で見る者達が、百匹近い穢れを見て驚くなという方が無理だろう。


「どう? 凄いでしょ」

「いや、なんでお前が自慢してるんだ?」


 レイは自慢げな様子で言ったニールセンに呆れの声を掛ける。


「何よ、私は穢れについてはアリアス達よりも詳しいのよ。……まぁ、それでも穢れを見た不快感はあるけど」

「だろうな」

「グルゥ」


 ニールセンの言葉に、レイとセトはそれぞれ同意する。

 穢れとの関わりも大分長くなってきたレイだったが、それでも穢れを見て抱く本能的な嫌悪感というのはなくならない。

 大分慣れてきたので、初めて見た時のような嫌悪感はないのだが、それでもやはり嫌悪感は抱くのだ。

 レイ達ですらそうなのだが、アリアス達は一体どれくらいの嫌悪感を抱いているのか。

 アリアス達に視線を向けると、全員が驚きの表情の中にもやはり不快感を浮かべている。

 いつまでもこのまま放っておく訳にもいかないと、レイはミスティリングから魔剣を取り出す。


「アリアス」

「……何だ?」


 レイの声にアリアスが視線を向ける。

 そこに少し不機嫌な色があるのは、穢れを見たことによるものだろう。

 レイもその気持ちは分かったので、その件については特に気にするようなこともなく魔剣を差し出す。


「これが穢れに特効を持つ魔剣だ。これを使って、実際に穢れを攻撃してみてくれ。俺と同じ効果が発揮されるのなら、穢れに触れた時点で穢れは消滅すると思う」


 昨日は魔法を使って穢れの大半を殺してから魔剣を試したが、今日は魔法を使う前に魔剣を試すことにする。

 それは何人もが魔剣を使って穢れを消滅させるというのを試してみたかったからだ。

 それで実験が十分に終わったら、後は残りを魔法で纏めて焼滅させてしまえばいい。


「分かった」


 レイが差し出した魔剣を受け取ったアリアスは、穢れを刺激しないようにゆっくりと近付いていく。

 実際には穢れは攻撃しなければすぐ近くを通っても気にした様子もなく行動するのだが。

 それを知っていても、アリアスは穢れを見たのは初めてなので、どうしても緊張するのだろう。

 穢れの群れに近付いていくアリアス。

 しかし、穢れはそんなアリアスの存在に気が付いた様子もなく、何とかブルーメタルで囲まれた空間に入ろうとしていた。

 正確には、その空間の中にいると思っているボブを殺そうとしているのだが。

 アリアスはそんな穢れの様子を見つつ近付いていき……

 斬、と。

 無言で魔剣に魔力を流し、一閃する。

 狙ったのは、穢れの中でも一番外側にいた個体。

 その個体はアリアスの振るった魔剣に切断された瞬間、消滅する。


(俺の時と同じだな)


 穢れに対しての効果そのものは、レイが使った時と同じだった。

 穢れが消滅する速度もレイとは変わらない。


「これは……」


 アリアスは自分の攻撃によってあっさりと穢れが消滅したのを見て、驚きの声を上げる。

 レイから魔剣の効果については聞いていたものの、それでもまさかここまであっさりと穢れを消滅させるとは思ってもいなかった。


「アリアス、どうする? 他の奴に使わせてみるか? それとももう少し試すか?」

「もう少しやらせてくれ」


 そう言い、アリアスは再び魔剣に魔力を流して振るう。

 今度は近くにいた穢れと同時に二匹の穢れが滅する。

 その後も続けて何度か魔剣を使い、穢れを消滅させていく。

 最初は若干恐る恐るといった様子だったが、ある程度慣れてくるとその動きも躊躇がなくなっていった。

 最終的には二十匹近い穢れを消滅させると、それでようやくアリアスは満足したのだろう。

 レイに近付いてくる。


「凄いな、これは」

「だろう? こと穢れに関しては圧倒的なまでの攻撃力を持つ。……とはいえ、アリアス以外の者にも試して欲しいから、そっちの二人にも使わせてくれないか?」


 アリアスはレイの言葉に頷き、一人の騎士に魔剣を渡す。


「試してみろ」

「分かりました」


 アリアスが使ったのを見ていたからだろう。

 騎士はあっさりと魔剣に魔力を流してから、穢れの群れに近付いていく。

 仲間がかなり大量に消滅させられたのに、他の穢れが警戒する様子はない。

 自分達に攻撃されない限り、何とかしてブルーメタルに囲まれた空間に入ろうとしていた。


(今更だけど、穢れには目もないんだな。サイコロや円球であってもその辺は変わらないということは、次に新しい穢れが出てきたら目とかが出来て状況判断をしたりしてもおかしくはないか)


 もし穢れに目があって、ある程度の状況判断が出来るようになれば、レイとしてはあまり好ましいことではない。

 今は楽に穢れを殺せているが、そのようなことが出来なくなる可能性も十分にあるのだから。


「凄い」


 魔剣を振るって穢れを消滅させた騎士が、驚きの声を上げる。

 アリアスが魔剣を使って穢れをあっさりと消滅させていたの見ていたものの、自分も同じように出来るとは思っていなかったのか。

 そのまま数匹の穢れを消滅させ……


「その辺でいい」


 アリアスの言葉で穢れを消滅させるのを止める。

 そうして魔剣は最後の騎士に渡されるが、そちらでも魔剣の効果は変わらなかった。


「この魔剣は本物だな」


 戻ってきた騎士から魔剣を受け取ったアリアスは、そう言いながらレイに魔剣を返す。

 わざわざアリアスを経由しなくてもと思いはしたが、アリアスにしてみれば自分がレイから魔剣を借りた以上、やはりレイに返すのは自分がやるべきだと判断したのだろう。


「そうみたいだな。俺が使った時と効果は変わらなかったようで何よりだ」


 魔剣の効果を発動するのに、実は大量の魔力を消費するといったことになっていたら、レイは困っただろう。

 レイ本人は莫大な魔力を持っているので、一般的に大量の魔力を消費すると言われてもそこまで実感がない。

 例えば一万のうちの十の魔力と、百のうちの十の魔力では、消費するのは十という同じ魔力量であっても、その割合は大きく違う。

 また、一万の魔力を持ってる者が十と十五ではその違いは殆どない。

 百の魔力を持っている者なら、十と十五ではそれなりに大きな違いがあるが。


(エレーナはともかく、ビューネが使う場合は魔力の消費量が多ければちょっと困っただろうしな。そういう意味では、今回の実験はやった甲斐があった)


 そう考えつつ、レイは魔剣をミスティリングに収納し、デスサイズを取り出す。


「さて、じゃあ実験も終わったし、そろそろ穢れを焼滅させるか」


 レイのその口から出た言葉に、アリアス達は興味深そうな表情を浮かべる。

 レイの魔法が強力なのは分かっているが、それでも間近で見ることは滅多にないというのが大きい。

 ベスティア帝国との戦争では大々的に使ってみせたものの、アリアス達の見る機会はそれ以後なかった。

 実際にはレイもそれなりに魔法を使ってはいたのだが。

 巡り合わせというのもあるのだろう。

 アリアス達もレイの実力についてはこれ以上ないくらい、理解している。

 それでもダスカーの懐刀と呼ばれることもあるレイの実力を、改めて見てみたいと思ったのだろう。

 そのようなアリアス達の視線に気が付いたレイだったが、何故そこまで期待の視線を向けているのか分からず、戸惑う。


「何を期待してるのかは分からないけど、普通に魔法を使うだけだぞ? アリアス達の見たがっているものが見られるとは限らないんだが」

「構わん。ただ、俺はレイの魔法を自分の目で直接見てみたいだけだ」

「そう言うなら……」


 レイもアリアスの様子から、これ以上何を言っても意味はないと判断したのか、ブルーメタルを中心に集まっている穢れの群れを見ながら意識を集中する。


『炎よ、汝は我が指定した領域のみに存在するものであり、その他の領域では存在すること叶わず。その短き生の代償として領域内で我が魔力を糧とし、一瞬に汝の生命を昇華せよ』


 穢れを相手にする場合、やはり一番有効なのはこの魔法だった。

 呪文を唱えつつデスサイズの石突きを地面に突き刺すと、そこから魔力のラインが地面を走る。

 ブルーメタルを中心にした穢れ、全てを囲むと、魔力による赤いドームが出来上がる。

 そして赤いドームの中にはトカゲの形をした火精が次々に姿を現し……


『火精乱舞』


 魔法が発動すると同時に、火精が爆発を始める。

 一つの爆発はそこまで大きな爆発ではなかったが、その爆発が連鎖することによって爆発の密度が高くなり、やがて赤いドームの中は爆炎によって蹂躙された。


「これが、レイの魔法……」

「凄いな」

「ああ」


 アリアスの言葉に二人の騎士も同意するように言葉を交わす。

 レイやセト、ニールセンにしてみれば、今まで何度も穢れに使ってきたので慣れた魔法ではある。

 だが、初めて見るアリアス達にしてみれば、レイの魔法は圧倒される光景を目の前に作り出していた。


「ふふん、どう? 凄いでしょ」


 何故かレイではなくニールセンが自慢げに言う。

 そんなニールセンの様子に呆れるレイだったが、別にここで自分が何かを言ったりしなくてもいいだろうと判断し、黙っておく。


「ああ、凄いな。レイの魔法が凄いというのは聞いていたし、実際に前に見た事もあるが……その時は遠くからだった。こうして近くで見ると、改めて凄いと思う」

「え? あ、そう……」


 予想以上に高評価なアリアスの言葉に、ニールセンは少し戸惑う。

 レイの魔法が凄いのは、それこそニールセンもよく理解していた。

 それでも慣れというのは恐ろしいもので、まさかここまでアリアスが絶賛するとは思っていなかったのだ。

 それに意表を突かれたというか、どのような反応を示せばいいのか分からなくなってしまったのだろう。

 しかし、アリアスや他の騎士には、一体何故ニールセンが今のような対応をしたのか分からない。

 ニールセンの態度の理由を察しているレイは、笑いを押し殺すのに必死だったが……


「ちょっと」


 そんなレイの様子に気が付いたのか、ニールセンが不満そうな様子で声を掛ける。

 レイはそんなニールセンの様子にそっと視線を逸らし、わざとらしい様子で口を開く。


「そう言えばまたブルーメタルで罠を仕掛けないと。アリアス、悪いけど手伝ってくれるか? すぐに終わるから」

「え? ああ、それは構わんが。どこに罠を仕掛けるんだ?」

「俺が魔法を使った場所の周辺だな。……今はまだいいけど、あの赤いドームを解除すると周囲に熱気が放たれるから、その前に終わらせておきたい」


 そう言い、レイはミスティリングの中からブルーメタルの鋼線を取り出す。

 ダスカーから受け取ったこの鋼線が、しっかりと効果を発揮するかどうか……残念ながらレイにも完全に予想は出来なかったものの、だからこそ試してみる必要があった。


「分かった。じゃあ、急ごう。……ここでボブだったか。その男が穢れと接触したんだったな?」

「ああ、これが終わって妖精郷に戻ったら、ボブともしっかり話をさせるよ。もっとも、ボブは腕利きの猟師だが、言ってみればそれだけだ。特に何かがあるって訳じゃない。……運が悪いってのはあるかもしれないが」


 もしボブが旅をしながら猟師をやっていなければ、穢れの関係者と遭遇するようなこともなかっただろう。

 そうなればボブがしつこく狙われるようなことはなかったが、穢れの関係者についてボブを通してレイが知ることもなく、世界の崩壊という穢れの関係者の狙いが成功していた可能性もある。

 レイとしては、ボブが幸運なのか不運なのか、少し分からない。

 もっとも、最終的にレイに助けられ、妖精郷に匿われているのだから幸運なのだろうが。

 その割には妖精郷から出て穢れに見つかったりもしているが。


「頼む。俺もボブとは話をしてみたい。……これ、本当に大丈夫なのか?」


 レイに渡されたブルーメタルの鋼線に、不安そうな様子のアリアス。


「その気持ちは分かるけど、試してみないと何とも言えない。……お前達も手伝ってくれ」


 レイはアリアス以外の二人の騎士やニールセン、セトにも頼み、ブルーメタルの鋼線を円状に設置していくのだった。

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