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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3375/3865

3375話

レジェンド20巻、発売しました。

続刊に繋げる為にも、よろしくお願いします。

「うわ……これは凄いな……」


 霧の空間を抜けて妖精郷に入ると、そこにいたのは多数の妖精達。

 実際にはボブやピクシーウルフといった妖精以外の者達もいたのだが、騎士達の視線には妖精達の姿が多く映っていた。

 ……妖精というだけなら、妖精郷の外まで迎えに行ったレイの側にニールセンもいたのだが。

 一人だけのニールセンと、こうして群れになっている多数の妖精達では受ける印象が違ってしまうのだろう。


「えっと……レイ? これはどうすればいいんだ? 以前来た時はこんな風にはならなかった筈だけど」


 以前、ダスカーと共に妖精郷に来たことのある騎士が、目の前に広がる光景にそう尋ねる。

 これで妖精達が騎士達を敵視してるのなら、もう少し話も違ったかもしれない。

 だが、妖精達の表情にあるのは好奇心が殆どで、敵意の類はない。

 そんな相手が集まっているこの状況で、下手に行動すればどうなるのかと疑問に思ってもおかしくはない。


「俺達はこれから長のところに行くんだが、それを邪魔するような奴はいないよな?」


 ピシリ、と。

 レイの口から出た言葉に、集まってきた妖精達の動きが止まる。

 それはもう、見事なまでに全員同時に。

 まるでタイミングを合わせていたのではないかと思ってしまうくらいに。


「ほら、今のうちに行くぞ」

「あ、ああ。……そんなに長って怖いのか? ひぃっ!?」


 高ランクモンスター相手にしても……それこそ雷蛇を相手にしても決して怯んだりはしないだろう強さを持っている騎士達だったが、長が怖いという言葉を口にした瞬間に妖精達の視線が全て自分に集まったことに気が付き、思わず悲鳴を上げる。


(いきなりこれだけの妖精達に見られれば、怖くもなるか)


 妖精達にとって長は絶対の存在であると同時に、ニールセンがお仕置きされているのを見れば分かるように恐怖の象徴的な色もある。

 そのような存在が本当に怖いのかと口に出したのだから、妖精達にすれば本気か? といった驚きの視線を向けるのはおかしな話ではない。


「ほら、取りあえず行くぞ。悪いけど、この連中を相手にするのは長との話が終わってからにしてくれ」


 レイの言葉に、不承不承といった様子で妖精達は飛び去る。

 何だかんだと、レイもまた妖精郷においては大きな存在感を持つ。

 そんなレイの言葉だから、妖精達も大人しく従ったのだろう。

 ……ここで下手に邪魔をすれば、長が怖いからという理由もそこには当然あったのだろうが。


「じゃあ、行くぞ。お前達が泊まる場所もあるが……まずは長との顔合わせをしておいた方がいいよな?」

「あ、ああ。それで頼む。親書も持ってきてるから、出来るだけ早く渡しておきたい」


 騎士の一人……恐らく今回やって来た騎士の纏め役だろう人物がそう言う。

 妖精達を呆気なく解散させたレイの影響力に驚きながらの答え。


「じゃあ、行くぞ。……雷蛇の襲撃があって、妖精郷もそれなりに被害を受けた。まだ直ってなくて荒れている場所もあるけど、あまり気にしないでくれ。妖精魔法でそのうち直るから」

「妖精魔法って凄いんだな」

「言っておくけど、妖精魔法で直せるのはあくまでも自然環境だけだぞ。例えばギルムで家が壊れたから妖精魔法で直す……なんてことは、まず出来ない」


 そう言うレイだったが、レイも妖精魔法について全てを知っている訳ではない。

 レイが知っている妖精魔法は植物を操るものが大半だったが、中にはそれこそ限定的に時間を巻き戻して壊れた家を直すといったことが出来る妖精がいてもおかしくはない。


「妖精というのはそういうものか」

「そういうものだよ。……行くぞ」


 そう言い、レイは騎士達を引き連れて妖精郷の中を進む。

 以前ダスカーと共に妖精郷に来た騎士達は周囲の様子を確認しているが、初めて妖精郷に来た騎士達は物珍しそうな表情を浮かべている者もいる。

 レイにしてみれば妖精郷で寝泊まりすることは珍しくないので、騎士達の様子の方が珍しいと思えた。


「なぁ、レイ。あの木は……」


 騎士の一人がレイに向かってそう尋ねる。

 それが何について聞いているのか、レイにはすぐに分かった。


「ああ、雷蛇との戦いで折れた木だな」

「あの太さの木をへし折るような敵が出るのか……」

「そうなるな。ただ、雷蛇のようなランクAモンスターがそう頻繁に妖精郷を襲ったりはしないと思う」


 レイにしてみれば、雷蛇のような高ランクモンスターが妖精郷を襲わないのは悪い話ではないが、同時に残念でもある。

 高ランクモンスターの魔石というのは、魔獣術に必須なのだから当然だろう。


「低ランクモンスターなら、長の結界を抜けることは出来ない。ランクBモンスターでも……ちょっと難しいだろう。それこそ長の結界を突破出来るのは、雷蛇のような高ランクモンスターでないと無理だと思う。そう考えると、妖精郷の中で実際にモンスターと遭遇して戦うということは基本的にはないと考えてもいい」

「とはいえ、例外が起きることが多いのが辺境なんだがな」


 騎士達も自分達の仕えているのが、辺境のギルムを治めるダスカーだというのは知っている。

 それだけに、辺境においては何が起きても不思議ではないと理解していた。

 それこそ基本的にないと思われることが頻繁に……とまではいかないが、それなりに起きてもおかしくないのが、この辺境なのだから。


「そうかもしれないな。そうなった時、俺がいたら手伝うよ」

「レイがいるかどうかは、戦力的に大きく関係してくるな」

「俺だけじゃなくて、妖精達の力も借りられるぞ。俺が雷蛇を倒した時もニールセンや長の力を借りて動きを封じたのが、決定的な一撃を放つ要因となったし」


 レイの言葉に、話を聞いていた騎士達は感心した様子を見せる。

 そしてレイの側を飛んでいる妖精に視線が集まる。


「ふふん、私と長がいたからレイは勝てたのよ」


 騎士達の視線に自慢げに言うニールセン。

 もし今のような視線を向けてきたのが騎士達ではなく野営地にいるような妖精好きの冒険者達なら、今のようなことを言ったりはしなかっただろう。

 ダスカーが妖精郷の護衛として送ってきた騎士達は、妖精に好意的ではあるが、妖精好きという訳ではない。

 ニールセンは自分に向けられる視線からそれを理解し、今のように気安く騎士達の視線に言葉を返したのだろう。


「いやまぁ、それは嘘じゃないけど……雷蛇を押さえつけていた割合だと、ニールセンよりも長の方が上だろう?」

「ぐ……それはそうだけど……だからって、私の力がなかったら雷蛇を抑えておくことが難しかったのはまちがいないでしょう?」


 そう言われると、レイもその意見は否定しにくい。

 もし最後に長だけで雷蛇を押さえつけようとしていた場合、恐らくだが雷蛇を完全に押さえつけておくことは不可能だったというのはレイにも予想出来るからだ。

 そういう意味では、やはりニールセンが協力していたからからこそあの時点で雷蛇を倒せたのは間違いのない事実だった。


(あそこで倒せなくても、最終的には勝ったと思うけど)


 そう思うレイだったが、口に出すことはない。

 その後も、以前ダスカーと一緒に妖精郷に来た者達は、雷蛇との戦いで変わっている光景に驚き、初めて妖精郷に来た者達はここが妖精郷なのかといったように周囲を眺めていた。


「そうそう、ダスカー様から聞いてるかもしれないけど、この妖精郷には俺達以外にもボブという人物がいる。後で紹介するけど、もし妖精郷で見掛けても怪しい相手だと認識したりしないでくれ」


 騎士達がボブにどのような認識を持っているのか、レイには分からない。

 何しろレイの認識では、ボブは見る目が変わればその行動は大きく変わる。

 穢れをギルムの周辺に持ち込んだ厄介者と見ることも出来るし、穢れが世界を崩壊させる前にそれに気が付く切っ掛けを与えてくれた功労者と見ることも出来る。

 レイは後者として見ているものの、他の者も同じように見ているとは限らなかった。

 それでも今のところ穢れによって大きな被害が出た訳ではない以上、厄介者よりも功労者として見る者も多いだろうが……その件が関係して、騎士達は妖精郷に派遣されることになったのだから、騎士達の中に不満を抱く者がいてもおかしくはなかった。

 実際には雷蛇と穢れの件は全くの別物だというのがレイの予想なのだが。

 もし穢れの関係者が雷蛇のような高ランクモンスターを操るようなことが出来るのなら、そもそもここまで苦戦はしていなかっただろう。

 ボブを殺すのに、次々とランクAモンスターを操って襲撃させれば、それでいいのだから。

 ……勿論そうなればレイも黙っている筈もなく、魔獣術の件もあって積極的に高ランクモンスターとの戦いに参加しただろうが。


「分かっている。俺達はこれでも騎士だ。意味もなくそのボブという奴に何かしたりはしないから安心してくれ」


 その言葉にレイは安堵し……そうして話している間も妖精郷を進み続け、やがて目的の場所に到着する。


「よく来てくれました。今回は妖精郷の護衛をして貰えるということで、感謝しています」


 騎士達に向け、長はそう言う。

 レイやニールセンにしてみれば、長との会話は慣れている。

 だが騎士達にしてみれば、長の持つ雰囲気は圧倒されるものがあった。


「は、はい。この妖精郷は私達が何としても守ってみせます。それと……こちらは、ダスカー様からの親書となります」


 長の雰囲気に気圧されながらも、騎士を率いている男はダスカーから預かった親書を渡す。

 しっかりと封蝋がされている親書は、それが正式なものであるということを意味していた。


「っ!?」


 長が軽く手を振ると、男の手の中にあった親書が長に向かって移動する。

 風に飛ばされた訳ではないのは、長の前で親書が止まったのを見れば明らかだろう。

 いきなりのことに親書を持っていた男は息を呑むものの、それでも驚きの声を上げたりしないのはこの騎士達を率いるようダスカーに命じられただけのことはあるのだろう。

 そんな騎士の様子を一瞥した長は、念動力を使って丁寧に手紙を開封して読み始める。

 数分が経過すると手紙を読み終えた長は再び念動力を使って手紙を封筒に戻す。


「なるほど。ダスカー殿が私達に好意的なのは分かりました。護衛の件もそうですか、いずれ感謝の印としてダスカー殿が欲しているであろうマジックアイテムを譲渡しましょう」


 長の言葉に騎士達は驚く。

 これが普通のマジックアイテムでも驚くところだが、ここは妖精郷。

 妖精の作ったマジックアイテムというのは、それだけで特殊な価値……一種のプレミアのようなものがつく。

 実際に妖精の作ったマジックアイテムを持っている貴族は、それを理由に相応の影響力を発揮出来るといったくらいの力を持つのだ。

 勿論、ただ妖精の作ったマジックアイテムを持っているだけでそこまでの効果はない。あくまでも貴族が妖精の作ったマジックアイテムを有効に使っての話だが。


「貴方達が泊まる場所は、レイ殿の側と聞いています。それで問題はありませんか?」

「はい、問題ありません」

「テントの類は用意してあるのですか? 見たところ、特に持ってはいないようですが」

「ある程度は馬に積んできていますし、ダスカー様からこちらも渡されています」


 そう言い、長と話していた男が見せたのは袋。

 何も知らない者が見れば、ただの布袋としか思えないだろう袋だったが、マジックアイテムの製造を得意としている長はすぐにその布袋が何なのかを理解する。


「アイテムボックスですか」

「はい。レイのミスティリングのような本物ではなく、簡易型ですけどね」


 そう言い、男はレイを……正確にはレイの手元にあるミスティリングを見る。

 アイテムボックスの簡易型、もしくは量産型というのは存在する。

 とはいえ、性能という点ではオリジナルと比べて圧倒的に劣るが。

 無制限に収納可能で、収納した時点で時の流れが止まるオリジナルのアイテムボックスと違い、簡易型は収納出来る量は決まっており、時間も普通に流れる。

 レイのように大量の物資を入れるということは出来ないし、出来たての料理を出来たてのままいつでも食べることも出来ない。

 そういう点で、性能の面で大きく劣っているのは間違いないが……だが、それはあくまでもオリジナルと比べればの話だ。

 今回のようにテントや食料を始めとした物資を収納して運べるという点で、その効果は非常に大きい。

 ダスカーも普通なら自分の持っているアイテムボックスを使わせたりはしないのだが、それだけダスカーがこの妖精郷の安全を重視しているという証だった。

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