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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3373/3865

3373話

 レイとダスカーが話し、そこに時々ニールセンが茶々を入れるといったことをしていると、客室の扉がノックされる。

 ダスカーがニールセンに隠れるように言い、部屋に入るように言うとレイも何度か話したことがある騎士が金属の箱を手に部屋の中に入ってくる。


「ダスカー様、ブルーメタルのインゴットを鋼線状にした物をお持ちしました」

「ご苦労」


 短く感謝の言葉を口にするダスカー。

 騎士は金属の箱を床に置くと、ダスカーに一礼して部屋を出る。

 扉が完全に閉まったところで、ダスカーはレイを見て言う。


「レイ、これが鋼線状のブルーメタルだ。確認してくれ」


 その言葉に頷き、レイは金属の箱を開ける。

 するとそこには、青い金属の鋼線が入っていた。

 これがブルーメタルであるのは、間違いないだろう。


「インゴットだったのが鋼線状になると、大分印象が違いますね」


 素直にレイは感想を口に出す。

 実際、こうして見たところインゴットの時と比べて大分印象が違う。

 デスサイズでインゴットを斬っても、そこまで印象は変わらなかったのだが。


「一応形を変えただけだから、ブルーメタルのままだ。……後は、ブルーメタルのインゴットの時と同じような効果があるかどうかだが。それはレイに試して貰うしかない」

「分かりました。じゃあ、早速これは貰っていきますね」


 そう言い、レイはブルーメタルの鋼線をミスティリングに収納する。


「じゃあ、そろそろ戻ります」

「随分と急ぐな」

「雷蛇の件もあるので、あまり長い時間妖精郷を空けたくないんですよ。長が万全の状態ならそれでもいいんですが」

「そうか。護衛の騎士は、可能な限り早く選抜して妖精郷に送る。ただ、その場合は必要な物資の類を運ぶのはレイに頼ることになると思うが、それは構わないか?」

「そのくらいでしたら問題ないですよ。けど、穢れの関係者の本拠地を襲撃する時はどうするんですか?」


 奇襲にはレイも参加するので、補給物資の運搬は出来ない。

 前もって補給物資……食料や武器、防具、ポーション、着替えといった諸々をある程度運んでおくことは出来るが、それでも追加で補給を持ってくる者がいなければ、どうしても誰かが物資を運ぶ必要があった。


「その時はこっちで補給隊を用意する。……馬車が使えないのは痛いが、それでもレイ達が戻ってくるまでの間はどうにかやってみせる」

「分かりました。じゃあ……ニールセン、行くぞ」

「ぐるぅ!」

「……セトじゃないんだから」


 何を思ったのか、レイの呼び掛けにニールセンはセトの鳴き声を真似する。

 それなりに上手い鳴き真似だったが、それでもセトを相棒にしているレイにしてみれば、その声を聞き間違えることはない。


「駄目だった? ちょっと似てるって他の妖精達には言われたんだけど」

「お前達、普段何をしてるんだ」


 レイの言葉に呆れの色が強い。

 好奇心が強い妖精の性格を考えると、そのようなことをしていてもおかしくはないと思いながらも、レイは息を吐く。


「色々よ、色々。それよりもそろそろ行くんでしょ? なら、行きましょうか」


 ニールセンの言葉に、レイは呆れつつもダスカーに頭を下げるのだった。






「さて、これで罠が無事に効果を発揮すればいいんだけどな」


 トレントの森からそう離れていない、これまで二度罠を仕掛けた場所。

 そこにレイは、領主の館でダスカーから貰ったブルーメタルの鋼線を地面に置く。

 インゴットではなく鋼線なので、一畳程の範囲を長方形に置くのではなく、丸く地面を覆った。


「何で今日までと違う形にするの?」


 ニールセンの疑問に、レイは特に悩むでもなく口を開く。


「特に意味はない。ただ、昨日よりも今日の方が集まっている穢れは少なかっただろう? ブルーメタルで入れない場所が昨日までと違うと、穢れの数が増えるんじゃないかと思ってな」

「増えるの?」

「どうだろうな。実際にやってみないと分からない。穢れの数が増えたらラッキー程度の気持ちだな。折角ブルーメタルの鋼線があるんだから、インゴットの時に試せなかったことを試してみるのは悪い話じゃないだろう?」

「そういうものかしら。……とにかくここでやることが終わったんなら、そろそろ戻りましょう。妖精郷をあまり長く空けておきたくないんでしょう?」


 ニールセンに促されたレイは、素直にその言葉に頷く。

 少し離れた場所で周囲を警戒しているセトを呼ぶと、妖精郷に向かうのだった。






「そうですか。レイ殿には感謝を」

「いや、護衛の騎士を派遣するのは俺じゃなくてダスカー様なんだから、俺に感謝するのはどうかと思うぞ」


 妖精郷の奥、長のいる場所でレイはそう言う。

 だが、長はレイの言葉に首を横に振る。


「いえ、レイ殿がいなければ。そもそも護衛を要請することも出来なかったのです。だとすれば、今回の件はレイ殿がいたからこそどうにかなったのですから、それに感謝をしない訳にはいきません。……そもそもレイ殿がいなければ、雷蛇によって妖精郷は壊滅していたでしょうし」


 長が少しだけ悔しそうにしながら言う。

 長にしてみれば、もしレイがいなければ雷蛇によってこの妖精郷が壊滅していたのは間違いのないことだ。

 つまりレイは、長にとって……いや、この妖精郷にとって恩人と言うべき存在となる。


「雷蛇の件はそこまで気にしなくてもいいと思うけどな。素材とかも大半を俺が貰ったし」

「レイ殿がいなければ雷蛇は倒せなかったのですから、それは当然かと。それに……私は雷蛇の鱗を貰いましたし、肉も多くの妖精が食べました。それで十分かと」


 長の言葉は事実だ。

 雷蛇の鱗……セトのファイアブレスを食らっても軽く焦げる程度で、レイの投擲した黄昏の槍の威力でも突き刺さりはしたが身体を貫くことが出来なかった、そんな雷蛇の圧倒的な防御力を支えていた鱗だ。

 ランクAモンスターの中でも中位以上の力を持つだろう雷蛇の鱗と考えれば、その素材の価値は計り知れない。

 また、その雷蛇の肉も妖精達によってかなりが消化されている。

 ニールセンを見れば分かるように、何故か妖精は自分の体積以上の食料でも普通に食べられる。

 妖精以外にも、レイ、セト、ボブ、ピクシーウルフ……また、何とか生き残った狼達も、雷蛇の肉を思う存分食べていた。

 レイとしては、雷蛇の肉の効果によってピクシーウルフが高位のモンスターに進化したり、狼がモンスターになったりしないかと思ったのだが、残念ながら今のところそんな様子はない。

 ともあれ、昨夜の宴で多くの雷蛇の肉が消費されたのは事実。

 ……ランクAモンスターの肉ともなれば、普通なら貴族や大金持ちですら、手に入れようとしても簡単に手に入るものではない。

 本来なら腕利きの料理人が、その技量の粋を凝らして料理するような、そんな素材だ。

 レイ達はそのような素材を、バーベキューで焼いて食べたのだから、もしその価値を知ってる者がいたら一体何をしていると叫んでもおかしくはない。

 なお、その雷蛇の肉ですらクリスタルドラゴンの肉を食べられなかった者達が代わりに食べていたという……色々な意味で酷い宴だった。

 レイにしてみれば、死んだ妖精や狼達を騒いで弔う為の宴だったので、それでいいと思っているのだが。


「そう言って貰えると、俺としても鱗や肉を提供した甲斐があったよ。それで護衛の騎士の件についてだが、妖精郷で寝泊まりをするとなると、食料とかそういうのも必要になるだろう? そっちについてはダスカー様の方で用意すると思うけど、妖精達が悪戯をしないように注意してくれ」


 レイのその言葉は、妖精の性格を知ってるからこそのものだ。

 ニールセンを始めとした妖精達は、好奇心が強く悪戯をすることも多い。

 それを抜きにしても、食い道楽……という表現が相応しいのかどうかレイには微妙に分からなかったものの、とにかく美味い料理を食べるのを好む。

 その筆頭がニールセンで、自分の身体より大きな肉でもあっさりと食べきるのだ。

 そんな妖精達が、護衛に来る騎士達の食料があると知ればどうするか。

 自分だけなら、ちょっとだけ、少しだけ、自分達だけなら、これくらいなら……そんな風に思いながら護衛に来た騎士達の食料が少しずつ、少しずつ……だが確実に減っていくのをレイは容易に予想出来てしまう。

 予想出来てしまうので、自分の側にいるニールセンに視線を向け……


「え? ちょっ、何よ、レイ。私が何かすると思ってる訳!?」

「何もしないと言って、それを信じられるとでも?」

「ぐ……それは……」


 ニールセンは今までの自分の行動を思い浮かべ、レイの言葉に反論出来ない。

 そんなニールセンを見ながら、レイはやはり騎士達の食料については絶対に長から言っておいて貰った方がいいだろうと判断する。

 幸いなことに、妖精達は長のお仕置きの怖さを知っている。

 ……正確にはニールセンが自分の身を以て他の妖精達に長のお仕置きの怖さを教えたといった方が正しいだろう。

 そうしてニールセンがお仕置きされているのを見ているだけに、妖精達は長に言われたことを無視したりといったことはしない。


「分かりました。では、他の妖精達にもその旨、伝えておきましょう。……そしてニールセン。分かってますね?」


 レイの言葉に、長はニールセンに念を押すように言う。

 レイに言われたのなら、ニールセンも不満を口に出来るだろう。

 だが、長に言われたとなるとその言葉に反論は出来ない。

 これがある程度ニールセンにも反論出来る要素があるのなら何とかなる。

 だが、生憎と今の話の流れからすると、ここで下手に長に反論をしようものなら……


「は、はい。分かりました。決して妙なことはしません」


 長に対し、ニールセンはそう言葉を返す。

 もしここでふざけた真似をしようものなら、自分が一体どのような目に遭うのか、十分に分かったのだろう。

 場合によっては、他の妖精達が護衛に来た騎士達の物資、食料を含めたものにちょっかいをだしたらどうなるのかというのを、直接見せることによって警告代わりにするのではないかとすら思ったのだ。

 そして実際、ニールセンの勘は正しい。

 長はもしここでニールセンがふざけるような返事をしていたら、ニールセンが考えている通りのことを……あるいはそれ以上のことをしようと思っていたのだから。

 この辺の勘の鋭さは、今まで何度も長にお仕置きをされてきたニールセンだからこそだろう。


「じゃあ、早ければ明日にでも護衛の騎士達が来ると思うから、来たら妖精郷の中に入れてやってくれ。寝泊まりはテントを使うと思うけど……俺がいつも使ってる場所の近くでいいと思う」

「いいのですか? レイ殿にとってはあまり他の人がいるのは好ましくないのでは?」

「そう言っても、他にちょうどいい場所はないだろう?」


 レイがいつも使ってる場所は、特に何の理由もなく何となくそこに決めた……といったような場所ではない。

 妖精郷を見て、最善だと思った場所がマジックテントを使っている場所だったのだ。

 具体的には妖精郷の中で端に近いので、あまり他の妖精がやって来ないとか。

 もしくは穢れのような敵が妖精郷に近付いて来た時、セトに乗ってすぐに対応に出られるような場所だとか。

 ……そこまで大きな出来事ではないが、料理をする際にその匂いが周囲に漂って妖精が集まってこないように。

 他にも色々と理由はあるが、レイにしてみれば現在マジックテントで寝泊まりをする場所を決めたのには色々と理由があった。

 そのような場所だけに、護衛に来た者達が快適な暮らしの出来る場所となるとレイの使っている場所で同じように寝泊まりするのが最善なのは間違いない。

 あるいは何らかの理由で別の場所がいいと思うのなら、レイも無理に自分と同じ場所で寝泊まりをしろとは言わないが。

 妖精郷を見て回り、どこか自分にとって丁度いい場所を見つければいいだけなのだから。


「分かりました。では、護衛の人達が来たらレイ殿のいる場所に案内しましょう」

「頼む。ダスカー様が選んだ人物だから、妙な事を考えたりはしないと思うが、もしそういう連中がいたら、こっちでどうにかする」

「いえ、そこまでレイ殿に迷惑を掛ける訳には……」

「大丈夫だ。任せておけ。長が万全の状態ならともかく、今は違うだろ?」


 レイの言葉に長は少し驚き、やがて笑みを浮かべる。


「ありがとうございます」

「……あれ?」


 感謝の言葉を口にした長だったが、不意にニールセンがそんな声を上げる。

 どうした? とレイと長が視線を向けると、それにも気が付かないようにニールセンは何かを考えながら独り言を続ける。


「長が万全の状態じゃないのなら、お仕置きとかされないんじゃ……」


 ぽん、と。

 考えごとをし、独り言を呟いているニールセンの側に近付いた長がその肩を叩く。

 ギギギ、とニールセンが自分の肩を叩いた長に視線を向けると……


「試してみる?」

「ぴぃっ!」


 長の声に本気を感じ取ったニールセンは、そんな悲鳴を上げるのだった。

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