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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3360/3865

3360話

 妖精郷の上空で向かい合うセトと大蛇。

 いつもであれば多くの妖精が空を飛んでいるのだが、今そこにいるのはセトと大蛇だけだ。

 もしこの状況で妖精が空を飛んでいれば、それこそ戦いの余波で死んでしまってもおかしくない。

 あるいは大蛇によって丸呑みされるか。

 妖精達もそれが分かっているからこそ、ここで自分達が出ていくといったことはしないのだろう。


「グルルルルルゥ!」


 睨み合う中、最初に動いたのはセト。

 ブレスにはブレスという判断からか、セトから放たれたのはファイアブレス。

 レベル五に達した今のファイアブレスは、かなりの大きさの川であってもそこに流れている水を蒸発させるだけの威力を持つ。

 本来なら妖精郷……多数の植物が生えている場所で使うべきスキルではないのだが、大蛇の巨体……胴体の太さが一mを超えており、その身体の長さは十mを超えている。

 そのような巨大な蛇だけに、広範囲に攻撃出来るファイアブレスは有効な攻撃だと考えたのだろう。

 だが……


「嘘だろ」


 レイの口から驚きの声が漏れる。

 確かにセトのファイアブレスは、大蛇に命中した。

 そして鱗を焦がしたが……それだけだ。

 大きな川の水すら蒸発させるような威力を持つファイアブレスをまともに受けたというのに、鱗の表面が焦げただけなのだ。


(これ、俺が思っていたよりもランクの高いモンスターじゃないか?)


 最初、レイは大蛇をランクBかランクA。

 もしランクAだとしても、ランクBよりのランクAモンスターではないかと考えていた。

 だが、セトのファイアブレスを受けても無傷……とまではいかないが、それでも鱗が少し焦げた程度のダメージのモンスターが、ランクBに近いランクAモンスターだということはまずない。

 寧ろランクAモンスターの中でも中位から高位に位置するのではないかと思える。

 あるいは、これで大蛇が防御力に特化しているモンスターなら、また話は別かもしれない。

 だが、その巨体とサンダーブレスの一撃を見れば、とてもではないがそのような存在には思えない。

 だとすれば、やはりランクAモンスターの中でも相応の強さを持っているのだろう。

 それでも鱗を焼かれたのは痛かったらしく、大蛇はセトに向かって大きく……それこそ顎の関節などないのではないかと思わせるように口を開き、こちらは蛇とは思えない程に無数の鋭い牙を突き立てんとセトに迫る。


「させるか!」


 セトの速度を思えば、レイが手を出さなくても回避は出来るだろう。

 だが、大蛇の意識をセトだけに向ける訳ではなく、自分にも向けさせることによってセトの負担が軽くなるのは間違いない。

 その為の一撃。

 レイのその叫びは、意図的に大蛇に聞かせる為のもの。

 大蛇もレイの言葉の意味は理解出来なかったのだろうが、自分に向ける敵意は感じたのだろう。

 しかし、それでもセトに向けて放つ攻撃は速度を緩めることはない。

 口を大きく開き、身体全体で突撃するという方法である以上、レイの言葉を聞いても容易にその動きを止めることは出来ないのだろう。

 あるいは、レイが何をしても自分にはダメージを与えられないと思ったのか。


(その考えが間違いだったことを思い知らせてやる!)


 大蛇にしてみれば、レイはセトよりも小さい。

 それだけにセトの方を重視してもおかしくはないのだが……それは、今までレイを外見だけで判断して甘く見て絡んで来た不幸な者達と同じ結果にしてみせるべく、レイは黄昏の槍を投擲し……


「飛斬!」


 黄昏の槍を投擲した動きでその場で一回転し、大蛇に向き直った瞬間には右手のデスサイズを振るっていた。


「ギシャアッ!」


 真っ先に悲鳴を上げたのは、大蛇。

 セトに向かってもう数秒……いや、数瞬でその牙が届く時に大蛇の胴体にレイの投擲した黄昏の槍が突き刺さったのだ。……そう、突き刺さる程度のダメージしか与えられなかった。

 これにはレイも驚く。

 自分の使う黄昏の槍を使った投擲の一撃が、どれだけの威力を持ってるのかレイは十分に知っている。

 それこそ人の胴体に向かって放たれれば十人や二十人程度の胴体は貫くだろうし、木々の幹や岩でさえ貫き、破壊するだけの威力を持つ。

 そんな威力を持つ黄昏の槍だというのに、大蛇の身体に突き刺さっただけ。

 セトのファイアブレスを防いだのを見ても、まだレイは大蛇の鱗の防御力を過小評価していたらしい。

 黄昏の槍の一撃でそれなのだから、当然ながらデスサイズで放った飛斬は鱗に弾かれている。

 飛斬もレベル五になって、以前までとは別物と呼べるだけの強化がされているのだが、それでも大蛇の鱗を斬り裂くにはいたらなかったらしい。


「ギシャアアアアア!」


 だが飛斬はともかく、鱗を貫き、皮を破り、肉を斬り裂き、骨を砕く一撃は大蛇にとっても許し難かったらしい。

 痛みと怒りと憎悪が入り交じった叫びを上げ、標的をセトからレイに変えると大きく口を開く。


「ちぃっ!」


 その様子から大蛇が何をしようとしたのかを理解したレイは、素早く地面を蹴る。

 同時に念じることによって、大蛇の身体に突き刺さっていた黄昏の槍がレイの手元に戻る。

 次の瞬間、レイのいた場所にサンダーブレスが着弾する。

 地面が弾け、周辺一帯に土煙が巻き上がって視界を隠す。


(さっきもサンダーブレスを使ったよな。だとすれば、この大蛇は雷属性の攻撃を得意としているのか?)


 レイはモンスター図鑑を持ってはいるし、暇な時はモンスター図鑑を読むことも多いので、既にその中身はほぼ記憶していた。

 しかしモンスター図鑑の中にこの大蛇は描かれていない。

 つまり、この大蛇は未知のモンスターということなのだろう。

 もっとも、ここは辺境だ。未知のモンスターに限らず、未知の植物、動物、虫を見つけるのは珍しいことではない。

 ましてや、この大蛇はこれだけ強力で巨大なモンスターだ。

 その個体数はそう多くないだろうというのがレイの予想だった。

 ……そもそも、この大蛇のようなモンスターがゴブリンのように圧倒的な繁殖力を持っていたら、それこそギルムはもう陥落していてもおかしくはない。

 もしくはこの巨体から考えれば、餌が足りなくて共食いをするか、餓死をするか。

 基本的に多少の例外はあれども、高ランクモンスターとなればなる程にその数は少なくなるのが一般的だ。

 だからこそ、レイは目の前の大蛇も数は多くないだろうと予想する。


(取りあえず、雷蛇。そう呼称しておくか)


 土煙に紛れるようにしながら地面に着地し、レイはそんな風に考える。

 そんなレイの存在には気が付いていないのだろう。

 再度サンダーブレスを地上に向かって放つ。


(蛇ってのはピット器官とかそういうのがあるってことだったけど……まぁ、雷蛇はモンスターなんだから、蛇の形をしていても普通の蛇と同じように考えない方がいいか)


 ピット器官というのは、一種の赤外線センサーとでも呼ぶべきものだ。

 それを使えるのなら、土煙が舞い上がっていてもレイがどこにいるのかすぐに分かってもおかしくはない。

 それが雷蛇にないのは、レイにとって幸運だった。

 地面に着地したレイは、そのまま再び跳躍する。

 たん、たん、たん、と。

 スレイプニルの靴を発動し、空中を足場に何度も跳ぶ。

 スレイプニルの靴は、元々空中を蹴ることが出来るという能力を持っていた。

 だが、それでも空中を蹴ることの回数は決して多くはなかったのだが……錬金術師に改良して貰い、今ではより多くの回数、空中を蹴ることが出来るようになっていた。


「って、嘘だろ!?」


 土煙の中を突破するようにして空中を蹴ったレイだったが、それを見た瞬間に雷蛇は空中で素早く身をくねらせ、レイから距離を取ったのだ。

 レイの身体はゼパイル一門によって作られたもので、その身体能力は非常に高い。

 そんなレイが反応するよりも早く雷蛇はその場を移動したのだ。

 勿論、蛇というのは動物の中でもかなり高い身体能力を持っている。

 特にとぐろを巻いた状態から敵に襲い掛かる速度は、標的が何も出来ず一方的に攻撃をされることも珍しくはない。

 そういう意味では、雷蛇が高い身体能力を持っていてもおかしくはないのだろう。

 だが、雷蛇は地上にいるのではなく空を飛んでいる……より正確には、レイの目からは空を泳いでいるようにすら思えるのだ。

 そんな状態でレイが踏み込むよりも素早く逃げるというのは、明らかにおかしかった。


「ちぃっ!」


 そんな雷蛇の動きに驚いたレイだったが、デスサイズによる致命的な一撃を使えないのなら、別の選択肢がある。

 更に一段空中を踏み、その瞬間に左手に握る黄昏の槍を投擲する。

 一秒にも満たない数瞬間。

 その間だけで、黄昏の槍の投擲には十分だった。

 そうして真っ直ぐに飛んだ槍は、先程同様雷蛇の鱗を貫き、突き刺さる。


「シャギャアアアア!」


 痛みと怒りに悲鳴を上げ……殺意に満ちた目をレイに向ける雷蛇。

 それを見たレイは、反射的に空中にある足場を蹴って前方に跳び、そこにまた足場――ただし斜め下に向かうように――作り、三角跳びの要領で地上に向かって突っ込む。

 まだ地上には先程の雷蛇の一撃によって舞い上がった土煙が広まっている。

 レイはその土煙の中に突っ込んだのだ。

 当然だが、そのような場所に突っ込めば目や口に土煙が入り、目が痛んだり、咳き込んだりしてもおかしくはない。

 だからこそレイはしっかりと目を瞑り、口を閉じて行動していた。

 目を閉じているので、当然ながら周囲の様子は確認出来ない。

 それでも地上に向かって降下していき……足が地面についたと思った瞬間、膝を使って衝撃を殺しつつ、雷蛇に投擲した黄昏の槍を手元に戻す。

 同時に先程までレイがいた場所を雷のブレスが貫き……


「グルルルルルルゥ!」


 ほぼ同時にセトの雄叫びが周囲に響き、次の瞬間には何か重い物が地面に落ちる……いや、叩き付けられる音が周囲に響き、舞い上がる土煙はより濃密になる。

 そんな土煙の中で、レイは今一体何が起きたのかを予想する。

 雷蛇がレイに向かって怒りから後先を考えずサンダーブレスを放ち、その隙を突いてセトが一撃……それもただの一撃ではなく、恐らくパワーアタックのスキルを使った一撃を放ち、その結果として雷蛇は地面に叩き付けられたのだろうと。

 これはあくまでも予想でしかなかったが、レイの中には確信にも近い思いがある。

 雷蛇にとって不運だったのは、レイだけ、もしくはセトだけではなく、レイとセトを同時に相手にしたことだろう。

 結果として、レイを相手にすればセト、セトを相手にすればレイが攻撃を行う。

 その上で、雷蛇にとって更に不運だったのは雷蛇はレイとセトによって挟み撃ちとされていたことだ。

 これが、もしレイとセトがどちらも同じ方向にいた場合、どちらかに攻撃をしている時にもう片方の様子についても把握しやすい。

 そのようにならないのは、レイとセトが自然と雷蛇を挟み込むような形に持っていった為だ。


(とにかく、地上に落ちたのなら)


 体長十mオーバーの巨体が地面に落ちたのだ。

 派手に土煙が舞っていても、その音がどこから聞こえたのかレイに分からない筈がない。

 ……もっとも、体長が大きすぎるのが影響して、どの辺りに行けば雷蛇に大きなダメージを与えられるのか不明だったが。

 それでもとにかく少しでも雷蛇にダメージを与えるべく、レイは土煙の中を音のした方に向かって進む。

 目を瞑りながら、音のした方、気配がある方に進み……不意に地面を蹴ってその場から跳び退く。

 次の瞬間には、レイのいた場所を巨大な何かが通りすぎていく。

 それが何なのかは、考えるまでもなく明らかだろう。

 そもそもの話、今この土煙の中にいるのはレイと雷蛇だけなのだから。

 ……実際には妖精が避難している木々も土煙の範囲内に入っている可能性があったが、レイが見たところでは木が折れても中にいる妖精にダメージはなく、すぐに逃げていたのだから、恐らく大丈夫だろうと思っておく。


(セトの一撃が効いたらしいな)


 セトの一撃が非常に強力で、それによって雷蛇は地面をのたうち回っているのだろう。

 そう判断したレイは、後でセトを褒めてやろうと思いつつ、この土煙の中で雷蛇が暴れているのは非常に厄介だと思ってしまう。

 土煙の中、どこから大蛇の身体が飛んでくるのか分からないのだ。

 セトの一撃の痛みが治まれば、雷蛇も多少は大人しくなるかもしれない。

 だが、雷蛇も明らかにランクAモンスターだ。

 知能も相応に高い筈で、この土煙の中にレイがいるのは分かっている筈だった。

 そうである以上、レイを近づけまいと暴れるのは間違いなく……そして再度レイは自分に向かって土煙の中で近付いてくる何かを感じ、鋭い呼気と共にデスサイズを振るうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 高ランクの蛇、絶対に旨いやつだな電気を放つから電気ウナギみたいなものかな?かば焼きとかいけそうだ。
[良い点] やっと展開が動き出したので楽しくなってきました(^^) [気になる点] 飛斬はレベル六になったのでは?
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