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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3354/3865

3354話

 オーロラの家から入手した指輪を罪人に使わせた。

 それ自体は、そこまでおかしな話ではない。

 偶然手に入れたマジックアイテムだが、その効果が分からない。

 そういう時はダグラスのようなマジックアイテムに詳しい人物に鑑定して貰うこともあるが、当然そうなると多少……いや、マジックアイテムの種類やそれを鑑定する者によっては結構な値段が掛かる。

 その代金を惜しむ者の中には、罪人にマジックアイテムを試させるということをする者もいた。

 今回のダスカーのように。

 そのようなことをすれば、最悪の場合は罪人にマジックアイテムを持ち逃げされる可能性もあるので、厳重に警戒しながらやるのが普通なのだが。


(もしかしてダスカー様も指輪を持ち逃げされたり? ……ないか)


 ダスカーの部下は腕利きが多い。

 中にはエッグのように裏の存在もいる。

 そのような相手からマジックアイテムを奪って逃げるというのは、並大抵の腕で出来ることではない。

 また、もしそのようなことがあったら、それこそ大きな騒動となっているのは間違いなく、街中でもその件について噂が流れているだろう。

 ……もっとも、セトで上空から直接領主の館に降りているレイだ。

 もし街中で何らかの噂があっても、それをすぐに知ることは出来ない。


「それで、ダスカー様の様子だと指輪を使った者がただ死んだって訳でもないようですけど」

「ああ。あの指輪を作った者は、本来の使用者……恐らくオーロラだろうが、そのオーロラ以外の者が使った場合はその愚かさを周囲に知らしめるべきだと考えたのだろうな。……酷い死に方だったとだけ言っておく」


 ダスカーの様子を見る限り、余程酷い死に方だったのは間違いない。

 そう思ったレイは、この件についてダスカーに聞くようなことはしない方がいいだろうと判断する。


「つまり、あの指輪は何らかの証明をする為の物であると同時に、使用者以外が使った場合はかなり危険な代物だった訳ですか」

「そうなるな」

「けど……あの指輪の重要性を考えると、使う必要があるかもしれませんよね?」

「残念ながらそうなる可能性も否定出来ん。とはいえ、まさかオーロラに使わせる訳にもいかないだろうし」

「その様子だと、やっぱりまだオーロラは何か重要な情報とか、そういうのを吐いてないんですか?」


 オーロラの性格を知っているだけに、尋ねながらもやっぱりなという思いがあったのは間違いない。

 オーロラにしてみれば、世界の破滅こそが絶対に起きて欲しい出来事なのだ。

 それを防ぐ行動をする相手に、そう簡単に情報を話す筈もない。

 もっとも、尋問というのはそのような相手であっても情報を引き出させる行為だ。

 本職の者に掛かれば、情報を引き出すのは難しい話ではない。

 それでもオーロラが何の情報も話していないのなら、オーロラの心の強さを意味していた。

 ……レイにしてみれば、その心の強さの使い方が間違っていると思うが。


「ああ、厄介なことにな。……今は少しでもいいから情報を欲しいんだがな」


 はぁ、と息を吐くダスカー。

 そんなダスカーは気分を切り替えるように口を開く。


「オーロラの件はそれでいいとして、それでレイは何をしに来たんだ? 良い話を持ってきたのなら嬉しいんだがな」

「良い話と言ってもいいのかどうか分かりませんが……そうですね。まずはその件について話しますか。昨日領主の館に来た時、ボブが穢れに襲撃されて、もしかしたらそれが穢れの関係者に伝わったかもしれないという話をしましたよね?」

「ああ。それでブルーメタルを使って穢れを一ヶ所に集めるということだったが? それで何か進展があったのか?」

「はい。今日……というか今朝、長から連絡があってブルーメタルを置いた場所に数百匹の穢れが集まってました。今までとは桁違いの数ですね」

「それは……本当なのか?」


 ダスカーも、穢れがどのくらいの数で姿を現すのかは報告を聞いて知っている。

 そんな中で、レイが言うように数百匹もの穢れが出たという話は聞いたことがない。


「はい。とはいえ、その全ては魔法で殺しましたが」

「そうか!」


 喝采という表現が相応しいような、ダスカーの叫び。

 穢れが数百匹単位で現れたと聞かされただけに、もしかしたら妖精郷や野営地、生誕の塔といった場所も大きな被害を受けたのではないかと思ったのだろう。

 だが実際には、レイがその数百匹の穢れを倒したというのだから、ダスカーにとってこれは喜ばしい事なのは間違いない。

 そんな嬉しそうな様子のダスカーだったが、それに対してレイは微妙な表情を浮かべていた。

 そのことに気が付いたのだろう。

 ダスカーは不思議そうな視線をレイに向ける。

 ダスカーが聞いた範囲だと、レイは数百匹の穢れを倒したのだ。

 それは間違いなく大手柄と呼ぶに相応しいものの筈なのに、何故そんな微妙な表情を浮かべているのか、と。


「何があった?」

「その、ですね。穢れを倒したのは間違いないです。ただ、それだけの数の穢れを殺すとなると、一匹ずつ、あるいは数匹ずつ殺す訳にはいかないので、一定の範囲内の敵を纏めて殺す魔法を使いました」

「穢れの数を聞く限りでは、そうするしかないだろうな。それで?」


 出来れば今の一言で分かって欲しかったレイだったが、残念ながらそう上手くはいかなかったらしい。

 レイはダスカーに恐る恐るといった様子で口を開く。


「その、穢れはブルーメタルで作った自分達の入れない空間にボブがいる可能性が高いと判断したらしく、地面に置かれたブルーメタルを中心に集まってました。そこで纏めて魔法を使ったので……」

「地面に置いておいたブルーメタルが全部焼けてしまったのよね」


 川魚を蒸して甘酸っぱいソースで味付けしたサンドイッチを食べていたニールセンが、決定的な一言を口にする。


「……は?」


 そして、ニールセンの言葉の意味を、最初は理解出来ない様子でダスカーが間の抜けた声を上げる。


「えっと、その……事実です。ブルーメタルを中心に穢れが集まっていた以上、そこは魔法の中心になる訳で……」


 そこまで言えば、ダスカーもレイが何を言いたいのかは十分に理解する。……してしまう。


「それでブルーメタルが、か。……仕方がないな。それだけの数の穢れを殺すことが出来たのだから、これは寧ろ喜ぶべきことだろう。それで、ブルーメタルの消耗は?」

「あー……その、持っていった分の大半を。それとブルーメタルの件ですが、妖精郷の長が興味を示したので一つ渡したのですが、構いませんか? 渡しておいてからこう尋ねるのもどうかと思いますが」

「いや、それはいい。長なら、もしかしたら何か俺達には想像出来ないようなブルーメタルの使い方を考えてくれるかもしれんしな。だが……持っていった分のブルーメタルの多くを、か」

「すいません」

「謝る必要はない。穢れをそこまで纏めて倒したんだから、寧ろこれは褒められるべきことだろう」

「ありがとうございます。一応残っていたブルーメタルで、昨日の半分くらいですけど同じようにしてきました」

「そうか」


 レイの言葉に納得したように頷くダスカーだったが、その表情には複雑な色がある。

 ダスカーにしてみれば、数百匹の穢れを倒すことが出来たのは非常に嬉しいことだ。

 だが同時に、ブルーメタルを作る際のコストを考えると、全面的に喜べないのも事実。

 そんなダスカーの様子を見ていたレイは、ここで言うべきだろうと考え、口を開く。


「それでダスカー様、ブルーメタルについて提案なんですが、ブルーメタルをインゴットという形ではなく、細長い……鋼線のような形に出来ませんか? ブルーメタルが穢れを近づけないような効果があるのなら、別にインゴットではなくても構わないと思うんですが」

「その意見については、ブルーメタルを作っている者達からも聞いている。あくまでもブルーメタルを保存するのに丁度いいから、インゴットの形にしたとな」

「なら、鋼線状にするのも出来るんですか?」

「問題はないだろう。……今日のうちに、指示を出しておく。明日、また取りに来てくれ」


 本来なら、ブルーメタルを作るのにもかなりの手間暇が掛かる以上、そう簡単にレイの意見を通すことは出来ない。

 だが、今回は話が違う。

 ブルーメタルを使って大量の穢れを一ヶ所に誘き寄せ、それを纏めて殺すことが出来るのだ。

 その機会を見逃すようなことは、ダスカーには出来なかった。

 だからこその、今の言葉。

 レイはそんなダスカーの言葉を理解したのか、素直に頷く。


「分かりました。じゃあ、明日また来ますね。それと……こっちもインゴットの件についてなんですが、もしかしたら試したかもしれませんけど、ブルーメタルを使って長剣や槍……魔剣や魔槍を作ってみてはどうでしょう?」


 レイの口から出た言葉に、ダスカーは即座に首を横に振る。


「それについては、ブルーメタルを作ってからすぐに試してみた。トレントの森の野営地にいる冒険者達に試してもらったが、穢れを殺すような効果はなかったらしい。そもそも穢れに触れようとすると、まるで見えない何かに邪魔されるように移動してしまうとか何とか。盾としてなら使えるかもしれんがな」


 レイに思いつくようなことは既に試していたと言うダスカー。

 だよな、とレイはそんなダスカーの言葉に納得する。

 ブルーメタルはインゴットという形で作られていたのだ。

 金属……正確には魔法金属である以上、そのインゴットを見て武器や防具を連想するのは難しい話ではない。


「盾ですか。……それは思いつかなかったですね」


 元々が性格的には防御より攻撃を好むレイだ。

 それだけに、ブルーメタルで盾を作るというのはすぐには思いつかなかった。

 レイは基本的に敵の攻撃は回避することを前提にしているのも大きいだろう。


「レイが思いつかないのは意外だったな。……もっとも、ブルーメタルに近付いてこないだけである以上、別に盾じゃなくてインゴットを持っていればそれだけで盾と同じような効果はあるんだが。インゴットと盾で違うところは、インゴットに比べて盾の方が広いから、それだけ効果範囲も広いということだろうな」

「それは……使えるか使えないか微妙なところですね」


 効果範囲が広いのなら盾にする意味もあるのかもしれないが、盾にすると重量はともかく、大きさが増すので取り回しがしにくくなる。

 それならインゴットの方が使いやすいというのがレイの意見だった。

 ……もっとも、ブルーメタルのインゴットはかなり重いので、もっと小さくして使う必要があるだろうが。


「そうだ。だからブルーメタルはオーロラを捕らえている部屋のように使うのが最善だろう」

「もしくは、俺が今回やったように穢れを一ヶ所に集める為の囮にするとかですね」

「レイの考えだと、穢れって考えたりとかはしてないんでしょう? なら、毎日ブルーメタルを使えば穢れを纏めることが出来るんじゃない?」


 レイとダスカーの会話に、サンドイッチを食べていたニールセンが割って入る。

 その口元にはパン屑がついているが、ニールセンは全く気にした様子がない。

 レイはダスカーの前だし、それを指摘するべきかとも思ったが、それを言うよりも前にダスカーが口を開く。


「穢れを倒すという意味では、それもいい。だが……レイが言ったように、ブルーメタルのインゴットを大量に消費するとなると、少し難しい点があるのも事実」

「だから、レイが細い糸状にして欲しいって言ったんじゃないの? 穢れを大量に殺すことが出来るのは、レイにとっては勿論、そっちにとってもいいことでしょう?」


 ダスカーは悩ましい表情を浮かべる。

 穢れを出来るだけ多く倒すというのは、ニールセンが言うように決して悪いことではない。

 だが同時に、コストが高すぎるのも事実。

 だからこそダスカーとしては、レイが提案したように鋼線状にインゴットを加工するまでは、少し穢れの相手をするのを待って欲しいという思いもある。


「取りあえずその件はさっきも言ったように可能な限り早く……出来れば明日までに加工をさせるつもりだ。それでいいか?」

「はい、それでお願いします」


 ダスカーの言葉に頷いたのは、ニールセンではなくレイだ。

 どのみちレイにとっては、既に今日の分として半畳程の空間をブルーメタルのインゴットで囲んできているのだ。

 なら、明日にでも鋼線状になったブルーメタルを貰えるのは間違いない。

 もっとも、あまりに細すぎた場合は穢れを寄せ付けない効果が発揮するかどうか、レイにも分からなかったが。

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