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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3352/3865

3352話

 レイがセトとゆっくりとした翌日……


「うげ、マジか……予想はしてたけど、現実になるとちょっと面白くないな。長から聞いた時にこの光景は想像出来てたけど」


 視線の先にある光景を見たレイの口から、そんな声が漏れる。

 レイの視線の先にあるのは、昨日セトが魔獣術で強化されたスキルの試し撃ちをした場所。

 それはつまり、ブルーメタルによって穢れの入れない空間を作った場所であり、同時にボブが穢れと遭遇した場所でもある。

 元々穢れはボブを狙ってトレントの森に転移してきていた。

 だが、トレントの森は広い。

 また、穢れの関係者達も穢れの転移は狙った場所にピンポイントで出来る訳ではなく、トレントの森には転移してきたものの、その場所は様々でなかなかボブを見つけることは出来なかった。

 そんな中で狩りに出たボブが穢れと遭遇してしまった。

 レイはそんなボブを助けたのだが、それでもボブが穢れと遭遇したのは変わらない。

 だからこそ、ブルーメタルを使って穢れが入れない空間を用意し、その中にボブがいると穢れに認識させ、あわよくば纏めて魔法で焼滅させようと思っていた。

 いたのだが、実際には多分無駄だろうと思ってもいたのだ。

 駄目で元々といったものだったのだが……今朝、まだ眠っているレイのマジックテントにニールセンが突っ込んで来て、長からトレントの森に結構な数の穢れが集まっていると知らされ、こうして急行してきたのが今となる。

 ……なお、ニールセンは昨夜のうちに何とか長からの説教が終わっていた。

 自分を置いていったことに不満を漏らしてはいたが。

 ともあれそんな訳で、まだ朝のうちにレイはセトとニールセンと共にここまでやって来たのだが、視線の先にあるのはブルーメタルで作った空間に入ろうとして入れないといった行動をしている穢れ。

 これが数匹の穢れであれば、レイもここまで驚くようなことはなかっただろう。

 だが、黒いサイコロと黒い球体がブルーメタルの周辺に密集している光景には驚いてしまう。

 視線の先にいる穢れの数は、十匹や二十匹といった数ではない。

 それこそ、百匹、二百匹といった数だった。


「こうなってるってことは、穢れの関係者にボブの件は間違いなく知られたな」

「そうでしょうね。全く、あの子達ときたら」


 ニールセンがボブと共に外に出た妖精達を思い、不満を口にする。


「そう怒るなよ。妖精達が時間を稼いだお陰で、何とかボブも逃げてきたんだろう? ……まぁ、本気で命が危なかったら仕留めた鹿を担いで逃げたりはしてなかっただろうし、ある程度の余裕はあったんだろうが」

「それでも、あの子達がボブの用意した食料を食べたから、ボブがまた狩りに行く必要があって、それで穢れに見つかったんでしょ」


 不満そうな様子のニールセンに、レイは新鮮な驚きを覚える。


「何よ?」

「いや、何でもない」


 ニールセンから睨まれたレイは、そっと視線を空に向ける。

 穢れを前に視線を逸らすのは、普通に考えると自殺行為でしかない。

 だが、現在の穢れは何とかブルーメタルで囲まれた空間の中に入ろうと、必死になっていた。

 レイの認識では穢れというのはプログラムされたロボットのようなものだった。

 今もまた、少し離れた場所にいるレイの存在を察知しているのか、いないのか。

 そんな穢れだけに、レイは冬の空に視線を向けていても全く問題がない。


「グルゥ」


 レイとニールセンのやり取りを見ていたセトは、どうするの? と喉を鳴らす。

 そんなセトを撫でながら、レイはどうするべきか考える。


「魔法で一掃するのがいいんだろうけど……問題はブルーメタルだよな」


 穢れが集まっている場所の中心には、ブルーメタルがある。

 それも一個や二個ではなく、一畳くらいの広さを囲むくらいの数がある。

 レイが魔法を使えば、穢れは間違いなく焼滅するだろう。

 だが、同時に穢れの中心部分に存在するブルーメタルも消滅することになる。

 あるいは焼滅まではいかないかもしれないが、溶けてもおかしくはない。


「あのブルーメタルというのに被害を与えないように、穢れだけを破壊出来ない?」

「ニールセンが言いたいことは分かるけど、ブルーメタルだけを避けて穢れを殺すというのは……魔法を何度も連続して使う必要があるだろうけど、それだと最悪取り逃がしたりしそうだしな」


 レイが穢れを殺す時に使う『火精乱舞』という魔法は、円形のドーム状に周囲と空間を区切る形となっている。

 これが例えば正方形や長方形の形でドームを作ることが出来るのなら、もう少しは違ったのかもしれないが。


「そしてこの状況で穢れをある程度纏めて殺してしまえば、穢れがどういう反応をするのか分からない。こっちに向かって突撃してくるのか、それとも俺達を無視してブルーメタルの空間に入ろうとするのか」


 レイの言葉に、ニールセンは嫌そうな表情を浮かべる。

 あれだけの数の穢れが、自分達に向かってやって来ることを考えたのだろう。


「ブルーメタル諸共に破壊しましょう。それでいいわよね?」


 即座に自分の考えを変えるニールセン。

 ニールセンは昨日レイが長に渡したブルーメタルを見ており、何かに使えるかもしれないから自分も欲しいと思っていた。

 だが、その為にあの数の穢れに襲われることを考えれば、それは絶対に遠慮したいことだった。


「やっぱりそれが一番いい方法だろうな」


 レイにとっても、ニールセンの言葉は正しいように思える。

 非常に高価な魔法金属だろうが、ブルーメタルを犠牲にすれば数百匹の穢れを纏めて焼滅させることが出来るのだから。


(今更考えてもしょうがないけど、ブルーメタルは別にインゴットとかじゃなくてもよかったよな。例えばもっと細い……指くらいの細さにすれば、一つのインゴットでそれなりに囲める場所は広くなるだろうし。もっとも、今回のように使う以外にも使い道があるからインゴットなのかもしれないけど。……インゴット、つまり金属の塊か。ん? あれ? もしかしてこのブルーメタルで武器を作れば、それはオーロラが持っていた魔剣に近い性能があるんじゃ?)


 穢れの集団を見てそんな風に考えるレイだったが、実際にそのようなことが出来るのかどうかは不明だ。

 そもそもブルーメタルは、穢れを消滅させるのではなく、触れさせないといった効果を持つ魔法金属だ。

 もしブルーメタルで武器……長剣や短剣、槍、斧といった武器を作っても、その武器で穢れを攻撃した時に有効な打撃を与えられるかどうかは微妙なところだ。

 もしかしたら、本当にもしかしたらだが、穢れを殺すことが出来るかもしれないが。


(そうだな。この件はダスカー様に聞いてみるか。もっとも、ダスカー様ならこのくらいは考えていてもおかしくはないけど)


 魔法金属のインゴットがあるのだ。

 それを武器にするといったことを考えつくのはそう難しい話ではない。


「さて……ブルーメタルはやっぱり穢れと共に焼滅して貰うのが一番いいか」

「そうそう、だから早く穢れを倒しましょう」


 そう言うニールセンの表情には、強い嫌悪感がある。

 穢れというのは、長曰く悪い魔力だ。

 それが関係しているのか、見た者に強い嫌悪感を抱かせる。

 とはいえ、ニールセンはレイと一緒にかなりの頻度で穢れと遭遇しているので、ある程度慣れているのだが……それでも穢れの数が数百匹ということになれば、その慣れも効果がなく、嫌悪感を抱かせるのだろう。

 もっとも、研究者達のように穢れの持つ嫌悪感に慣れるのが早い者達がいたのも事実なので、もしかしたら世の中には穢れを見ても嫌悪感を抱かないような者もいるのかもしれないが。


「そうだな。いつまでもこのままって訳にもいかないし……とっとと燃やしてしまうか。ブルーメタル、もしかしたら残るかもしれないし」


 そう言いつつ、レイはミスティリングからデスサイズを取り出す。


「セトは、周囲の警戒をしてくれ。もし万が一にも俺が魔法を使って穢れを取り逃がしたり、あるいは魔法を使っている時に穢れが新たに現れたりした場合、その対処を頼む」


 今までの経験からすると、穢れというのは転移をしてくるにしてもそこまで数は多くないし、ある程度の間隔があった。

 しかし、それはあくまでも今までの経験からの話だ。

 今までの経験からすると、今のように数百匹の穢れと遭遇するというのは有り得ない。

 目の前の状況が既に今までとは全く違うのだ。

 そうである以上、経験を完全に信じる訳にもいかない。

 イレギュラーな事態である以上、イレギュラーな出来事が起きてもおかしくはないのだから。

 ましてや、ブルーメタルの周辺にいる穢れはボブを殺す為に穢れの関係者が特別に送ってきたのだから。


「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは任せて! と喉を鳴らす。

 そんなセトに笑みを浮かべ、次にレイはニールセンに視線を向ける。


「ニールセンも、セトと同じく穢れが俺の魔法の範囲を抜けてきたり、魔法を使った後で転移してきた場合に対処を頼む」

「対処って、敵を引き付ければいいのよね?」

「そうだ。幸い、穢れは基本的に移動速度が遅い。ニールセンなら、敵が攻撃をしてきてもすぐに逃げられる筈だ」

「……移動速度は遅いけど、誰か他の人が攻撃するまで延々とこっちを追ってくるのよ? もしそうなったら、出来るだけ早く対処してよね」


 ニールセンにしてみれば、妖精魔法を使ってどうにか対処するといった対処法しかない。

 だが、今は冬だ。

 妖精魔法が使えない訳ではないにしろ、どうしても自然が豊富にある春や夏と比べると威力は落ちてしまう。

 ましてや、穢れは触れた場所を黒い塵にして吸収するという能力を持っており、妖精魔法ではとてもではないが太刀打ち出来ないのだ。


「妖精魔法は難しいかもしれないが、光を出す奴はどうだ?」

「え? うーん……どうかしら」


 ニールセンが妖精として成長し、使うことが出来るようになった能力。

 恐らくはスキルの一種なのだろうというのがレイの予想だった。

 とにかくその光を穢れに使えばどうかというレイの問いだったが、ニールセンは難しい表情を浮かべて考え込み……やがて口を開く。


「試してみてもいいけど、失敗した場合、あの穢れ達が纏めて襲ってくる可能性があるわよ? もしくは、今までとは全く違う反応をしないとも限らないんじゃない?」

「それは……」


 ニールセンの放つ光に、ブルーメタルの空間に集まっている穢れがどう反応するのかは生憎とレイにも予想は出来なかった。

 ニールセンが襲われるだけなら、それで穢れを集めて魔法を使うといった方法もあるが、ニールセンが言うようにレイにとっても全く理解出来ない反応をされた場合、それこそどのように反応したらいいのかレイには分からなかった。


「しょうがない。後でダスカー様に何か言われるかもしれないが……やっぱり魔法を使うか」

「それが一番安全でしょうね」

「グルゥ」


 ニールセンとセトがそれぞれ同意したのを見て、レイはブルーメタル諸共に穢れを倒すことを決め、呪文を唱え始める。


『炎よ、汝は我が指定した領域のみに存在するものであり、その他の領域では存在すること叶わず。その短き生の代償として領域内で我が魔力を糧とし、一瞬に汝の生命を昇華せよ』


 呪文を唱え、デスサイズの石突きを地面に突くと、そこから赤い線が延びていく。

 赤い線はブルーメタルを中心に集まっている数百の穢れを囲み……やがて赤い魔力によるドームが生み出される。

 綺麗に……それこそ一匹の残りもなく、赤いドームの中に閉じ込めることに成功する。

 そしてドームの中にはトカゲの形をした火精が無数に生み出され……


『火精乱舞』


 魔法の発動により火精は爆発して炎となり、その爆風によって他の火精もまた連鎖して爆発していく。

 次々と連鎖していくその爆発は、やがてドームの中を炎が埋めつくす。


「何度見ても凄いわね」


 爆炎で埋めつくされた赤のドームを見て、ニールセンがしみじみと呟く。

 レイが穢れを倒す時に使われる魔法はこの魔法だ。

 もしここが荒れ地や草原であったりすれば、もっと他の魔法も使ったかもしれない。

 だが、ここはトレントの森で、周囲には多数の木々が生えている。

 レイの魔法の威力を考えれば、周囲の木々を燃やし……それが広がり、最悪の場合はトレントの森全てが焼きつくされるといったことになっても、おかしくはなかった。

 だからこそ、そうしないようにする為に効果範囲を限定する魔法を使う必要があったのだ。

 特に今回は、今までの多くが数匹単位だったのに対し、数百匹単位だ。

 それだけの数を燃やすとなると、当然だが赤いドームもそれだけ大きくなり……その結果として、見慣れているニールセンからも今のような感想が出たのだった。

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