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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3346/3865

3346話

 レイが呼ぶと、すぐにセトはやって来た。

 どうしたの? と不思議そうな様子で円らな瞳を向けてくるセトに、レイはブルーメタルで作った場所から少し離れた場所で、地面に布を敷く。

 いつもならここまで厳重にはしないのだが、今回は魔石の数が多い。

 それだけではなく、どの魔石も高ランクモンスターの魔石だ。

 レイもそんな魔石に適当なことは出来なかった。


「グルゥ!?」


 次々と布の上に出された五つの魔石に、セトは驚きの声を上げる。

 セトは見ただけで魔石が高ランクモンスターの物だと理解出来たのだろう。


「結構前になる……いや、実際にはそんなに前じゃないのか? とにかく魔の森で色々なモンスターと戦っただろう? それこそクリスタルドラゴンとの戦いが一番大きい戦いだったけど。あの時のモンスターの魔石だよ」


 レイの言葉に、セトはクリスタルドラゴンとの戦いを思い出したのか、感慨深そうに喉を鳴らす。

 これまでセトもレイと一緒に様々なモンスターと戦ってきたものの、その中でもクリスタルドラゴンとの戦いは最高峰の激戦だったのは間違いない。


「さて、そんな訳で早速魔石を使うけど……クリスタルドラゴンの魔石は最後にするとして、どのモンスターの魔石から試すかだな。どうする?」

「グルゥ……」


 レイに聞かれたセトは迷ってしまう。

 目の前にある魔石は、どれもが非常に魅力的だ。

 あるいはセトの……魔獣術で生み出されたモンスターとしての本能が、目の前にある魔石は全てがスキルの強化や新しいスキルの習得を出来ると、そう示しているのではないか。

 そのように思える程、目の前にある魔石は魅力的だった。

 そんな中で、セトの視線が向けられたのは……やはりと言うべきか、当然と言うべきか、高ランクモンスターの魔石が揃っている中でも突出して存在感を発している、クリスタルドラゴンの魔石。

 レイがクリスタルドラゴンの魔石は最後だと言ったにも関わらず、それでもやはりセトの視線はクリスタルドラゴンに向けられたのだ。


「セト、それは最後だ」

「グルゥ……」


 レイに言われたセトは、残念そうにしながらも他の魔石に視線を向ける。

 そんなセトを見て、レイは少し悩む。


(これ、どう見てもセトがクリスタルドラゴンの魔石を欲しがってるよな)


 それ自体は別にいい。

 寧ろレイとしても、クリスタルドラゴンの魔石を使う相手として、自分の相棒のセトが相応しいと思うのだから。

 ただ問題なのは、魔石の大きさだ。

 基本的に魔石というのは、モンスターによってそう違いはない。

 事実、布の上に置かれているクリスタルドラゴン以外の魔石はどれも同じような大きさなのだから。

 そんな中において、ドラゴンという存在はこの世界でも特別だと示すように、クリスタルドラゴンの魔石は大きい。

 他の魔石とは比べものにならないくらいの大きさの魔石は、つまりセトが魔石を使う方法……飲み込むというのがまず出来ないだろうと思えてしまうくらいの大きさだった。

 それこそ無理にセトが魔石を飲み込もうとすれば、クチバシを限界まで開き……それでも足りず、上下に無理矢理引き裂くといったことをしなければ、魔石を飲み込むことは出来ないだろう。

 そうして口の中に入れることが出来ても、今度は喉を通るのは難しい筈だ。


(セトに無理をさせないようにするのなら、やっぱりクリスタルドラゴンの魔石はセトじゃなくてデスサイズに使った方がいいんだよな)


 飲み込まれなければならないセトと違い、デスサイズの場合はその刃で切断すれば問題はない。

 だが、セトがクリスタルドラゴンの魔石を楽しみにしている以上……と、レイは悩む。

 そうしてレイが悩んでいる中で、セトは布に置かれた一つの魔石に視線を向けて喉を鳴らす。


「グルルルゥ!」


 これ! この魔石! とセトが選んだのは、キマイラの魔石。


「え? 何でよりにもよってそれ? いやまぁ、セトなら当然かもしれないけど……」


 キマイラは、言うまでもなく幾つかの動物が混ざったような外見をしたモンスターだ。

 そしてセトはグリフォンで、鷲の上半身を持ち、獅子の下半身を持つモンスター。

 そういう意味では、グリフォンとキマイラは似ているのだろう。

 とはいえ、何となく納得出来ないレイだったが、それでもセトが選んだのならと納得する。


「分かった、それを使ってもいいぞ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に嬉しそうに鳴くと、セトは早速キマイラの魔石をクチバシで咥え、そのまま顔を上に向けて飲み込む。


【セトは『アシッドブレス Lv.四』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 それを聞いたレイは納得して喜ぶと同時に疑問を抱く。

 納得したのは、予想通りスキルの強化が行われたこと。

 折角の高ランクモンスターの魔石だというのに、それで実は何もスキルが習得出来なかったら、強いショックを受けただろう。

 そして喜ばしいのは、アシッドブレスのレベルが四になったこと。

 魔獣術はスキルのレベルが五になると飛躍的にその威力が強化される。

 それこそ同じスキルだとは思えず、別のスキル……上位互換のスキルだと思えるくらいに。

 そのレベル五に後一で達するのだから、それに喜ぶなという方が無理だった。

 高ランクモンスターの魔石だったのを考えると、出来れば今回の件でレベルが二上がって、レベル五になってもいいのでは? と思わないでもなかったが。

 最後の疑問は、何故アシッドブレス? というもの。

 レイがキマイラと戦った時、アシッドブレスを使われた覚えはない。

 なのに、何故アシッドブレスを?

 そうレイが疑問に思うのは当然だろう。

 とはいえ、その疑問も今までの経験を考えるとすぐに消えるが。

 今までも魔獣術によって何故そのスキルを習得出来るのか理解出来ないといったことは何度もあったのだから。


(恐らく、本当に恐らくの話だが、あのキマイラは使わなかった、もしくはまだ使えなかっただけで、アシッドブレスを使う素質とかはあったのかもしれないな)


 かなり無理があるとはレイも思うが、そうやってレイは自分を納得させる。

 それが終わると、レイはセトに声を掛けてみる。


「セト、あっちの……あそこに生えてる木にアシッドブレスを使ってみてくれないか?」

「グルルゥ?」


 レイの言葉に、いいの? と喉を鳴らすセト。

 セトもこのトレントの森の木をギルムの増築工事に使うというのは知っている。

 そうである以上、ここで自分が木を駄目にするようなことをしてもいいのかと、そう疑問に思ったのだろう。

 だが、レイはそんなセトに対して問題ないと頷く。


「木の一本くらいなら問題はないだろう。レベル三でも大きな岩を本格的に溶かすだけの威力をもっていたし。セトのレベルアップしたアシッドブレスの威力を見ておきたい」


 そうレイに言われると、セトもレイから期待されていると思って嬉しくなる。

 レイから少し離れた場所まで移動し、周囲に他の木がない、大人が三人から四人くらい手を繋いでようやく囲める程度の太さの木の前に立ち……


「グルルルルルルゥ!」


 大きく息を吸ってから、アシッドブレスを発動する。

 その雄叫びと共に放たれたアシッドブレスは、大人が三人から四人で手を繋いでようやく囲めるだろう大木を瞬く間に溶かしていく。

 ミリミリ、メキメキ。

 そんな音が周囲に響く。

 セトの放ったアシッドブレスが命中したのは、大木の幹だ。

 そこまで太い木ともなれば、幹の太さは当然だが上にも相応に伸びている。

 そんな木が幹を溶かされたらどうなるか。

 考えるまでもなく、その木は倒れることになる。


「げ」


 レイもそのことに気が付き、慌てデスサイズを構え……即座に木を切断する。

 正確にはセトのアシッドブレスで殆ど溶かされ、消滅していた上の部分をデスサイズで切断することにより、倒れる木の方向を調整した。

 次の瞬間、レイのコントロールに従って木は倒れていく。

 レイやセト達のいない方向、そして当然だがブルーメタルの置かれていない方向に対して。

 ずずん、と。

 そんな音を立てながら倒れていく木を眺めていると、セトがレイに向かって喉を鳴らす。


「グルゥ」


 ごめんなさいと、そう言いたげな鳴き声。

 セトにとっても、アシッドブレスの威力がここまでとは思ってもいなかったのだろう。

 これが、あるいはレベル五となっているのなら、予想していた以上に強力になっていてもおかしくはない。

 だが、レベル四のアシッドブレスでレイに迷惑を掛けるとは思ってもいなかったのだ。


「気にするな。元々レベル三でも岩を溶かしていたんだ。レベル四になってそれがもっと強力になるのは、最初から予想出来ていたし」


 そう言い、レイは慰めるようにセトを撫でる。

 レイが怒ってないと分かったのか、セトは安心した様子でレイに頭を擦りつけた。

 そのまま数分が経過したところで、レイは残っている魔石に視線を向ける。

 だが、レイが魔石を選ぼうかと思っていたところで、セトが不意に喉を鳴らす。


「グルルルルゥ」

「セト? どうした? アシッドブレスの件なら別に気にしなくてもいいぞ? セトが強くなったんだから、それは俺にとっても非常にありがたいことなんだし」


 そう言うレイだったが、セトはあまり納得した様子を見せない。

 それだけ自分のやったことが不味いと思ったのだろう。


(これは、次の魔石に行く前にセトを落ち着かせておいた方がいいな)


 レイにしてみれば、アシッドブレスの件は本当にそこまで気にする必要はないと思っている。

 だが、それはあくまでもレイがそう思っているだけで、セトにしてみればそう思えないのは間違いないらしい。

 そのような状態で魔石を使うにしても、セトの精神状態によって得られるスキルや強化されるスキルの結果が違うということになる可能性は十分にあった。

 もっとも、本当にセトの精神状態で変わるのかどうかは、レイにも分からない。

 ただそれでも、セトがどのように思うのかというのはきちんと考えておいた方がいいのは事実。

 もしかしたらというのが影響するかもしれないと、そう思えば、レイも気分良く魔石を使うことは出来ないのだから。


「ほら、セト。ちょっとこっちに来てくれ」

「グルルゥ?」


 レイの言葉に、セトは少し落ち込んだ様子を見せつつもレイに近付いてくる。

 そんなセトに対し、レイはミスティリングの中からガメリオンの肉を取り出す。

 生肉ではあるが、新鮮なその肉は生肉を食べる習慣がない者であっても美味そうだと思ってしまうくらいの魅力に満ちていた。


(生肉を見て美味そうだと思うのは、そうおかしな話じゃないけどな)


 日本にいた時、TV番組で料理をする前の生肉が映されることも多いが、その生肉を見たレイは普通に美味そうだと思った。

 また、買い物でスーパーに行った時に精肉コーナーに置かれているブランド牛のステーキ用の肉を見れば、それはもの凄く美味そうに思えた。

 勿論それは、生で食べるのを前提にしている訳ではない。

 ……もっとも、牛肉の炙りとかはほぼ生に近いので、そういう意味では生肉に近い肉を食べる文化があったのだろうが。

 ともあれ、レイも自分が出したガメリオンの肉を見て美味そうだと思う。

 脂がのっているその肉は、シンプルに焼いて食べるのが美味いだろうと思えるような肉だ。

 そのような肉だけに、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 そんなセトの様子を見て、少し……本当に少しだけだが、ここまで食べ物に釣られやすくていいのか? と不安に思う。

 今はレイが肉を渡しているので問題はないが、もし誰か……それこそレイやセトに悪意を抱いている者がセトに何らかのちょっかいを出そうとして、あるいはセトに危害を加えようとして餌付けしようとした時、どうなるかと思ったからだ。

 もっとも、それはレイの心配のしすぎだったが。

 セトはその鋭い感覚で、自分に悪意を持つ存在がいた場合はすぐに察知出来る。

 例えば、もしセトに毒の入った食べ物を食べさせようとした場合、嗅覚を主にして他の感覚、場合によっては第六感まで使って、それが毒入りだと判断するだろう。

 他にも相手が自分に敵意を持っていると知れば、そのような相手が渡す食べ物を食べたりはしない。

 セトがギルムにおいて多くの者達から食べ物を貰ってそれを食べるのは、そこに毒が入っていないと判断しているし、何より自分に食べ物をくれる相手に悪意がないと判断しているからだった。

 ……もっとも、ミレイヌのようにセト好きの者がいれば、セトが察知するよりも前にその人物が悪意を持っているのかどうか判断し、セトに毒入りの食べ物が渡されるよりも前に止めるだろうが。


「ほら、食べて元気を出せ」


 そう言い、肉を渡すレイにセトは嬉しそうに肉を食べるのだった。

【セト】

『水球 Lv.五』『ファイアブレス Lv.五』『ウィンドアロー Lv.四』『王の威圧 Lv.四』『毒の爪 Lv.七』『サイズ変更 Lv.二』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.五』『光学迷彩 Lv.七』『衝撃の魔眼 Lv.三』『パワークラッシュ Lv.六』『嗅覚上昇 Lv.六』『バブルブレス Lv.三』『クリスタルブレス Lv.二』『アースアロー Lv.二』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.四』new『翼刃 Lv.三』『地中潜行 Lv.一』『サンダーブレス Lv.一』『霧 Lv.二』『霧の爪牙 Lv.一』



アシッドブレス:酸性の液体のブレス。レベル一では触れた植物が半ば溶ける。レベル二では岩もそれなりに溶ける。レベル三では岩も本格的に溶ける。レベル四では大人が三、四人手を繋いでようやく囲えるような巨木を溶かすことが出来る。

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[気になる点] 3313話で『光学迷彩』がLv.七に成長した分が反映されてません。
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