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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3339/3865

3339話

「じゃあ、俺達はこれで戻るな。他の連中も戻ったことだし」


 レイと話していた冒険者達……クリスタルドラゴンの魔石が入った宝箱を運んできた者達はそう言うと、レイの前から立ち去る。

 冒険者達にしてみれば、もう少しレイと話をしていてもよかったと思う。

 だが、レイが自分達の持ってきた素材、そしてクリスタルドラゴン以外にも、魔の森で倒したランクAモンスター、あるいはそれには及ばなくても高ランクモンスターの素材を収納する手間を考えれば、いつまでも話しているとレイの時間を奪うだけだと考えたのだろう。


「ああ、お疲れさん。後はゆっくりしていてくれ」


 そう言うレイの言葉に軽く手を振り、倉庫を出ていく。

 クリスタルドラゴンの魔石が入った宝箱以外の素材を持ってきたギルド職員達も既に倉庫から出ており、現在倉庫にいるのはレイとレノラ、ケニーの三人だけだ。


「で、レイ君。この大量の素材を収納するんでしょう? どういう順番で収納していくとか、そういうのはあるの?」


 ケニーのその問いにレイは首を横に振る。


「ミスティリングに収納すれば、そういうのは関係ないし」

「ふーん。レイ君のアイテムボックスってそういう感じなんだ。でも、中に入っている物を全部覚えておくとか、難しくない?」

「そうでもない」


 実際には念じればミスティリングに収納されている物は一覧になって目の前に表示されるのだが、それについては説明しても恐らく理解出来ないだろうとレイは黙っておく。

 結果として、ケニーは……そして話を聞いていたレノラも、レイはミスティリングの中に入っている物を全て覚えていると誤解をするようになるのだが。


「ほら、ケニー。私達も行くわよ。いつまでもレイさんの邪魔をする訳にもいかないでしょう?」

「えー……まぁ、しょうがないか」


 ケニーはレノラの言葉に不満を抱きつつも、このままレイの邪魔をするとレイからどう思われるのかと考え、不承不承といった様子だが納得する。


「私を置いて、自分だけでレイ君に会いに来た理由とか、そういうのも聞く必要があるしね」


 ピクリ、と。

 ケニーの口から出た言葉に、レノラが動きを止める。

 久しぶりにレイと話したケニーだけに、その件についてはすっかり忘れていると思っていたのだが、甘かったらしい。


「えっと、その……ほら、元々レイさんは私が担当でしょう? なら、レイさんの相手は私がするのは間違ってないと思うんだけど」

「そうね。それは間違ってないわ。けど……レノラだけじゃなくて、私もやってもいいと思わない?」

「それは……」


 咄嗟に言い訳を口にしたレノラだったが、ケニーはその言い訳に頷きながらも言葉を続ける。

 その言葉は正しい訳ではないが間違っている訳でもなく、レノラは咄嗟に反論出来ない。

 これが例えば、増築工事で忙しい時ならケニーの仕事を邪魔したくないからという言い訳も出来た。

 しかし、今はもう冬になって増築工事も一段落している。

 そうである以上、仕事が忙しいという言い訳を使うことは出来なかった。

 勿論、冬になった今も仕事がない訳ではない。

 まだ雪が降り始めたばかりなので、雪掻きの依頼はないが、他にも冬特有の依頼というのはそれなりにある。

 また、何よりもレイが出す依頼であるギガントタートルの解体についての依頼も、ギルドの方では実際にやるとなると色々と準備をする必要があった。

 ギルムの中でやるか、外でやるかで、まだ決まってはいないが。

 他にも普段から色々と仕事があるのは間違いない以上、ギルド職員の仕事はそれなりにある。

 だが、ケニーはその派手な外見とは裏腹に、仕事もきちんと出来る女だ。

 そもそも外見が整っていても、無能な人物はギルドの受付嬢になることは出来ないのだが。

 そんなケニーだけに、自分のやるべき仕事は……少なくても今日の分はしっかりと終わっていた。

 まだこれから仕事が増える可能性もあったが、今はそれなりに余裕があったのだ。

 なのに、レノラはケニーにレイの件で声を掛けないで自分だけでやって来た。

 実際にはケニーがちょっとした雑用で席を立っていたから、声を掛けようがなかったのだが。

 しかし、ケニーにしてみればそれならそれで、書き置きでも残してくれてもと不満に思う。


「えっと、ほら……ね? ケニーはいなかったし。だから……」

「はいはい、そうね。私も出来れば色々と話を聞かせて欲しいところだし、じゃあ行きましょうか。レイ君、私とレノラはこれで失礼するわね。出来れば素材とかの収納が終わったら、一度ギルドに顔を出して欲しいけど……無理にとは言わないわ。出せるようならでいいから」

「あ、ちょっ、ケニー!? 何でそんなに力が……そう言えば獣人だった!」

「ほらほら、私が獣人なのは知ってるでしょ。なら、そこまで驚くことはないと思うけど?」

「ちょ……レイさん!? レイさーん!」


 以前なら何度も似たような光景は見ているが、その時は連れていかれる者と連れていく者は逆だった。

 立場が入れ替わっただけで、レイの目には随分と新鮮に見えた。

 そうしてレノラとケニーが倉庫の中から消えると、レイは早速次々と素材や魔石を収納していく。

 レイは特に気にした様子もなく収納しているが、現在この倉庫にある素材や魔石だけでちょっとした財産……いや、ちょっとしたところではない財産となるだけの金額となるのは間違いない。

 とはいえ、レイにしてみれば今更の話だが。

 現在のミスティリングの中に存在する諸々だけで、それこそ人が数回生まれ変わっても遊んで暮らせるだけの価値のある物が入っているのだから。

 それだけに、レイにしてみればこの程度の物は収納するのに特に緊張したりといった様子はない。

 クリスタルドラゴンの内臓は非常に珍しい物ではあったが、それでも構わずに収納していく。

 ただし……


「魔石か」


 魔石だけは魔獣術を使うレイにとって非常に重要な物だった。

 とはいえ、重要な物ではあるが魔獣術として使えばなくなってしまう以上、消耗品ではあるのだが。

 結果として、残っていた魔石も何のモンスターの魔石か書かれているのを確認してミスティリングに収納していく。

 そうして残るのは、魔石……クリスタルドラゴンの魔石が入った宝箱だけになる。


「これをどうするのか、だよな」


 レイとしては、魔獣術にこのクリスタルドラゴンの魔石を使うのは確定している。

 だが同時に、このクリスタルドラゴンの魔石はこれから見せて欲しいと言ってくる者が多数いるのも事実なのだ。

 何しろドラゴンの中でも新種のクリスタルドラゴンの魔石だけに、それを見たいと思う者は幾らでも出てくるだろう。

 だが、魔獣術によって魔石を使ってしまえば、その魔石は消滅する。

 つまりこのクリスタルドラゴンの魔石も消滅してしまうのだ。

 誰かがクリスタルドラゴンの魔石を見せて欲しいと言ってくるかもしれないと思えば、このクリスタルドラゴンの魔石を迂闊に使うことは出来ない。

 かといって、魔獣術をゼパイルから継承したレイにとって、このクリスタルドラゴンの魔石を使わないという選択肢がないことも事実。


(使うなら使うで、デスサイズとセトのどちらに使うかでも悩むよな。……とはいえ、もしセトに使うにしても、セトはこれを飲み込むことが出来るのか?)


 魔獣術によって生み出されたセトは、魔石を使う時は基本的にその魔石を直接飲み込むことによって、新たなスキルを習得したり、習得しているスキルのレベルアップを行ったりする。

 だが、レイの目の前にあるクリスタルドラゴンの魔石は、体長三mオーバーのセトですら飲み込むことが出来るとは思えないような、そんな魔石だった。

 そのような魔石である以上、もしセトが無理ならデスサイズの方で使うしかないが……レイとしては、出来ればセトにこのクリスタルドラゴンの魔石を使って欲しいと思っている。

 何しろセトは魔獣術で生み出されたという意味では、このクリスタルドラゴンの魔石を使うのに相応しい存在だというのがレイの認識なのだから。

 デスサイズもまた魔獣術で生み出された存在なのは間違いないものの、デスサイズの場合はセトが生み出されて、それでも残っていた余剰魔力によって生み出された武器だ。

 言ってみれば、残り物の魔力で生み出された存在となる。

 だからといって、レイにとってデスサイズはセトとは違う意味で相棒と呼ぶべき存在なのは間違いないのだが。

 ともあれ、デスサイズはレイにとっても重要なのは間違いないが、それでもクリスタルドラゴンの魔石はやはりセトに使いたいという思いの方が強い。


「もう一匹……いや、デスサイズの分を考えると、もう二匹か? とにかくクリスタルドラゴンをもっと倒せればいいんだけどな。とはいえ、またクリスタルドラゴンと戦うのは少し遠慮したいけど」


 レイがクリスタルドラゴンと戦った時、結構な苦戦をした。

 それがもう二匹もの相手と戦うとなると、かなり苦戦をするのは間違いない。


「ああ、でもヴィヘラ辺りを連れていけば喜んでくれるか」


 戦闘狂のヴィヘラだけに、クリスタルドラゴンのような強力なモンスターとの戦いは誘えばすぐに来るだろう。

 クリスタルドラゴンとの戦いとなると魔の森での戦いなので、他にも強力なモンスターと戦えると楽しみに思うかもしれないが。


「とはいえ、それをやるにしても春になってからか」


 今はもう冬で雪も降り始めている。

 今から魔の森に向かうのは……レイの場合はセトがいるし、ヴィヘラもセト籠があるのでやろうと思えば出来るだろうが、それでも雪が積もった地面の上で戦うというのは非常に厄介だ。

 柔らかい雪に足を取られ、溶けた雪で地面が濡れて滑り、あるいは凍って滑る可能性もあった。

 そのような状況下でクリスタルドラゴンと、あるいは魔の森のモンスターと戦いたいとは、とてもではないがレイは思わない。

 もしどうしても戦うのなら、それこそ冬になって木の葉が枯れて視界がよくなった場所にいるモンスターを、セトにのって上空から黄昏の槍の投擲や魔法による絨毯爆撃といった方法で攻撃することになるだろう。

 ただし、黄昏の槍はともかく魔法による絨毯爆撃などしようものなら、それこそ魔の森全体……とまではいかないが、攻撃した周辺にいるモンスター達が混乱し暴走する可能性も十分にあったが。


「いや、まずはクリスタルドラゴンの魔石の件か。……使ってしまって、後で見たいと言ってきた奴にはちょっとした理由で見せることが出来ないとでも言って、クリスタルドラゴンの頭部の骨でも見せればいいか」


 今まで悩んできたのは何だったのかと思えるような速度で判断をすると、レイは宝箱の中にあるクリスタルドラゴンの心臓に手を伸ばし、ミスティリングに収納する。


「さて。……この宝箱はどうすればいいんだ?」


 これがただの宝箱であれば、このまま倉庫の中に置いておいてもいいだろう。

 それこそ誰かが何らかの理由で倉庫の中に入ってきた時、そこに宝箱があって驚くといったことはあるかもしれないが。

 だが、この宝箱はマジックアイテムなのだ。

 それもクリスタルドラゴンの魔石を入れていた以上、相応の性能を持つ……つまり、高価な。

 そのようなマジックアイテムを放っておくようなことは、さすがにレイにも出来ない。

 かといってこのまま持っていくのは……可能だが、冒険者が四人で運んできただけの大きさだけに、レイだけで持つと邪魔になる。

 そんな訳で、レイは手っ取り早く宝箱もミスティリングに収納する。


「さて、じゃあこの宝箱を返す為にも、ギルドに顔を出す必要があるんだけど……どうやって倉庫から出るかだな」


 倉庫の前にはレイと話したい、取引をしたい、雇いたい……それ以外にも色々な理由から、レイと会いたいと思う者達が集まっている。

 それは素材や魔石を運んできてくれたギルド職員や冒険者達からきいていたので、レイも十分に理解していた。

 だからこそ、そこに迂闊にレイが顔を出せば一体どのような騒動になるのかが容易に想像出来た。


「あれ? これもしかして……最悪、倉庫から出られない状態になってるとか? いやいや、それはない。いざとなったら強引に突破すればいいし」


 半ば自分に言い聞かせるように呟くレイ。

 そうすれば間違いなく倉庫から脱出出来るものの、待ち構えている者達の中には怪我をする者も出て来るだろう。

 そうなれば妙な騒動にもならないとも限らない。

 レイとしては出来ればそれは遠慮したいので、どうにか問題なく倉庫を出られないかを考えるのだった。

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