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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3333/3865

3333話

カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817139555994570519


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

「じゃあ、セト。お前はニールセンと一緒にマリーナの家に行っていてくれ。いいな?」

「グルゥ……」

「全く、しょうがないわね。でも、マリーナの家ならそれなりに快適だから問題ないわ」


 レイの言葉にセトが少し残念そうにしつつ、ニールセンは特に問題ないと頷く。

 ダグラスがダスカーと共に部屋から出て行ったので、レイもセトにマリーナの家に行くようにと言うついでにニールセンを連れてきたのだ。

 ずっと部屋の中に隠れていたニールセンは、そのことが不満そうだったものの、セトと共にマリーナの家に行くというのが分かると、すぐに不満を抑え込んだ。

 レイと一緒に行動するのも面白いが、どうしても人前だとドラゴンローブの中に隠れて、堂々と表に出ることが出来ない。

 それが不満なニールセンは、どうせならマリーナの家に行きたいと思ったのだろう。

 マリーナの家にいるのは、全員がニールセンを知っているので、わざわざ姿を隠す必要もない。


「じゃあ、頼む。俺もギルドでの用事を終えたらマリーナの家に行くから」


 そうレイが言うと、セトはニールセンを背に乗せて領主の館から飛び去っていく。

 レイがここにやって来た時、領主の館の料理人の姿がなかった。

 そのお陰で、普通にニールセンが会話に参加出来たのだが。

 ただ、料理人はいなくても、レイがダスカーやダグラスと話している時に料理人がやって来て、セトに料理を振る舞ったのは間違いないのだろう。

 周囲にはまだ微かにだが、食欲を刺激するような香辛料と思しき香りが漂っていた。

 外なのにまだ料理の香りが残っているのは、レイの嗅覚が鋭いというのもあるのだろうが、やはり香辛料が多く入っているだけに、その料理は元々の香りが強かったのだろう。


(カレー……出来るといいんだけどな)


 そんな風に思いながら、久しく食べていないカレーについて思いを馳せていると、やがて兵士がレイのいる方に向かって走ってくる。


「レイ、馬車の用意が出来たから準備をしてくれ! 護衛の方も問題ない!」

「分かった。じゃあ行くか。……それにしても、俺が騎士に護衛されて移動するとか、一体どんなお偉いさんになったのかと思ってしまうな」

「何を言ってるんだよ。レイは間違いなくお偉いさんだろう? ……自覚がないってのは怖いな」


 レイの呟きを聞いた兵士が、しみじみと呟く。

 兵士から見れば、グリフォンの希少種のセトを従え、本人も圧倒的な魔法の強さを持ち、ミスティリングを持つ……それでいながら、権力に固執しないという類希な資質も持つような人物は非常に希少だった。

 普通ならレイのような力を持っていれば、自分が権力を握りたいと思ってもおかしくはない。

 しかしレイはそんなのは面倒だと言わんばかりに、権力には興味を持っていない。

 ダスカーがレイを重用するのは、その辺にも大きな理由があるのだろう。

 現在行われている増築工事においても、当初はレイがいなければまともに活動出来なかったかもしれない。

 そういう意味でも、レイはダスカーにとって非常に重要な存在だった。

 本人にその自覚がないのは、良いことなのか、悪いことなのか。

 レイはそんな兵士の様子を特に気にせず、馬車が用意されている場所に向かう。


「うわ……これ、本当にいいのか?」


 馬車を見てレイが驚きの声を発したのは、その馬車がかなり豪華な馬車だったからだ。

 てっきりもっと地味な馬車に乗って移動すると思っていたのだが、その予想が大きく外れた形だった。


「待っていたぞ、レイ。この馬車については気にするな。ダスカー様の指示だからな」


 馬車の側にいた騎士がレイの言葉を聞いてそう言ってくる。

 レイにも見覚えのある騎士だ。


「ダスカー様の指示って……こんな立派な馬車に乗って移動するとかなり目立つぞ?」

「そうかもしれないが、今回は俺達が堂々と護衛をするのだろう? なら、こういう馬車を使っても問題はないだろう。それに……今はちょっと馬車が使われていてな。勿論、どうしてもこの馬車が嫌だとレイが言うのなら、別の馬車を用意するが……」


 どうする? とレイに視線で尋ねてくる騎士。

 レイはそんな騎士の視線に首を横に振る。


「いや、別にわざわざ他の馬車を用意する必要はない。この馬車でいいよ。この馬車に不満がある訳でもないし」

「そうか。なら、そろそろいいか?」

「ああ。ギルドに向かってくれ」


 そう言うレイに騎士は頷いて他の騎士や御者に合図をするのだった。






「目立ってるな」


 馬車でギルムの街中を進むレイは、窓の外を見てそう呟く。

 そんなレイの言葉に、一緒に乗っている騎士の一人が困ったように言う。


「この馬車に乗ってる以上、それは仕方がない、とはいえ、この馬車に乗ってるからレイが乗ってるとは思わないだろう。恐らくダスカー様が乗っていると思っている筈だ」

「……だろうな。俺が外からこの馬車を見ても、冒険者が乗ってるとは思わないし」


 そう言うレイだったが、本来ならレイのように突出した能力や功績を持つ冒険者の場合、このような馬車に乗っていてもおかしくはない。

 レイにはそんな認識が全くないようだったが。


「まぁ、この馬車に乗っていれば街中で進めなくなるといったことはないから、そういう意味では楽だと思うぞ」


 ダスカーの家の家紋が彫られている馬車だけに、その馬車に対して何らかの妨害をしようものなら、間違いなく面倒なことになる。

 ギルムにいる者なら、それを知っていて当然だった。

 とはいえ、増築工事の仕事を求めてギルムに来ている者であれば、その辺りの情報を知らない者も多く、そういう意味では今が冬でその手の者達がいなかったのはこの馬車に乗っている者にとって幸運だったのかもしれないが。


「それにしても……本当に人が減ってるのか? 馬車から見る限りだと、冬になって人が減ってるようには思えないぞ」


 レイと話していたのとは別の騎士が、窓の外を見て不思議そうに言う。

 その言葉通り、大通りを歩いている者の数は少し前とそう違いはないように思える。


「多分、大通りだからだろうな。これが裏通りとかに行けば、そこにいる人数は減ってる筈だし、宿なんかに行けばその辺はもっと顕著だと思う」


 レイは使っていないものの、未だに夕暮れの小麦亭に部屋を取っている。

 これは何かあった時の為のセーフハウスという意味合いもあった。

 そして普段はマリーナの家、あるいはトレントの森の野営地か、妖精郷で寝泊まりをしているので、宿が取れなくて困ることはない。

 だがレイが以前聞いた話だと、増築工事の仕事を求めて来た者達によって宿は埋まり、仕事場の近くに臨時の宿……というか、最低限寝泊まり出来る場所を作ったと聞いていた。

 そのような場所は当然だが夕暮れの小麦亭のように、快適にすごせるようにマジックアイテムがあったりはしない。

 夏になると朝から三十度オーバーすることも珍しくなく、寒くなれば一気に冷える。

 個人で魔法を使えたり、マジックアイテムを持ってる者がいれば、同じ場所で寝泊まりしている者達は快適になるが……そのような特殊な能力や、あるいはマジックアイテムを持っているのなら、それこそ集団で雑魚寝をするような場所ではなく、どこかもっと快適な場所に泊まることが出来るだろう。

 何らかの特殊な理由でもあれば、話は別だが。


「宿か。……そう言えばダスカー様は来年の春にはもう少し宿を増やすといったようなことを言っていたな」

「本当か? もう二年か三年……どんなに掛かっても四年もあれば増築工事は終わる筈だけど、その後は宿屋はどうするんだ? それこそ作業場の近くにあるような皆で雑魚寝するような、そういうのじゃないんだろう?」

「そういうのよりはもう少し快適らしい。具体的な内容までは俺も知らないけどな。ただ、そういう場所で寝泊まりをしている奴は、寝ても疲れが完全には取れないらしい。それが結果として増築工事の進捗に遅れを出しているとか」

「あー……なるほど。そう言われれば理解出来るな」


 皆で雑魚寝ともなれば、それこそ自分が全く知らない相手、あるいは顔を見たことがあるような相手とも一緒に寝なければならない。

 そんな者の中には手癖の悪い奴がいてもおかしくないし、そういう相手を警戒するとなると、それこそ熟睡は出来ない。

 増築工事は基本的に体力を使う仕事だ。

 そうして日中の仕事で体力が消耗したのに、その夜に熟睡できなければ翌日の仕事に大きく影響するだろう。

 そのようなことを防ぐ為に、増築工事の進捗率を少しでも上げる為に、ダスカーが簡易的な物であっても宿を建てようと考えるのはおかしな話ではない。

 問題なのは、増築工事が終わった後でその宿をどうするのかということだろう。


(別に俺が考える必要はないか。ダスカー様も何の考えもなくそういう宿を作ろうとは思ってないだろうし)


 あるいは増築工事が終わった後も、一応その宿は使い続けるのかもしれない。

 そうレイが思っていると……


「レイ、そろそろだ」


 騎士の一人がそう言う。

 その言葉にレイが窓の外を見ると、たしかにそこはギルドからそう離れていない場所の景色だった。


「いよいよか」

「別に緊張する必要はないだろう? レイが来てるとは誰も思っていないんだし、馬車から降りたら俺達が護衛をしてレイと接触しようとする相手は止める。そういう意味では、何の心配もない筈だ。……それとも何か? レイに接触しようとする相手を俺達が防げないとでも思うのか?」

「そうは思わないが、それでも大勢が集まってきたりした場合、面倒なことになるのは間違いないしな」


 レイも騎士達の実力を侮っている訳ではない。

 ダスカーに仕えている騎士なのだから、相応の実力を持っているのは間違いないだろう。

 中にはコネで騎士団に入る者もいるかもしれないが、そのような者であっても訓練は平等に行われる。

 つまり、実力もなくコネだけで騎士団に入ってきた者は、間違いなくそれを後悔することになるのだ。

 勿論、コネで入ってきて後悔しても、それで負けたくないと頑張って訓練を重ね、実力が伴った騎士になってもおかしくはないが。

 自分と話している騎士がそのタイプかどうかは、レイにも分からない。

 それでもしっかりとした強さがあるのなら、心配する必要がないのも事実。


「よし、馬車が停まった。……行くぞ、レイ。準備はいいか?」

「ああ、問題ない。俺はここを出たらすぐに倉庫に向かう。そして倉庫の護衛をしている奴にギルドカードを見せて、倉庫の中に入る。素材は……倉庫に置かれたままになってるのもあるだろうし、重要な素材はギルドが別途管理してるかもしれないから、そっちはギルド職員と話をしてからになると思うけど」

「分かった。じゃあ……行くぞ」


 騎士の一人がそう言い、馬車の扉を開ける。

 扉が開いた瞬間、レイは馬車の中から飛び出す。

 ギルドの周囲には、ダスカーの家紋を持つ馬車がいたので、何人かはその馬車の様子を……誰が乗っているのかを気にしていた様子だったが、それを気にしていない者もいる。

 その理由として、ダスカーの……ラルクス家の家紋を持つ馬車がギルドに来るのは、そう珍しいことではないというのもあっただろう。

 ダスカー本人はマリーナを苦手としていたが、それでも領主とギルドマスターという立場上、色々と相談をすることがあるのは間違いない。

 個人的に苦手としていても、それで自分の仕事を疎かにする程、ダスカーは無能ではない。

 ……もっとも、マリーナと話すのが自分でもなくてもいいのなら、自分の代わりに部下を向かわせることも多かったが。

 そして今は、そのマリーナもギルドマスターを辞めてワーカーが次のギルドマスターになっている。

 マリーナがギルドマスターの時と比べると、圧倒的に接しやすくなったのは間違いない。

 そういう意味では、以前よりも領主の館からギルドに馬車が来るのは珍しくなく、今回もまたそういう意味での馬車だと思った者が多かったのだろう。

 そんな考えの隙を突くかのように、レイは素早く走ってギルドの倉庫に向かう


「あ!」


 幾らレイが素早く走っても、街中である以上は限界がある。

 戦闘中ならまだしも、多くの人がいる場所を走るのだから全速力を出すことは出来ない。

 そんなレイの姿は、一般人なら見ることが出来ないかもしれないが、相応の実力を持つ冒険者なら話は別だ。

 そのような冒険者の一人が偶然レイの姿を見て叫ぶも……その声を聞いた瞬間、既にレイの姿は馬車の近くから消えて、ギルドの倉庫がある方に向かって走っていく。

 最初の一声で何があったのかと視線を向ける者もいたが、そんな者達が改めて馬車の方を見ても、そこには既にレイの姿は存在しなかった。

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