3325話
このライトノベルがすごい!2023が始まりました。
レジェンドも投票作となっています。
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回答期限は9月25日23:59分ですので、是非レジェンドに投票お願いします。
「ふぅ、美味かった。……レイはどのサンドイッチが美味いと思った?」
「ガメリオンの煮込みとチーズのサンドイッチが美味かったですね。ダスカー様が最初に食べた奴です。幸い、量は結構あったので取り合いにはならなかったですが、数が少ないとどうなっていたか分かりませんね」
そう言い、レイはテーブルの上で寝転がっているニールセンを見る。
サンドイッチを腹一杯食べたニールセンは、食休みとばかりに横になっていたのだ。
明らかにニールセンの体積以上の量を食べたのだが、それでも特に問題はないらしい。
「はっはっは。そうなったら凄い奪い合いになっていただろうな。……さて」
笑ってから紅茶を飲み、ダスカーはその表情を真剣なものに変えて口を開く。
「ギガントタートルの解体の件で来たという話だったが、それは事実か?」
「そうですね。それもあります。去年と同じように雪が降ってきたので、そろそろやってもいいかと思いますし。ただ、それ以外にも色々と報告したいことや頼みたいことがあって」
「構わん、言え。その頼みを全て聞けるかどうかは分からんが、それでも出来る限りのことをしよう」
「ありがとうございます。……まず一つですが、俺達が穢れに関わるようになった理由のボブという人物を覚えていますか?」
「ああ、覚えている。正直なところ、厄介なことをしてくれたという思いもあるが、同時にボブがいなければ穢れの関係者に気が付くのが遅くなった……いや、最悪気が付かなかったかもしれないと思えば、感謝した方がいいのかもしれんな」
ダスカーは複雑な表情でそう言う。
実際、ダスカーにしてみればボブに対して色々と思うところがあるのだろう。
それはレイも分かるが、今はそれよりもっと重要なことを話すべきだと考え、口を開く。
「そのボブですが、狩りをする為に妖精郷から外に出たところ、穢れに見つかりました」
「何? ……無事なのか?」
「はい。俺が倒したので、取りあえずその辺は問題ないと思います。ただ、問題なのは穢れに見つかってしまった以上、それが何らかの方法で穢れの関係者に知られてしまったかもしれません」
「……そうか。面倒なことになるかもしれんな」
「それで、オイゲン達が発見したという、穢れ対策の魔法金属ですが、こちらに回して貰えませんか?」
「それは構わんが、妖精郷を覆うように配置するのは難しいぞ?」
「そこまでの量はいりません。……いえ、それがあれば助かるのは間違いないんですけど」
「なら、何に使うつもりだ?」
「ボブが穢れと遭遇した辺りに、人が数人入れるくらいの場所を魔法金属で囲みたいと思います。……魔法金属だとちょっと名称で混乱しますね。何か名称はないんですか?」
「ある。研究者達はブルーメタルと呼んでいたな」
「ブルーメタルですか。なら、今度からはそれで。……そのブルーメタルですが、ボブが穢れと接触した場所の近くに、穢れが入ることが出来ない場所があったとしたら、どう思います? 怪しいと思いませんか?」
そうレイが説明すると、ダスカーは納得した様子を見せる。
「なるほど。そうなると、もし穢れの関係者がボブの件を知ったらそこに穢れを集中的に投入する可能性が高い訳か」
「そうなりますね。もっとも、それはあくまでも穢れの関係者がボブについて知っていた場合で、もし知らなければブルーメタルを捨てるような事になりますが」
これが、例えばその辺の鉄のように幾らでも入手出来る金属なら、そこまで気にする必要もないだろう。
だが、ブルーメタルは魔法金属に特殊な処理を施した金属だ。
そのコストはその辺の鉄とは比べものにならない。
……もっとも、鉄と一口で言っても本当に純度の高い鉄ともなると、結構な値段がするのだが。
「構わん」
コストを気にしたレイの言葉に、ダスカーはあっさりとそう言う。
「いいんですか?」
「構わんと言っている。ボブは穢れの関係者にとって絶対に殺すべき存在なのだろう? なら、それを邪魔するのはこちらにとっても利益となる。……最悪、利益にはならなくても、穢れの関係者の不利益になるのならそれでいい」
「分かりました。なら……今日帰る時にブルーメタルは用意出来ますか?」
「ああ、用意しておこう」
レイの言葉に、あっさりとダスカーは言う。
高級品であっても、今はとにかく穢れの関係者をどうにかするのが先だと、そのように思っているのだろう。
「ありがとうございます。……そう言えばブルーメタルの部屋に連れていったオーロラはどうしてます? ヌーラもちょっと気になりますが」
そうレイが尋ねると、ダスカーは難しい表情で首を横に振る。
「ヌーラは大人しくこちらの質問に答えてはいるが、重要なことを含めて知らないことが多すぎる」
「でしょうね」
ヌーラが穢れの関係者の中でも重要な血筋の者だという以上、本来ならもっと色々と知っていてもおかしくはない。
だが、ヌーラは遊んで暮らしていた為か、穢れの関係者については特に興味もなかったらしく、知らないことが非常に多かった。
これで反抗的ならレイも切り捨てる……あるいは物理的な意味で斬り捨てたかもしれないが、ヌーラ本人は非常に協力的なのだ。
それに対して……
「だが、オーロラは駄目だ。何をしてもこちらの問いには答えない。狂信者という奴だろうな」
難しい表情でそう言う。
何をしてもというところで、一体どのような事をしたのか気になったものの、話しているうちに何となく予想出来たので、それについて突っ込むようなことはしない。
ダスカーはレイにとっては色々と世話になっている恩人でもある。
だがそれでも、貴族……それも辺境伯という爵位を持つ貴族で、ミレアーナ王国の三大派閥である中立派を率いている人物でもある。
若い時は騎士をしていたが、それでも貴族としてやるべきことはしっかりとやる。
それが例え捕虜や囚人の尋問……もしくは拷問であっても。
勿論ダスカーが直接そのようなことをするのではなく、専門の技術者に任せるのだが。
しかし、その専門の技術者であってもオーロラから情報を引き出すことが出来なかったということは、それだけオーロラの口が堅いということなのだろう。
ダスカーが狂信者といった表現をするのも、決して間違いではなかった。
「ヌーラから聞いてるとは思いますけど、オーロラは小さい頃に何らかの理由で村を襲われて、一人だけ生き延びたという話です」
「ああ、それについては知っている。……だが、その理由がなんであれ、自分の村が滅んだからといって、それで世界を破滅させるなど、とてもではないが許容出来ん」
「その気持ちは俺にも分かります」
レイもオーロラの過去は可哀想だとは思うものの、だからといってそれを理由に世界を破滅させるからお前達も死ねと言われて、素直にはいそうですかと言える訳がない。
「ただ、その件でオーロラは世界の破滅こそが自分の生きる目的なんだと思います。だからこそ、自分が死んでも穢れの関係者の情報を口にしないのかと」
「だろうな。あの状態のオーロラから情報を引き出すのはかなり難しいだろう」
ダスカーもレイが思い浮かぶようなことは既に理解していた。
ヌーラからその辺の情報を貰っているのだから、そのくらい予想するのは難しくはないのだろう。
「そうなると、オーロラから情報を引き出すのは難しいですね」
「レイの魔法でどうにかならないか?」
ダスカーにとって、レイは魔法の技量という点では他に類を見ない程の実力を持っている。
それこそ炎の竜巻によって軍隊に大きな被害を与えることが出来るといったように。
そんなレイだからこそ魔法で何とかならないのかと思ったのだろうが……
「難しいですね」
ダスカーの言葉に、レイはあっさりとそう返す。
「知っての通り、俺は炎の魔法に特化しています。そして基本的に炎の魔法は攻撃に向いているので……例えば相手に幻覚を見せて情報を話させるといったことは難しいでしょう。一応尋問に使えそうな魔法もありますが、恐らく無意味でしょうし」
「それはどういう意味だ? 試せるのなら、試してみた方がいいだろう」
ダスカーにしてみれば、尋問や拷問をしてもオーロラが何も情報を話さない以上、何か他の手段でどうにかしたいと思ってるのだろう。
そして魔法に長けたレイならもしかしてと思ったのだろうが……
「俺の魔法の中で尋問に使えそうなのは『戒めの種』くらいです。この魔法は、使う俺とこの場合は使われたオーロラの間で約束をして、それを破ったら身体の内側から焼き殺されるという魔法なんですが、そもそもオーロラが約束をすると思いますか?」
なお、『戒めの種』は相手が約束を破れば身体の内側から焼かれるという、非常に凶悪な魔法だ。
だが同時に、戒めの種を使われた者は熱に対する耐性や炎関係の攻撃をすると威力が上がるというメリットもある。
……メリットとデメリットが釣り合っているとは、到底言えないのだが。
「約束か。それはしないだろうし、もししても意図的に破りそうだな」
「そうなるでしょうね。穢れの関係者の情報を少しでも流すのなら、それこそ死ぬ方を選んでもおかしくはないかと」
何しろ一度は舌を噛み切って死のうとしたこともあったのだ。
それを考えれば、レイの魔法で死ぬくらいのことは容易に許容するだろう。
つまりレイが魔法を使っても、それはオーロラの自殺の後押しをすることに他ならない。
「そうか」
はぁ、と。
レイの言葉にダスカーが大きく息を吐く。
今はダスカーが捕らえているオーロラは、恐らく来年の春には……もしくは王都の方で無理をしてでも冬にギルムまでくれば、引き渡さないといけない。
その前にオーロラに死なれるのは、ダスカーにとっても絶対に避けるべきことだった。
「オーロラの件はそれでいいか。……他に用件は?」
「実は、ダスカー様が信用出来るマジックアイテムの鑑定能力がある人物をここに呼んで欲しいんです」
「何だと?」
レイの口から出たのは、ダスカーにとっても予想外の言葉だったのだろう。
ダスカーの口から出たのは驚きの声だ。
「実は……」
レイはミスティリングの中から魔剣を取り出す。
鞘に収まってはいるが、それでも見る者が見れば魔剣だと一目で分かる。
そしてダスカーも、魔剣を見てそれが魔剣ではないと言うような者ではない。
「この魔剣、洞窟にあったオーロラの寝室でマリーナが見つけた物です。ただ、普通なら枕の下とかに隠すのが普通だと思うんですが、何故かベッドの下にあったらしくて」
マリーナの名前が出ると何とも言えない表情を浮かべるダスカーだったが、それでもレイの説明は真剣に聞く。
この魔剣が、例えばレイが偶然どこかで……それこそ盗賊を倒して入手したというのなら、まだよかった。
いや、寧ろ盗賊が持っていた魔剣を奪った以上、その盗賊は恐らく死んでいる。
盗賊喰いと呼ばれることも多いレイが盗賊を相手に情けを見せるとは思えない。
……そう思うダスカーだったが、実際にはレイも盗賊の生き残りを見逃したりといったことはしている。
勿論、盗賊団に接触したのなら見逃すということはまずないが。
ともあれ、レイはそのような方法ではなく、オーロラの家からこの魔剣を見つけたと言った。
実際には魔剣を見つけたのはレイではなくマリーナなのだが、ダスカーはそのことは意図的に流しておく。
「なるほど、ベッドの下に隠されていた魔剣か。そう考えると、怪しいな」
「はい。他にもこれも……」
そう言い、次にレイがミスティリングから取り出したのは、執務室と思しき場所に隠されていた指輪。
こちらもまた、何らかのマジックアイテムだろうと予想は出来た。
「これもか。分かった。魔剣と指輪。この二つを鑑定出来そうな者をすぐに呼ぼう。……一応聞いておくが、これを俺に預けるというつもりはないか?」
尋ねるダスカーに、レイは即座に首を横に振る。
「いえ、止めておいた方がいいと思います。これがどういう意味を持つのかは分かりませんけど、穢れの関係者にとって重要な物なら取り返しに来てもおかしくはないでしょうし、万が一……本当に万が一ですがオーロラが何らかの手段でブルーメタルの牢獄から脱出した時に、ダスカー様がこれらを持っていればいらない被害が出る可能性があります」
「だろうな」
ダスカーも自分の強さには自信がある。
だが、レイに勝るかと言われれば、それは否だ。
そもそもダスカーは領主である以上、個としての強さではなく、軍を率いた群れとしての強さこそが第一なのだから。
「分かった」
結局ダスカーはレイの言葉を全面的に受け入れるのだった。