3323話
このライトノベルがすごい!2023が始まりました。
レジェンドも投票作となっています。
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回答期限は9月25日23:59分ですので、是非レジェンドに投票お願いします。
カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。
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また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。
「あー! ちょっとレイ! 何で私がいない間にそうやってスープを飲んでるのよ!」
レイが妖精達と共にスープを味わっていると、不意にそんな声が響く。
それが誰の声なのかは、考えるまでもない。
それこそレイの相棒……というのは少し大袈裟かもしれないが、それでもニールセンは自分をそのように思っている。
そんな自分を置いて、他の妖精達がいい思いをしているのか不満だったのだろう。
「ほら、ニールセンの分もあるから、安心しろ。……それで、長はボブの件を何と言っていたんだ?」
「やっぱりボブが助かったのは分かっていたみたいよ。褒められたけど……」
「その割には、あまり嬉しそうじゃないな」
長から褒められたと、そのように喜んでもおかしくはないとレイは思うのだが、ニールセンはとても喜んでいる様子ではない。
それがレイにとっては疑問だった。
「うーん、嬉しくない訳じゃないのよ?」
そう言いつつ、ニールセンは地面に置かれた皿に盛られたスープを飲む。
「不思議な味ね。香りが特殊というか……」
「ちょっと変わった香辛料を使っているスープだしな。けど、悪くないだろう?」
そう言われると、ニールセンも改めてスープを飲んでから頷く。
「そうね。少し変わった味付けだけど、最初の一口を飲んだらもっと飲みたくなるのは間違いないわ」
「えー……私はちょっと好きじゃないな」
気に入ったというニールセンとは違い、妖精の一人が不満そうな様子でそう言う。
だが、他の妖精の一人は、その意見に反対する。
「ちょっと特徴的だけど、私は好きよ」
その一言を切っ掛けに、妖精達の間でそれぞれ気に入った、気に入らないといったように話している。
レイが見たところ、六割か七割くらいの妖精はこのスープを美味いと感じているようだった。
(同じ妖精郷で育った……つまり同じような食事をしてきたのに、このスープの好き嫌いでそこまで分かれるのか。好みはそれぞれと聞くけど、これもそのうちの一つなんだろうな)
そんな風に思いつつ、レイは大分減ったスープの入った鍋をミスティリングに収納する。
「あ、ちょっとレイ! どうせなら、もう少し飲ませてくれてもいいでしょ!?」
「別にこれが夕食って訳じゃないんだ。今ここで腹一杯食べたら、それこそ後で夕食の入る場所がなくなるぞ」
「えー……」
レイの言葉に、ニールセンは不満そうな様子を見せる。
とはいえ、それでも完全に不満を表すのではなく、レイがそう言うのなら仕方がないといった様子で、残っているスープを片付ける。
「さて、何だかんだと結構妖精が集まってきたな。……ボブとか、ピクシーウルフ達とかがいないのはちょっと疑問だが」
「ボブはまだ鹿の解体をしてるんじゃない? 結構大きな鹿だったから、解体するにも結構時間が掛かると思うし」
「だろうな。もっとも、ボブと一緒にいた妖精達が手助けをすれば、意外と早く終わるかもしれないが」
レイにしてみれば、妖精の手助けがあったら簡単に解体が出来るのではないかと思う。
実際、もしレイがモンスターの解体をする場合、ニールセンに手伝って貰えば……例えば妖精魔法で獲物を木の枝に吊り下げたり出来るのだから、それなりに楽になるのは間違いない。
もっともレイの場合はボブとは比べものにならない程の身体能力を持っているので、もしニールセンに手伝って貰ってもボブ程に助かるかどうかは別の話なのだが。
「そうね。あの子達もボブのことを心配していたみたいだったし……って、ちょっとそこ!」
「え? 何?」
ニールセンがレイの言葉に頷いていると、不意に叫んで一人の妖精を指さす。
その先にいたのは、一人の妖精。
他の妖精がまだ飲んでいたスープを分けて貰い、満足そうな様子を見せていた。
そんな妖精がいきなり自分が指さされたのだから、驚くなという方が無理だろう。
レイもいきなり何の騒ぎだ? と疑問に思っていたのだが、ニールセンが指さした妖精を見てすぐにその理由を理解する。
その妖精は、恐らく……いや、ほぼ間違いなくボブと一緒にいた妖精だったのだ。
先程の会話では、ボブと一緒に鹿の解体をしていることになっていた妖精が、何故かここにいて、しかもスープを分けて貰って飲んでいたのだ。
ニールセンが思わずといった様子で叫ぶのも無理はない。
「ボブの方はもういいの?」
「あー……うん。解体って見てるだけだと暇だし、手伝うにもあまり出来ることはないし。だから仕方がないのよ」
そう告げる妖精の言葉に、ニールセンは大きく息を吐く。
「まぁ、いいけどね」
「でしょう? なら……出来ればもう少しこのスープを飲みたいんだけど。不思議な風味がして……何と言うか、後を引く美味しさ? そんな感じだし」
「残念だけどそれで終わりらしいわよ」
「えー……ニールセンのケチ」
「私じゃなくてレイに言いなさいよね。それよりも、本当にこんなところにいてもいいの? ボブの件は長も知ってるのよ? というか、長がボブの件を教えてくれたのよ? 報告なり感謝なりしてきた方がいいんじゃない?」
ビクリ、と。
ニールセンの言葉を聞いた妖精はその動きを止める。
そして数秒が経過し、恐る恐るといった様子で口を開く。
「長が……? えっとそれって冗談か何かよね?」
「ううん。本当のことよ。そもそも長から教えて貰わない限り、私達がどうやってボブやあんた達の危険を察知出来たと思うのよ?」
「それは、その……そう、例えばニールセンの力でとか」
「私にそんな力はないわよ」
ニールセンが即座にそう返す。
実際、ニールセンは長のように広範囲に魔力を広げることによって、その範囲内の状況を察知するようなことは出来ない。
いずれ……将来的には出来るようになるのかもしれないが、今は無理だ。
「えー……じゃ、じゃあ、やっぱり長に……?」
「そうなるわね。長が今どう思っているのかは分からないけど」
「何よ、元々ニールセンが教えてくれないのが悪いんじゃない!」
そう叫ぶと、妖精は素早くその場から飛び去る。
雪が降っていて飛びにくいだろうに、それでもボブと一緒に外に出た他の妖精達と共に、少しでも早く長に会いに行く必要があった。
長の性格を考えれば、ここで会いに行くのが少し遅くなったところで、怒ったりはしないと思う。
だが、怒ったりはしないだろうが、心証が悪化するのは間違いない。
だからこそ、今は少しでも早く長に会いに行く必要があった。
「全く」
「ちょっと可哀想じゃないか?」
ニールセン達のやり取りを見ていたレイは、そんな風に声を掛ける。
だが、ニールセンはそんなレイの様子に首を横に振る。
「このくらいなら何の問題もないわよ。明日……ううん、今日中にでも何を言ったのかすぐに忘れると思うわ」
「……それでいいのか、妖精」
ニールセンの口から出た言葉に、レイは思わず突っ込む。
とはいえ、それが妖精らしいと言われればそうなのかと納得するしかなかったのだが。
「長の件はこれでいいとして、後の問題は……穢れがボブと接触したけど、これからどうなると思う? 穢れの関係者に何か動きがあるかしら?」
「どうだろうな。穢れの能力を考えると、穢れの関係者にボブと接触したという情報は伝わってないと思いたいところだけど」
「そういう能力は穢れにないと思うけど。もしそういう能力が穢れにあったら、炎獄やミスリルの結界で捕らえられるという情報をとっくに向こうに送ってる筈でしょう? けど、穢れは特にそういうのに対処するでもなく、ただ適当に出てくるだけじゃない」
その説明はレイを納得させるのに十分だった。
レイはこれまで数え切れない程に穢れと戦っている。
それこそ、恐らく自分は世界で一番穢れとの戦闘経験があるのではないかと思ってしまうくらいに。
そんなレイにとって、穢れというのは簡単なプログラムをされたロボットのような認識だ。
自分がどのように接しようとしても、穢れは決められたプログラムに従う以外の選択肢は存在しない。
だからこそ、臨機応変に対処をする……ボブと遭遇したからといって、その情報を穢れの関係者に知らせることはないと思えた。
(とはいえ、穢れの関係者にとってボブは特別だ。絶対に殺すべき相手として認識されている以上、ボブだけは見つけたら即座に何らかの方法で伝えるという可能性は十分にある)
それが具体的にどのような方法なのか、レイにも想像は出来ない。
そもそも穢れはモンスターではないので、レイの常識が通じないのだ。
それこそ何かレイの思いも寄らない連絡手段があったとしても、それに驚くようなことはないだろう。
「ボブが穢れと接触したのは、妖精郷からそれなりに離れている場所だ。これから……それこそ明日以降にその周辺で穢れが多くなれば、何らかの手段で連絡をしたということになるかもしれないな」
「うーん、そうなると明日からも忙しくなるかもしれないわね。もっとも、あのくらいの距離ならセトが走ればすぐだけど。それにレイも妖精郷に寝泊まりするんだから、そういう意味では本当にすぐに移動出来るでしょうし」
「だろうな。俺もそう思う。とはいえ、穢れを相手に油断するようなことは出来ないけど。……いつ向こうがどんな手を打ってくるのか、全く分からないし」
「グルルルゥ!」
レイとニールセンの会話を聞いていたのだろう。
セトが自分に任せて! と喉を鳴らす。
セトにしてみれば、自分が頑張ってレイを穢れの出た場所に連れていけばいいのだから、やる気に満ちている。
実際には穢れをレイの魔法の範囲内に誘き寄せるといったこともする必要があるのだが。
「そうだな。セトがいればどこに穢れが現れても心配はないか。走っても飛んでもセトは速いし」
そうレイが言うと、セトは嬉しそうな様子を見せる。
見ている者がどこかほんわかとした思いをするような光景に、スープを飲み終わった妖精達も何となくその場を離れずに眺めていた。
レイにとってはそれは別に構わないのだが、ニールセンは何となく面白くなさそうな表情を浮かべる。
ニールセンにしてみれば、レイとセトのじゃれあう光景はあまり人に見せたくなかったのだろう。
もっとも、別にその光景を独り占めしたいと思うとか、そういった理由ではなく、何となくそう思ったというのが正しいのだが。
「まぁ、とにかく今日は疲れた。さすがに今日はこれ以上何もないだろうし、後はゆっくりするとしよう。……ちなみに何か急ぎの仕事とかあったりしないよな?」
「え? うーん、私はないけど。ただ、長からは何かあるかも。もしくは今は何もないけど、後で何か急な出来事があるかもしれないわ」
ニールセンはすぐに何かを思いつくようなことはなかったものの、今日これからずっと何もないとは断言出来ない。
もしかしたら、それこそ夜中に突然穢れが現れて長が知らせてくるかもしれないのだから。
勿論、一番いいのは何も起きずに明日の朝を迎えることだろうが、その辺については何とも言えない。
それこそ穢れの関係者の判断次第だろう。
もしボブを見つけたと何らかの手段で知れば、すぐにでも大量に穢れを送ってくる可能性は否定出来なかった。
「ボブが見つかった場所に、研究者達が見つけたという金属を設置出来ればいいんだけど」
「それが出来れば一番いいんだろうけどな。そうなれば、穢れが移動出来ないそこにボブがいると認識してくれるかもしれないし。……そう考えると、ダスカー様に頼んでどうにかした方がいいのか?」
「頼むだけ頼んでみたら? それで駄目なら、もっと他に何か手を考えればいいだけでしょうし」
「そうだな。明日にでも領主の館に行って頼んでみるか」
領主の館に直接セトで降りることが出来るようになったので、ダスカーと会うのはそう難しい話ではない。
また、オーロラが持っていた魔剣についてマジックアイテムを売っている店で調べて貰うという予定もあった。
領主の館でなら、それこそマジックアイテムを売っている店の店主を呼んで貰い、そこで確認して貰うといった方法もある。
魔剣はオーロラが持っていた物である以上、魔剣の能力も穢れに何らかの関係がある可能性は十分にあった。
「じゃあ、今日はもう何もないんだから、ゆっくりと出来るのね」
「そうなる。さっきも言ったが、長から何か急用がない限りはだけど」
その言葉にニールセンも頷き、レイ達はゆっくりとした時間を楽しむことになる。
夕食の時間になった時は、レイはいつもより少し豪華な料理を出して、他の妖精達と……鹿肉を持ってきたボブや、料理の匂いに惹かれてやってきたピクシーウルフ達にもご馳走するのだった。