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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ

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3321/4153

3321話

このライトノベルがすごい!2023が始まりました。

レジェンドも投票作となっています。

投票は以下のURLから行えます。


https://questant.jp/q/konorano2023


回答期限は9月25日23:59分ですので、是非レジェンドに投票お願いします。

 鹿の血の汚れを、大雑把に……それでいながら殆ど落としたボブは、無事に妖精郷の中に入る。

 霧の空間の中で、その血の臭いを嗅ぎ取った狼達が集まってくるといったトラブルはあったものの、トラブルらしいトラブルはそれだけだ。


「ありがとうございました」


 妖精郷に入ると、ボブはそう言ってレイに深々と頭を下げてから、何人かの妖精達と離れていく。

 恐らく鹿の解体をするのだろうと予想しつつ、レイは大きく息を吐く。


「グルルゥ?」


 レイの隣にいたセトは、どうしたの? と喉を鳴らして尋ねる。

 レイはそんなセトの頭を撫でて口を開く。


「安心したんだよ。ここでボブが殺されるようなことになっていたら、色々と不味かったしな」


 レイにしてみれば、ボブを守る為に妖精郷に連れて来たのだ。

 そんな中でボブが殺されるようなことになってしまえば、レイにとって大きな後悔を抱くことになるだろう。


「まさか、狩りに行くとは思っていなかったわ」


 レイの言葉にニールセンもそう言う。

 ボブを妖精郷に連れていってはどうかと提案したのは、ニールセンだ。

 それだけにレイと同じく……あるいはレイ以上にボブの心配をしたのだろう。


「鹿を狩ってきたから、全くの手ぶらということではなかったけどな。……とはいえ、実際に冬の間の食料が多ければ多い方がいいのも事実だ。何なら、俺がある程度は渡してもいいんだけどな」


 ミスティリングを持つレイにとって、食料を用意するのはそう難しい話ではない。

 そんなレイにしてみれば、ボブの食料を用意することくらいは容易に出来る。


「でも、レイは冬の間にベスティア帝国だっけ? 穢れの関係者の本拠地に行くんでしょう? そうなると、その間の食料を用意するのは難しいんじゃない?」

「それは……まぁ、そうだな。とはいえ、ボブがその件を知っていた訳じゃないと思うけど」


 レイ達がギルムに帰ってきたのは今日だ。

 なのに、そのレイが妖精郷に来た時、既にボブは他の妖精達と共に狩りに出掛けていたのだ。

 つまりレイが冬の間にベスティア帝国にある穢れの関係者の本拠地に行くかもしれないというのは、当然だがボブには分からなかった。


「そうかもしれないわね。けど、これから一体どうするの? もし本当に穢れの関係者の本拠地を襲撃するのなら、出来るだけ早い方がいいでしょう?」

「それはそうだが、誰が行くのかといった問題もあるだろ。俺の身内はともかく、それ以外……ギルムでとなると、恐らくは高ランク冒険者になると思うけど、そっちともしっかりと意思疎通をする必要はある筈だ。……何だったか、ほうれん草? そんな感じだったと思う」

「何よ、ほうれん草って。草?」

「いや、違う。……ほうれん草という野菜があるのも事実だが、この場合は違う。報告、連絡、相談の通称だったか? とにかくそんな感じだったと思う」

「ふーん」


 レイの説明をどこまで納得したのかは分からなかったが、ニールセンはそんな声を漏らす。

 実際、ニールセンにしてみればそのほうれん草というのがそこまで大事なことのようには思えなかったのだろう。

 もし長がこの場にいれば、レイの説明に強く納得したのだろうが。

 この辺がニールセンがまだ未熟ということの証だった。


「取りあえず、やるべきことはやったしマジックテントに戻るか」


 そう言ったところで、レイはそう言えばマジックテントは無事か? と思う。

 マジックテントを出た時は、一刻も早くボブを助けないといけないということでマジックテントを収納してる暇はなかった。

 だが、実際にボブを見つければ、鹿の死体を背負って走っていたのだ。

 そのようなことが出来たのは、ボブと一緒に行動していた妖精の協力があったのも事実だろう。

 穢れはボブを……自分達が最優先に狙うべき相手を見つけても、特に移動速度が上がったりといったことはなく、普段と同じ速度で移動をしていた。

 それなら、レイとしても最初から大人しくマジックテントを収納してからボブを助けに行けばよかったと、しみじみ思う。

 もっともそれは今だからこそ思えることなのだが。

 ニールセンに起こされた時は、とにかく少しでも早くボブを助けなければならないと思っていた。


「心配しなくても、マジックテントは無事だと思うわよ」


 レイの様子から、何を心配しているのか理解したのだろう。

 ニールセンはレイを励ますようにそう言う。

 ただ、それは単純に励ますというだけではない。

 実際にレイのマジックテントが悪戯されている可能性は低いと判断しての言葉だ。

 もしレイのマジックテントに何らかの悪戯をすれば、それこそ長によるお仕置きが待っている可能性が高いのだから。


「だといいんだけどな」

「グルゥ……」


 レイの言葉に同意するように、セトが喉を鳴らす。

 セトもレイのマジックテントは無事だといいなと、そう思ったのだろう。

 そうしてレイ達はマジックテントのある場所まで戻ってきたのだが……


「おお、無事だ……」

「だから言ったでしょう」


 そこにマジックテントが何の問題もなくあるのを見たレイが、感動したように呟く。

 妖精の悪戯好きを知っているだけに、ニールセンが大丈夫だと保証していても、完全に信じることは出来なかったのだ。

 ニールセンは自分の言葉通り無事にマジックアテントがあるのを見て、自慢げに言う。

 そんなニールセンの様子にレイも頷きながらマジックテントを収納しようとするのだが……


「ん?」

「どうしたの?」


 レイの口から出た言葉に、ニールセンがそう尋ねる。

 レイは再度マジックテントを収納しようとするが……


「収納出来ない?」

「何? どういうこと?」

「言葉通りだ。マジックテントを収納しようとしたんだが、何故か収納出来ない」

「……ミスティリングだっけ? レイのアイテムボックスが壊れたとか?」

「そんなことはないと思う。もっと考えられるとすれば……」


 ニールセンの言葉を即座に否定するレイ。

 レイの持つミスティリングは、ゼパイル一門の錬金術師エスタ・ノールが作ったものだ。

 伝説の錬金術師と呼ばれることも多いエスタだ。

 そんなエスタの作ったミスティリングが、そう簡単に壊れるとは思えない。

 ……というよりも、もしミスティリングが壊れたら基本的に修理は出来ないと思った方がいいだろう。

 現在において、アイテムボックスというのはそれだけ貴重なのだ。

 あるいはもし修理が出来るにしても、とんでもない金額を必要とすることになるだろう。

 そして何より、レイの冒険者としての能力は半分……いや、それよりもっと落ちることになりかねない。

 レイの戦闘力が落ちるといったことではないが、レイは自分の荷物の大半をミスティリングに収納している。

 それこそ、馬車十台、二十台程度ではすまないような大量の荷物がミスティリングには収納されているのだ。

 また、レイが使うデスサイズや黄昏の槍も、ミスティリングがなければ常に持ち歩く必要がある。

 どちらも見るからに強力なマジックアイテムだし、長物が二本ということもあって持ち歩くのが面倒だからと、その辺に放り投げておく訳にはいかない。

 それこそ金に困ってる者なら、思わず手を伸ばしても不思議ではないのだから。

 デスサイズはレイやセト以外なら百kgの重量を持つので、そう簡単に盗まれる心配はない。

 しかし黄昏の槍は極端に重いわけではなく、奪おうと思えば奪えるだろう。

 ……もっとも、黄昏の槍の能力にはレイが手元に戻ってくるように念じればすぐに戻ってくるというものもあるが。

 ともあれ、冒険者としてのレイはミスティリングがあってこそなのだ。


「ミスティリングは……ほら、特に壊れてない」


 そう言いつつ、レイはミスティリングからデスサイズを取り出し、再度収納する。

 特に何も問題なく収納出来ているその様子からは、レイが言うようにミスティリングが壊れているとは到底思えなかった。


「じゃあ、何でマジックテントは収納出来ないの?」

「一番高い可能性は、妖精が中に入り込んでるとかだろうな」


 レイのミスティリングは容量に限界はない。

 だが、生き物を収納することは出来なかった。

 つまりマジックテントの中に生き物がいればミスティリングに収納することが出来ない。

 そして現時点でマジックテントの中にいる可能性が一番高いのは、やはり妖精だった。


「えー……でも、レイのマジックテントに悪戯をすれば、長のお仕置きがあるのよ? なのに、そんな真似をする? 私ならともかく」

「いや、それはそれでどうなんだ?」


 言外に自分なら長にお仕置きされても悪戯をすると匂わせるニールセンに、レイは思わずといった様子で突っ込む。


「私のことは置いておくとして。まずは長に知らせましょうか。そうすればマジックテントの中にいる娘達のお仕置きも……」

「待って待って待ってーっ!」

「落ち着いてよニルセン!」


 二人の妖精がマジックテントから飛び出してくる。

 そんな妖精に対し、ニールセンは呆れたように口を開く。


「ここで焦るくらいなら、最初から悪戯はしないことね。それと私はニールセンよ。急いでるからって名前を省略しないでくれる?」

「べ、別にちょっと間違っただけだし。それに私達はニールセンじゃないんだから、悪戯をしようとかは思ってなかったわよ。ただ、このマジックテントとかいうのの中がどういう風になってるのか気になっただけなんだから」

「そう言ってもね。それを素直に信じろというのは難しいと思わない?」

「ニールセンじゃないんだから、悪戯はしないってば」


 ニールセンじゃないんだからと、二度続けて言われたことに本人はヒクリと頬を動かす。

 とはいえ、実際に今までニールセンは数え切れない程の悪戯をしてきたのは間違いない。

 それこそ、この妖精郷の悪戯の第一人者と評されてもおかしくないくらいに。

 ニールセンにもその辺に自覚はあるのか、反論は出来ない。

 代わりに笑みを浮かべて口を開く。


「じゃあ、そうね。取りあえず今回の件については長に知らせておくわ。もし長が問題ないと判断すればお仕置きはないと思うから、安心しなさい」

「ちょおっ! ちょっと待って、待ってってば! だからその……ね? 長には……」

「秘密にしてちょうだい、お願い!」


 二人の妖精は必死にニールセンに対して頼み込む。


「……はぁ、本当に悪戯はしてないんでしょうね?」


 数秒の沈黙の後、ニールセンはそう尋ねる。

 そんなニールセンの様子に、自分達が助かる……長に言いつけられないかもしれないという可能性を見たのだろう。

 二人の妖精は勢いよく頷く。


「本当だってば。ただソファとかで寝たりしただけよ。ねえ?」

「うん、そうそう。でも、あのソファって柔らかくて気持ちいい座り心地だったわ。それこそ、出来ればずっと座っていたいと思うくらいに」


 そう言い、二人の妖精はソファの座り心地、寝心地についてそれぞれ意見を言う。

 その会話を聞いていたレイは、少しだけ嬉しくなる。

 世の中にはお世辞で褒めて、それによってレイから何らかの利益を欲する者もいるが、この妖精達の会話はお世辞でも何でもなく、本当に心の底から言ってるのだというのが分かる。

 レイにとってもマジックテントは貴重なマジックアイテムだけに、本心からそれを褒められて嬉しくない筈がない。

 嬉しそうな様子のレイを見たニールセンは、大きく息を吐く。


「はぁ、仕方がないわね。私からは長に何も言わないでおいてあげるから、とっとと行きなさい」


 ニールセンのその言葉に、二人の妖精は急いでその場から飛び去る。

 その顔に笑みが浮かんでいるのは、長に言いつけられないと安心したからだろう。


(私は言いつけないけど、長がこの場所を何らかの方法で把握していたら、それはどうしようもないけどね)


 飛び去った二人を送ったニールセンは、そんな風に思いつつ笑みを浮かべる。

 約束したように、ニールセンが長に言いつけるといったことをするつもりはない。

 だが、長が自分でこの状況について何らかの方法で把握しており、それによって長からお仕置きされるようなことになっても、それはニールセンに関係ないことだ。


「レイ、あの二人は悪戯してないって言ってたけど、一応調べてみた方がいいと思うわよ」

「悪戯してないのは嘘だったと?」

「分からないわ。けど、後から悪戯が発覚して後悔するよりは、ここでしっかりと調べておいた方がいいと思わない?」


 そう言われればレイも否とは言えない。

 万が一のことを考えると、やはりここで調べておかないのは不味いと判断し、セトにはその場で適当に寛いでいるように言ってから、ニールセンと共にマジックテントの中に入るのだった。

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