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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3280/3865

3280話

 襲ってきた者達は一人を……明らかに高価な服を着ていて、この洞窟にいた者達の中でも地位が高いだろう男以外は全て殺した。

 ……ヴィヘラによって倒された者の中には、まだ生きている者もいるかもしれないが、取りあえず戦力にはならない。

 もっともニールセンを追ってきた者達が特に戦闘訓練をしているようにも思えない一般人だったので、例えばポーションを使って瀕死の状態から回復しても、戦力としては到底考えられないだろうが。


「さて」


 そう言い、喚いている男に視線を向ける。

 レイが使ったデスサイズのスキル、多連斬。

 それによって、男は右手の指を数本失っていた。

 それでも右手の指が数本切断される程度ですんだのは、精霊魔法を使って男を捕らえていたマリーナが咄嗟に男を庇ったからなのだが。

 とはいえ、喚いている男がマリーナに感謝をするといったことはまずないだろうが。

 男にしてみれば、マリーナの精霊魔法によって自分の足が地面に埋まって身動きが出来なくなったのが理由で、右手の指を数本失ってしまったのだから。

 もっとも、男にマリーナが精霊魔法を使ったと分かるかどうかは別の話だろうが。


「おい、いい加減にしろ。残りの指も切断されたいのか? それとも、反対側の腕を手首から切断してやろうか?」


 びくり、と。

 レイのその言葉に本気を感じたのか、男は喚くのを止める。

 とはいえ、それでも指が切断された痛みを我慢するのは難しかったが。


「俺の質問に答えたら、ポーションを渡そう」


 そう言い、レイはミスティリングの中からポーションを一つ取り出す。

 もっとも、そのポーションはそこまで高価なものではなく、痛みを抑えることは出来るだろうが、切断された指をくっつけたり、新たな指を生やすといった効果は期待出来ないものだったが。

 レイとしては、最低限口を利ければいいという思いだったので、わざわざ高性能な……そして高価なポーションは使う必要がないと思っての判断だった。


「わ……分かった。話す。何でも話すから、そのポーションを渡せ!」


 まだ自分の立場が分かってないのか、レイに向かって高圧的に叫ぶ男。

 そんな男を見ながら、レイは疑問に思う。


(以前俺が遭遇した穢れの関係者は、それこそ情報を話すくらいなら自分で死んで俺達を道連れにしようとしていたんだが。それに比べると、この男は……いやまぁ、考えてみればそう不思議なことでもないのかもしれないが)


 貴族……それもレイが嫌っているような、意味のないプライドだけが高い貴族によくあることだが、その部下は優秀であっても、雇っている貴族が無能というのは珍しい話ではない。

 勿論、穢れの関係者の中のお偉いさんの全員がこの男のような性格ではないのだろうが。

 実際、この洞窟の見張りは狂信者という表現が相応しい者達だったものの、狂信者だからこそレイ達に何も情報を話さなかった。


(そう言えば、あいつは以前戦った奴と違ってこっちを道連れにしようとかはしなかったな。ギャンガとかいうあの男も……いや、考えてみれば当然の話か。この場所は穢れの関係者のホームグラウンドとでも呼ぶべき場所なんだろうし)


 遠くに行く場合は、自分達に何かあった時の為の用意をしておくのはおかしな話ではない。

 それに比べて、ここは穢れの関係者の拠点だ。

 それも岩の幻影によって中に入ってくる者はまずいないと思えるような場所である以上、何かあった時の警戒をしたりといったことはしなくてもおかしくはないのだろう。


(とはいえ、この男はあの見張りと違って絶対に情報を喋らないといったような性格じゃないと思う。実際にポーションを渡せば喋ると言ってる訳だし)


 そんな風に思いつつ、レイは男にポーションを渡す。

 男はそのポーションを急いで指の切断された右手に掛ける。

 足は未だにマリーナの精霊魔法によって床に半ば固定されている状況なので、ポーションを受け取り、開け、掛けるといった作業でも少し苦労していた。

 本来なら手だけで出来る作業なのだが、それでも無意識に足でバランスを取ったりするのだが、それが出来ないが故の苦労だった。

 とはいえ、レイには男の足の拘束を解くようにマリーナに指示するつもりはない。

 これから尋問するのだから、もし万が一にも男に逃げられたり、穢れの関係者が助けに来たりした場合、男が動けない方が色々と便利なのだから。


「そんな……私の指が……指が……」


 ポーションによって取りあえず痛みはなくなったものの、男の口からはそんな声が漏れる。

 人というのは、自分にあって当然のもの……今回の場合は指がなくなってしまうと、強いショックを受ける。

 そういう意味では、男も全てではないにしろ右手の指が何本か切断されたのは堪えたのだろう。


「さて、ポーションも渡したし、こっちの質問に答えて貰おう。……とはいえ、まずはこれからだな。お前、本当に穢れの関係者なのか?」


 この洞窟の中にいた以上、穢れの関係者というのは間違いないだろう。

 だがそれでもレイがこうして改めて聞いたのは、とてもではないが男が穢れの関係者とは思えなかったからだ。

 見張りのように狂信者的なものもなく、言動からは俗物的な性格をしているようにしか見えない。

 そして何より、この性格から最悪この大陸を滅ぼすかもしれないという穢れの関係者であるようには思えなかったのだ。


「穢れの関係者……? 何だそれは?」


 穢れの関係者という言葉に理解出来ないといった様子の男。

 一瞬惚けているのかと思ったレイだったが、穢れの関係者というのは自分達がそう呼んでいるだけであるのを思い出す。


「お前達が御使いと呼んでいる存在を俺達は穢れと呼んでいる。その関係者だから、穢れの関係者だ」

「穢れ、だと……?」


 怒るか?

 男の様子にそう思うレイだったが、男は特に気にした様子もなく頷く。


「御使いを穢れと呼ぶのなら、私はお前が言う穢れの関係者で間違いないだろう」

「お、おう」


 あまりに見張りと違う反応に、レイの口からはそんな声が漏れる。

 見るからに地位の高い人物なのに、自分達が御使いと呼んでいる存在を穢れと呼んでも怒らない。

 そのことにレイは疑問を持つ。


(もしかして、俗物的な性格だからか? つまり、この男にとって穢れ……御使いはあの見張りと違ってそこまで重要な存在ではない? その割にはこうして見るからに高い地位にいるのは……)


 そんな疑問を抱いたレイは、男に向かって尋ねる。


「お前、穢れに対してそこまで心酔はしてないな? なのに何で見るからに高い地位にいる?」

「家系の問題だ」

「……なるほど」


 端的な説明だったが、男の立場についてレイが理解するには十分だった。

 本人はそこまで熱心に御使いを崇めたりしている訳ではないのだが、血筋の問題から現在は高い地位にいるのだろう。


(だとすると、穢れの関係者ってのは俺が想像していた以上に古い組織だったりするのか?)


 血筋によって男が高い地位にいるということは、その血筋に相応の意味を見出されていることになる。

 それが具体的にどれくらい古い組織なのかは、生憎とレイにも分からない。

 だがそれでも、穢れの関係者は昨日今日出来たような組織ではなく、数十年……下手をすれば百年を超える歴史を持つ組織の可能性もあった。


(あ、でも妖精の長に微かに穢れに関する伝承があったと考えると、そんなにおかしな話でもないのか)


 今のところ、レイが知ってる限りでは穢れに関する情報を知っているのは妖精の長達だけだ。

 実際にはレイの知らない場所で穢れについての情報を知っている者がいる可能性もあったが、それが具体的に誰なのか分からない以上、レイとしてはそちらを気にする訳にもいかない。


「そうか、血筋か。……見たところ、お前は穢れについてはそこまで重要視しているようには思えないな」

「ああ、そうだよ。俺にいい思いをさせてくれるから今の立場にいるだけだよ。それの何が悪い?」


 足が地面によって固定されている以上、男が逃げることは出来ない。

 だからか、レイの言葉に対してあっさりとそう言う。

 あるいは自分と一緒にここまでやって来た穢れの関係者が全員死んでいるのも、男の口が軽くなった原因かもしれないが。


「いや、別に悪くはない。ただ……お前が穢れの関係者である以上、俺達の敵であるのは間違いない」


 そう言い、レイは意味ありげに男を見る。

 ビクリ、と。その視線を向けられた男は動きを止める。

 この状況……男が一切身動き出来ない状況で、しかも周囲にはレイ、ヴィヘラ、マリーナ……それと上に隠れていて見えないがニールセンがいるのだ。

 そんな状況で自分が敵と判断されれば、どうなるのか予想するのは難しい話ではない。


「待て! 待ってくれ! 今の様子からして、お前達は私から情報を引き出したいのだろう!? なら、私は素直に情報を話す。だから無意味に暴力を振るうのは止めてくれ、知ってることは何でも話す! お前達も知っての通り、私は御使い……いや、穢れの関係者の中では相応に高い地位にいる!」


 自分から御使いではなく穢れと言い直している辺り、男が本気で穢れの関係者を裏切ってもいいと思っているのは間違いない。

 元々が自分が働かずに食べていくということを考えていたらしく、レイにしてみれば男の言葉には驚きはするものの、同時に納得も出来た。


「分かった。それなら、こっちもそこまで厳しい尋問をする必要もないな」


 レイの口から出た言葉に、見るからに安堵した様子を見せる男。


(ある意味、洞窟に入ってすぐにこういう男を確保出来たのはラッキーだったのかもしれないな)


 そう思いながら、レイはマリーナやヴィヘラに視線を向ける。

 この時にニールセンに視線を向けなかったのは、男が妖精をまだ欲しているかもしれないという思いもあった。


「まずは名前を聞かせろ」

「ヌーラだ」

「ヌーラか。それで、お前はこれからどうなるか分かるか?」

「……どうなるんだ?」

「死ぬ」


 そう言った瞬間、ヌーラは動きを止める。


「かもしれない」


 続けて口にした言葉に、ヌーラは安堵した様子を見せる。


「驚かせないでくれ。私が死んだら、そっちも情報を入手出来ないのだぞ」

「だろうな。けど、この洞窟の先にはまだ多数の人間がいる。お前が駄目でも、そっちから話を聞けばいい。勿論、見るからに穢れの関係者の中で高い地位にいるお前が持っている情報よりは少ないだろうが、それでも情報を聞く人数を多くすればある程度はどうにか出来る」

「そんなことはない。この先にいるのは一般人だ。私の地位で知ることが出来る情報と、一般の者が持っている情報では、その質に大きな差がある」

「だろうな」


 ヌーラの口から出た言葉には、レイも反対しない。

 実際に地位によって得られる情報が大きく違うのは、容易に想像出来る。


「私は素直に情報を話すと言っているのだから、そこまで脅す必要はないだろう。それよりも、早くここから情報を聞かなくてもいいのか? 私が言うのもなんだが、ここで無駄に時間を使ってしまえば、詳しい情報を聞くよりも前に誰かが来るかもしれないぞ?」


 そう言われると、レイ達もここで無駄に時間を使う訳にいかないのは理解出来た。

 ヌーラが他の住人達と共にここまでやってきたのは、当然だが多くの人に見られているだろう。

 だとすれば、戻ってこないのを疑問に思ってヌーラを……そしてヌーラと一緒に行動した者がどうしたのかと様子を見に来てもおかしくはなかった。


「そうだな。なら、まずはこれから聞くか。聖光教という存在を知ってるか?」


 穢れに対する情報のうち、レイがまず確認しておかなければならないことはこれだった。

 見張りの男は穢れを上位存在であったり、聖なる存在であると言っていた。

 その言動は、レイが知っている聖光教に近いものがある。

 とはいえ、レイもその質問に男が頷く可能性はそう高くないと思っていた。

 穢れの関係者の組織は、恐らくかなり古い。

 今まで何故表に出るようなことがなかったのかは、レイには分からなかったが。

 それでも古い組織である以上、聖光教が何らかの手段でその設立に関わっているとは、レイには到底思えなかった。

 そして案の定、ヌーラは首を横に振る。


「いや、知らない名前だな。聖光教? 私もこの組織の中では相応の地位にあるが、聖光教というのは聞いたことがない。勿論、私が知らないだけで実はもっと上の者がその聖光教とやらと関わっている可能性は否定出来ないが」


 そう言うヌーラに、レイはそうだろうなと頷く。

 ヌーラが組織の中で地位のある人物なのは間違いないが、別に組織を率いている者だったり、その側近であるという訳ではないのだから。

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