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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3269/3865

3269話

「では、無事に戻ってくることを期待しています。穢れについて、何か手掛かりを入手出来るといいのですが」


 降り注ぐ春風の言葉に、レイは頷く。


「ニールセンが見つけた場所は幻影によって守られている場所だ。そうである以上、何らかの重要な秘密があるのは間違いないと思う。……そうである以上、何も情報が入手出来ないということはないと思うんだが。それに昨夜の件もあるし」


 昨夜の件とレイが言ったのは、穢れの関係者が野営をしているブレイズ達を襲撃した件のことだ。

 レイはニールセンに教えられてその件に介入したものの、何らかの情報を入手することも出来なかった。

 穢れの関係者は、レイがレイだと……深紅の異名を持つ者だと知ると、自分が怪我をしても構わないと思うかのような行動をしたのだ。

 ヴィヘラが危険だと判断し、即座に気絶させたものの、結果として情報らしい情報は入手出来なかった。

 もっとも、昨夜の件もあってヴィヘラは穢れを相手に戦える手段を入手したので、全く何の成果もなかった訳ではないのだが。

 ともあれ、穢れの関係者が捕まったのだ。

 場所的に見て、昨夜の男がやって来たのはニールセンが見つけた場所からやってきた可能性が高い。

 そうである以上、穢れの関係者にしてみれば動揺していてもおかしくはなかった。

 本来なら、穢れというのは簡単にどうにか出来るような存在ではないのだから。

 そんな中で捕まった……もしくはそこまでは分からなくても、本来なら戻ってくる時間になっても行方不明のままなのだから、それで動揺するなという方が無理だろう。

 自分達が最強であると、自分達がその気になれば勝てる相手はいないと、そのように思っているだけに、その前提条件の最強というのが崩れると脆い。

 もっとも、これはあくまでもレイの予想だったし、何より最強という割にはレイやエレーナ、ヴィヘラによって倒されており、ミスリルの釘を使った結界で捕獲もされている。

 そういう意味では、決して最強でも何でもないのだが。


「貴方達なら大丈夫でしょう。……気を付けて」


 最後に降り注ぐ春風にそのように言われ、レイ達は妖精郷を出る。

 もっとも妖精郷を出るとはいえ、それは昨夜のようにセトの背に三人で乗って移動するといったやり方ではなく、セト籠を使っての移動だ。

 妖精郷の中でもそれなりに広い場所にセト籠が用意され、マリーナとヴィヘラはその中に乗る。

 レイはセトを呼び、ニールセンはレイの右肩の上に。

 ……そんなニールセンの様子を見ていた、この妖精郷の妖精達の何人かが羨ましそうな様子を見せていたものの、長の降り注ぐ春風がいる以上は勝手な真似も出来ない。

 そんな妖精達の羨ましそうな視線を向けられたニールセンは、自慢げな表情でレイの右肩に立つ。

 それがよけいに妖精たちの嫉妬を煽るのだが、ニールセンは全てを承知の上でやっていた。だが……


「コホン」


 そんなニールセンの態度に、降り注ぐ春風が小さく咳払いする。


「えっと、ほら、レイ。そろそろ行きましょう。いつまでもここで時間を潰したりとかは出来ないでしょう?」


 慌ててレイにそう言うニールセン。

 レイはそんなニールセンに呆れながらも、実際に言ってることは間違いではないので、その言葉には素直に頷く。


「分かった。なら行くか。……セト」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトは屈む。

 その背にレイが跨がると、すぐにセトは走り出す。

 とはいえ、ここは妖精郷だ。

 それなりの広さはあるものの、だからといってセトが本当の意味で全速力で走るようなことは難しい。

 だからこそセトは数歩で翼を羽ばたかせて空に向かって駆け上がる。

 そのまま空中で方向を変えると、地上にあるセト籠に向かって降下していく。

 急降下してくるセトの様子が凄い迫力だったからだろう。

 妖精郷の妖精達の多くがキャーキャー、ワーワーと歓声を上げていた。

 普通なら、地上に降下してくるグリフォンというのは恐怖でしかない。

 だが、たった一日であってもセトと一緒の時間をすごした妖精達にとって、セトが自分達を襲うようなことは絶対にないと理解していたのだろう。

 その考えは正しく、地上に降下したセトがセト籠を掴むと翼を羽ばたかせて再び上空に向かう。

 そうして今度は方向転換するようなこともなく、そのまま妖精郷を飛び出すのだった。

 妖精郷から飛び出したセトは、森の上を飛ぶ。

 セトの背に乗っているレイは、森を……より正確には森の中にいるブレイズ達の様子を確認するが、その姿はもうない。


(あれ? もう森から撤退したのか? いやまぁ、考えてみれば当然かもしれないけど)


 最初は疑問に思ったレイだったが、すぐに納得する。

 セトの飛行速度では、あっというまに森の上空を通りすぎてしまうが、レイはそれに構わずに考え続けていた。

 そもそも、ブレイズ達が多くの者を率いて森に来ていたのは、騎士達が森で穢れの関係者に襲われたのが原因だ。

 襲撃した本人ではないにしろ、それでも同じ穢れの関係者を捕らえる――正確にはレイ達に捕らえて貰った――ことが出来たのだから、もうこの森にいる理由はない。

 ましてや、もし何らかの幸運か悪運によって他の穢れの関係者に遭遇したとしても、レイ達がいない状況では壊滅的な被害を受ける。

 レイ達がやったように、穢れを無視してそれを操っている穢れの関係者を倒してしまえばいいのだが、そのようなことがそう簡単に出来る筈もない。

 最悪、新たな穢れの関係者によってブレイズ達は壊滅し、昨夜捕らえた穢れの関係者は奪還される可能性すらあった。

 なら、それ以上は欲張らず、捕らえた穢れの関係者に出来るだけ早く奴隷の首輪を嵌める為に、森から撤収するというのはおかしな話ではない。


(昨夜聞いた話だと、馬でまずは奴隷の首輪を取りに行くとか言ってたけど……とにかくこの森から撤退した方がいいと判断したんだろうな。ブレイズにとってはそれが最善なのは間違いないだろうし)


 任務を果たしたのに、それ以上の成果を欲して欲張り、その結果として大きな損害を受けるというのは、最悪の出来事だ。

 なら、それは悪くない出来事だろう。


「レイ、ちょっといい? ほら、あそこに川が流れてるでしょ?」


 ニールセンの言葉に考えを中断し、レイはニールセンが指さした方向を見る。

 するとそこには、たしかに川が流れていた。


「あるな。……ああ、もしかしてあの川が、以前ニールセン達が見た穢れの関係者が途中で休憩したって場所か?」

「そうよ。セトの速度だから、森を出てあっという間に見えてきたけど。以前は穢れの関係者が馬で移動していたから、それなりに時間が掛かったんだけど」

「そういうものか。……それで、どうする? 休憩していくか?」

「いらないわよ。セトに乗っているだけで……それも妖精郷からでてまだそんなに時間が経っていないのに、わざわざ休憩する必要はないでしょう?」


 ニールセンの言葉にレイも頷く。

 実際、妖精郷を出てから、まだ十分も経っていないだろう。

 そんな中でいきなり休憩するかと聞かれれば、ニールセンでなくてもそれに対して否と言うのは間違いない。


「ただ、休憩はしないけどここからはしっかりと周囲の様子を警戒しながら行きましょう。それなりに複雑な道だったし」

「頼む。俺はニールセンが見つけた洞窟がどこにあるのか分からないしな」

「任せておいて……と言いたいところだけど、妖精郷に行く途中で微妙に道に迷ったのを考えると、そこまで自信満々とはいかないのよね」


 本来なら、ニールセンが妖精郷に向かう途中で村に寄るといったことはなかった。

 結果として村を襲おうとしていた小規模な……十人にも満たない盗賊を倒すことが出来たので、悪くはなかったが。

 レイにとって残念だったのは、盗賊を倒した結果得られたのが小さな宝石だけだったということだろう。

 小規模な盗賊だということを考えれば、小さな宝石であっても満足するべきなのかもしれないが。


「道に迷っても、最終的には妖精郷に到着出来ただろう? なら、これから行く洞窟も、最終的には到着出来るんじゃないか?」

「そうだといいんだけどね」


 励ますようなレイの言葉だったが、それを聞いたニールセンは僅かに不安そうな様子でそう返す。

 ニールセンにしてみれば、一度迷ってしまっている以上、レイの言葉を聞いても完全に安心することは出来ないのだろう。

 実際、川を見つけてからのニールセンはいつものお気楽な様子ではなく、真剣な表情で道を間違えないようにじっと待っている。

 ただし、以前ニールセン達が穢れの関係者を追った時はもっと地上近くを飛んで追っていた。

 その時と比べて今はセトが普段飛んでいる高度百mで飛んでいる。

 飛んでいる高度の差は、一度しか行ってない場所に向かうにはかなり困難だった。


「あ、セト、もうちょっと左側に移動してくれる? ……街道に沿って移動してくれれば、分かりやすかったんだけど」

「グルゥ」


 ニールセンの指示に従い、セトは進行方向を左にずらす。

 そのことに満足した様子のニールセンを、レイは黙って眺める。


(この様子だと、目的の場所に到着出来るのは多分間違いない。……となると、今日中に洞窟の中に侵入出来るか?)


 レイとしては、出来るだけ早く今回の一件は片付けたい。

 ニールセンの見つけた洞窟が穢れの関係者の本拠地であるとは限らないが、それでも幻影を使ってしっかりと隠している場所である以上は、何か相応の理由がある筈だった。

 それこそ、拠点の一つであっても本拠地に繋がる手掛かりの類があっても、おかしくはない。


「ん?」


 ふと、考えごとをしていたレイは視線の先に何かの存在を見つける。

 今の状況……セトの背に乗っている状況で何かを見つけたということは、それはつまり相手も自分達と同じような高度を飛んでいる可能性が高い。

 相手の高度が極端にレイ達よりも上や下である可能性もあったが。


「ニールセン、集中してるところ悪いがちょっといいか?」

「どうしたの?」


 レイが言うように集中しているところで声を掛けられたのが面白くなかったのか、少し不機嫌そうな表情を浮かべるニールセン。

 それでもきちんと返事をしたのは、この状況においてレイが何の意味もなく自分の邪魔をするようなことはないと、そう理解していたからだろう。


「向こうを見てくれ。何かいると思うんだが、あれが何か分かるか?」

「え? ……うーん、何かいる? 私には見えないけど」


 レイの示す方向を見たニールセンだったが、そちらの方を見ても何かがあるようには思えない。


「見えない? 向こうに……セト、見えるか?」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトが見えるよと喉を鳴らす。

 そんなセトの様子に自分の見間違えではなかったと安堵したレイだったが、ならば何故ニールセンが見えないのかと疑問に思い……


(ああ、能力の差か)


 レイの身体はゼパイル一門によって生み出された身体で、その能力は非常に高い。

 それは単純な筋力とかそういうものだけではなく、視覚を含めた五感も含まれる。

 ましてや、セトの五感はレイよりも高い。

 それだけに、ニールセンが見えない遠くの光景であっても、レイやセトであれば見ることが出来る。


「どうしたのよ?」

「多分俺とセトには見える距離だけど、ニールセンにはまだ見えないんだと思う。……とにかく俺達とそう違わない高度を飛んでるから、遭遇した場合は敵対するかも……」

「グルゥ」


 レイの言葉を遮るようにセトが喉を鳴らす。

 そんなセトの様子に、何だと遠くに見える存在……セトの速度で近付いたので、先程と比べて少しはしっかりと形を判別出来るようになり、鳥のように見えるその存在が、急速に遠ざかっていくのが見えた。


「多分。あの鳥はモンスターだったんだろうな。セトの気配を察知して逃げていった」


 呟くレイの言葉に、ピクリと反応したのはニールセン。

 この付近にいるモンスターで、鳥型のモンスター。

 自分の考えすぎでなければ、恐らくその鳥は……


「妖精郷のある森で私達を襲った巨大な鳥のモンスターじゃない?」

「それは……」


 ニールセンの言葉はレイにとって驚きだったが、同時に納得も出来た。

 いや、それは納得というよりも、そうであって欲しいという思いの方が強い。

 とはいえ……


(今のこの状況で、未知のモンスターとはいえ、それを追うような真似は出来ないよな)


 そう判断し、がっかりする。

 するとそんなレイの考えを野生の本能で感じたのか、もしくはセトの存在を察知したのか。

 遠くに見える鳥のモンスターは不意に方向を変えてレイやセトから逃げるように離れていくのだった。

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